最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜   作:窮北の風

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第61話 新技能

「今夜の用事が片づいたら、あとで落ち着ける場所を探して、ゆっくり味わってください」

 俺はオリアンの肩を軽く叩き、荒れ狂う感情の渦から彼を引き戻した。

「次は、これです」

 

 俺は羊皮紙の巻物を手に取り、結び紐をほどいて、ゆっくりと広げる。

 

 オリアンが身を寄せてきた。白髪交じりの髪が、ほとんど俺の肩に触れそうになる。

「剣気……圧縮?」

 彼は目を細め、そこに書かれた文字を読み取った。

「おお、技能巻物でございますな。何らかの修練奥義が記されているのでしょう」

 

「その通りです」

 俺は空中に浮かぶシステムパネルを見つめた。

 心臓の鼓動が、少しだけ速くなる。

「しかも今回は、本当に幸運の女神に感謝すべきですね」

 

【剣気圧縮(けんきあっしゅく):習得後、放出する剣気の射程が二倍、貫通力が二倍に上昇し、同時放出数+1】

 

 興味が薄そうなオリアンとは違い、俺は今、興奮のあまり思わず手を擦り合わせそうになっていた。

 巻物に記されていた技能は、今の俺がまさに使えるものだった。

 ゲームでは、こういうランダムドロップの技能巻物など、十回開ければ八回は使い道のないガラクタが出る。

 今日の運は、まさに棚からぼたもちだ。

 

「オリアン、見てください。ここには【剣気圧縮】という修練法が記されています。今の俺にとっては、まさに鬼に金棒で――」

 

「ふむ……剣気というものについては、儂も多少は存じております」

 オリアンは巻物を覗き込みながら、ゆっくりと言った。

「それは戦士が剣術に極めて高い造詣を得たのち、長年の鍛錬を経てようやく目覚める技でございます。そして、この奥義は明らかに、すでに剣気を修めた者にしか効果がない。たった一枚の巻物だけで修得しようとするなら……」

 

 主人があまりにも嬉しそうな顔をしているのを見て、オリアンの目に一瞬、ためらいが浮かんだ。

 自分の言葉で相手を落胆させるのを恐れたのだろう。

 しかし、しばらく言葉を選んだ末、彼はやはり正直に告げることにしたらしい。

「修得には、恐らく一朝一夕では――」

 

 だが、その言葉が終わる前に、彼は見た。

 自分の主人が巻物を何気なく卓の上へ放り返し、そのまま、まるで定身魔法でも受けたかのように立ち尽くしたのを。

 

 次の瞬間――

 

 彼は突然、石の中の剣を抜き放ち、凄まじい速さで店の外の庭へ向かって二度、剣を振るった。

 

 ヴン、ヴン――

 

 二筋の白い光が、空中で交差して「X」の形を描き、地面すれすれを唸りながら走り抜けた。

 剣気が通過した場所では、金盞花の花弁と土がまとめて巻き上げられる。

 庭の泥地には、深々とした二本の溝が刻まれ、それは十数メートル先の低い塀の根元まで伸びて、ようやくゆっくりと消えていった。

 

 二本の溝がオリアンにもたらした視覚的衝撃とは対照的に、俺はひどく冷静だった。

 それどころか、思わず首を横に振る。

 

 不満だ!

 非常に不満だ!!

 

 技能点を丸々20点も費やして覚えた【剣気圧縮】なのに、以前の【剣気斬】と比べて、そこまで強くなった気がしない。

 攻撃範囲が少し広がったこと。

 二本の剣気を同時に放てるようになったこと。

 その点は確かに進歩だ。

 だが、威力そのものの上昇はほとんど感じられない。

 

 20点も技能点を使って、得られたのがこれだけか?

 それは白獅子剣術を二回学べるほどの消費だぞ。

 もしかして、使い方が間違っているのか?

 

 ……まあいい。

 欲張りすぎるのはよくない。

 

 一晩で魔杖、魔力薬剤、そしてこの技能巻物まで手に入ったのだ。

 これはもう、相当な幸運と言っていい。

 それに、今夜の本命の計画はまだ実行していない。

 ここで悩んでいる時間はない。

 そう考え、俺は振り返った。

 

 そして、同じように呆然と立ち尽くしているマーラへ向かって言う。

「店のくじ引きの規則に従えば――」

 俺は懐から金貨を三枚取り出し、一枚ずつ卓の上に並べた。

「この三つは、一つにつき金貨一枚。問題ありませんよね?」

 

 くじ引き、とは言った。

 だが答えを知っているくじ引きなど、実質的には強奪と大差ない。

 とはいえ、この“くじ引き”の仕組みによって、かつてどれほど多くの人間が命を落としたかを思えば――たとえば毒薬を飲んでその場で倒れた運の悪い者たちのことを思えば――俺の中の後ろめたさなど、すぐに霧散した。

 

 ただ、予想外だったのは、マーラが金貨に手を伸ばさなかったことだ。

 彼女は突然、どさりと膝をついた。

 その額を冷たい石床に押しつけ、枯れ枝のような両手を頭の左右に広げる。

 まるで土下座のような姿勢で、全身を止めようもなく震わせていた。

 

「黒き聖典《くろきせいてん》は予言しております……万物を執掌する黒を司る神《くろをつかさどるかみ》は、天火の年《てんかのとし》に人の世へ降臨なされると。巫女のあらゆる秘密は、その御目の前に隠し通すことなど叶わぬと……黒暗魔法の創造主よ。ああ、貴方様はすでに人の世へお降りになっていたのですね――」

 

「ええっ!?」

 背後から、声が裏返った悲鳴が上がった。

 オリアンが、尻尾を踏まれた猫のように、跳ねるような勢いで二歩も後ろへ飛び退く。

 その動きの速さは、逃走技能を発動した盗賊かと思うほどだった。

 

 もちろん、彼がそんな反応をするのも無理はない。

 アラレン大陸では、神々の伝承は深く根づいている。

 伝えられるところによれば、太古の時代、世界は三柱の神によって共同で統べられていた。

 黒を司る神《くろをつかさどるかみ》。

 白を司る神《しろをつかさどるかみ》。

 灰を司る神《はいをつかさどるかみ》。

 しかし後に理念の対立から、三柱の神々は数百年にも及ぶ戦争を起こした。

 最終的に勝利したのは白を司る神であり、その勝利によって、現在の人類文明が築かれたとされている。

 白を司る神は光明と秩序の主として崇められた。

 一方、黒を司る神は深淵へと堕とされ、闇と混沌の代名詞となった。

 

 そのマーラが、俺を黒を司る神だと言っている?

 それはつまり、俺を人類全体の敵側へ押しやるのと同じではないか!!

 何より重要なのは、俺自身が誰よりもよく分かっているということだ。

 俺はただ、前世のゲーム知識に頼り、ある意味ではチート同然の手段でここまで来ただけの普通の人間に過ぎない。

 

 何が“すべてを見通す”だ。

 何が“隠し通すことなど叶わぬ”だ。

 そんなものは、全部データの積み重ねでしかない!!

 

「黒を司る神、サラマン?」

 俺は眉をひそめた。

 自然と、声に苛立ちが混じる。

「冗談はやめろ。俺と彼に何の関係があるんだ?今の巫女たちは、いつからそんなに杜撰になった?自分たちの神明すら、適当に認定するのか?」

 

「お叱りの通りでございます!」

 マーラはさらに低く伏せた。

 声には、恐怖と畏敬が満ちている。

「長き平穏な暮らしが、確かに巫女たちの警戒心を鈍らせておりました。わたくしが本部へ戻り次第、必ずや貴方様の御旨を姉妹たちへ伝えます」

 

 俺は固まった。

 

 今の俺の言葉は、本来なら「勝手に神認定するな」という意味だったはずだ。

 なのに、なぜ彼女の耳には「神が信徒の不心得を叱責した」と聞こえているのか。

 しかも、“貴方様の御旨”と言った時の彼女の声は、まるで聖典を捧げ持つ信徒のように敬虔だった。

 

 俺は床にひれ伏し、震え続ける老魔女を見つめた。

 そしてようやく、一つの問題に気づく。

 さっきの俺の話し方は、あまりにも軽すぎたのだ。

 

 この世界の人間は、神明に対して極めて強い畏怖を抱いている。

 たとえ敵対陣営の神であっても、普通の人間なら軽々しく冒涜などできない。

 だが、俺は熟練のゲームプレイヤーだった。

 つい無意識に、平等で、場合によっては少し皮肉めいた口調で彼女の神を語ってしまった。

 マーラからすれば、そんな態度を取れる者は二種類しかいない。

 狂人か。

 あるいは――神明だ!!

 

「もういい。好きに考えろ。ただ一つだけ、俺たちの邪魔はするな。誰かに密告することも許さない」

 俺は首を横に振った。

 これ以上、この話題を続けるのは危険だ。

 

「貴方様の御旨、必ずや遂行いたします!」

 マーラは相変わらず床に伏せたままで、起き上がる気配すらない。

 

「……オリアン、行きましょう。地下道へ下ります」

 俺は振り返り、オリアンの腕を掴んで寝室のほうへ向かった。

 

「貴殿、本当に黒を司る神ではないのですかな?」

 オリアンは俺に引きずられながら、小声で尋ねてくる。

 

「絶対に違います」

「しかし先ほど、貴殿はどうやって宝物の入った箱を見抜かれたのです?」

「それは後で説明します。そもそも、俺と彼の名前は違うでしょう」

 

「そ、それは……まあ、そうでございますな」

 オリアンは半信半疑の顔で頷いた。

 だが、すぐにその場で足を止める。

「お待ちください。地下道へ下りると仰いましたな?では、なぜ他人の寝室へ向かうのです?」

 

「地下道の入口が寝室にあるからです」

「ほほう……。それでも貴殿は、ご自身が神ではないと?!」

「……俺は……」

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