金城譲がパッショーネの裏切り者を打破し、絆創膏を《錬金》して創傷を癒していた頃、戦闘中に着信があったことを思い出した。すぐにスマホを取り出してみると履歴には「美音」と映っていた。20分も放置してしまったのですぐに折り返す。
『もしもし?あんた気づくのが遅いのよ』
「ごめん、立て込んでた。何かあった?」
『呪詛師が襲撃に来たのよ。ぱぱっと片付けたけど』
「……奇遇だ。俺も今、再起不能にしてやったところだ。抵抗できないように縄か何かで縛って呪力も使えないように呪符を貼って……美音ちゃんにこれができるんだろうか」
『馬鹿にするのも大概にしなさい!』
「教えるから少し待っててくれよ」
厳密に言うと譲が相対した敵は呪詛師ではなく、スタンド使いなのだが細かい説明は省くことにした。念の為に
「美音ちゃん、すぐにここを出よう。呪詛師を無力化したからコイツらは俺の協力者に回収させる」
『出るって…せっかく寛ぎ出したのに〜?』
「追っ手が来るかもしれない。俺たちがコイツらを倒したことをもう知っていることだってある。長居はできない」
『……わかった。でもその前にやることあるでしょ?自分たちの部屋番を漏らした人を見つける』
休息の時間を邪魔されたのは事実、その原因は滞在しているホテルにあると言っても過言ではない。美音の支度が終えたのをスマホの通知で知り、返り討ちにしたアルティ・リオーネを縄で引き摺りながらエレベーターに乗り込む。「2」の表示で停止すると目配せをして無言のまま美音もスーツケースと呪詛師である
「チェックアウトで〜す」
「単刀直入に聞きますが、俺たちの部屋番号をコイツらに教えた人間が知りたい」
1階に止まると縛り付けた二人の襲撃者を床に寝かせ、譲と美音は部屋の鍵を同時にカウンターへ叩きつけた。受付のスタッフは驚愕した様子だったが、譲は自身の
「いた!コイツらね、やっぱり二人とも関係者なの?」
「いいや違う、無縁の二人だろう。……失礼、この男は?」
映像には再起不能にした奇抜な格好と目立つ背格好の二人が遠めだが映っていた。その二人と長々と5分にも渡って会話を交わし、最終的に裏口へと連れていく高身長の男が譲は非常に気になった。スタッフに聞くとこのホテルのオーナーらしい。無関係だというのなら金を積まれて譲達の情報を売ったのだろう。
「じゃあ呼んでもらおうか。そのオーナーを」
「ただじゃあおかないわ。せっかくシャワー入ったのに汗もかいちゃった」
スタッフを通して5分ほど時間をもらうと映像と特徴が一致する口髭の男、ホテルのオーナーが顔を出した。温和そうな物腰だが、二人は一切信用はせずにソファに掛けていた重たい腰を上げた。
「あんたか?この二人に俺たちの情報を渡したのは」
「休める場所できちんと休めないなんて詐欺じゃあないの?」
「御二方落ち着いていただけますでしょうか、このお二人と私に面識は———」
「ない、とでも?見苦しいな。カメラの映像はチェックさせてもらいましたし、失礼を承知でメモリにデータを移植して証拠はいただいた。裏口へコイツらを案内した理由は?」
オーナーは暫く口を閉ざして無言を決め込んでいたが、美音に詰められて止む無しか…やはり金が理由で買われたらしい。俺たちの情報を一人ずつ500万円で売ったのだと、二人合わせれば1000万円だ。普段ならちょっかいをかけるだけで済ませるが、今回は別だ。譲は美音にすら危険が及んだことを心中では許していない。取って付けたように二人に殺すと脅されたと言い訳をしていたが、同情はしても許しは乞わせない。
「ホテル代を全額返金だ、一旦はそれで手を打つ。オーナー、信用は金では買えない。休息も単に金で売るものじゃあない。残念ですよ」
「こ、このことは内密に…このホテルは私の全てなんだ…!他のスタッフの人生だって…!!」
「あんたが保身に走っても結果は不変だ。詳細は省くが、近い内に社会的地位や名誉を喪失するでしょうけどそれがあんたの償いだ。個としての「価値」が消えるってのはそういうことだ」
その後、1週間も経たない内に某ホテル会社の株価は暴落し、軈て倒産することとなる。金城譲は容赦しない。映像データ、オーナーとの会話を録音したデータ、それら全てを相棒の
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孔時雨が投入できる人員で拘束したアルティ・リオーネ、國木田紗香を連行した。後者は呪術総監部によって判断を委ねるために引き渡した。問題は前者のことだが、そこに関しては孔時雨でさえも悩み、譲に着信を入れることとなる。
『もしもし、アルティ・リオーネの件だが…処理は可能だとしてどうするよコイツ』
「貴重な謀反者ですから父に一報入れてイタリアへ流してください。ただし、条件を入れて」
『条件?なんだ』
「パッショーネに引き渡し、処遇を決定する権利を委任する。その代わりに拷問でもなんでも良いので俺の居場所を突き止めた術をあなたを通して俺に正確に伝えることです」
『……なるほど。お前は俺も父親も組織も吹っ掛けるわけね』
「余計な真似をせずに従えと言っているんです。入団試験、スタンド使いになるための厳正なテスト、これらの意味を今一度問う必要がある。必ず抜け道はあるだろうし、父もそれは承知しているでしょうね。いずれ俺に目をつける裏切り者が出てくることも」
『パッショーネのボス…ジョジョがお前を試していると?』
「きっちりと独り立ちできているか、少し危なげな親心でしょう。父が今回の襲撃を黙認した訳も俺はわかっているんだ。今度は俺の条件を呑んでもらわなくちゃあならない。親ならご褒美をくれたっていいだろうし、そこの親子水入らずに釘は刺さないでくれよ、時雨さん」
孔時雨は金城譲の若くしての胆力を見誤っていたどころか臆していた。彼は温情と正義感に溢れた少年だとばかり思い込んでいたが、それは希望的な価値観の押し付けでしかない。「茶々を入れるのはもう一旦辞めにしろ」と譲は孔時雨どころか父であるパッショーネのボスにすら啖呵を切る提案をしているのだ。その時に手段を選ばない冷酷さは文字通り、肝を冷やす。金城譲はボスの血を受け継ぐ男だった、と再認識することとなる。
「そうそう。言い忘れる前に一つ、他の襲撃者は残らず俺が倒すと伝言をお願いします」
それだけを伝えて通話を切った。一息ついたところで、宮城県内のホテルから遠く離れた地点でおでんの屋台を発見したため、美音が先に席について大根や煮卵、半平などを頼んで待っていた。大将に蒟蒻、白滝、牛すじ、厚焼きを頼んで黙って待機していると美音からそっと耳打ちされた。
「ねえ、ぱっしょーね?とか『すたんど使い』って何?」
「うっ………聞かれてたか」
「自分の耳は誤魔化せないわよ」
軽く20mは離れていたというのにどんな地獄耳をしているのか。美音に下手な隠し事はできないと痛感したばかりか、もう自身の都合で巻き込まれてしまっている美音にだけは素直に全てを明かすべきだと少し黙って熟考してから決意した。
「俺の本当の名はジョジョじゃあない」
「知ってるわよ。どうせ仮の名前でしょ?」
「金城譲、それが俺の本名だよ。出身はイタリアのネアポリス、3ヶ月前に呪術師になりたくて訪日した。パッショーネはイタリアにあるギャング組織、そのボスが俺の父さんだ」
「えっ…あー……掴めてきた!あんた中々ハードな人生じゃあないの!?ははーん…てことはあんたと戦った『すたんど使い』っていうのが、組織の裏切り者ってわけか!」
「口外禁止だよ、絶対に」
「わかってる。金城譲……“城”も“譲”も音読みにしたら“じょう”だからジョジョってことね!」
好奇心旺盛そうな美音のことだから耳に入っているなら屋台を飛び出してでも質問攻めしてくると決めつけていたが、意外と冷静に物事を整理していた。そもそも呪術師をやりながら呪術師や呪術界のルールに無知な美音にはギャングの意味がわかっているのだろうかと疑問が浮かぶところだが、そろそろ勘づかれそうなので一旦思考を脱線しないように軌道修正する。
「スタンド使いっていうのは謂わば超能力を扱う者のことを指している」
「呪術師みたいなもので、術式を使うみたいな感じか!」
「そう。君の感覚は概ね正しい、似ているんだ。呪力が負の感情、スタンドは生命エネルギーが基本だけど俺は両者共に元素が同一なんじゃあないかと考えている。発現方法は違うが、
「………つまりどういうこと?」
「俺もスタンド使いだよ。呪術師ではあるけど術式は無いし、呪術界からは独断で場を掻き乱している存在だから可愛げもないだろうね。俺はスタンドを術式として偽っているが、本来はスタンドはスタンド使いにしか見えない。説明したけど、呪力とスタンドはかなり近く似ている…だから呪力のみを使用する君みたいな術師でも呪霊でもスタンドの存在を視認できるんだよ。逆も然りだ」
「へえ……壮大な話になってきちゃったわね…スタンドで呪霊を攻撃できるなら、呪力でスタンドを攻撃できるのよね?」
「うん。基本的には呪霊は呪力による攻撃しか効かず、スタンドはスタンドでしか攻撃できない、このルールがあった。これは俺の体感にはなるけど、正しくは『互いに攻撃可能、しかしスタンドは呪力による攻撃を1/2までダメージをカットできる』を追加すべきだ」
スタンドと呪力のルールは今の美音に説明しておくのは得策だった。感覚派である美音でも、譲はわかりやすく理屈を咀嚼できるようにノートにペンを走らせて図を描いて教授した。小さな基本的な講義にすぎないが、今後もしスタンド使いと接敵した時の参考になるだろう。
「スタンド使いってなんかズルい!」
「俺のように凝った能力を持つスタンドやシンプルに破壊力の高いスタンドであればそうだね。弱点は精神力に依存することと奇天烈な能力に目覚めて本体が翻弄されるパターンがあること、最悪死亡する」
「まあ、流石にリスク無しはあり得ないと思ったけど……呪術的に…あんたの電話の内容的に後から身につける方法もありそうだったし」
「スタンド使いは二極化している。先天的なスタンド使いと後天的なスタンド使い。俺は後者、パッショーネにはスタンド使いになるためのテストがある。そのテストを見事合格した者だけがスタンド使いになる権利を与えられる」
「人工的な術式……みたいなイメージになっちゃうかも、どうしても」
「それでいいよ、必要なのはイメージさ。権利を与えられた者は特殊な矢尻で体を傷つけることで素養がある者は発現する。精神が弱くてもそこで死亡しなければスタンド使いに覚醒する」
これがざっくりとした金城譲の素性、パッショーネの情報、呪術師とスタンド使いの違いになる。譲が話終わると目線をあちこちに移動させながらあれこれと呟きながら頭の中のパズルを整理させている美音だったが、二人は黙々とおでんを食べ進めていた。若干、盗み聞きしていた大将は聞かないフリをしつつも二人を謂わゆる厨二病だと納得し、若さの溢れる会話に大きく頷いていた。
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おでんを食して水を飲み干した。返金されて浮いたホテル代の一部で料金を払って礼を挟んでから屋台の暖簾を潜る。追っ手は未だなく、譲たち以外の気配もない。放り投げたミニチュアを愛車であるバイクに《錬金》して地面に着地させ、エンジンを温める。
「大丈夫なの?一晩中走りっぱなしで」
「俺はね。少し休むかい?」
「自分は問題ない。あんたの体力の話」
「厳しかったら言うさ。美音ちゃんも眠かったら遠慮なく言って欲しい。パッショーネの裏切り者、スタンド使いは準備を立て直している段階だろうからホテルから遠く離れたならそう焦る必要はないんだ」
「もちろん。さっきの話を聞く限りだけど、自分もそう思う。途中のパーキングエリアとか必要であればホテル代も浮いたし、電車も使いましょ」
程よく警戒はしておくが、連戦を考慮するほどのことではないと一度放棄し、頭の片隅で気に留めることにした。体力やメンタルと睨めっこをしつつ、必要に応じて臨機応変に手段を変更していくことを決定した。
「美音ちゃんはまた俺のせいで狙われるかもしれない。降りるなら家の場所とか言ってくれたら送るよ」
「何言ってんの、話を聞いて俄然サポート精神の女神様が自分に舞い降りたわ。あ、女神様は自分か」
「…………ナポレオンが雲まで飛び起きるくらいの自信家だな、君は」
「ふん。それに………今の自分に居場所なんてないわ」
最後の一言に言及することはなかったが、彼女にはまだ言葉の裏腹に隠された知られざる過去があるのだろう。無理に追求することはしないし、美音の方から語り出してくれるのを待ちぼうけしてみよう。譲は美音にヘルメットを渡し、自身も頭から深く被る。奇妙な冒険は未だ始まったばかりだ。
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2017年10月26日、山梨県北杜市某遊園地での謎の大量失踪事件を調査するため依頼を受けた金城譲、鈴原美音の両名が現場へ駆り出される。数ある怪奇現象の兆候として皆、口を揃えて言い放つ。
「『ピエロが笑いながら手招きをする』とね」
「ま、最後に笑うのは自分たちでしょ」
「それは前提条件だろう、笑って解決するくらいの余裕は見せてやろう」
次の依頼は山梨、敵はピエロか———!!