お米、美味しいよね。
米。問答
「ポトツキさーん。お届け物でーす」
「はーい」
手が離せないポトツキに代わり、ラファウが玄関に顔を出した。
「重いよ。気をつけて」
「ありがとうございます」
配達員の手から渡された荷物は、ラファウの腕にずしりと乗る。
フベルトの実家からである。
食欲の秋。
今年もこの季節がやってきたのかと、頬を緩ませる。
ポトツキの家では、届いた米をご飯のお供とともに、まずシンプルに味わうのが、恒例行事となっている。
土鍋で炊くという、こだわりぶり。
「そろそろかな」
充分に蒸らし終わったところで、土鍋の蓋を持ち上げる。
三人で覗き込む。
土鍋から食欲をそそる湯気が溢れる。
一瞬真っ白になる視界。
そこに現れる艶やかな白い粒の輝き。
フベルトとラファウはお茶碗に盛られる白米を、期待に満ちた目で見つめる。
「僕、おこげが食べたいです」
「私も」
「まあ待ちなさい」
ポトツキが笑う。
準備が整ったところで、まずは一口。
新米ならではのふっくらとした食感と、鮮やかな香り。
「んまい……」
吐息と共に、感想が口から溢れた。
ポトツキがご飯のお供をテーブルに並べる。
たくあん。
浅漬け。
梅干し。
佃煮。
「ご飯のお供って、何が一番最強でしょうね?」
たくあんをぽりぽりと頬張りながら、ラファウが何気なく呟く。
「味噌汁。一汁一菜。具沢山なら栄養も申し分ない」
自信満々に、ポトツキが言い放つ。
「先生。汁はお供じゃない」
「そ、そうか?」
「まあ、確かに。味噌汁はお供っていうよりおかずですね」
しょんぼりと佃煮に手を伸ばす。
「……鮭、じゃないか」
フベルトがボソリと言った。
「あ、いいですね」
そこにポトツキは待ったをかける。
「鮭はそれだけで主役となりうる。お供というより主役を食ってしまう、いわばライバルではないか」
「確かに」
ラファウが頷く。
「明太子や卵、ウインナーなんかも、ライバル枠ですね」
「た、卵もか」
「はい。議論はあくまでお供。白米と対等であるのが最低条件としましょう」
ラファウは箸を止め、じっと机上を見つめる。
「……塩?」
フベルトの箸が止まる。
ポトツキも固まる。
塩っ気のあるものは、白米によく合う。
ならば、究極塩でいいのでは。
フベルトが茶碗の中を見つめる。
「それは、ちょっと寂しい」
「そうですか?」
梅干しをつまみ、米の山に乗せた。
「海苔なんかどうだ?」
ポトツキが味海苔を取り出す。
「存在感はありつつ、主役足り得ない役どころだ」
「海苔は……なんか、衣装? って感じです」
「おにぎりに、巻くしな」
「お前たちの基準がよく分からん」
フベルトがおかわりに立つ。
「そういえば昔、旅行でままかりというのを食べたな」
「ままかり?」
「魚だ。あまりの美味さに隣からご飯(まま)を借りてくる、という意味だそうだ」
「発想はいいけど、魚かぁ。卵や明太子と同じライバル枠です」
「ずいぶん手厳しい」
「ドンマイです。米を食べるためのもの、という視点は評価高いです」
「お前はさっきから何目線なんだ」
おかわりから戻ったフベルトが再び席に着く。手には新たに塩昆布としば漬けがあった。
「こら、塩分過多だぞ」
「今日だけだ」
「年を考えろ」
年齢を重ねると、健康診断の結果に戦々恐々となるらしい。ラファウは二人のやりとりを、和やかな目で見つめる。
箸に乗せた白米を頬張る。
ふっくら、もちもち。
「あ」
ラファウの出した声に、塩分の取り合いをしていた二人が振り向く。
「空腹こそ最高の調味料です」
「それは」
「養父さんの養子になるまで、こんなにお腹いっぱい食べたことがなかったから。
……幸せだな」
思わず目頭を押さえる二人。
「もっと食べなさい」
「しば漬けいるか?」
結局その日、三人は土鍋を空にした。
米。問答。
どっとはらい。