『ツクヨミ』に笑う棺桶がやって来た   作:ぷに凝

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19 カスアベンジャーズ

『ヤオヨロ~!みんな生きるのはどうですか?良い事あった?それとも泣いちゃいそう?よしよし、全部大丈夫。どんなに孤独な道のりでも、楽しかったなーって記憶が足元を照らすよ。この時間も忘れられない思い出にしたいから……どうか一緒に踊ってくれる?』

 

「よぉ、落武者」

 

 頭上で流れるライブ映像から視線を地上に下ろすと、いつもの調子のアキラがそこに立っていた。

 いや、少しだけだがこれは落ち込んでいるようだ。声の調子と表情が、いつもより少し暗い。

 

「……ファンにすら気づかれてない俺の微妙な変化に気づくんじゃねーよ」

 

 苦笑しながら自分の指摘を素直に認めたアキラは、そのまま上空へと視線を移した。

 

「あん時は、味方してやれないで悪かったな」

 

 らしくもなく謝罪から入ったアキラが、先日の大捕物での一幕を気にしているのは明らかだった。

 ここで気にしてないと本心を言ったところで向こうは納得しないだろう。だから“一つ貸し”とすることで手を打った。

 

「ははっ、あんたにゃ借りばっかり増えてくな。いつまで経っても返せそうにねぇ」

 

 自分への借りなんか気にしている暇があったら、妹のことをもっとちゃんと見てやったほうがいい。

 あれは、目を離した隙に化けるタイプだ。油断していると足元を掬われることになるぞ、と忠告しておく。

 

「へいへい、あんたにゃ敵わねぇよ」

「帝〜。もっと高いとこで見ようよ〜」

「おう。……んじゃ、またな」

「? あっ!? おにーさん!? ちょっ、なに抜け駆けしてんだよ!」

「はいはい。行くぞ〜」

「あ〜! 俺もお兄さんと話したい〜!」

 

 乃衣に呼ばれ、人混みの中へ消えていくアキラをひらひらと手を振って見送ると、再び上空へ視線を。

 

『ありがと〜! ……次はサプライズ! 今、そこにいるあなたに一番届けたい歌! どうか、聞いてください』

 

──La la la〜。

 

(((これは間違いなく俺に向けられた歌だな。多分、俺しか気づいてないけど)))

 

 何故か、この瞬間だけ周囲で腕組みしている男たちの考えていることがわかった。

 

 誰もが“自分を向いている”と思わずにはいられない、天性の勘違い男量産機。それもまたスター性の一部ということだろう。彼女の気を惹きたいと思わせる魅力が、間違いなくそこにある。

 

 きっとその寵愛を一身に受けるのは、隣に立つ彩葉なのだろう。ヤチヨが彼女に向ける視線の熱は、そういう類いのものだ。

 

 ……そこまで考えて、これでは自分も腕組みしてる男たちと変わらないな、と自分の下世話っぷりと過去の自分の残穢に気づき苦笑する。

 

 ヤチヨが……あの三人がたった一人のために歌を歌っているなんて、それこそ都合のいい妄想でしかないというのに。

 

 

(なんて、思ってるんだろうなぁ)

 

 ライブ中。ヤチヨは自分が持ちうる全てのパフォーマンスを持って歌と踊りをやり切る。

 それはツクヨミにいてくれるみんなへの平等な愛のため……と見せかけて、それが実は彩葉一人に向けられたものだったなんて口が裂けても言えない。

 

 実際、歌っている最中も彩葉のことだけ考えてたわけじゃない。私のことを好きになってくれた人たちのことはもちろん大好きだ。

 だけど、やっぱりどうしても彩葉だけは特別になってしまう。8000年、彩葉に会うためにここまで旅をしてきたんだから。

 

 じゃあ、こうして念願叶って彩葉と……そして過去の自分とも一緒にライブをして、私たち三人が“届ける側”になった時、この歌を誰に届ければいいんだろう?

 

 そう考えた時、自然と私たちの頭の中に浮かんだのは一人の顔だった。

 真面目で、実直で、誠実で……あまりにも一人で抱え込みすぎる一人の顔が。

 

(バレたら大炎上じゃ済まないね)

 

 もし、彼が今までやってきたことを世間に公表すれば、その瞬間彼の居場所はどこにもいなくなる。

 そんな事態は私たち3人が結託して防ぎはした。だけどもしそうなったとしても、彼はきっと私たちを責めたりはしないだろうという確信があって。

 

 そんな彼の優しさにつけ込んで、利用しようとしている醜い自分がいた。

 これから起こることに、彼を関わらせようとする打算を組み立てる自分が。

 

「キャ〜!! ヤッチョ〜!!」

「かぐや〜!!」

「彩葉〜!!」

 

 声援に笑顔で返しながら……ゾワリと、背筋が粟立つ感触に目を細める。

 

「……来たね」

 

 そう、このタイミングだった。ずっと昔のことだけど、覚えてる。

 

2030/09/12。

 

「あれ? ネット切れちゃった」

「なにあれ? ……月?」

 

 ツクヨミ中の大型ビジョンがハックされ、映し出されたのは一枚の”月“の映像。

 事態を理解していないだろう彩葉とかぐやの二人に注意を促そうと振り向いて……かぐやのすぐそばに“それ”が迫っているのに気づいた。

 

 驚き、静止するより前に、かぐやの腕をそれが取るほうが早く……。

 

 ──瞬間、雷鳴が轟いてかぐやの腕を取ろうとした人影を一筋の刀剣が切り落とした。それをしたのは、襤褸のようなコートを纏った長身の男。

 “ヤチヨ。こいつらは全員斬っていいのか?”と、振り返ることなく、なんでもないように聞いてくる彼の姿は……あまりにも異質なのに、例えようもなく、頼りになると思ってしまって。

 

「──いーよ! ヤッチョが保証しちゃう! やっちゃえ落武者くん!」

 

 私は、“知っている歴史”から大きくはみ出す覚悟を決めたのだった。

 

 

 不思議な手応えだった。

 それがモンスターであれプレイヤーであれ、敵を斬った時というのはそれ特有の独特な感触が手に残るものだ。これが意図したものなのか、はたまた視覚と触覚が引き起こすバグなのかはわからない。

 

 しかし目の前で“人型”を成す彼らにはそれがない。斬れば霧散するし、数は減る。けれど手に残る感触はほとんどなく、武器を振り回して効率の悪い霧払いでもしているような心地にさせられた。

 

 だが、効率は悪くとも払えるものは払えるのだから、その効率の悪さを帳消しにして余りあるくらいの速度と数でもってカタナを振るえば、つゆ払いくらいはできるのが道理だ。

 

「も〜! なんなのこいつら!」

「倒しても倒してもキリがない……!」

 

 ステージ上で応戦するのは自分だけじゃない。彩葉とかぐやもだ。比率としては自分が6ほど受け持ち、二人がそれぞれ2ずつといった具合。

 ライブ会場という非武装エリアで武器が解禁されてるのは、ヤチヨの計らいだろう。彼女はまた、こうなることを予期していたような節がある。

 

 突如として謎の人型が溢れたツクヨミは恐慌状態だ。人型は増殖する。しかも、ツクヨミ内のアバターを乗っ取って。まるでゾンビモノパニックホラーのような状況。

 

 もしこれをしているのがハッカー集団か何かなら、相当な用意をして臨んでいるのだろうと予想がつくが……月見ヤチヨという異空間からの干渉すら気づくスーパーAIが管理するこのツクヨミをジャックする存在がただのハッカーとは思えない。

 

「おーい! 落武者! お前抜け駆けずりぃぞ!」

「かぐやちゃん助けてステージに登場とか……お前マジでふざけんなよ? なぁ? お前オイ!」

「かぐや様! 我ら貴公子参上しました!」

「あ、ちなみに俺はヤチヨ推しな」

「「殺す」」

 

 さて、どうしたものか……と悩んでいると、突如ステージ上に見覚えのある三人組が現れた。

 いつかのかぐやの配信荒らしをしていた三人組だ。あれから彼らとはちょこちょこKASSENでマッチする間柄になっていたのだが。

 

「……なんか、すごいことになってきちゃいましたね」

「こういうのなんていうんだっけ。アッセンブル?」

 

 さらに続々とステージ上に上がってくるのは、わずか数ヶ月の間だが自分がツクヨミで知り合った者たち。

 

「ここで助太刀に入れば彩葉ルートは確定ですなwwwフォカヌポウwww」

「だからKASSENで鍛えておく必要があったんですね」

「三人で勝てるわけないだろ!」

「俺の見せ場とかないんか?」

 

 少々、癖が強すぎる援軍たちではあるが……頼もしいことには変わりない。数という相手に対して、自分一人では結局、限界があるのだから。

 

「……すごいね。こんなことになるんだ」

 

 そうして周囲に集まった勇士たちを一望して……ヤチヨはくしゃりと、まるで憑き物が取れたような純粋な笑顔を見せたのだった。

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