チ。二次創作/料理問答   作:すう

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お好み焼きを食べたことがないラファウ先生のお話。
アルベルト君とラファウ先生の晩ごはん。


粉。問答【アルベルト+ラファウ】現パロ

粉。問答

 今日の夕食は何にしようか。

 洗濯物を畳む手を止めず、アルベルトは思考を巡らせる。

 今日はもう、凝った料理をする気力はない。

 でもちょっと脂っこいものをガツンといきたい。

 そんな気分。

 サクサクと軽い音。

 振り向くと、ラファウがスナック菓子をかじっていた。

「珍しいですね」

 そう思って、アルベルトは声をかけた。

「これかい? 今日学生に貰ってね。初めて食べたよ」

 んまい棒。お好み焼き味。

「これ美味しいね」

「先生、スナック菓子初めてですか」

「うん」

 アルベルトにとって身近な物でも、ラファウにとっては新鮮らしい。

「ただね……」

 坊主頭のキャラクターと、ソースが描かれたスナック菓子のパッケージを眺める。

「大元であるお好み焼きというものを、僕は食べたことがないんだよね」

 衝撃。

 好奇心旺盛な先生にも、知らないものがあるのか。

 アルベルトは嬉しくなって、思わず口元が緩んだ。

「先生、今日の晩はお好み焼きにしましょう!」

 

「……なんだい、これ」

 ラファウは目の前に用意された品々に、冷えた目を向ける。

「てっきり、食べにでも連れてってくれるのかと」

「外で食べても美味しいですが、お好み焼きは家で作るのがまたいいんですよ!」

 アルベルトは楽しそうだ。

 今日は自分が教える番だと思っているから、俄然やる気が出る。

「さあ、作ってみてください!」

「はい?」

 ノーヒントで作らせようとするアルベルトに、怪訝な目を向けた。

「なに? ハンター試験でも受けさせられてるのかな、僕は」

 ほんの少し、機嫌を損ねたラファウの視線に、アルベルトは悪戯心を出して笑う。

「先生の頭脳と知識があれば、どんな料理か推測して完璧なものを作ることは可能では?」

「大きくなって可愛げがなくなったよね、君」

 しかし、挑発されて、できません教えてくださいと言えるラファウではない。

 目の前の材料から推測を始める。

 観察。

 荒く刻んだキャベツ。

 豚バラ肉。

 小麦粉。

 卵。

 水。

 ソースやマヨネーズ。青のり、鰹節なんかも用意されている。

「……やってやろうじゃないか」

 その言葉に、アルベルトはにやりと笑った。

 料理という名の戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 まず。

 水。

 飲む。

「これで心を落ち着かせる」

「先生、料理のレシピにそのくだりは必要ですか?」

「料理とは禅。精神の安定が味の安定につながると僕は考える」

「まあ、先生はカッとなると手がつけられなくなることがあるので確かに必要かもしれませんが」

 続けてキャベツと豚肉。

 豚肉を用意されていたコテで切り刻み、野菜と炒める。

 そしてソースで味付け。

「それは野菜炒めですね」

 突如、グシャと卵を握りつぶす。

 アルベルトがびくりと肩を震わせる。

「おっと」

「先生は大切な人を卵に殺されでもしたのですか。あまりに酷い……」

「強度を見誤ったね。卵って見た目より脆いんだね」

 続いて小麦粉をタッパーに入れてならす。

「アルベルト君。手を使わずに中から飴玉を探し出してご覧」

「それに何の意味が?」

「昔は運動会でそんな種目があったのさ」

「運動会?」

「これが案外盛り上がってね。今思うと汚いね」

「先生は今なにをしているんですか?」

「お好み焼きを作ってるんだよね」

「お好み焼きっていうのは、料理名であって、好き勝手することじゃ無いです」

「さてどうしようか」

 野菜炒めをつまみつつ思案する。

「水、必要ですね」

「だろ?」

「精神が落ち着きました」

「さて。冗談はさておき、推理を始めるとしようか」

「長い前置きでしたね」

 ラファウは小麦粉を見て考える。

「主材料はキャベツ。つまりこれは野菜料理」

「……まあ、そうとも言えますね」

「では小麦粉は結着材だね」

 キャベツと豚肉を小麦粉の中で転がす。

「先生、それは唐揚げの準備です」

「揚げるの?」

「揚げません。焼き、なので」

 ラファウは目の前のホットプレートを見る。

「均一加熱装置だね」

「ホットプレートをそう呼ぶ人初めて見ました」

 キャベツを全体に広げる。

「先生」

「鉄板の表面積を最大に使えば、効率よく火が通る」

「それは、焼きキャベツですね」

「ねえ”お好み”焼きってさ。料理名に解釈の余地が多すぎると思わないかい?」

「はあ」

「つまり自由度の高い料理と解釈できる」

「まあ」

 冷蔵庫を開ける。

「先生?」

「どこまで何を混ぜたらお好み焼きと言えるか、その境界線を知りたくなった」

 冷蔵庫の中身をあるだけ出そうとするラファウを何とか押し留める。

「自由研究じゃないんですよ、先生」

 ホットプレートのキャベツを集めながら、アルベルトはため息をつく。

「さすがの先生でも、やはりお好み焼きの真理には届きませんでしたか」

「……」

 ラファウはおもむろに立ち上がる。

 卵と水を混ぜ、小麦粉を入れる。キャベツを加えてふんわりと混ぜ、熱したホットプレートへ落とす。豚バラを乗せ、ひっくり返す。

 最後にソースとマヨネーズをかけ、鰹節と青のりを散らす。

「食べようか」

「先生。お好み焼き知ってたんじゃないですか」

「食べたことはないけど、知らないとは言ってないよ」

 お好み焼きは美味しかった。

「アルベルト君」

「はい」

「お好み焼きとは何か、定義せよ」

「急ですね。まあ、粉料理ですかね」

「僕の定義はこうだ。小麦粉の量に対してキャベツが多すぎる。つまりこれはキャベツ料理」

「まあ、多いですね。でも火を通すとカサが減ってたくさん食べられますから」

「料理とは何か」

「急に哲学が始まった」

「粉料理と君は言ったね」

「はい」

「だが、僕はキャベツが主役だと主張する」

「やけにキャベツにこだわりますね」

「つまりこれは」

「言わなくていいです」

「キャベツ料理」

「違います」

 アルベルトの反論。

「先生。お好み焼きとは、ですね」

「うん」

「キャベツと生地を混ぜて焼いた料理です」

「では質問」

「まだやるんですか」

「キャベツを抜いたら?」

「それはもうお好み焼きじゃないですね」

「つまり、キャベツが主体」

「キャベツにこだわりますね」

「キャベツ抜きのお好み焼きは、粉焼き」

「クレープになりましたね」

 アルベルトが残った粉と水を混ぜたものを、ホットプレートの上に広げる。

「ここに、ソースとマヨネーズをかけてしまえば」

「……お好み焼きの味がする」

 ラファウは静かに箸を置く。

「ソース。お前だったのか。お好み焼きの正体は」

「焼きそばとかたこ焼きにも言えますけどね」

「新たな議論の余地が生まれたね」

 

 粉。問答。

 どっとはらい。

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