ゴブリンを甘く見るな!――元最強ギルドマスターの俺がゲーム序盤に転生、未来知識を武器に見習い傭兵から成り上がって王になるまで   作:窮北の風

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第6話 合流

 俺は、ずいぶん長い夢を見ていた気がした。

 そして、耳元で途切れ途切れの話し声が聞こえてきたところで、ようやく意識が浮かび上がってくる。

 

「隊長、コロンのやつ……まさか死んじまったんじゃねえですか?」

「いや、まだ息はある……」

「ちっ、本当に足手まといだな……最初から入れなきゃよかったんだ……」

「もう少し待つ。もし目を覚まさないなら、先に出発するぞ……」

 ……

 

 俺は重たいまぶたをゆっくり開き、明かりの差すほうへ視線を向けた。

 

 そこにあったのは、哀れなくらい簡素な野営地だった。

 テントすらない。ただ何枚かの毛布が焚き火のそばに雑に敷かれていて、その上に体格もばらばらな人影が散らばるように座っている。

 

 こいつらが、俺の所属する冒険者パーティーの「先輩」たちだ。

 

 人間、ドワーフ、半獣人。

 

 もしそれぞれの役割がウォーリア、魔法使い、クレリックだったなら、それなりに形になった標準的な戦闘パーティーと呼べたかもしれない。

 

 残念ながら、現実はそんなに甘くない。

 

 ゲーム基準で判定するなら、俺たちはただの寄せ集めだ。はっきり言えば、ろくでもない雑魚パーティーにすぎない。

 

 半獣人のルク。

 

 最初に自己紹介されたとき、本人はそう名乗っていた。だが正直、こいつの中に流れている獣人の血は、俺のエルフの血より薄いんじゃないかとすら思う。

 

 犬歯が少し尖っていて、胸毛が妙に濃い。それ以外はほとんど普通の人間と変わらない。

 

 それでも一応、この男は隊の中で「前衛役」を務めていた。

 ――少なくとも森の獣どもに、余計に二、三口食わせるくらいの役には立つ。

 

 これはドワーフのシモンズが、本人の目の前で言った台詞だ。

 そのシモンズだが、腹まで届くほど立派な髭を生やしているくせに、実年齢はまだ二十にも届いていない。

 

 あの無駄に老けた顔の中身はというと、知識も世間知も、下手をすれば酒場の若い娼婦のほうが上なんじゃないかと思うレベルだ。

 

 腰にはいつも短剣を二本差していて、一見するといかにも手練れのアサシンか何かに見える。だが実際のところ、シモンズは筋金入りの右利きで、左手じゃ短剣どころか、フォークを握るのも怪しい。

 

 人並み以上なのは、たぶんドワーフ特有の金への執着と、場違いな寒い冗談を口にする才能くらいだろう。

 

 その二人の間に座っているのが、このパーティー唯一の純血の人間であり、同時に隊長でもあるカッセだ。

 

 この隊の中では、おそらく一番頼りになる男だった。そして本物の猟師でもある。

 

 噂によれば、昔は軍にいたらしい。だが、どこかの貴族の息子か娘かを怒らせてしまい、故郷を離れざるを得なくなって、今はチカ町で冒険者稼業をしているのだとか。

 

 そのあたりの事情は、カッセのそばにいちばん長くいるルクが何か知っているらしい。酒が入るたびに隊長の肩をばんばん叩いては、「女ってのは信用ならねえなあ!」と大声でぼやいていた。

 

 要するに、血の薄い半獣人、右利きのドワーフ、女に傷を負ったらしい無口な中年、そして若造の俺。

 それが、この冒険者パーティーの全戦力だった。

 

 ゲームの中なら、こんな構成で野外任務に出るなんて、俺なら絶対にやらない。

 クレリックがいない時点で、死にに行くのと大差ないからだ。

 

 だが今は事情が違う。

 ここはもう、プレイヤーがそこら中に溢れていた仮想世界じゃない。

 魔法使いやクレリックが街角にごろごろいるような世界でもない。

 

 本当のアラレン大陸では、実際に魔法を扱える人間はごく一握りしかいない。大半の底辺冒険者パーティーは、まだ正式な「職業認定」を持たない人間たちだけで組まれている。

 

 俺たちの中でいちばん経験を積んでいる猟師のカッセですら、「レンジャー」の職業認定を得るにはまだ遠い。

 

 つまりこの冒険者パーティーは、実のところ見習い傭兵ばかりで構成された、ただの半端者集団にすぎないってことだ。

 

 もちろん、それは誰にも才能がないという意味じゃない。

 ただ、「職業認定」にたどり着く条件があまりにも厳しいんだ。

 

 たとえば今の俺なら、職業レベルを5まで上げて初めて、町の冒険者ギルドで「傭兵」専用の就職任務を受けられる。そしてそれを達成してようやく、ステータス画面の【見習い傭兵】が【傭兵】に変わる。

 

 その道のりは長い。しかも、命を落とす危険も高い。

 大半の人間は、一生かかってもそこへは届かない。

 

 それでも、手足がまともについている人間なら、たいていは一度くらい挑戦しようとする。

 なにしろ、ゴブリン斥候一体の賞金だけで銀貨一枚になるんだ。

 それは、村の三人家族が半月暮らせるだけの金に相当する。

 

 高い危険には高い見返りがある。

 そんな理屈は、どこの世界でも変わらない。

 

 ……そして、それこそが俺たちみたいな「出来損ない」の連中がここへ来た理由でもあった。

 ただ一つ、誰も予想していなかったのは――本当にゴブリンと遭遇することになるなんてことだけだ。

 

「……お、起きたか」

 

 最初に俺の異変に気づいたのは、やはりいちばん感覚の鋭い隊長のカッセだった。

 その声に反応して、ルクとシモンズも同時にこちらを見る。

 

「おい、坊主!その傷、どうしたんだよ!ゼス村で何に遭った!?」

 

 カッセが口を開ききる前に、ルクが身を乗り出して怒鳴るように訊いてきた。

 相変わらず、声だけは無駄にでかい。

 

「ちっ、どうせ決まってるだろ。こいつがどっかで女の風呂でも覗いて、袋叩きにされたんだよ」

 

 シモンズは右手の短剣をくるくる回しながら、焚き火に照らされた顔でにやついていた。泥だらけの髭のせいで、その得意げな顔が余計に間抜けに見える。

 

「今はつまらん冗談を言ってる場合じゃねえ、シモンズ」

 

 カッセは低く短くそう言ってから、俺のそばにしゃがみこんだ。

 鋭い視線が、まっすぐ俺の目を射抜いてくる。表情は厳しく、声にも無駄がない。

 

「コロン。俺の見立てが間違ってなければ、お前の傷はどれも剣傷だ。ゼス村で何があった」

「……ゴブリンの軍隊、です」

 

 口を開いた瞬間、自分でも分かるくらい喉がからからだった。

 俺はカッセから渡された水を二口飲み込み、ようやく続きの言葉を絞り出す。

 

「なんだと……?本当に、ゴブリンの軍隊だと?」

 

 カッセは露骨に驚いていた。

 

 こんな辺境の片田舎に「軍隊」なんてものが現れること自体が信じ難いのだろう。それに、ただの平民同然の若造が、ゴブリンの軍勢に遭ってなお、冷静に逃げ帰ってきたという話も、簡単には飲み込めないはずだ。

 

「ははっ!おい坊主、まだ寝ぼけてんじゃねえのか?ゴブリンみてえな緑のネズミどもに軍隊なんてあるわけねえだろ!」

 

 ルクは胸毛をぼりぼり掻きながら、豪快に笑ってみせる。

 

 カッセもシモンズも何も言わなかった。だが、二人の顔を見れば、似たような疑いを抱いているのはすぐ分かった。

 

 俺は言い返さなかった。

 ただ黙って、ズボンのポケットから一本のちぎれた耳を取り出す。

 緑色の産毛に覆われ、まだ黄色い体液がこびりついている耳だ。

 それを三人の前へ差し出した。

 

「寝言じゃない。間違いなく、ゴブリンの軍隊だった」

 

 三人の視線が、一斉にその耳へ吸い寄せられた。

 場がしんと静まり返る。

 

 しばらくして、シモンズがごくりと喉を鳴らした音だけがやけに大きく響いた。

 

「……へえ。ゴブリンの軍隊、ね。そいつはまた、俺もまだお目にかかったことがないな」

「なんだ、怖気づいたのか?」

 

 ルクがにやりと口を歪め、隣のドワーフの感慨をわざと遮るように茶化した。

 

「心配すんなって。そんなの、お前くらいちっこい緑ネズミが群れてるだけだろ。俺なら足の指だけで二匹は絞め殺せるぞ」

「そりゃすごいな」

 

 シモンズは大真面目な顔でうなずいてみせる。

 

「お前みたいな豪傑なら、次に酒場で女を買ったときは、きっと三分くらいはもつんじゃないか?」

「てめぇ!!」

「そこまでだ」

 

 カッセの低い一言が、二人のやり取りをぴしゃりと断ち切った。

 それから彼は再び俺へ視線を向ける。

 

「コロン。ゼス村で何を見たのか、今度は最初から順に話せ」

 

 俺は小さくうなずき、もう一度水袋を口に運んだ。

 喉を湿らせてから、俺は慎重に――そして“話すべきところだけを選びながら”――事の経緯を語り始めた。

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