最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜   作:窮北の風

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第62話 地下道

 ロニクス王国全体には、非常に奇妙な現象がある。

 

 ほかの国とは違い、この土地の城主たちは皆、自分の城の地下に牢獄を造るのが好きなのだ。

 地中深くに埋まっているものもあれば、岩壁に半ば食い込むように造られたものもある。

 構造はさまざまだが、例外なく、どれも陰鬱で湿っぽい場所だった。

 

 だからこそ、かつてゲームでロニクス王国を出生地に選んだプレイヤーたちは、この設定に散々苦しめられることになった。

 人質を救出するには、まず地下牢へ入らなければならない。

 情報を探るにも、まず地下牢へ入らなければならない。

 果ては、一部の支線任務の手がかりまで地下牢に隠されている。

 

 潜行するたび、鍵を開けるたび、巡回衛兵とすれ違うたびに、まるで刃の上で踊っているような緊張を味わわされたものだ。

 その結果、大陸最南端の国であるロニクスは、すべてのプレイヤーの間で、いつしか“大陸におけるアサシン職業の発祥地”と見なされるようになっていた。

 

 もちろん、今夜俺がオリアンをここへ連れてきたのは、アサシン生活を体験したかったからではない。

 まして、ただの思いつきでもなかった。

 

 俺には、ロンの母親と妹の失踪が、単なる偶然とはどうしても思えなかった。

 さらに、“双流城《トゥー・リバーズ・シティ》の城主がゴブリンと亡霊に通じている”という情報を合わせて考えれば、彼女たちの行方、そして双流城城主の秘密は、この地下牢のどこかに隠されている可能性が高い。

 

 オリアンにマーラから魔力薬剤《まりょくやくざい》を手に入れさせたのは、ついでだ。

 ゲームの規則では、すべての魔女の坩堝支店の秘密棚には、魔力薬剤が必ず一本置かれている。

 それだけのことだった。

 幸い、今のところすべては俺の想定通りに進んでいる。

 特に予想外の出来事は起きていない。

 

 強いて言うなら、俺が想定していなかったことは一つだけ――

 目の前のこの薄暗い地下道が、少し長すぎることだ。

 オリアンが新しく手に入れた緑魔の指《りょくまのゆび》のおかげで、どうにか照明魔法《しょうめいまほう》を発動できていなければ、俺たちはとっくに引き返して蝋燭を取りに戻っていただろう。

 

「儂には、ずっと腑に落ちぬことが三つございます」

 オリアンの声が隧道の中に反響した。

 長い間こらえていたせいか、その声には妙な切迫感がある。

 

「外へ出てからでは駄目ですか?」

 この十数分ほどの道のりで、彼はもう十回以上も同じようなことを口にしていた。

 

「では……二つだけなら?」

「……」

「一つ! 一つだけでございます! 答えてくださらぬなら、照明魔法を消しますぞ!」

 杖先の光が、脅すようにふっと暗くなった。

 

「分かりました。聞いてください」

 本当に光を消されると困る。

 こんな真っ暗な地下道を、壁に手を這わせながら進むのは御免だった。

 

 オリアンはしてやったりというように鼻を鳴らした。

 だが、いざ質問する段になると、しばらく悩んでいた。

 言葉を選びに選んだ末、ようやく再び口を開く。

 

「金盞花からマーラの本命神を推測したこと。地下道が寝室にあると知っていたこと。魔力薬剤を見分けたこと。これらは、儂にもまだ受け入れられます。博識であるとも、良い師に恵まれたとも考えられましょう。貴殿が一瞬で剣術を会得した件すら、天賦の才と片づけることはできます」

 彼はそこで一度、言葉を切った。

「ですが、一つだけ、どう考えても理解できぬことがございます」

 その声には、抑えきれない焦りが混じっていた。

「貴殿はどうやって、あの棚の箱のうち、どれが宝物で、どれが罠なのかを知ったのですかな?」

 

 俺は歩みを止めなかった。

 だが内心では、そっと息を吐いていた。

 以前から一見不自然に見えていたいくつかの点を、どうやら彼は自分の中で勝手に補完してくれたらしい。

 

「ああ、それを聞きたかったんですか」

 俺は笑い、できるだけ平淡な口調で答えた。

「実は、あの部屋に入る前は、俺にも分かりませんでした」

 

「は? では、貴殿は……」

「食器棚の上にあった装飾皿に気づきましたか?」

「見はしましたが、そこまで詳しくは。まさか、答えはそこに?」

 

「その通りです」

 俺は少し足を緩め、半身だけ彼へ向けて説明した。

「魔女の坩堝は支店です。店を管理する巫女は固定ではなく、さまざまな理由で一時的に入れ替わることも多い。新しく来た巫女が、前任者と顔を合わせたことすらない場合もあります」

 

 オリアンは黙って聞いていた。

 

「だから、引き継ぎを容易にするため、彼女たちは一つの規則を作った。宝物の位置情報を、装飾皿の並び順の中に隠すという規則です」

 

 オリアンの足が止まった。

 杖先の光が大きく揺れる。

「つまり、あの皿の並びが座標だと?」

 

「ええ。皿の種類と置かれた順番が、一種の暗号になっています」

 

「なるほど!」

 オリアンははっとしたように声を上げた。

 その声には興奮が滲んでいる。

「はは、儂はてっきり、貴殿が本当に箱の中身を見通せるのかと思っておりましたぞ!」

 

「まさか。あの箱には奥術エネルギーを遮断する法陣が刻まれていました。透視魔法ですら見抜けないものを、人間の目で見抜けるはずがありません」

 

「では……」

 オリアンの声が、急にふわりと軽くなった。

 何でもない雑談のように、何気なく尋ねてくる。

「あの皿の具体的な並び順は、どのようなものでしたかな?」

 

 俺は足を止め、振り返って彼を見た。

 相手は何食わぬ顔で瞬きをしている。

 白混じりの髭が、魔法の光の下でわずかに跳ねていた。

「オリアン。まさか、ほかの薬剤店で試してみるつもりじゃありませんよね?」

 

「ごほっ、ごほっ……儂は……儂はただの好奇心でございます。純粋な好奇心ですぞ!」

 

 俺は思わず笑ってしまい、それ以上からかうのはやめた。

「教えるくらいなら構いません。あの装飾皿は、一見すると種類も模様もばらばらですが、よく観察すると、その中に周囲と明らかに合わない、何の模様もない普通の白い皿がいくつか混じっています」

 俺は前を向いて歩きながら続ける。

「その白皿の位置が、宝物棚の座標に対応しています。一列の皿が一段の棚に対応し、白皿がその列の何番目にあるかが、宝物の位置を示すんです」

 

「ははっ! やはりそうでしたか! 儂もあの白皿が妙だとは思っておりました。何も描かれていない皿をいくつも置くなど、何の意味があるのかと考えていたのですが――まさか答えがそこにあったとは!」

 そう言うと、彼は足を速め、俺と肩を並べた。

「それで、貴殿はこの地下牢へ何をしに来たのですかな?」

 

「それ、三つ目の質問に入りませんか?」

 

「当然入りませぬ!」

 彼の髭が、怒ったようにぴんと跳ね上がった。

「これは先ほどの質問の延長でございます!」

 

「しっ――」

 

 オリアンがなおも問い詰めようとした、その時だった。

 薄暗い地下道の先に、かすかな光が見えた。

 魔法の光ではない。

 橙色に揺れる火の光だ。

 伸ばした手の先さえ見えない暗闇の中では、それはひどく目立っていた。

 さらに遠くからは、かすかに水の流れる音も聞こえてくる。

 

「あれが隧道の出口でしょう」

 俺が手で合図すると、オリアンは心得たように杖先の光を最小限まで落とした。

 そして俺の後について、慎重に光のほうへ近づいていく。

 

 だが、近づいた瞬間、鼻を突く悪臭が襲いかかってきた。

 昨日食べたものまで吐き出しそうになるほどだ。

 

 出口は、なんと便所の中央に開いていた。

 しかも、場所はちょうど洗面台の下だった。

 

「忌々しい!」

 オリアンは片手で鼻をつまみ、もう片方の手で縁に掴まりながら、狭い穴から這い出てきた。

 長衣の裾には、湿った汚れがべっとりと付いている。

「魔女どもは潔癖症を自称しているのではなかったのですか。おえ……なぜ地下道の出口をこのような場所に置くのです!」

 

 俺も続いて這い出し、水槽の横にしゃがみ込んで何度かえずいた。

 袖口で口と鼻を必死に押さえる。

「た、たぶん……ここが一番安全だったんでしょう。地下牢には牢房か、看守の詰所くらいしかありませんから。まさか通路に出口を置くわけにもいきません。巡回の衛兵に鉢合わせたら、誰も逃げられませんし……うえっ」

 

「ああ、惜しいのはこの外套ですな」

 オリアンは服の裾の水を絞りながら、ひどく痛ましげな顔をした。

 

「外に出たら、新しいものを買います」

 

「はは、それはありがとうございます、ご主人」

 彼の表情は、頁をめくるよりも早く変わった。

 

 呼吸が整うのを待ってから、俺は目でオリアンに静音障壁《せいおんしょうへき》を張るよう示した。

 

 彼は魔杖を軽く振る。

 透明な薄膜が、音もなく俺たち二人を包み込んだ。

 

 俺たちは便所の木戸を押し開け、正式に城堡地下牢の領域へ足を踏み入れる。

 

 この地下牢は、典型的な螺旋上昇構造だった。

 石段が円環状の壁に沿ってぐるりと上へ続き、十数歩ごとに、壁には燃える松明が一本ずつ差し込まれている。

 廊下の両側には牢房が並び、牢門の塗装はほとんど剥げ落ちていた。

 残っているのは、人の頭ほどの大きさの小窓だけだ。

 

 静音障壁があるとはいえ、俺たちはなお慎重に歩いた。

 いつ現れるか分からない看守に気をつける必要がある。

 それ以上に厄介なのは、牢房の中にいる囚人たちだった。

 もし誰かに見つかって、突然叫ばれでもしたら、地下牢全体が騒ぎになる。

 

 だが、予想に反して、二層分を上がっても人影は半分も見当たらなかった。

 

 廊下はがらんとしている。

 松明だけが寂しく燃えていた。

 多くの牢房の鉄扉は大きく開け放たれ、中には黒ずんだ干し草と、散らばった骨があるだけだった。

 扉が閉まっている房も、近づいて覗いてみれば空だった。

 まるで、この階層全体が長い間放棄されていたかのようだ。

 

 だが、第二層の鉄門を抜け、最上層へ続く階段に足をかけた瞬間、周囲の様子は急に変わった。

 空気の中に、湿った酸っぱい臭いが混じる。

 さらに、廊下の奥からは、低く押し殺したすすり泣きの声がかすかに聞こえてきた。

 

 俺とオリアンは一周するように進み、やがて愕然とする。

 地下牢の最上層。

 そこにある牢房のほとんどすべてに、人がぎっしりと詰め込まれていた。

 ざっと数えただけでも、四十人から五十人はいる!

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