ゴブリンを甘く見るな!――元最強ギルドマスターの俺がゲーム序盤に転生、未来知識を武器に見習い傭兵から成り上がって王になるまで   作:窮北の風

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第11話 戦利品の分配

「俺たちが今いるのは村の西側です。大通りをまっすぐ奥まで行くと、小さな広場が見えてきます。そこから左の脇道へ入って、四軒目の木の家が今回の目標です」

「ただ、村の中の道は通らないほうがいいと思います。道の両側の家が視界を遮りますし、もしまだ敵がいるなら、見つけるのが遅れるかもしれません」

 

 少し乾いた喉をひとつ鳴らして、俺は枝を地面に置き、顔を上げて皆を見た。

 

 半獣人のルクとドワーフのシモンズは、うんうんとやけに大きくうなずいている。どうやら俺の提案に大賛成らしい。

 

 ……いや、違うな。

 あの落ち着きのない目を見る限り、この二人、たぶん俺の話をほとんど理解していない。

 

「よし、なら村の北西側から回り込むぞ」

 

 隊長のカッセだけは地面の地図をじっと見つめたまま、少し考え込んだあと、きっぱりとそう結論を出した。

 

「ルク、お前が先頭だ。コロンは中。俺が後ろにつく。シモンズ、お前は……」

 

 そこで彼は、右腰に差した短剣を左手で不器用に抜こうとしているドワーフを見て、呆れたように首を振る。

 

「シモンズはコロンのそばにいろ。今回は全員、いつも以上に慎重に動け。絶対に油断するな」

 

 そう言い終えると、カッセは背中の長弓を抜き、真っ先に道脇の田んぼへ身を滑り込ませた。

 

 俺たちも、それに続く。

 

 

 

 チカ町近くの山間に暮らす人間にとって、四月の星空と五月の夜空に大きな違いはない。

 ただ、五月の終わりが近づく頃になると、気温は目に見えて上がり始める。

 

 例年ならこの時期、冬の終わりに植えられた稲はもう手が届くほどに育ち、穂は粒でふくらんでいて、いつ刈り取ってもおかしくない。

 

 だが今、ゼス村の周囲の田は、まるで何ヶ月も放置されたみたいに荒れていた。

 

 稲はあちこちに倒れ、雑草はその上を覆うように伸び放題だ。背丈さえ、すでに稲を追い越している。

 

 もっとも、俺たちにとってはむしろ都合が良かった。

 長く人の手が入っていないせいで、田はすっかり干上がり、土はひび割れて硬く締まっている。足を取られて靴が抜けなくなる心配もない。

 

 おかげで、俺たちはかなりの速度で、しかもほとんど問題なく進むことができた。

 

「うっわ……これが魔法使いってやつの力かよ!?」

 

 先頭を歩いていたルクが、いきなり感嘆の声を漏らした。

 

 その視線を追って前を見る。

 

 かすかな火の残り火の向こうに、俺がさっき火をつけた木の家が、今では黒く焼け焦げた瓦礫の山になっていた。

 

 両隣の家も無事では済んでいない。火は周囲に燃え広がり、ゼス村北通りの家々の半分近くが、程度の差こそあれ焼けていた。

 

 俺は何も言わず、ただ少しだけ気まずくなって視線を落とす。

 この放火の罪は、存在しないはずの“通りすがりの魔法使い”に押しつけるしかない。

 

「ちっ、物知らずだな……。隊長、で、これからどうする?」

 

 ルクが叱られなかったのを見て、ずっと黙っていたシモンズがようやく口を挟んだ。

 

「このあたりは静かだ。ゴブリンどもはもう引いたと見ていい。ただ……スケルトン兵がいない保証はない」

 

 目の前には戦利品が転がっている。

 それでも、普段から慎重なカッセは、もう一度村を見回るべきか迷っているようだった。

 

 俺もその不安は分かったし、危険を潰しておく必要はあると思った。

 だが、ちょうど俺がそれを言い出そうとしたとき、シモンズが先に口を開いた。

 

「これ以上待ってる場合じゃねえって!そのうち緑皮どもの耳が焼けすぎてパリパリになっちまうぞ。そしたら賞金に換えられねえ!」

「そうだぞ、隊長!さっさとやっちまおうぜ!」

 

 シモンズに煽られ、すでに我慢できなくなっていたルクも、すぐさま声を重ねる。

 

「……分かった。なら手早く済ませるぞ」

 

 結局、カッセは折れた。

 

 周りを見れば、全員すっかりやる気満々だ。

 俺はもう一度だけ小さく息を吐いて、あとは運を天に任せるしかないと、女神へ祈るしかなかった。

 

 もしかすると、その祈りは本当に届いたのかもしれない。

 あるいは、俺が出くわしたあのゴブリン部隊が、本当に唯一の一隊だったのかもしれない。

 

 とにかく、焼け跡の下に埋もれていたゴブリンの死体を掘り出して数え終わるまで、追加のゴブリンは一体も現れなかったし、スケルトン兵の奇襲もなかった。

 

 何もかも、拍子抜けするほど順調だった。

 

 三十分後。

 すすで真っ黒になったゴブリンの死体が十二体、通りにずらりと並べられていた。

 その中には、あの大柄なゴブリン精鋭戦士も含まれている。

 

 臭いはひどいものだった。

 けれど、カッセたち三人の目には、それらがまるで裸の美女十二人にでも見えているようだった。

 

 冒険者ギルドの懸賞規定では、普通のゴブリンの耳は一枚で銀貨一枚。

 だが、ゴブリン精鋭戦士の耳となれば、話は別だ。

 一枚で――金貨一枚!!

 

 金貨一枚!

 つまり銀貨百枚と同じ価値だ!

 

 普通の家庭なら、月の暮らしに必要な金は銀貨二枚ほど。

 チカ町のスズメ酒場ですら、値段はたった金貨三枚だ。

 

 職業認定も受けていない見習い冒険者にとっては、まさしく大金だった。

 

「隊長、数え終わったぞ。ゴブリンどもの武器も合わせれば、今回はだいたい銀貨百四十枚分ってところだ」

「ははっ!こりゃとんでもねえ大儲けだな!」

 

 興奮を隠しきれないシモンズとルクを見て、カッセですら珍しく機嫌のいい顔になっていた。

 

 彼は一つうなずくと、こちらを振り返る。

 

「コロン!そんなところでぼさっとしてないで来い。戦利品を分けるぞ」

「え……俺の分も、あるんですか?」

「当たり前だ。今回はよくやった。お前が報酬を受け取れない理由なんてないだろう」

「じゃ、じゃあ……ありがとうございます、隊長!」

 

 シモンズもルクも俺を見たまま、にやにやと笑っている。

 どうやら、俺を分配の輪に入れるという隊長の判断に、二人とも異論はないらしい。

 

「それと、もう一ついい知らせがある!」

 カッセが声を張る。

「コロン。お前の働きを見て、俺たちは全員一致で決めた。今日から正式に、お前をこの隊の――」

 

 そのときだった。

 少し離れた広場のほうから、不意に足音が聞こえてきた。

 

 ぱた、ぱた……。

 

 闇の向こうから、一人の人影がまっすぐこちらへ歩いてくる。

 全身を黒い外套で覆った人物だった。

 

 歩調は乱れず、焦りもない。

 

 まだかなり距離があるのに、それでも小隊の全員が感じ取れた。

 あいつは自分に絶対の自信を持っている。

 

 そういう歩き方だった。

 カッセがすぐさま弓を構え、先に狙いをつけようとしたその瞬間、シモンズが慌ててそれを止めた。

 

「待て待て待て、隊長!早まるな!俺の見立てが正しけりゃ、あれは“魔法使い”だ。しかも、かなりの確率で“あの”魔法使いだぞ!」

「魔法使いだと?」

 

 カッセはあからさまに眉をひそめた。

 あり得ないとまでは思っていない。ただ、シモンズの判断をそこまで素直に信じる気にもなれないんだろう。

 

「そうだって!あの手の連中が着る、目印みたいな黒いローブだ。見間違えるもんか!」

 シモンズは胸を叩きながら、今度は声を潜めて続ける。

「聞いた話じゃ、魔法使いってのは空気中の魔力粒子と長く触れてるせいで神経が妙に繊細なんだと。だから、こっちが攻撃する気配を見せちゃ駄目だ。俺が先に行って話をつけてくる」

 

「お前、正気かよ?」

 ルクはまた両手斧を抱え込むように構えた。その姿勢が、今のこいつにとって唯一の安心材料なんだろう。

 

「大丈夫だって!口のうまさじゃ、この隊で俺がいちばんなんだからな!」

 そう言い切るや否や、シモンズは待ちきれないといった様子で、外套の人物へ駆け出していった。

 

 その積極的すぎる態度を見て、カッセとルクは顔を見合わせる。

 あの臆病者のシモンズが、今日はどうしてこんなに前のめりなのか、二人とも理解できないんだろう。

 

 だが、俺にはだいたい察しがついていた。

 

 魔法使いという連中は、たいてい金払いがいい。

 身の回りの世話をした人間には、かなりの額のチップをくれることも珍しくない。

 シモンズが狙っているのは、たぶんそれだ。

 

 けれど――。

 今、ここへ現れたこの外套の人物は、どう考えてもおかしい。

 なぜなら、“親切な魔法使い”なんてものは、そもそも俺が適当にでっち上げた嘘でしかないからだ。

 

「待て!シモンズ、行くな!」

 

 俺があわてて叫びかけた、その瞬間。

 遠くの外套の人物が、ぴたりと足を止めた。

 そしてゆっくりと頭を上げる。

 頭を覆っていたフードが、するりと後ろへ落ちた。

 露わになったのは、干からびたように痩せこけた顔。

 その空洞になった眼窩の奥で、二つの蒼い炎がぼっと灯る。

 

「ほう?魔法使い?どこにいる?」

 

 言葉が終わるのと同時だった。

 そいつの前まで駆け寄っていたシモンズが、腕ほどの太さもある緑色の稲妻に真正面から打ち抜かれる。

 

 一秒後。

 シモンズの体は、その緑の光の中で、跡形もなく消えた。

 

 あとに残ったのは、青い煙を立てながら地面に転がる二本の短剣と、数枚の銀貨がぶつかって鳴らす、乾いた金属音だけだった。

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