最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜   作:窮北の風

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第63話 怪しい点

 廊下には、ところどころに松明が差し込まれていた。

 橙赤色の光は、力なく揺れている。

 だがその光は、暗く狭い牢房の奥深くまでは届かない。

 

 牢房の中では、大小さまざまな影が、それぞれの隅で身を丸めていた。

 冷たい石壁に背を押しつけている者。

 黴の生えた干し草の上に横たわっている者。

 彼女たちは互いに身を寄せ合っている。

 まるで、寒い冬の中で体を寄せ合って暖を取る野良猫の群れのようだった。

 

 松明の火が時折跳ねる、その橙色の光を頼りに、俺は懸命に彼女たちの顔を見分けようとした。

 例外なく、全員が女だった。

 

 今はすでに深夜だ。

 この日の光の差さない場所では正確な時間など分からないだろうが、それでも多くの者は生活のリズムに従って深く眠っている。

 ただ、一人か二人だけが、牢門の小窓に差す光の変化に気づいたらしい。

 

 彼女たちはかすかに顔を上げた。

 そこに現れたのは、ひどくやつれた顔だった。

 まるで、長い長い間、まともに腹いっぱい食べたことがないような顔だ。

 

 逆光のせいで、彼女たちは俺とオリアンの顔をはっきり見られなかったのかもしれない。

 あるいは、すでにすべてに対して興味を失っていたのかもしれない。

 牢門の外に誰かが立っていると分かっても、彼女たちはただ、ふわりと視線をこちらへ流しただけだった。

 声を上げることはない。

 その空洞のような目は、まるで魂の抜けた木偶人形だった。

 

「双流城《トゥー・リバーズ・シティ》の地下牢に、なぜこれほど多くの女が閉じ込められているのですかな……!」

 オリアンは声を低く抑えていた。

 だが、その白混じりの髭は怒りで震えている。

「見てください、貴殿。あの痩せ衰えた様子を。明らかに、長くここへ閉じ込められていた者たちです。まったく、人の皮を被った屑どもめ。下劣にもほどがありますぞ。儂は、あの婦女子たちが王国の法を犯したなどとは到底思えませぬ」

 

 彼は低い声でしばらく罵った。

 そしてふと、こちらを振り向く。

「貴殿は……ここにこの者たちが囚われていると、最初から知っていたのですかな?」

 

「こんな光景だとは、俺も思っていませんでした」

 俺はため息をついた。

 それから身を屈め、頭上の松明の光を借りて、牢門の錠前を詳しく調べる。

「橡の森で遭遇した出来事について話したのを覚えていますか?」

 

「もちろん覚えております。あの哀れな小さな男の子のことも。ですが、それがこの地下牢と何の関係が?」

 

「ロンの記憶を遡った時、俺は彼の母親と妹が、傭兵の格好をした数人に無理やり連れ去られる場面を見ました」

 俺は錠前を見ながら言った。

「そいつらは傭兵の装束をしていた。けれど、履いていた靴だけは、双流城兵士の制式長靴だったんです」

 

 それがゲーム任務「泣くロン」を通して事前に知っていた情報だとは、俺は言わなかった。

 何しろゲームでは、この任務の発生地点こそが、双流城の地下牢だったのだから。

 もちろん、あの者たちの長靴の形を俺がはっきり見ていたのも事実だ。

 その点で嘘はついていない。

 

「つまり、双流城の兵士が彼女たちをさらい、この地下牢へ連れてきたと疑っているのですかな?」

 

「靴だけでは足りません」

 俺は指で錠前の鍵穴を軽く叩いた。

「決め手は、あの一団を率いていた兵士の腰に、奇妙な形の鍵が下がっていたことです」

 

「鍵?」

 

「ええ。その鍵は先端が十字の形をしていて、かなり特徴的でした。俺の知る限り、その鍵に対応する錠は、ロニクス王国の監獄でしか使われていません」

 俺はオリアンに近づくよう目で示した。

 

 牢門の鍵穴は、確かに整った十字の形をしている。

 内部の構造は、普通の扉に使われる錠前とは明らかに異なっていた。

 これは一種の突起式の錠前《とっきしきのじょうまえ》だ。

 鍵の先端は細かな歯を持つ櫛のような形になっていて、正確に噛み合わなければ回すことができない。

 ゲームでは、この種の錠は“軍用錠”に分類されていた。

 解錠難度は民用の錠前よりずっと高く、専門のアサシンでなければ、専用の解錠具を使っても開けるのは難しい。

 

 オリアンはしばらく鍵穴を覗き込んでいた。

 やがて、冷たい息を吸い込む。

「まさか、貴殿がロニクス王国監獄の鍵の形までご存じとは……。貴殿の知識は、本当に底が知れませぬな」

 

「ええと……俺の師が、将来外で面倒を起こすかもしれないと心配して、雑多な知識をいろいろ教えてくれたんです」

 俺は曖昧にごまかした。

 

「なるほど。そう聞くと、貴殿の師は実に大した人物だったのでしょうな。機会があれば、ぜひお目にかかってみたいものです」

 

「恐らく、その機会はありません。彼は……別の世界にいますから」

 俺は心の中で、ゲーム制作陣にそっと謝った。

 こんな精巧な設定を用意してくれて、ありがとう。

 

 オリアンは俺の言葉を誤解したらしい。

 師はすでに亡くなったものと思ったのだろう。慌てて謝ってきた。

「申し訳ございませぬ。つらいことを思い出させてしまいましたな」

 

「気にしないでください」

 俺は立ち上がり、膝についた埃を払った。

「今は、この人たちをどうするかが先です」

 

 俺は難しい選択を迫られていた。

 救うならば、鍵を開ける必要がある。

 だが俺には解錠技能がないため、鍵を使って開けるしかない。

 問題は、その鍵がどこにあるのか分からないことだ。

 力ずくで牢門を破ることも、不可能ではない。

 守衛の数が多くなければ、俺なら一瞬で片づけられるだろう。

 だが、その後は?

 逆に救わないことを選べば、恐らく数日もしないうちに、この者たちはどこかへ移される。

 ゴブリン大軍が城下へ迫る日は、もう近いのだから。

 

「儂は、今は救出すべきではないと思います」

 オリアンはしばらく沈黙した後、先ほどよりずっと冷静な声音で言った。

「仮に牢門を開け、守衛を避け、地下道を通じて人々を外へ逃がせたとしても、これほどの人数を匿う場所がありません。衛兵に見つかれば、すべてが水泡に帰します」

 

 俺は頷いた。

 まったくその通りだった。

 そして、オリアンが知らないことがある。

 この城堡地下に隠された監牢の黒幕は、双流城城主その人である可能性が高い。

 彼をどうにかしない限り、ここにいる者たちを救い出しても意味がない。

 それどころか、俺たちまで取り返しのつかない事態へ引きずり込まれる。

 

「あなたの言う通りです」

 俺は声を低くした。

「それに、この件を双流城城主が知らないはずがありません。大方、彼こそが主謀でしょう」

 

 オリアンは眉を寄せ、考え込むように頷いた。

 だが、追及はしなかった。

 ただ、低く呟く。

「となると、事前に準備が必要ですな。しかし……双流城城主はすでにこの城の最高権力者です。なぜ、わざわざこのようなことをするのでしょうか」

 

 実のところ、双流城城主がゴブリンと亡霊に通じている件については、俺自身もかなり困惑していた。

 もし彼が最初から城を固守し、王国軍の援軍を待つ選択をしていれば、ロニクス南境があれほど早く陥落することはなかったはずだ。

 たとえ最終的に敵勢に押されて城を失ったとしても、彼ならば無傷で退き、王国の別の地で改めて領地を与えられることも十分可能だった。

 少なくとも、ゲームでそうだったように、ロニクス王国全土の人々から唾棄される必要などなかった。

 

「もう少し探してみましょう。ほかにも手がかりが見つかるかもしれません」

 そう考え、俺は提案した。

 

 オリアンは頷き、それ以上は何も言わなかった。

 

 方針が決まると、俺たちは地下牢第一層の廊下に沿って調査を始めた。

 ほとんどの牢房は人で埋まっていた。

 だがやがて、目立たない曲がり角の先で、俺たちは一つの極めて特殊な部屋を発見した。




 午後にも、もう一話更新する予定です。
 昨日の分をそこで取り戻せればと思います~~
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