最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜   作:窮北の風

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第79話 詐欺師?

 民兵訓練営の剣術教官。

 給金は決して高いとは言えないが、双流城《トゥー・リバーズ・シティ》では間違いなく体面のいい仕事だった。

 

 勤務時間は朝九時から夕方五時まで。

 しかも週に三日の休みがあり、忙しくない日なら宿舎に隠れて、一日中ぐっすり眠っていることさえできる。

 安全で、安定していて、楽な仕事。

 

 この職のおかげで、四十歳を過ぎたダタンは、自分より二十歳も若い妻を娶ることができた。

 三年前には娘も生まれた。

 彼はしばしば、もう人生に望むものなど何もない、と感慨深げに口にしていた。

 

 しかし、安穏とした暮らしと羨まれるような家庭は、かつて鉄級戦士だった彼の剣技を高めることはなかった。

 むしろ、腹についた脂肪だけが年々厚くなっていった。

 今の彼が訓練営で最も力を注いでいるのは、学生たちに自分が傭兵だった頃の武勇伝を語ることだった。

 彼が最も好んで口にする言葉は、こうだ。

『傭兵として生きたことのない者に、戦士を名乗る資格はない!』

 

 だからこそ彼は、日々命を懸けて戦う『野良の傭兵』を見下す一方で、訓練営にいる『温室育ち』の学生たちのことも軽蔑していた。

 彼に言わせれば、双流城全体を見渡しても、自分のように双方の経験を併せ持つ者だけが、『戦士』という名にふさわしいのだ。

 

 そのため、午後になってレオナルドが師匠を得たと聞いた時――しかも、その師匠が剣術に優れた貴族だという話まで耳にすると――ダタンは胸の内に湧き上がる苛立ちを抑えられなくなった。

 周囲の学生たちが、その人物を一人残らず崇拝するような目で語っているのを見ると、胸を何かに強く掴まれたような感覚に襲われた。

 まるで、自分の大切な何かを奪われたような、奇妙な喪失感だった。

 

『師匠? 傭兵? 貴族? 馬鹿馬鹿しい! ここでお前たちの本当の師匠と呼べるのは、この俺だけだ。そいつなど、少し運がよかっただけの詐欺師に決まっている』

 ダタンは、心の中で冷たく吐き捨てた。

 

 実際、学生たちが口々に『コロン旦那様』と呼んでいた人物を、自分の目で見た瞬間、その考えはさらに確かなものになった。

 薄汚れた外套。

 黒ずんだ冴えない剣。

 そして、状況がまるで分かっていないような、呆然とした顔。

 貴族だと?

 どう見ても、世間を知らない若い傭兵ではないか。

 唯一の長所を挙げるなら、顔立ちが多少整っていることくらいだろう。

 

 だが、このご時世、顔がよくても腹は膨れない。

 男というものは、結局のところ実力で物を言わなければならないのだ。

 

 そう考えたダタンは、わざとらしく大きな咳払いをした。

 全員の視線が自分に集まったことを確かめると、向かいに立つ黒髪の青年を頭から足元まで眺め、眉をひそめながらゆっくりと口を開いた。

「お前が、皆の言っているコロンか?」

 

 ……

 

 人群れの中から歩いてくる中年の教官を眺めながら、俺は首を傾げていた。

 

 先ほどまでは、ハリンとライチェ主教をそのまま難民営へ連れていくつもりだった。

 ところが、案内役を買って出た民兵が、どうしても俺を訓練場へ連れていこうとしたのだ。

 理由を尋ねても、彼はただ曖昧に、「皆様が、あちらで旦那様をお待ちしています」と繰り返すだけだった。

 まったく意味が分からない。

 

 とはいえ、ここは相手の領分だ。

 せっかくなのでついていき、この営地で何が起きたのか確かめることにした。

 

 そして予想どおり、俺が訓練場へ足を踏み入れた瞬間、それまであちこちで響いていた掛け声と木剣の衝突音が、急速に小さくなった。

 先ほどまで熱気に包まれていた訓練場が、少しずつ静まり返っていく。

 学生たちの反応はさまざまだった。

 顔を寄せ合って囁く者。

 遠くから俺へ軽く会釈する者。

 動きこそ違っていたが、一斉に向けられた視線だけは驚くほどよく似ている。

 

 俺は、その目をよく知っていた。

 子どもの頃、初めて動物園でパンダを見た時、周囲の人間が浮かべていた目とまったく同じだ。

 

 俺は居心地の悪さに耐えながら前へ進んだ。

 すると人群れの中に、ようやく見知った顔を見つけた。

 レオナルドだ!

 

 向こうも俺に気づいた。

 俺は微笑んで声をかけようとした。

 だがあの小僧は、猫を見た鼠のように勢いよく顔を背けると、必死になって人群れの後ろへ隠れ始めた。

 明らかに、何か後ろめたいことがある態度だった。

 

『くそっ! こいつ、また何かやらかしたんじゃないだろうな!?』

 胸の内に、嫌な予感が一気に膨らんだ。

 

 俺が名前を呼ぶより先に、人群れがゆっくりと左右へ割れた。

 教官らしい格好をした中年の男が、悠然と俺の前へ歩いてくる。

 男は俺を上から下まで一通り眺めると、遠慮の欠片もなく口を開いた。

「お前が、皆の言っているコロンか?」

 

「教官、初めまして。俺の名前はコロンです。皆さんが話しているのが難民営にいるコロンのことなら、俺で間違いありません」

 相手の表情には敵意が浮かんでいたが、俺はできるだけ穏やかな声を保ち、笑みを向けた。

 

「ふむ。それなら間違いなさそうだな」

 中年教官は頷いた。

 だがすぐに厳しい顔へ戻る。

「皆の話では、お前は剣術に優れた貴族で、一人で千匹を超えるゴブリン兵を斬り殺したそうだな。本当か?」

 

 前半を聞いた時点では、まだ多少の自信があった。

 俺の剣術は、決して極めて強いとは言えない。

 だが、この低レベル帯で戦う分には、十分に通用する。

 貴族という話についても、今は嫌でも認めざるを得なかった。

 そうしなければ、職業認定任務が完全に失敗してしまう恐れがある。

 

 だが、後半まで聞き終えた瞬間、俺の頭は真っ白になった!

 

 ここまで逃げてくる途中、確かに何匹ものゴブリン兵を斬った。

 しかし、どれほど多く見積もっても、五十匹を超えてはいない。

 それがどうして、相手の口から出る頃には『千匹以上』になっているのだ!?

 

 何を企んでいる?

 俺にそれを認めさせて、城外へ放り出し、一人でゴブリン大軍と戦わせるつもりなのか?

 冗談ではない!!

 銀級戦士であっても、あれほどの数のゴブリンを相手にすれば、最後には力尽きて死ぬだろう!

 

「確かに剣術は少し使えますし、双流城へ来る途中で何匹かのゴブリンを斬りました。ただ、数については……」

 

「もういい!」

 説明しようとした俺の言葉を、中年教官は乱暴に手を振って遮った。

「貴族なら、俺もこれまで何人も見てきた。剣術の達人とも、戦ったことがないわけではない。だが、お前はな――」

 彼はわざと語尾を伸ばした。

 その目には、露骨な侮蔑が浮かんでいる。

「どこからどう見ても、そんな人間には見えん」

 

「何か誤解があるようです。少し説明を――」

 

「説明など必要ない!」

 彼は大声で怒鳴った。

 周囲にいる学生たちを横目で見ると、その口元にはむしろ得意げな笑みが浮かんだ。

 そして一歩前へ出る。

 その声は、ますます厳しさを増していった。

「本来なら、お前にも少しくらい面目を残してやるつもりだった。だが、お前には心底失望したぞ」

 ダタンは胸を張った。

「若者が野外で、何も知らない田舎者を相手に大口を叩き、世間知らずの若者を何人か騙す程度なら、まだ見逃してやれた。だがまさか、この俺の縄張りにまで来て、堂々と詐欺を働こうとするとはな。ここを、誰の管理も及ばない場所だとでも思ったのか?」

 

 語るにつれて、彼の声はますます大きくなった。

 

「俺はな、この世でお前のような詐欺師が一番嫌いなんだ。実力もないくせに、聞こえのいい話をでっち上げ、飯や金や名声を騙し取る」

「そのせいで、本当に戦場で血を流した戦士たちの名誉までもが、お前たちのような連中に汚されるんだ!」

 彼は俺を指さした。

「分かっているのか? 貴族の身分を騙ったという、その一事だけでも、俺はお前を双流城の衛兵隊へ突き出せる。そうなれば、どんな末路を迎えるか……自分でよく考えることだな」

 

 周囲の学生たちは、互いに顔を見合わせた。

 中には、わずかに疑い始めたような目を向ける者までいる。

 

 その時だった。

 先ほど姿を消したレオナルドが、人群れの後ろから再び押し出るように現れた。

 額には汗が浮かんでいる。

 彼は慌てた様子で、教官の前へ駆け寄った。

「ダタン教官、誤解です! コロン旦那様は詐欺師なんかじゃありません! 俺はこの目で、旦那様が――」

 

「黙れ!」

 ダタンは勢いよく振り返った。

 そして指先で、レオナルドの胸を強く突く。

「レオナルド、警告しておく。これ以上、一言でも余計なことを口にしたら、すぐに訓練営の首席教官へ報告し、お前を退学にさせる。分かったな?」

 

 レオナルドの顔が、一瞬で真っ赤になった。

 両手は固く握り締められ、指の関節が白くなっている。

 唇が何度か動いた。

 言い返そうとしているようだった。

 だが最後には、迷ったまま動けなくなった。

 

 平民学員である自分が首席教官へ報告されれば、退学を覆すことはほとんど不可能だ。

 罰を受けること自体が怖いわけではない。

 怖いのは、二度と強くなる機会を得られなくなることだった。

 自分が守りたいものを、二度と守れなくなるかもしれない。

 

 その恐怖が、彼の口を閉ざしていた。

 その時、別の声が割り込んだ。

 

「ダタン教官。この件については、まずコロンさんの説明を聞いてもよいのではありませんか?」

 アルベルトが人群れから歩み出た。

 なるべく穏やかな口調を保とうとしている。

「何か誤解があるとしても、ここまで大ごとにする必要はないでしょう。まずは冷静になって――」

 

 ダタンは顔を向けた。

 口を挟んだのが首席教官の息子だと気づいても、少しも遠慮しなかった。

「アルベルト若様」

 彼は態度を改めるどころか、ますます調子に乗ったように、諭す口調で語り始めた。

「あなたはまだ若く、剣術のこともよく分かっていません。だからこそ、最も人に騙されやすいのです」

「この手の人間を、私は何人も見てきました。あなた方のような、心の優しい若者ばかりを狙って近づくのです。決して騙されてはいけません」

 

 アルベルトの表情が固まった。

 

 俺は向かい側に立ったまま、その光景を眺めていた。

 胸の内で、怒りが少しずつ燃え上がっていく。

 

 最初は、相手が少し大げさに騒いでいるだけだと思っていた。

 だが今の彼は、皆の前で何度も俺を貶めるだけでなく、レオナルドの将来を人質にして脅している。

 さらには、公平な意見を言おうとしたアルベルトまで、上から目線で説教し始めた。

 このまま好き放題させて、『詐欺師』という評判を定着させるわけにはいかない。

 そうなれば、今後の計画すべてに、取り返しのつかない影響が出る。

 

 もう、譲ることはできなかった!

 

 俺はゆっくりと視線を上げ、ダタンの目を正面から見返した。

 声は平静だった。

「あなたは自分の憶測だけで、俺を何度も詐欺師だと決めつけています。教官という立場の人間が取るべき態度ではないと思います」

「ましてや、この件とは何の関係もない学生を巻き込み、その将来を利用して脅すべきではありません」

 

 ダタンは目を細めた。

 俺が突然言い返すとは思っていなかったらしい。

 

「何だ? まだ不満があるのか?」

 彼は冷笑した。

「なら言ってみろ。どうしたいんだ?」

 

「俺に謝ってください」

 俺の声は大きくなかった。

 しかし、その場にいる全員の耳へ、はっきりと届いた。

「そして、レオナルドにも謝ってください」

 

 周囲が静まり返る。

 

 ダタンは一瞬呆気に取られた。

 だが次の瞬間、顔を上げて大笑いする。

 その声は嘲笑に満ちていた。

「はははは! 俺に謝れだと? 断ると言ったらどうする?」

 

 俺は侮蔑に歪んだ彼の顔を見つめた。

 そして、ゆっくりと腰の剣柄へ手を伸ばす。

「その時は、最も簡単な方法で、あなたを納得させるしかありません」

 

 ダタンの笑い声が、ぴたりと止まった。

 目つきが一瞬で鋭くなり、俺が剣に添えた手を凝視する。

 

 空気が凍りついたようだった。

 

 その時。

 人群れの外から、よく通る力強い怒声が響き渡った。

「誰だ! 我がご主人様を侮辱する命知らずは!」

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