最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜   作:窮北の風

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第49話 トゥー・リバーズ・シティ

 そしてついに、三日後の午後――俺たちは双流城《トゥー・リバーズ・シティ》へ辿り着いた。

 ロニクス王国南方最大の辺境都市であり、外敵の侵入を食い止める第一防衛線でもある。軍事的な意味で言えば、並の都市よりはるかに堅牢であるべき場所だ。

 だが、実物を目にした感想を正直に言うなら――少しがっかりした。

 

 ゲームの中みたいな大げさな造形とは違い、双流城の城壁は思ったほど壮大ではなかった。高さもせいぜい三階建ての建物程度しかない。

 灰黒い煉瓦は一つ一つが風雨に削られ、表面には青黒くくすんだ痕が広がっている。城壁には十数メートルおきに四角い矢倉が突き出していたが、胸壁の向こうはがらんとしていて、兵士が巡回している気配はまるで見えない。

 三メートルを超える城門の上には、ロニクス王国のグリフォン紋章が掲げられていた。だが、近づいてようやく判別できる程度には色褪せている。

 その一方で、堀だけはやたら広かった。商船が二隻並んで通れそうなほどの幅があり、水は深い緑色をしていて、城壁の輪郭を不気味に映していた。吊り橋は木製で、両脇を鉄鎖で固定されている。

 

 ただ、本来なら人の出入りで賑わっているはずの城門前は、今や各地から逃げ延びてきた難民で埋め尽くされていた。

 灼けつくような日差しの下、彼らはまるで波に打ち上げられたヤドカリみたいに、城門の左右の空き地へびっしりと積み重なっている。

 空気には糞尿と汗と絶望が混じったような臭いが漂い、蝿がぶんぶん飛び回っていた。骨ばった野犬が何匹も人のあいだをすり抜け、どこからか奪ってきたらしい骨を咥えてうろついている。

 

「変だな。どうしてあの難民たちは、まだ城に入っていないんだ?」

 ペトラが俺の隣まで来て、眉をひそめながら城門のほうを見た。

 

「たぶんねぇ、門のところの兵士さんたちに止められてるんだと思うよぉ」

 またしても、トーヴがその異様にいい目を発揮し、先に答えた。

 

 その言葉で改めてよく見ると、たしかに城門のあたりには何人か兵士が立っていた。暑さのせいか、着ていたはずの鎧はすでに脱ぎ捨てられ、隅へ無造作に積まれている。

 そして、俺たちの大所帯の難民隊が近づいてきたのを見て、彼らはようやく慌てて槍を構えた。

 俺は馬を引いて城門前まで進む。すると、その中の一人――隊長らしい中年男が歩み寄ってきて、手を上げてこちらを制した。

 

 彼の視線が、俺たちの後ろに続く難民たちをざっと舐める。ぼろぼろの服に痩せこけた顔を見て、いったん小さく安堵したように肩の力を抜いた。だが次の瞬間には、また無愛想な表情へ戻っていた。

「城主様のご命令だ。難民を一度に入れすぎると騒ぎのもとになる。だから、一日に城へ入れる人数は八十人までだ。お前たちは後ろへ回って順番を待て」

 

「八十人だけ?」

 俺は眉をひそめ、後ろを振り返った。ざっと見積もっただけでも、俺たちの隊とは別に二、三百人は列を作っている。しかも、そのずっと先の道の上には、まだこちらへ向かってくる人影が点々と見えていた。

 このまま律儀に並ぶとなると、三日や四日は待たされるだろう。

 だが、こちらの隊にはもう食糧がない。まして病人までいる。これ以上長引けば、死人が出てもおかしくない。

 

「……分かりました。列には並びます。ただ、その前にお願いしたいことがあります」

 俺は一歩引いて言葉を選んだ。

「隊の中に重病の者が何人かいます。まずは彼らだけでも城内の治療所へ入れていただけませんか。あと、こちらはもう食糧も尽きていて――」

 

「はいはい、もういい!」

 兵士隊長は露骨に苛立った声で俺の言葉を遮った。

「病人だって人間だろうが。病人なら先に入れていいって話にしたら、あっという間にここにいる連中全部が病人になるに決まってる。いいからとっとと失せろ。城門の前でもたつくな!」

 

「この方、ペトラ、落ち着け」

 俺が止めるより早く、ペトラが一歩前へ出た。

「私はチカ町巡回隊の副隊長、ペトラだ。隊の中に本当に病人がいる。こうしよう。先にその者たちだけ“前借り”で入城させてくれ。順番が来たら、私たちはそのぶん後ろへ回る。それでどうだ?」

 

「前借りだと?」

 隊長は鼻で笑った。

「ここが金貸し屋か何かに見えるのか?それに俺は、お前がどこの町の副隊長だろうが知ったことじゃない。さっさと隊をどけろ。そうしないと、お前たち一生この城に入れなくしてやるぞ」

「お前……!」

「ペトラ、落ち着いてください」

 俺はすぐにペトラの前へ手を伸ばし、これ以上言い争わせないよう制した。今ここで熱くなっても意味がない。

 

 もう少し何とか話を通せないかと思っていたそのとき、横の人だかりの中から二つの人影が出てきた。

 先頭は執事風の中年男だ。背は低いくせに、鼻先だけは妙に高い。その後ろには、見るからに上等な服を着た若者が続いている。

 若者は俺とペトラをちらりと見たあと、すぐに興味を失ったように視線を逸らした。

 二人は兵士隊長の前まで行くと、ただ軽く頷いただけだった。

 それだけで、隊長はすぐさま腰を折って頭を下げ、道を開ける。

 そして、その二人は何事もなかったように城内へ入っていった。

 

「待ってくれ。どうしてあの二人は入れるんだ?」

 ペトラが、その背中を指差して問いかけた。

 

「どうしてって?」

 隊長は呆れたように鼻を鳴らした。

「あの方々はもともと城内にお住まいだ。それに、双流城へ多大な貢献をなさっている貴族様だぞ。お前たちとは違う。ただの難民ごときが城へ入れてもらえるだけでも、城主様のご慈悲だと思え」

 

「では、せめて草薬と食糧だけでも買わせてくれませんか?」

 ペトラが食い下がる。

 

「草薬も食糧もない!とっとと失せろ!」

 隊長はとうとう一歩踏み込み、腰の剣へ手をかけた。

「これ以上しつこいなら、幼い娘相手でも剣を抜くぞ!」

 

「……あなたたち、それでも王国の兵士なのか。見殺しにするつもりか?!」

 ペトラは怒りで全身を震わせていた。目の縁には、うっすらと涙まで浮かんでいる。

 

「ペトラ」

 俺は彼女の肩へ手を置き、静かに言った。

「一度、下がってください」

 

 それから俺は、目の前の兵士たちを冷ややかに見回した。

 服装は乱れ、鎧も着けていない。態度も質も、チカ町の巡回隊よりはるかに酷い。

 ゲームの基準に当てはめるなら、こいつらの大半はLv5にも届いていないだろう。

 もしここで剣気を放てば――一撃で片づけられる。

 だが、そのあとどうする?

 難民たちが双流城へなだれ込み、俺はペトラと一緒に放浪生活か。……トーヴも、おそらくついてくるだろうな。

 少し面白そうではあるが――まあ、さすがに想像するだけにしておくしかない。

 

 ほんの一瞬、そんなことを考えた。

 すると、その瞬間だった。

 兵士隊長の顔色が不意に変わった。

 目の前の黒髪の若者が、急に別人になったように感じられたのだ。

 さっきまで温和で、どこか貴族めいた雰囲気すら漂わせていた青年から、一瞬だけ凍りつくような殺気が漏れた。

 まるで、幼い頃に父親に連れられて山へ入り、そこで偶然、真正面から熊と鉢合わせしたときのような感覚だった。

 全身の筋肉が反射的にこわばる。

 汗が背を伝う。

 思わず本気で身構えた。

 だが、その圧は一瞬で消えた。

 まるで最初から何もなかったみたいに。

 

「……おかしいな。日差しにやられたか?」

 兵士隊長は額の汗を拭いながら、低くそう呟いた。

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