千葉県のとある海岸で連続怪死事件が多発していた。2017年11月3日、依頼を受けた金城譲、鈴原美音は現場に参上して原因であろう3級相当の呪霊を祓うことに成功。一般人に呪いとの接触を知られぬように降ろしていた帳を解除する。
「心霊スポットだから人も集まりやすいよね」
「だから帳を展開した上でバリケードテープを外に張った。呪霊が3級でよかった。押すなと言われたら押したくなるし、入るなと言われたら入りたくなるのが人だ」
「それなら早めに片がついてよかったわ」
曰くつきの心霊スポットは興味本位で肝試しをする人々が行き交いやすく、その分だけ情報もネットで拡散されて呪いも溜まりやすい。事件の犯人も3級呪霊でほぼ確定しているため、すぐに祓えたのは僥倖だった。封鎖がなるべく最適な手段ではあるが、中々現実的ではないのでずるずると事案を引き摺って呪霊を祓えずに等級が昇格するよりはマシだろう。
「用は無くなったことだから撤収しよう」
発言後、譲は足首の後ろ側則ち後脛骨筋及びアキレス腱に関わる腓腹筋・ヒラメ筋へ激痛が疾走する。譲だけではなく、美音も同様にその部位に深手を負い、流血していた。歩行も困難で二人はバランスを崩して砂浜に倒れたが、譲は絆創膏を錬金して治癒力を自分と美音に付与しようとする。その間に割り込むように砂浜に人型の線画が映り込み、飛び出すようにこちらへ立体的な姿が顕現する。
「呪力じゃあないッ、『
「痛ッ……ごめん、譲…しくじった…」
立体となったスタンドは全身が鉛筆スケッチのような線で構成されており、関節が折り紙の折り目のように鋭く、手先は先鋭しているため恐らく二人を切った凶器がそれだろう。顔はのっぺりしており、瞳だけが黒い線で描かれている白と黒のスタンドが腰を捻じ曲げてこちらに振り替える。スタンドの周辺には美音が動けずに草臥れているが、腕の力と腹筋を使って這って逃れようとしている。譲は冷静にまず自分へ治癒力を付与してスタンドとの距離を目測で測る。
「紙ってのはよお〜〜〜ッ、『便利』だよなあ〜〜〜ッ。『折れ』もするし『曲がり』もする。そしてなにより『潜れる』、どこへでもなあ〜〜〜ッ」
「……あんたがスタンド使いか。俺たちに狙いをつけたということはパッショーネ、引いてはボスの裏切り者ってことですよね」
「オレにそんなペラッペラな脅迫は意味を成さない。しかし、オレはそんなお前のペラッペラなハッタリも愛してやるよ…紙は時に『鋭い』もんだからよお〜〜〜ッ」
「ハッタリなんかじゃあない。裏切り者である事実は変わらない。ただ…裁くのは俺のスタンドだッ!誰にも手を出させないッ!!」
銀髪ショートで金の装飾が全身に散りばめられた青ジャケットのファスナーを上まで締め上げる細身の男が妙な立ち姿で譲に絡んでくる。明らかに敵意を持ったスタンド使い、譲は美音を助けられない状況下で一対一で戦う宣言をした。臨戦体制に入り、スタンドとスタンド使いの距離を観察すると15mは堅いので遠隔操作型のスタンドだ。
「にしてもよお〜〜〜ッ、ボスの息子ってのはちんけな除霊ごっこがご趣味なのか〜〜い?」
「あんたこそギャングごっこは辞めにしろ。正義の欠片すら全身を見回してもないあんたに言っているんだッ」
「おいおい、ギャングに何を求めてんだァ〜〜ッ?ボス…ジョジョの方針も表向きでは残忍だろうとペラッペラの『正義感』が見え見えで痰が出るぜ」
身内や譲自身を煽る会話で感情的にして潰す作戦だろうと看破した譲は目の前の男が「デキる」ギャングだと気を引き締めた。意識を引きつけている間に美音の周辺に居たスタンドが消えている。また砂にでも潜り込ませて譲を付け狙っているのだと警戒し、感覚を研ぎ澄ませる。美音と男の間に位置する譲は相手のスタンドの出現位置をある程度絞り、僅かな気配のみを感じ取って背後に譲のスタンド・《
「お前のスタンドもどうやらハッタリじゃあないらしい。オレのスタンド『
「線画……あんたのスタンドは砂浜に潜っている時に線画になっていた。確実にアルケミアの拳は命中していたはずなのにあんたへ攻撃は跳ね返っていない、痩せ我慢ではないな」
「ギャングが敵にスタンド能力を正直に教える義理はないな〜〜〜ッ。お前も日本ではジョジョと名乗っているらしいが何処までその名に相応しい男なんだァ〜〜〜ッ?」
「そうですね、教える義理はない。俺があんたにも『証明』してみせよう、呪術師としてのジョジョの『価値』をッ!!」
譲の父はパッショーネのボスにしてギャングスター、部下にはジョジョと慕われる。決してギャングスターのジョジョに憧れたわけではなく、父のように『信頼』を勝ち取り、自らのやり方で『価値』を見出させるのを譲は目標としていた。譲は砂を握って宙へばら撒き、その隙に走り去った。
「女を捨てて逃げる気かッ!口だけは達者で安心したぜ、お前にボスのような気概はミリも無かった!!」
「…スタンドを離したな?俺に追わせるために態々差し向けてくれたあんたにアドバイスだ。スタンド使いを倒すなら本体だって叩いていい。そしてアルケミア、続いて海岸に落ちている傘で美音ちゃんを守れッ!!」
「ッ!クソッタレ…!!『テイク・オン・ミー』!!オレを潜航させよッ!!」
打ち上がった砂粒は既にアルケミアによって散弾銃の如く発射される粒子のパワーへと変えられ、地上に降り注ぐ。譲は続いて傘を錬金し、「降り注ぐ対象から守る防護壁」として美音を閉ざすように展開した。効力が続く時間は譲のみが把握している。男の肉を貫くように粒子パワーが炸裂し、血が飛び散っているが砂埃が晴れた頃には男の姿は消えていた。
「……遅れながらも回避したか、本体も潜り込めるらしい。それでもあれを喰らったなら満身創痍であることは『絶対』だ」
男とテイク・オン・ミーの線画を砂浜から探すために周囲を見渡すがそれらしき印はない。仮に美音を守る防護壁に侵入できるのであれば狙われてこちらが詰む可能性もありながら譲は未だに落ち着きを保っていた。それに防護壁のパワーは飽くまでも「降り注ぐ対象から守る」だけであり、その他の物理的攻撃には非常に軟弱。勝利条件は気付かせずに再起不能にすることである。
「なんか雰囲気あるね〜」
「変な死に方する奴多いらしいぜえ〜〜」
「一般人……!?来ちゃあ駄目だ!!」
目がチカチカと眩しくなるライトの光が海岸へ降りるための道が険しい階段から伸びた。声が響き、複数人の一般人が不運なことに迷い込んだ。心霊スポットを面白半分で巡る大学生グループだろうが、敵の格好の餌食に過ぎない。それ以上でも以下でもないッ!
「へへへッ、オレのためにありがとなあ〜〜〜ッ、飛べもしない鴨がヨチヨチと歩み寄ってくれたぜ〜〜〜ッ!」
「俺とあんたの戦いだ。手を出す所以もないはずだッ!!」
「んんぅ〜〜ッ?所以ならあるさ、お前がボスから受け継いでしまった下らない『正義感』の代償と甘ったれた『精神』を捩じ伏せるための…優秀な『道具』だぜえ〜〜〜ッ!呪術師サマッ」
美音を奪取されれば必ず人質にされると理解した上で譲は交戦していた。対策は施したはずが最も恐れていた一般人の人質を取られた。大学生グループは総数六人、皆怯え切った様子で血塗れの男とそのスタンドに拘束されている。男は切れ味に優れたフォールディングナイフ、テイク・オン・ミーは自慢の手先で今すぐにでも大学生らの首を刎ねることができる状況だ。奴は階段横の壁から這い出て大学生グループに接触していた。移動できるのは砂浜だけではなく、平面そのものと仮定すべきだった。
「おいおい、ここからが呪術師サマのお手並み拝見だろお〜〜〜ッ?お前のスタンドならば幾らでも突破口は作り上げることができる。それでもそうしないのは……そのお飾りの『正義感』か?」
「………」
「だんまりかよ…失望したぜ、ボスの息子は顔すら知らねえ奴らを救うために『自己犠牲』で身を投じようと考えてやがるッ。優秀なスタンドを持ちながら絶対的優位にある立場でありながら“呪術師”だとお?笑わせやがるッ!!」
「…………スタンドがなんだ、ギャングがなんだ。誰かに最初から示された道筋を辿って順風満帆に生きることが『名誉』になるのなら俺はそれを『選択』はしないッ!」
「だから島国で呪術師やりますってかあ〜〜〜ッ?オレから言わせりゃ、『才能』の無駄遣いだ。オレ、フォリオ・ピアッツィはギャングとしての生き方と
球体の防護壁の中で鈴原美音は両脹脛を両手でキツく締めながら止血を試みる。刹那、スタンド使いであるフォリオ・ピアッツィの熱弁が呪術師をコケにした。美音は瞬時に譲の顔色を窺うが、俯いているせいか暗い影に隠れて色は見えない。旅路を共にする中で美音は彼が呪術師を志す切っ掛けとなった過去を知ることとなった。美音は彼が語り出したその過去を生涯忘れることがないと表現した。その
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2006年8月中旬、布と肌の間が蒸れる不快感と強烈な日差しが衰えることを知らない猛暑の連続日であった。パッショーネを一部の幹部に任せ、妻子と共に日本へ来訪したボスのジョジョは妻の家族への「接触」を試みた。その間、右腕であるグイード・ミスタをお目付け役として子を預けていた。その子供こそが金城譲、当時4歳。
「全くガキのお守りなんかさせやがって…こっちにも人員を回せば……とはいかないもんかね」
普段であれば慣れたものだから愚痴の一つも零さなくなっていた彼であったが、日本という未知の場所では土地勘も働かず、人混みで通り魔にでも出会せば自身は無事でも譲を巻き込んでしまえば一巻の終わりだと自覚していた。親しい仲とはいえ、ボスの命令は「絶対」のため信頼されている彼に譲のお守りが委任されることは多々ある。渋谷で肌を焼かれながらミスタは譲をなんとしてでも護衛する義務が課せられているためより緊張感のある任務となる。
「ミスタ、服がいつもとちがうね」
「ん?おお、よくわかったな。男には服のセンスも必要だから今の内に磨いておけよ〜〜〜ッ」
「お父さんとお母さんは?」
「あぁ…ママの……お前の爺さんと婆さんに会いに行ってるさ。寂しいか?」
「んーん、ミスタがいるから大丈夫」
「……そうか。お前はいい子だな、ユズル」
お忍びで日本へ渡っているため、ミスタも普段の奇抜さは抜けた服装とキャップ姿で譲と対話をしていた。二人は特別仲が悪いわけでもなく、寧ろ譲は多忙な父よりも関わるタイミングが多かったために懐いていた。金城姓は譲の母親のもので、当時の譲は父方の姓を名乗っていた。
「ユズル。甘いもん好きだろ?なんか買ってやるよ、ただし“4番目”のメニューは絶対にダメだ、なにがなんでもだぞ」
「わかった。クレープが食べたい、チョコとバナナの」
「俺も食うから二つ…いや三つにしておこう。ちゃんといい子にしてついてこいよ」
ごく普通の何処にでもあるようなクレープ屋の行列に並び、注文する番を二人で待つ。5分程待機してからミスタが口頭で拙い日本語で番号を指定して注文する。純日本人である譲の母親と接する機会があったため、コミュニケーションを取る分には支障はない。代金を支払い、クレープが出来上がるのを待つ間に譲は奇妙な声で囁かれた。
「アイスクリーム……アルヨ」
「……アイス?ミスタも好きかな」
「きットスき……オいデ」
頭に直接石を打ち付けられたような響く声、周囲には一切聴こえていないことなど幼児の譲が察知するのは難しい。急に母国語以外をぺらぺらと喋ってみせろという要求よりも難しいことだ。素直に誘われた譲はミスタの視界から消え、路地裏を通って大きくなる声の主の元へ転けながらも辿り着いた。スタンド使いに目覚めていなくとも、譲の中には本人も自覚していない微量の呪力が流れていた。声の主は巨大な口をスイカでも頬張るように開き、傷んだ髪を揺らす異形…呪霊だった。
「イたダキマあああアス」
人ならざる者だと幼いながらも本能で悟ったのも束の間、影に呑み込まれるように呪霊の口が譲を捕食しようとした。小鳥が虫を啄むように、猛禽類が小鳥を嘴で味わうように…自然の摂理と豪語できる。しかし、その呪霊は譲の前に飛び出した一人の青年によって突如祓われた。何が起きたのかはわからない、幼子ながらただ眼前の青年が命の恩人だと洞察した。
「君、大丈夫だった!?怪我はない?」
「あ…ありがとう。お兄ちゃん」
「僕は
「ゆずる…です。お兄ちゃん凄かった」
「そう?『呪術師』だから………あ!今の忘れて!」
金城譲のまだ先の長い人生の中で深く脳裏に焼きついた記憶だった。呪霊に命を刈り取られかけ、呪術師と名乗る青年に救命されたことが良くも悪くも今後の人生観に影響を与えることとなる。この出会いは「運命」にして「必然」、譲の理想とする姿そのものになっていく。
「おい、そこを動くんじゃあねえぜ。人攫い」
「え、僕?人攫いではなくて…そのっ…!」
「ミスタ!この人はおれを助けてくれたんだ」
危機に駆けつけたミスタは灰原を雇われた誘拐犯だと決めつけた上でパープルの愛銃を向け、引き金に指を掛けた。譲の一言は鶴の一声だった、ガキのお喋りに付き合っている暇はないと一掃したいところであったが譲の
「…ありがとう、ゆずる君。僕も君に助けられたよ!」
「おれもいつか…お兄ちゃんみたいになれますか…!」
「なれるよ、きっとすぐ追い越されちゃう!僕も頑張るよ、ゆずる君また!」
堂々として清々しい後ろ姿と感情豊かな表情にますます譲の矢印が迷いなく向いていた。彼らがまた邂逅できるのか否か…その結末がどんなに悲惨であろうと譲は当時の命の恩人、灰原を忘却に葬ることはせずに敬意を持った。こうして「金城譲」はオリンピックの人気選手に憧れるよりも、父のようなギャング・スターに憧れるよりも『呪術師』に憧れるようになったのだ!
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球体の防護壁内で美音は譲がプッツンきているだろうと戦慄した。あろうことかスタンド使いのこの男、フォリオ・ピアッツィは罪のない人々を巻き込んで人質にした挙句、譲の「
「フィリオ、水しかないドリンクサーバーからコーラが出てくると思うかい?あんたは」
「ああ?いきなり何を言い出すかと思えば、開いたその口から歯を一本一本くり抜かれてえのかあ〜〜〜ッ!!」
譲の問い掛けに応答する気はなく、砂浜という平面に潜航したテイク・オン・ミーの線画を譲のアルケミアがラッシュを繰り出すが砂が巻き上がるだけだった。譲の靴の僅かな平面に滑り込んだ線画が立体的なスタンドの姿として飛び出ると譲の全身を掻っ切るように手先で切り刻んでいく。血が飛散して砂浜が赤く染まり、防御が意味を成さないが譲は呪力操作で肉体の強度を高めて耐えていた。
「スタンドが得意ってだけで……呪力が…使えないわけではない」
「へへッ、だから呪術師だってか?」
「俺があんたに物申したいことは水のドリンクサーバーからコーラが注がれることがないように『
フィリオの「
「呪術師がゼロからのスタート?たとえそうだとしてあんたはいつまで俺が駆け出していないと思い込むつもりだ。とっくの昔に俺はあの時から『自信』という追い風を味方につけて疾走しているッ!!」
潮風が譲の背後から吹き荒れ、フィリオは目を細めながらも敵影を視界に収めようとした。瞬間、譲は飛んだ…アルケミアを砂浜に打ち込んだことで砂の柱を自らの両足を起点に作り上げてその勢いのまま岩礁に着地した。フィリオも遅れながらもテイク・オン・ミーを砂の柱に潜らせて上昇するが、譲を追走して宙へ飛び出した。
「あんたのスタンドは平面を移動していた。しかし、大きな弱点があるな。別の平面へ移動する時に必ず立体化している、線画のままじゃあないんだ」
「それがどうしたって言うんだあああ!!オレには呪術師サマの臭え『正義感』を出汁に使える『残忍性』を携えているんだよッ!」
「あんたに弱点を伝えたのは『警告』だ。これから起こる末路への『警告』、俺の『正義感』を舐めたことが災いを齎すんだ。わからないのならわかればいい、あんたは生まれて初めて水だけのドリンクサーバーから出てきたコーラに驚愕する」
敢えて挑発して宙に浮いたままのテイク・オン・ミーにフィリオの意識を向けた。釘を錬金したエネルギーで狙い撃とうとしたのはフェイント、譲は迷うことなくフィリオの首にそれを撃ち込んだ。フィリオの拘束が緩んだ隙に大学生グループはその場を必死に離れる。フィリオの後ろ盾は無くなり、首筋からは止め処なく裂いた動脈から鮮血が溢れ出す。
「あ……あァァァァ……!!あり、えないッ……こんな、こんな…生っちょろいガキにィィィ…」
「……下手な演技で…足掻くのは…やめなさい……。フィリオ、あんたがスタンドを……動かし、潜らせる『音』は全部聞こえた……。そして、友達の夢とその『
フィリオが血を溢しながら首を押さえて迫真の演技をしている間に美音は砂浜に耳を傾けて既に“聞いていた”。テイク・オン・ミーが僅かな平面を発見して岩礁の隙間を昇る音を。そして窪みが多い岩礁では移動速度が落ちていることも看破している。そして命のやり取りで再び、美音の『才』も上昇し、成長は止まることを知らない。
「『
「フィリオ、あんたには日本語は読めなかったか。俺たちが張ったバリケードテープの訳はこうだ、『夢へのバリケードテープは誰であろうと土足で立ち入るな』」
「ま、負けてたまるかアアアア……!!!オレの誇りは…ギャングとして死ぬことだ…ッ!!」
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーッ!!』
パッショーネ団員・フィリオ・ピアッツィ、スタンド名—「テイク・オン・ミー」———才能を伸ばした美音の音撃によって岩礁から打ち上がり、アルケミアとのラッシュに打ち負けた一人のギャングとして
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フィリオ・ピアッツィ撃破後、譲はすぐに美音の元へ駆けつけて絆創膏を連勤して生成された治癒力を分け与える。美音は出血量も多く、意識が朦朧としていたため傷を塞ぐだけの回復だけでは不十分、譲は更に自らの血液を構造そのものから錬金して美音の血液と馴染ませ、輸血する。副作用による重篤なアレルギー反応は起きない。
「……譲…あんたの怪我も酷いのに…」
「放ったらかしにしてごめん。フィリオ・ピアッツィという男は強敵だった。過去と向き合う時間をくれた…無駄にはしない。この傷は勲章だ、否定する男との勲章」
敢えて譲は自分を回復しない。今はその傷口の痛みを噛み締め、戦いの果てを共にした仲間の美音の生命を繋ぐ。その時、譲の背後で尖った影が大きく振り上がる。美音はその正体を見上げて青褪める。
「す…スタンド……!あいつのスタンドがまだ…!!」
「苦し紛れのスタンド攻撃かッ!間に合わな———」
反撃に出遅れた譲はそれ以上の追撃を受けることは無かった。代わりに這い上がったテイク・オン・ミーの肩から振り上げた腕にかけて首と共に撥ね飛び、本体であるフィリオ・ピアッツィも異形に丸ごと捕食され、凄惨な絶命を遂げる。ザッザッと草履を地面に擦る音が響き渡り、細波を制した者が階段を降りて砂浜に降り立つ。
「やあ。危ないところだったね、大丈夫だったかい?」
「……フィリオをいとも簡単に…あんたは誰だ?感謝はしますが、如何にも胡散臭そうだってことだけはわかる」
「決めつけはよくないよ、ジョジョ…いや金城譲君。紹介がまだだったね。初めまして、私は
前髪に長髪、大きめの耳朶に丸く黒いピアスを付けている袈裟の男は夏油傑と名乗った。譲も美音も見逃さなかったのは彼が轆轤首のような呪霊を操っているような所作をしていたこと。その轆轤首こそがフィリオのスタンドを直接攻撃して仕留めたのだろう。呪霊を操る術式、そこまでは分析可能、男の名も確かに記憶にあった。
「夏油傑…!百人を超える一般人を大量に呪殺して呪術高専を追放されたという最悪の呪詛師!!」
「正解だよ、金城君。そして鈴原美音ちゃん、才ある君が使用するのは《音色操術》のようだけど…」
「………違う。自分の術式は《
「これは失礼、何も貶すつもりなかったんだ。伸び代もあって感覚派の君はとても優秀だ。金城君のそれは私の呪霊が始末した男と同様の力、スタンドというらしいね。以前に小耳には挟んだことはあるよ」
日本に四人しか存在しない特級術師の内の一人、夏油傑は二人の術式とスタンドをある程度まで把握していた。恐らく自分達に監視の呪霊でも飛ばしていたのだろうと譲は推測した。夏油傑の術式は《呪霊操術》、降伏した呪霊を取り込んで自在に操る能力だが特級を裏付ける本人のポテンシャルはそれのみではない。
「単刀直入に言おうか。君たちをスカウトしにきた」
「俺たちに呪詛師と組めとでも言うつもりか」
「嫌味だなあ。私たちはね、『非術師が全て死ねば呪霊は消える』という結論に至った。術師であれば呪力をコントロールして呪霊が発生することもないからだ。非術師は術師を蔑ろにしているし、呪術師だけの世界を創りたい。その為に君たちが必要だ」
「正気とは思えませんね。第一そんなことが可能なのか」
「理論上はね、だから君たちを引き抜きたい。伸び代のある若人だからだ。それに高専にも所属していない君たちに社会経験として断る道理もない」
本人は口にしなかったが、譲は以前に
「今すぐにと急ぐわけでもないよ。期限は1週間、場所は東京の八王子にある高尾山にしよう。深夜0時まで待つよ」
「……どうしてそこまで俺たちを目に掛けるのか、理解に苦しみますね」
「若い芽は育て方を考えなくちゃね。じゃ、気長に待ってるよ」
屈託のない笑み、特級の真意とは———!!
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《パラメータ》
【STAND NAME】 【STAND MASTER】
テイク・オン・ミー フィリオ・ピアッツィ
破壊力-D スピード-B 射程距離-B 持続力-B 精密動作性-C 成長性-C
_______
【術式名】 【術者】
呪霊操術 夏油傑
等級-特級呪詛師