『ツクヨミ』に笑う棺桶がやって来た   作:ぷに凝

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13 地震、雷、火事、帝。

「……やっぱりこれ、あなたが協力したわけじゃなかったのね」

 

 膝を抱えて座り、話を聞く体勢になったカカに対して、自分は簡単に今の自分の状況を告げた。

 突然ヤチヨに襲われ、運良く逃げ延びた矢先にこのようなイベントが開かれたこと。イベントに協力などしていないこと。もし自分のアバターが何らかの理由で「死亡」すると、元の自分の体に重篤な影響が発生する可能性があること。

 

 無論、SAOのことは伏せてあくまでツクヨミの中で起こった出来事に限って話す。嘘はついていない、言ってないことがあるだけで。

 

「前から思ってたんだけど、どうしてあなたって頑なにログアウトしないの?」

 

 それらの事情をかいつまんで説明すると、返されたのは当然と言えば当然の疑問だった。

 

「ヤチヨが何を考えてるのかはわからないけど、そんなことになってるんだったらまずログアウトして、しかるべきところに連絡した方がいいと思うのだけど」

 

 自分はうーむと唸りながら、その疑問に対してどう答えるべきかを悩んだ。

 自分はログアウトしていない。その事実を無闇に広めたつもりはないが、隠していたつもりもない。昼夜問わずKASSENに明け暮れる自分の姿があれば「なんかいつも居るなこいつ」となるのは自明の理。

 

 今までは、そこを突かれたとしても曖昧にぼかしてかわすことができていた。

 ほぼ24時間体制でツクヨミに潜り続けているライバーというのは少ないが存在している。自分もその手の人間だと誤解させれば不審に思われることはなかった。

 

 だが、それもここまでの緊急事態となれば話は別だ。一旦ログアウトして運営に一報を入れるなりなんなりでやりようはいくらでもある。にも関わらず頑なにログアウトしようとしない自分は客観的に見てかなり怪しいと言わざるを得ない。

 

「……まっ、別にいいけど」

 

 言葉に詰まってしまったことで、これはもうカカとも敵対せざるを得ないか……と覚悟していた所に、カカが立ち上がりながら予想外の言葉を投げかけてきた。

 

「何? 詮索する気はないわよ。リアルの事情を探られたくないのなんて、私だって同じだし。ただ、あなたがこんなことに付き合ってる理由がわからなかっただけ」

 

 振り向きながらそう言うカカは、前髪を指でいじりながらフンと鼻を鳴らして吐き捨てるように言った。

 ……彼女はこんなキャラだっただろうか? ちょっと前ははんなりとした口調のお姉さんっぽいキャラだったと思ったのだが、この短期間でキャラ変えしたらしい。

 

 やはり、あのギャン泣きでキャラ崩壊を引き起こしてしまったのが原因だろうか。もしそうだとしたら責任を感じてしまう。

 

「あ、あのことはもういいでしょ!? 蒸し返さないで!!」

 

 自分の疑問に、カカは顔を真っ赤にしてぎりぎりと歯を軋ませながら激昂した。真っ赤になった顔とわずかに目に浮かぶ涙が彼女の心情を嫌というほど物語っている。

 

 これは自分の予想だが、恐らく彼女はかなり若い。10代後半……もしかしたら女子高生かもしれない。アバターは大人びた雰囲気だが、言動の端々に見れる幼さがそう感じさせた。

 

 脳裏に、栗色の長髪と純白のライトアーマーを身につけた“閃光”の姿がよぎり反射的に頭を振った。

 確かに彼女とカカは似ている部分があるかもしれない。だが、昔はともかく最近の彼女は“彼”の影響もあり随分丸くなっていた。もしかしたら、カカにもそういう存在が必要なのかもしれない。

 

「なっ、あぁ……!?」

 

 そう思った自分は、自然とカカの頭を撫でながら「そっちのキャラの方が好感が持てる」と軽く笑った。

 

「調子に乗るなぁ!!」

 

 しかし、どうやらこれはお気に召さなかったようでカカは耳まで赤くなりながら自分の頬を張ってきた。

 うーむ、やはり彼のようには上手くいかない。出会いが極端に少ないSAOで女性といる光景が何度も目撃されているユニークスキル持ちは格が違った。

 

 だが、なんだか懐かしい気分で悪くない。昔はこうして女性にちょっかいをかけては手痛い目に遭っていたものだ。今となっては全てが遠い記憶だが。

 

「お、落武者。あなたこそそんな軟派なキャラだった……!? 私は寡黙で、いつも冷静で、誠実で、誰よりも強い……そんなあなただから……ひゃあ!?」

 

 カカが言い終わるより早く、自分は地面を蹴って彼女を抱きかかえながら跳んだ。

 

「な、何して……!? ……もしかして、敵?」

 

 そうだと頷く前に、遥か頭上からまるで雷鳴ののような勢いで“何か”が降りてきた。

 

「見つけたぞ、落武者」

 

 その手に持つのは、大楯。見た目通りの質量が設定されている武器を軽々と扱う彼の目は爛々と輝き、こちらの目を射抜いていた。

 

「駒沢雷!」

「黒羽カカ。お前はそいつに味方するという認識でいいのか? それとも、不意をついて倒して優勝する腹か?」

「……あなたってそんな喋れたのね」

 

 登場してからわずか5秒で今までの台詞量を凌駕する文字数を稼いだ雷をカカが神妙な目で見つめる。

 実は自分も全く同じことを思っていたなどと言ったらあの大盾で潰されることになりそうなので、何も言わないでおく。

 

「落武者、前は乃衣が世話になったな。お前に負けた後、あいつの機嫌を取るのに俺と帝は随分苦労した。……その時の狩りを返すぞ」

 

 言うが早いか、雷は立ち上がり大楯を構えながら一直線に突進してきた。見た目に似合わぬ俊敏さで、なかなか絵面としてのインパクトが強い。

 

「落武者! 掴まって!」

 

 回避しようとした自分の手が掴まれ、足が宙に浮く。そのまま自分は地面を離れた空へ上昇。

 

「空中なら彼は追ってこれないわ。このままどこかに身を隠して……って、何やってるの!?」

 

 “月歩”で自分ごと空へ舞い上がるという離れ技を見せたカカは、そのまま空を飛んで逃げ切る腹積りだったようだ。

 しかし、腕を掴んでいる自分が激しく動き回ったことであわや体勢を崩しそうになる。

 

「動かないで! “月歩”が崩れるでしょう!? もしかして高い所苦手なの!? だとしても今は我慢して……」

 

 違う。と自分はかぶりを振った。

 別に自分は高所恐怖症でも、カカに助けられるのが気に食わないわけでもない。仮にそうだったとしても、こんな空中で無理に身を捩って二人一緒に墜落したらそのまま落ちた先で袋叩きに遭うのは目に見えている。

 

 空中を移動できるメリットは凄まじい。遠距離攻撃以外はまず当たらない位置を移動できるし、仮に見つかったとしても空中で目立っている状況ではヤチヨも下手な手出しはできないだろう。

 「落武者を捕まえる」という趣旨のイベントのはずなのに、当のヤチヨがその目的に反するような行動をとれば怪しまれる。そもそも、ユーザー主体のイベントに管理人であるヤチヨが“妨害”という形で関与することを彼女は望まないはずだ。

 

 そんな有利な状況を整えることができる“空中”というフィールドは自分にとって都合が良く、無意識であってもその道を選んだカカが味方になってくれたことは本当に心強いと思う。

 

 だからこそ、空中にはいられない。

 空中に逃げられれば、追っ手側は追いつけなくなる。それが誰よりも良くわかっているからこそ、自分はカカに叫んだ。「早く降ろせ」と。

 

「何を言って……え?」

 

 稲妻。そう、それは稲妻だった。

 大盾が落ちた時の衝撃を雷に例えるなら、それは稲妻だ。地を走り、目にも止まらぬ速度で這う稲妻。

 それがこちらを見上げる雷の背後から迫り、雷はそれをわかっていたかのように盾を自分の頭上に掲げた。

 

 何かから守るためではない。それは足場だった。地を這う稲妻が空に飛び出すために、雷の手助けを受けるために必要な足場。

 稲妻は空に飛び出し……まさに神がかり的な速度で空を飛ぶ自分に迫ってきた。

 

「落武者!」

 

 身を捩り、カカの腕から離れた自分はカタナを抜き、稲妻を迎え撃った。しかし、体勢が悪く稲妻の衝撃を充分に受け切ることができず吹き飛ばされる。

 

 やはり、空はダメだった。メリットはあっても、“目立つ”。それはリスクだ。あまりにも大きなリスクだった。

 目立てば彼が来てしまう。この“鬼ごっこ”で、きっと自分の次に早い鬼が来てしまうのだ。

 

「──おもしれぇことになってんじゃねーか。落武者」

 

 空に飛んだ帝アキラが、獰猛に笑いながら稲妻を纏ったカタナで鍔迫り合った。

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