微笑みが溶けている ~転スラ蒼海の涙編 IfEnd 作:錯乱状態の昆布
~砂浜でゴブタがユラへ告白した場面から~
「調子に乗らないで」
言い放つユラ。
燦々と照る日差し。煌めく碧の髪。
ユラの表情は、逆光の作り出した影に覆い隠されている。
潮風が吹いて、足元まで隠したスカートを靡びかせる。
息を呑み、顔を歪めるゴブタ。
遠くで大きめの波に乗っているサーファーの男が見える。
「あなたには感謝しています。でも一生を供に過ごしたいと思う訳ではない。」
振り返り、背を向けるユラ。
ゴブタは呆然と眺める。
あの夜、星に歌っていたユラの背中がフラッシュバックする。
弾ける波。
カメラをユラへ戻す。
「本当はカイエン国の為に、貴方を利用したかっただけ。」
「一緒に生きていくつもりなんてなかった。」
凛然とした声。姿勢。
海に浮かぶサーファーボード。海面から男が顔を出し、つかまって陽気に声を上げる。
寄ってきて
彼女の肩が上がって、下がる。
そしてふっと笑う。
「次は、私みたいな悪女に引っかからないようにね。」
そう零すと、彼女は歩き出した。
「さあ、私は帰ります。見送りは結構ですから、もう行って・・・」
「歌!」
突如ゴブタが叫び、ユラの腕を掴む。
ユラの肩が跳ねる。
掴まれた袖はたぷりと水風船のように曲がっていた。
瞳を大きく見開くユラ。
穏やかな波が岸の少し先まで寄せている。
「・・・歌、綺麗だったッス」
「またここでずっと、ずっと聴いてるッスから!」
ひどい顔だった。
振り返った彼女の顔すら見えないほど、ゴブタの視界は涙で歪んでいた。
だから最後に彼の脳裏へ焼き付いたのは、五月蠅いほどのカモメ達の合唱と。
笑ったような、泣いたような。言葉になっていない掠れ声だけだった。
そしてひと際大きな波が打ち付け、ユラの姿を呑み込んだ。
□
虚空へ持ち上げていた掌の中には、小さな池ができていた。
指の隙間から肘へと伝って一滴、一滴と地面に吸い込まれ消えていく。
そのたび想い出される。
尾行を指摘すると図々しく白ばくれるユラ。
笛の音をせがむ子供たちに困り果てるユラ。
艶やかな月明かりの中、頬を赤らめるユラ。
彼女が一族の宝として継承してきた笛は砕かれた。
信じて来た伝統と伝説も偽物だった。
守りたかった民たちの平和が、安寧が、自らの力で破壊された。
そして躰も崩れる。儚い恋心でさえ、最早叶うことはない。
誇りも、夢も、願いも、存在意義でさえ奪われて、身も心も溶けてなくなる。
彼女はこれ以上、自分の存在が他者を傷つける事に耐えられなかったのだろう。
恋路を自ら断ち切る事は、ユラにとって自分の運命に対する最後の抵抗だったのだ。
そしてついぞゴブタは、彼女を護ることも、救う事もできなかった。
物語の騎士になれなかった者には、さざなみを聞いている事しかできない。
ならば聞いていよう。今日も、明日も。
彼女へささやかな
開幕風を吹かせるだけでだいぶ変わる。
一応、蛇足を除いて脚本調に寄せてみたので、大部分の表現は映像化できるようになっていると思います。
要するに当てつけです。