急な無茶振りで同行することになった
「美音ちゃん、強引だな…結構」
「なに?美少女が隣にいるだけいいでしょ」
「言ってて恥ずかしくないのかい、それ」
前回での仕事は美音と共同で呪霊を掃討した。協力関係はそこで終了したと思い込んでいた譲だったが、美音はそうではなかったらしい。合意が得られそうにないからには強く突き放す理由も今はない。頃合いを見て話をつけてから別れることを提案しようと譲は熟考した。譲は故郷であるイタリアの同級生が面倒な恋人からどう離れようかと苦悩していたことを思い出した、無事に離れられたのだろうか。
「チェックインしてくるよ」
「うん。それが終わったらちょっと今後について決めましょ」
なんで彼女が仕切っているのかが譲には理解不能だったが指摘して揉め事になるのも嫌なので知らんフリをした。受付のスタッフに急な部屋数変更を平謝りしつつ、礼節を持って接すれば快く二部屋の鍵を得ることができた。もちろん、追加した分の部屋代は美音に払わせる気マンマンの譲だった。
「ジョジョは次何処へ行くつもりなの?」
「次の依頼人は山梨県の北杜市に居るみたいだから、そこへ伺うつもりだけど」
「だいぶここから離れるじゃない」
「特に急ぎでもないから、ゆったりと向かうよ。美音ちゃんは仕事の都合、大丈夫なのか?」
「あんたみたいにポンポンと仕事を持って来れるわけじゃないのよ」
「要するに暇ってことだね」
「暇言うな!」
次の依頼人と落ち合うまで1週間以上は先だ。暫くは今のようにホテルを転々としながら移動することになりそうだ。美音のスケジュールはスカスカなのだと察した譲は遠慮なく毒を吐くが、見たところフリーの術師だし等級も高くはないだろうから納得だ。譲の場合は孔時雨によるアシストの甲斐もあって正常に依頼を受けることができているため、その点ではかなり優遇されている。
「呪術師も楽ではないね。呪術規定8条の関係もあって公にできる仕事ではないから」
「え、そうなの?あんたみたいにSNSで少しずつ仕事集めようとしてるけど、バンバン言っちゃってる……」
「…君、どこまで無知なんだ。直接的に言及しているような投稿は今ここで消してくれ。いつ呪術総監部に目をつけられるか」
「し、仕方ないでしょ!呪いなんて…知ろうともしてなかったし…」
フォローのつもりで出した話題だったが、危なげない美音の投稿に気づけて運が良かった。ここで譲の胸中では美音は本当に駆け出しの呪術師なのだと確信した。何やら訳アリのようだが、ここで質問攻めして聞き出すのも悪いので自分から語り出すまでは放置しておくことにした。投稿に関しては容赦なく消させ、改めて適している文体と内容を作って投稿させた。依頼が来るかは知ったこっちゃあない。
「あんたの方が色々詳しそうだしさ、暫くついて行ってもいい?」
「あー………わかった。俺が首を横に振っても無駄だろうしな」
「は?それどういう意味よ。それにこっちだって呪術師ジョジョがどんな奴かは気になってたのよ。仕事振りも見ててあげるし、助けてあげるわ!逆に自分に感謝してよね〜〜」
「…………卵を自分で落として勝手にキレ散らかす烏みたいな人だ」
どうやら最後の余計な一言が聞こえていたらしく、般若の顔で危うくとっちめられるところだった。美音が異常な聴覚の持ち主であることをすっかり忘れていた譲は今後も失言を自警するように努めることとなる。急いで階段で4階へ駆け上り、部屋に入って寛ぐようにふかふかのベッドへダイブした。無駄な体力を使ってしまった。美音の部屋は2階だけれど、執念で4階までやって来てノックされるんじゃあないかと少々慄いていた。
******
ズカズカと部屋の中に入って譲に予め小さく《錬金》してもらっていたはずのスーツケースが急に大きくなって床に倒れる。美音が部屋へ辿り着いた時間を計算してのことなのだろうが、ピッタリ過ぎて美音自身は若干引いた。ビジネスホテルにしては部屋もベッドも浴室も当たりではあるが、譲の図らいによって安く手配しているらしいのでラッキーだった。
「…ジョジョか……案外若かったな…自分と同じくらいかな。それに結構強いし、まだ底が知れなそうな雰囲気ね。偶にデリカシーないけど」
思わぬところで呪術師ジョジョと出会い、旅まで共にすることになった。美音は一人で呪術師として活動すると決心していた手前、自身の行動ながらも同行しようとしていることに驚きを隠せていない。年頃の男女が二人、とはいえ異性として意識などはしていないがここまで気を許してしまっている自分にも意外だったのだ。
「……う〜ん…何やってんだろ、自分」
美音自身は未だ「納得」の境地に到着していないが、戦闘中の安心感や会話を通して仲が深まったことにより不思議な「信頼」を譲に抱きつつあった。図らずして譲は美音に自分自身の価値を「証明」し、「信用」を得ていたのだ。これは二人が出会わなければ形にならなかった結果であるが、その事に二人が辿るのはまだ先である。汗もかいて服がへばり付くのでメイクを落としてから衣類を全て脱ぎ、寝巻きを用意してから浴室に入る。
「昨日は碌にシャワーすら入れなかったから気持ちいい〜〜〜………土日に続いてその翌日も翌々日も祝日で塗り替えられたゴールデンウィークを過ごすくらいの快感!!」
労働で汗水を流し、疲労の溜まった体を浄化するようにシャワーを上から浴びる。湯を沸かしておいた浴槽に浸かると伸びをして急な眠気に襲われる。1日中働いて朝方まで呪霊を祓い、長時間のバイクによる移動が流石に応えたらしい。少し時間をかけて鼻歌を垂れ流しながら念入りに全身を洗い、シャワーで流してから貸し出しのバスタオルで水分を拭き取る。美音は突然所作を止めた、日常に水を差す妙な音だけは彼女が聞き逃すことはない。
「…………コソコソとネズミのように、誰!!」
バスタオルで髪の毛の水気を吸収しつつ、体の水滴を取り除くようにバスタオルを操りながら裸体の見えてはいけない胸や腹、股を隠すようにバスタオルを巻き付ける。予め術式を発動できるように鈴を一つは常備しているが、自分の声が跳ね返った微細な音で部屋への侵入者のシルエットを捉える。
「…女の子…?部屋でも間違えたわけ?」
「あらら、バレちゃってんじゃあねーですか。ただの金魚の糞じゃあねーんですね」
「誰が誰の金魚の糞よ。訂正しなさい、ここで今すぐにね」
「部屋は間違えてねーですよ?無防備なままの女の子を襲うのは礼節に反するので…まずは服を着て?」
「訂正しなさいと自分は言ったのよ」
「心配しねーでも着替え中を襲うなんて野暮な真似はしねーです。信じれねーならアタクシが着せてあげる」
意思疎通の取れないイカれたタイプの呪詛師かと早速、鈴を鳴らそうとした。怒りを反芻しつつ初撃を放つ前に全身がほんの少しだけ重くなった感覚と布の擦れる音に自らの鏡像を一瞥する。信じられずに目を丸くして二度見すると自分が用意したはずの畳んで置いた桃色の猫の寝巻きを先程までバスタオルを除けば生まれたままの姿だった自分が着用していたのだ。ゾッとして血の気が引き、眠気なんて覚めてしまう出来事に頭が混乱しつつも、手元を見る。鈴が消えている。急いで見渡してみると鏡付近の洗面器に置いてあった、数秒前まで持っていたはずなのに、だ。
「金魚の糞ってのも言い過ぎだったね。訂正しねーと、訂正しねーと」
「なんの目的で自分を狙うの!今の、術式使ったわねッ!!」
「あぁ〜〜着れたみてーでよかったです。じゃあ…戦おうじゃあねーですか!!」
脱衣所の扉が蹴破られ、横に転がってそれを回避した美音は鈴を一回鳴らす。音波を繰り出して敵を吹っ飛ばすが、扉の外側から垣間見えるその姿は聴覚で捉えたシルエット通り…自身よりも小振りで華奢な年下の女児にしか見えない。綺麗とは言えない言葉遣いをこの子から発せられていたのかと思うのと同時に術式を駆使した呪詛師であることに理解が追いついていなかった。彼女は音撃から身を守るために呪力による肉体強化をちゃっかり行使している。
「アタクシは迷い込んでねーですし、血迷ってもいねーです。少し前に友人の呪詛師、人狼ってのがやられちゃって…謂わば逆恨みなの」
「そんな呪詛師知らないわ!聞いたこともない!」
「誰からも聞いてねーなら仕方ねーですね。その事件を解決したのは他でもねージョジョという巷で噂の呪術師ですよ。人狼と金品を高値で売り捌いていたのに残念じゃねーですか」
「へえ、わかったわ。それで情報を辿って自分を使って何か企んでるってことね!」
「当たり。人狼での彼の依頼人に軽く話を聞いて、やっと手がかりを掴んだ。攻め込んだのはテメーのSNSにジョジョの名前が載ってたもんだから使えそーな駒だなとね。なんだか一気に投稿が削除されたみてーですけど」
金城譲が2017年10月10日に受けた依頼、それは2級呪術師の
「心配しねーでも全力でかかった方がいいです。怪我負いたくねーなら降参します?」
「だからさ…誰が誰に降参するわけ?負けるつもりなんてないから!!」
「強気で結構じゃねーですか!頑張って下せーね!!」
鈴を数回鳴らして応戦するが、今度は不発。それよりも術式が発動する気配すらない。美音は不思議な感覚に陥るが、その隙を突かれるように女児から蹴りを腹にもらう。棚にぶつかった美音は咄嗟に備え付けの電話に譲の部屋番号を入力して受話器を取るが、コール音が数回鳴るのみで出る様子はない。スマホでも試してみるが、助けは見込めなさそうだ。
「呑気に熟睡してそうね。もう自分一人でコイツを倒すッ」
「倒す気になってんのもおもしれーです、ねッ!!」
やはり鈴は鳴らせても術式は発動しない。そしてこの女児の呪詛師はバリバリの武闘派、身軽な跳躍で速度をつけた飛び蹴り、しかも正確な呪力操作で肉体の強度を高めているためかなりの手練れ。美音が最も苦手とする呪力操作の基本が出来上がっている呪詛師、術式が絡めば攻守共に上達している。反撃の余地は未だない。
「“賭け”だったけど上手くいってるみてーですね。多分、その鈴に術式と絡んでるんじゃねーです?」
(最初に攻撃したのはミスだったかも…相手からすれば殆ど自分の術式の概要が割れてる。逆に自分はこの女の子の術式がわからないッ!)
「無視決め込むのはねーんじゃありません?自己紹介が済んでねーからですかね。アタクシは
女児の呪詛師、國木田紗香は黒のレースが付いた赤いワンピースを揺らしながら貴女のように振る舞って名乗る。術式の開示をするまでもなく、撃破できるという意思表示と美音は捉えた。タングラムのパーツで中々影絵が完成せず、苛立ちを覚える難航さ…彼女の術式を探るのは至難を極める。寝巻きを勝手に着せられたり、術式そのものが発動しなかったり、仕掛けが掴めない。探りを入れるため、行動をすると美音は決心した。
「あんたの言うとおり、この鈴が術式絡みなのは正解よッ!!」
「もお〜、テメーは自己紹介してくれねーんですか?もう一つオマケするしかねーですね、こう見えて年は27歳♡童顔も困りものです」
「嘘でしょ!?27……じゃなくて!!」
鈴を鳴らしつつ、室内の机に置いてあるペンを手に取ってキャップを外してから投げ付ける。術式は相変わらず不発だがペンは紗香に届く前に手刀で落とされた。器用な真似は得意ではない美音だが、走りながら備品のマグカップを持って呪力を込めてぶん投げる…今度は鈴を鳴らさずに。しかし、気づいた時には鈴もマグカップも片手に収まったままだった。
「鈴とマグカップ…おかしな組み合わせじゃねーです?」
(なにこの感じ…動画を巻き戻されたみたいな……!行動を制限されてるのは間違いないけど、それなら寝巻きを瞬時に着せたのはなんなのッ!?)
「アタクシは別に若い娘を虐めてーワケじゃあねーんですよ?抵抗は後悔の後味を強くしてしまうから、それが見てーんですよ」
それなら今度は鈴を鳴らし、マグカップも呪力を込めて投げる。紗香の一つ一つの動作を注視しながら遅れながらも枕を顔面目掛けて放り投げる。簡単に美音は三つの動作を完了した。命中したのは枕のみ、ボフッと音を立てて。鈴もマグカップも手元にあるまま、最初からそうであったかのように。しかし、美音は紗香から聞こえる摩擦音を鼓膜へ刻み、目立たない所作を肉眼に焼き付けた。
「…《鈴鳴生成》」
「ん?うッッ!!……これ、は…ハテ……アタクシは確かに…」
「確かに、術式を発動したって?そうでしょうね、あんたの術式は正直まだよくわかんない、理屈ではね。この手は使いたくなかったけど、選り好みも一旦辞めにする。当たったでしょ、ちゃ〜〜んと顔に枕が!!」
美音は感覚で今の行動パターンから紗香の術式の発動条件のカラクリを把握しつつある。嬉しい誤算は「枕が直撃した」こと。術式発動中に制限する行動に付け足すように他の行動を制限することはできない。単調ではなく、複雑な攻撃であれば通用するのだと美音の中に眠る才が順応する。そして、《鈴鳴生成》は“鈴のみ”ではなく、鈴以外で発した音も適用される。倍増した枕の直撃音が紗香の脳天を貫く。
******
鈴原美音と國木田紗香が接敵した同時刻、金城譲はシャワーを浴び終わり、ホテルのナイトウェアに袖を通していた。満足一歩手前のドライヤーで濡れた髪を温風に当てて乾かす。その時、コンコンコンコンと扉から4回ノックされる。バスタオルをハンガーに掛けてから扉をゆっくりと開けると銀髪で長髪、胸元を網のような繊維で透けている大胆な服装をした譲よりも小柄で背の低い男が睨め付けてくる。
「失礼、部屋を間違えましたか?」
「いいや、間違っちゃあいねえんだなこれが」
刹那、男の手元から四本の鋭利な爪が伸びて顔を仰反ると天井を貫通。四本の穴が空いたかと思いきやその軌道は真っ直ぐ譲を追い、天井を裂きながら命を刈り取ろうとする。何歩かバックステップして譲は
「流石は“ボスの息子”、不意打ちに対応しちまうんだな〜これが。日本では“ジョジョ”だったかな?お坊っちゃんッ」
「………これは脅迫になってしまうが、あんたの行動は組織への裏切りになる。いや、百も承知で息子の俺を虎視眈々と狙っていたのか。態々、イタリアからご苦労…それで、俺の居場所をどこで掴んだ」
「せぃかーい!!居場所なんてのはちょちょいのちょいだろうな〜これが。それにしてもジョジョだなんて、日本での名としては優秀だがよお〜〜〜ッ、俺達組織の人間からは筒抜けだぜぇ?」
「ボスの息子」呼ばわりや日本人とは思えぬ男の容姿に譲は目付きを変える。物心がついてからならこの男は初対面、しかし譲の立場上では一方的に認知されていてもおかしくはない。扉が開けっ放しだというのに躊躇もなくペラペラと煩いコイツは根っからのイタリア人且つ呪詛師ではない。手に装備されたリーチの長い鉤爪は呪力とは似て非なるエネルギー、それは譲と同様に———
「スタンド使い。その資格を得るために組織では厳重なテストが重複する。ギャングと言えど猟犬に躾が必要だからな、首輪は大事なんだ。あんたはどう掻い潜ったんだ?」
「歴史上によお〜〜、信仰しちゃあいけねえのに駄目な宗教や人間を信仰しちまったマヌケがいたんだな〜これが。お坊っちゃんは知っていますかい?そんなマヌケを見つけ出す手法をね」
「嘗ての日本では踏み絵、西洋では
「またまたせぃかーい!!知恵の働くご子息でボスもお喜びだろうな〜これ。“俺達”だってそこで嘘吐きゃあいいって発想になるだろうよ」
目の前の男も所属するイタリアのギャング組織、その名はパッショーネ。嘗てはスタンド使い同士の団員による内乱も勃発していた。それを制御するために現在のボスが採用したスタンド使いの適正と組織への忠誠を測るテストは改良を度重ねながらも施行されている。当然、金城譲もその厳密な審査を通過してスタンド使いへの資格を得たことになる。組織への忠誠、それが命を預ける「証明」となり、組織からは報酬、地位、名誉が授与される。
「そりゃあそうなるか…例外もいる。父さんは…ボスは恐らくお見通しだった、こうなることも。その上で俺を送り出したんじゃあないか」
「お坊っちゃん、潔く諦めたんですかい?それならカモられてくれるか〜い!!これが〜ッ!」
「…いいや。俺を「信用」したのはボスで、俺もボスを「信用」している。テストはまだ続行しているッ!裏切り者を炙り出し、そしてスタンド使いとしてどちらが優れているかッ!」
まさかの刺客、パッショーネの裏切り者でスタンド使い。金城譲の父親、ボスは全てを予見していたのだろうと譲は何故か確信していた。振り翳された鉤爪ではなく、手首を掴んでアルケミアの蹴りを肘に喰らわせる。猛烈な痛みで叫びながら転がり始めた男だが、鉤爪を自らに刺して流血しながら落ち着き始めた。
「俺…アルティ・リオーネのスタンド《
「あんた、その度にスタンドで自傷する気か?先に失血して再起不能するんじゃあないのか」
「その前にお坊っちゃんを再起不能にしてボス…“ジョジョ”の弱みを握らせてもらうんだな〜これがッ!!」
パッショーネのボスも奇しくも“ジョジョ”と部下達に呼ばせていた。そんなことはさておき、アルティのレイザー・ライトは手全体に纏わりつく非人型のスタンド、本人の身体能力にかなり依存する。振り下ろすレイザー・ライトを避けると紙切れでも裂くように机が四分割される。透かさず、アルティの胴体にアルケミアの拳を打ち込んで体を浮かせるほど連打する。着地してからすぐにレイザー・ライトでアルティは痛みを消し、傷口は広がって出血している。
「お坊っちゃんのスタンドは効くなあ〜〜〜ッ。でも、痛みさえ対処しちまえば大した力はなさそうだってのはわかっちまうんだな〜これが」
「ええ。俺のスタンドに大した力はないです。俺の“スタンド”にはね」
荷物に手を伸ばして更にアルケミアの射程距離を利用して漁って最初に手にしたのはカッター、《錬金》して一筋の斬撃のエネルギーをアルケミアの手刀に纏わせる。レイザー・ライトと切り結び、部屋の端までアルティを追い詰める。続いて効果が切れるのと同時にハサミを《錬金》して二又の斬撃のエネルギーを足先に付与してひたすら蹴り技を繰り出し、アルティの太腿や脇腹辺りを浅いとはいえ、切り傷を足していく。アルティは部屋から飛び出し、廊下にて譲を誘い出すことにした。譲は自分が発生させた斬撃のエネルギーをアルティのスタンドで切られなかったことに疑念を抱いた。
「乗ってやる、その誘い。どちらにせよ、あんたは俺が直々に倒すと決めた」
「お坊っちゃん、倒されるのはあんたなんだな〜これが。物体を力にして戦う、便利だが物なら俺は全部切れる。ヨーグルトみてえになあ〜〜〜ッ!!」
低姿勢で間合いを詰めたアルティは下から床を裂きながらレイザー・ライトを振り上げる。アルケミアの足に纏われている斬撃のエネルギーは死んでおらず、レイザー・ライトと拮抗して嫌な音を立てている。膠着状態から一変、レイザー・ライトは斬撃エネルギーを切って譲の膝上から胸までを一気に切り刻んだ。
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美音の術式を枕伝いに喰らう紗香は枕が落下すると鼻血を出してそれを白の手袋で拭った。付着した血痕ににこやかに笑みを浮かべ、狂ったように笑い声を上げた。そして紗香は戦闘のペースを上げることにした。美音に容赦はせず、術式を術式で封じるよりも肉弾戦で美音の術式を完封することが最善手だと思考をアップデートした。
「よくもやったじゃねーですか!テメーの術式は鈴を鳴らすのが条件だとばかりに!!テメー、音を操る術式じゃねーですかッ!!」
「うっ…!別に…嘘をついたつもりはないわよ。全部自分の拘りってだけ!!」
鈴鳴生成の真名は《音色操術》。美音が鈴の音による攻撃を主とし、本人もそこに拘りを持つ頑固な性格のため、術式の名も変更していた。否、彼女が本来の術式の真名など知る由もない。そこが紗香の意表を突いたブラフとなり、美音を明確に危険な才覚の持ち主だと敵として認識するに至る。明らかに喧嘩慣れしているのも格闘戦に長けているのも紗香、術式を発動するまでもなく美音は痛めつけられる。
(呪力操作もフィジカルも向こうが上…きっと自分はこのままだと負ける……でも、國木田紗香は自分が攻めれば必ず手を休めるッ!!)
防戦一方であれば敗北は確定。美音は防御を捨てた右腕を振るい、それすらも捌かれる。足先を紗香の股の間に通してリーチ差を利用して足を引っ掛け、手で肩を体ごと押し倒す。そして———紗香の術式は発動した。発動せざるを得ない。美音の一撃で生じる音が音色操術の発動条件なのであれば、致命傷を負いかねないから。美音は足を引っ掛ける動作まで巻き戻っていたが、目の奥はニヒルに笑っていた。
「あんたさ、術式使う時に必ずモーションがあるのよ。両方の太腿を両方の手でなぞる」
「よくわかったじゃねーですか。でもわかったところで勝てねーってのがアタクシの強さ、テメーは基礎がなってねーです。体幹も軸も良し、でもパワーがねーしスピードもねーです」
「んーん、もうあんたの負けよ。自分の不甲斐無さに痛感させられることも多かったけど、術式の向き合い方は自分が上だったみたい」
「口から出まかせじゃあねーですか。素人じゃあプロには勝てねーんですよ」
「あんたは術式で自分の行動を「足を引っ掛けて押し倒す」と思い込んだ。その上でその過程を切り抜いて「足を引っ掛けようとする」で止めた。あんたの術式は寝巻きを着せるだけじゃなく、“相手が行動しようとして生じた迷いを理解し、それを実現する”でしょ?」
國木田紗香の術式《
「じゃあなんで枕は当たったのか…術式発動中の相手の行動を更に付け足して制限することはできないからでしょ。あんたは頭が相当良いのか賭け事が上手なのね、呪詛師なんて辞職してマジシャンにでもなるといいわ」
「言ったじゃねーです?わかったところで勝てねーって」
「自分も既に言ったわよね、あんたの負けだって。そう言えば失礼なことをしたわ…自分は鈴原美音、17歳。術式は鈴鳴生成、鈴の音を鳴らしてその音を増幅させて呪力として打ち出す。以上ッ!!」
「術式の……開示ッ…じゃねーですか!!」
「わかったところで勝てない、だったわよね。自分は分からせて勝つんだ、覚えておいてッ!!」
美音は右腕を振るった時点で武器である鈴を手放し、壁にぶつけた。呪力でなるべく鈴の音を閉じ込めて物音を立てぬようにして今解放した。この時、美音が課した縛りは二つ…「術式の開示」による術式効果と呪力底上げ、そして「術式の発動条件である鈴を手放す」ことにより、一時的に精密な呪力操作を可能として鈴の音を鈴に閉じ込めて術式の解放を遅延させた。落下している鈴から音撃が紗香の背中へ伝播し、卒倒させる。紗香が認識できなかった美音の術式は直撃した。
「あ、金魚の糞って言ったの訂正しといてよね」
呪詛師・國木田紗香、術式名—「後悔走快」———美音の術式による衝撃をもろに喰らい、ダメージによるショックで
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四本の深い傷が譲に刻まれ、口から吐血する。かなりの深手に道具のストックも限られているため、《錬金》による勝機も数少ない。しかし、譲は呼吸が乱れて視界が揺らぐ程の致命傷だと言うのに未だ諦めていない。その目がアルティは気に入らなかった。
「その目え…その目だその目え〜〜ッ!!折られようと挫けようとボスであるジョジョは不屈の闘志と黄金とも豪語できる精神を全く捨てようとしないッ!!血は争えないねえ〜〜ッ!あんたも同じか、親子揃ってな〜これが!!」
「体も心もまだ動けるというのに…夢を追い求められるというのに……諦める馬鹿が何処にいるッ!!一つ教えておこう…夢への探究はヨーグルトみたいにすぐ切れやしない」
「だったら俺があ!!全部断ち切ってやるんだなあ〜これが!!ボスの座をいただくぜえ!!」
「父さんや俺の意向がわからない内は……お前は一生下っ端だ。そのスタンドはありとあらゆるものを切るんじゃあない。切れ味が鈍る瞬間があった」
逆上して切り掛かってきたアルティにミニチュアのベッドを放り投げる。それは部屋を出る前にアルケミアによって《錬金》したベッド、そして元のサイズへと戻す。質量と重量の暴力に咄嗟にレイザー・ライトで防御しようとする心の姿勢にスタンドは力を振るわなかった。レイザー・ライトは刃をベッドに向けていたのにもかかわらず、切り裂けずにアルティは下敷きになっていた。
「さっき確信した。お前のスタンドは“対象を自分より下だと断定できた”場合に切るスタンドだ。未知のエネルギーや急な攻撃に恐怖すると切れなくなるのが弱点だ。お似合いだな、若い息子を使えばボスに勝てると思えるその卑怯な根性にッ!!」
「ゆ、ゆッ…許さねえ〜〜んだなこれがーッ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッッ!!」
パッショーネ団員・アルティ・リオーネ、スタンド名—「レイザー・ライト」———アルケミアによるラッシュの痛みでプライドをズタズタにされて
「……居場所が割れたとして、部屋を当てられた理由はなんだ?」
呪詛師、スタンド使い共に再起不能———!!
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《パラメータ》
【術式名】 【術者】
後悔走快 國木田紗香
等級-準1級呪詛師
_______
【STAND NAME】 【STAND MASTER】
レイザー・ライト アルティ・リオーネ
破壊力-B スピード-C 射程距離-E 持続力-B 精密動作性-D 成長性-C