『ツクヨミ』に笑う棺桶がやって来た   作:ぷに凝

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6 黒羽

「おおおおおおおっぼぁああぁあぁ!!?」

 

 気合いの咆哮がそのままの勢いで悲鳴に変わり、大量の刀剣を装備した僧兵のようなプレイヤー、“ベンK・ムサシノ”が吹き飛び、場外負けとなる。

 

「落武者氏、強すぎでござる〜!!」

 

 全身に推しライバーである“黒羽カカ”モチーフのチャームを身につけた「カラストンビ部隊」の筆頭である“カカ様のかか様から生まれたかった”の体力ゲージが0になり、捨て台詞を吐きながら吹っ飛ぶ。

 

「最高速度でブチ抜いたる!!」

 

 どこかで見た事があるようなキャラクターを模したアバター。極限まで移動速度に特化した“匿名N”の高速タックルをカウンターで迎え撃ち、一撃で勝負を決める。

 

 そんなこんなで、バラエティ豊かな刺客達を一人一人丁寧に返り討ちにしていく日々。

 KASSENNのルール中でも、1vs1の対戦モード“SETSUNA”はその名の通り刹那の間に決着が着くことが多い。

 戦略性の高いSENGOKUと違いこちらはシンプルな対戦格闘ゲーム。相手の体力を削り切れば勝ちのシンプルなゲームだ。

 

 まぁ、格闘ゲームと言っても操作方法自体はSENGOKUと変わらない。仮想空間での対戦は操作方法を覚える必要がないのが素晴らしい所だ。

 言うまでもなく、数的不利を背負わないSETHUNAはSENGOKU以上に自分の独壇場と言えた。

 

「おっつかれ〜!! オッチン♪」

 

 いつも通り勝利してツクヨミのロビーに戻ってくると、金髪うさ耳の陽キャライバー、かぐやが右手を挙げてタッタッタと走り寄ってきていた。

 それに左手を上げて応じると「いぇ〜い⭐︎」と自分とかぐやはハイタッチをする。

 

「かぐや、オッチン呼びはやめなって。普通に失礼だよ?」

「え〜? オッチンは良いって言ったよ? ねぇオッチン?」

 

 “オッチンは構わんよ”と首を縦に振ると、「ほら!」とかぐやは両手を広げてみせ、きつねの着ぐるみを着た編曲担当……いろPが頭を抱えて溜め息を吐いた。

 ちなみにオッチンとは犬の名前らしい。かぐやが連れてる犬の名前は“犬DOGE”だったと記憶しているのだが、それとは別口なのだろうか。

 

「あの、ホント嫌になったらいつでも辞めていいんで……あんまりかぐやを甘やかさないでもらえると……」

 

 表情は見えないが、明らかに眉間を揉んで難しい顔をしているいろPに、苦笑しながらわかったと頷く。

 自分がSETHUNAでバラエティ豊かな刺客達と戦っている理由は、彼女……かぐやに求婚を迫る“貴公子”達への対応のためだ。

 

 男たちを追い払ったあの日からというもの、自分は時間ができればかぐやの配信を見ていたのだが、確かにかぐやのコメント欄の民度は言ってしまえば酷かった。

 特に、先日かぐやが口を滑らせて「KASSENでいろPに勝ったら結婚してあげる」という発言が直後に配信を落とされたにも関わらず一瞬で拡散、切り抜きされた結果それを本気にした者たちの対応をいろPが迫られるという地獄絵図。

 

 だが、いろPはリアルの事情などもあり忙しいらしく、リアルも配信準備もKASSENも……となると、これは流石に手が足りない。

 

 護衛依頼を受けた手前、これもその範疇だろうと踏んでいろPに直接メッセージを飛ばし、視聴者からの挑戦を自分が代わりに請け負うことを提案したのだった。

 

 いろPは自分のことを知っていたらしく、こんなくだらないことをトッププレイヤーにお願いするのは申し訳ない……というようなことを言って断ってきたのだが、自分にそのような依頼をしてきたのは帝アキラだ。と彼の名前を出すとしばらくメッセージの返信が遅れた後に“わかりました”とだけ返ってきた。

 

 それからというもの、かぐやに求婚を申し入れるために次へと湧いてくる貴公子どもをちぎっては投げ、ちぎっては投げ……途中から明らかにかぐやへの求婚が目的じゃなさそうなKASSEN上位プレイヤー達が対戦リストに名を連ねるようになり、もはや当初の目的が忘れ去られた単なる“SETHUNA最強決定戦”の様相を呈していた。

 

 なんなら、途中でアキラとか雷とかも参戦してきてた気がする。お前らが自分と戦ってどうするんだ。

 

 しかし、片っ端から貴公子達の相手をしてきたこともあり、いよいよ相手も弾切れしてきた。次が最後の対戦相手だ。

 

「あっ、この人知ってる!」

 

 次の対戦カードを見ると、そこに記されていた名前にかぐやが指を指す。いろPも目を見開いて驚いている、ように感じる。

 

黒羽カカ。

 

 ウィンドウに映し出されたのは黒髪の女性ライバー。目を引くのは、背中から生える二対の黒い翼。朱色の和服を着込んだ余裕のある佇まいは、どこか強者のような雰囲気を感じさせる。

 実際、彼女が強者であることを自分は知っている。

 

「ヤチヨカップの中間結果でかなり上位に食い込んでた人ですね。黒鬼ほどじゃないですけど、熱心な男性ファン層が多いとか」

「オッチンが勝ったあのお侍さんが推してる人でしょ? なんだっけ、カラスビ……カラスバ……?」

 

 カラストンビ部隊。鎧を着込んで自分と戦った彼の姿を思い浮かべながらそう言うと「そうそれ!」とかぐやが指を鳴らした。

 

「あの、大丈夫そうですか? この人って確か、KASSENも強いって」

「大丈夫だって、いろは……いろP! オッチン最強だから!」

「なんでかぐやが自慢げなの……?」

 

 かぐやといろPの寸劇を横目に、自分は黒羽カカからの対戦依頼を受けてSETHUNAのフィールドへと飛び込んだ。

 どんな相手だろうと、そう簡単に負けてやる気はない。それは今までもこれからも変わらない自分のスタンスだ。

 

「ぅん?」

 

 目を開けると、まず飛び込んできたのは際限なく広がる竹藪。そして隙間から漏れ出る温かな太陽の光。どうやら対戦ステージに選ばれたのは“竹林フィールド”のようだ。

 見ての通りの竹藪を舞台としてフィールドで、障害物が多い。竹は攻撃すれば破壊することができるが、文字通り雨後の筍のように時間経過で復活する。

 

「あらまぁ、ホンマに来なさったん? 落武者はん」

 

 そしてそんな竹藪の、遥か“上空”からはんなりとした京都弁を思わせる艶のある声が響いてきた。

 

「あんなかぐや言うやっすい娘のために本気で体張るなんて……落武者はん、実はロリコンだったりしてはるん?」

 

 黒い翼を広げ、遥かな高みからこちらを見下ろす姿は、どこか天狗を思わせる佇まい。

 黒羽カカが空の上から自分の姿を捉えていた。

 

「ショックやわぁ。うちに初めて土つけた男がただの変態さんやなんて。うち、恥ずかしゅうてあんたさんに負けたって言えんやん。どうしてくれるん?」

 

 “知らん”と一言で言って切り捨てると、カカは手に持った扇子で口元を隠し、しかし堪えきれないように目を細めて「カカカ……」と笑い始めた。

 どうでも良いが、あの喋り方も含めて全てキャラ付けなら大したものだ。人気があるのも頷ける。

 

「ええ。ええよぉ、落武者はん。それでこそ、うちを地に落とした男や。あんたさんのその、他人のことなんかどうでもえぇっちゅう目が気に入ったんや。うちと同類の、濁った目や」

 

 3、2……とバトル開始までのカウントダウンが始まり、自分と、そしてカカの闘志が高まっていくのを感じた。

 カカとは以前にも戦ったことがあった。その時もカカはああやって空を飛んで、こちらを見下ろしながらこう言ったのだった。

 

『うちに退屈な思いさせたら、承知せえへんで?』

 

 そして、それから12秒後にカカは白目を剥いて地面に頭から突き刺さっていた。

 つまり、彼女は何が言いたいかと言うと。

 

「今度はあんたさんがああなる番や! 死ね!!」

 

 ファンの前で大恥をかかせた自分に借りを返す日を、彼女はずっと待ち望んでいたのだった。




黒羽カカは本作のメインヒロインです。

嘘です。
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