最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜 作:窮北の風
俺は営地のほうへ歩き出した。
後ろにはオリアン、ハリン、そしてライチェ主教が続いている。
だが、まだ天幕区へ着く前に、遠くから二つの人影がこちらへ足早に近づいてくるのが見えた。
先頭を小走りで進んでいるのはトーヴだった。
その足取りは速く、どこか急いている。
裾が足首のあたりでひらひらと翻っていた。
ペトラは腕を組み、真剣な顔でその後ろについてくる。
「またこっそり外へ遊びに行ってたの?」
トーヴは俺の前で立ち止まると、両手を腰に当て、頬を膨らませた。
「夜が明けたばかりで壁を越えて出ていくし、食べ物を配る時にも見つからないし……ふん。しかも私を連れていかなかった」
「すみません、すみません。でも今回は、本当にちゃんとした用事だったんです」
「ふんふん。ちゃんとした用事?」
その時、ペトラがトーヴの隣までやってきて、ゆっくりと鼻を鳴らした。
「そうよね。私たちの『コロン旦那様』は、一人で千匹以上のゴブリンを斬り倒し、しかも王族の血まで引いているんだもの。きっと忙しいに決まっているわ」
トーヴも隣で、うんうんと勢いよく頷いた。
「そうそう、噂がもうすごいことになってるよ。お昼頃なんて、学生の一人が私のところへ来て、『あの伝説の戦士様と一緒に双流城へ来たんですか』って聞いてきたんだから。最初、誰のことを言ってるのか全然分からなかったよ」
「こほん……それはただの噂です」
俺は気まずさをごまかすように、軽く咳払いをした。
二人の女性から左右同時に責められると、ゴブリン大軍を経験した身であっても、なかなか受け止めきれない。
「ただ、今回ばかりは本当に誤解です。ちゃんと用事がありました」
そう言って、俺は横へ一歩退いた。
そこでようやく、トーヴとペトラは、俺の後ろに見知らぬ三人がいることに気づいた。
中でも最も目を引いたのは、真新しい深緑色の魔法師長袍をまとったオリアンだ。
彼は背筋を伸ばして立ち、髪も髭も一糸乱れず整えられている。
胸元の六芒星徽章が、陽光を受けて眩く輝いていた。
「ごきげんよう」
オリアンはわずかに身を屈めた。
右手を優雅に左胸へ当て、寸分の乱れもない正式な貴族礼を取る。
「儂の名はオリアン。現在はコロン旦那様の従僕を務めております。初めてお目にかかります。どうぞよろしくお願いいたします」
彼は身体を起こすと、ペトラとトーヴの間へ軽く視線を流した。
そして口元に上品な微笑を浮かべ、落ち着いた調子で付け加える。
「お二方が、主人がいつも口にしておられる女伴でございましょう。いやはや、主人は実に果報者ですな。これほど美しいお二人を傍らに伴っておられるとは」
ペトラは一瞬ぽかんとした。
次の瞬間、顔がみるみる赤くなる。
彼女は慌てて身体を横へ向け、片手で無意識に服の裾をいじりながら、小さな声で呟いた。
「だ、誰が……あいつの女伴よ……」
「お会いできて嬉しいです」
一方、トーヴは堂々と礼を返した。
それから真面目な顔で頷く。
「でも、あなたの言うとおりです。私たちは確かに、けっこう綺麗です」
「トーヴ、また何を言ってるの!」
ペトラの顔は、さらに赤くなった。
彼女は慌ただしくオリアンへ頭を下げ、困ったような声で言う。
「すみません、すみません。トーヴはいつもこうなんです。どうか気にしないでください。あ、私はペトラです。お会いできて嬉しいです」
そう言い終えると、彼女は急いで俺を横へ引っ張った。
声を潜める。
先ほどよりも、口調はかなり柔らかくなっていた。
「今回は、ひとまず信じてあげる。でも、これで終わりだと思わないで。朝、食糧運びを手伝わなかったことは、あとでちゃんと話を聞くからね」
俺は賢明にも、その話題には乗らなかった。
そのまま向きを変え、ハリンを前へ呼ぶ。
「それと、こちらは聖白教廷のハリン修女です。営地の負傷者に祝福を施してもらうため、俺がお願いして来てもらいました」
紹介を終えると、俺はハリンへも言った。
「こちらがペトラ、こちらがトーヴです。二人とも、俺と一緒にチカ町からここまで来た仲間です」
ハリンは腰を折り、二人へ丁寧に頭を下げた。
「初めましてめぇ。私はハリン。双流城教会の修女ですめぇ。私の祝福が、皆さんのお役に立てれば嬉しいですめぇ」
ペトラも慌てて礼を返した。
その表情は、すっかり柔らかくなっている。
「本当にありがとうございます。営地には負傷者が何人もいて、傷の治りがあまりよくないんです。ハリン修女の祝福があれば、とても助かります」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、トーヴはいつの間にか、音もなくハリンの背後へ回り込んでいた。
彼女は首を傾げ、ハリンの頭の上にある、ゆるく巻いた羊角をじっと見つめる。
そして両手を伸ばし、そっと握った。
「わあ、可愛い」
トーヴの目がきらきらと輝いた。
「聖白教廷の修女は、みんなこんな羊角があるの?触るとすべすべしてる。磨いた貝殻みたい」
一瞬で、ハリンは魔法をかけられたようにその場で固まった。
小さな顔が、目に見えて赤くなっていく。
恥ずかしさのせいなのか、声も出せないらしい。
両手を宙に上げたまま、助けを求める目で俺を見てきた。
「コロン!」
トーヴが突然こちらを振り返った。
その目は、重大な決定を発表する時のように固い決意を帯びている。
「私も修女になる!」
「あなたは……まずハリンから手を離してください!」
俺はこめかみが脈打つのを感じた。
横では、オリアンも口元を手で覆っている。
ペトラがどうにかトーヴを引き離してくれたところで、俺はふと何かが足りないことに気づいた。
振り返って見ると、案の定、ライチェ主教がハリンの後ろにいない。
さらに遠くを見やると、ライチェ主教はいつの間にか営地中央の柳の木の下まで移動していた。
彼は数人の難民の子どもたちの間にしゃがみ込み、手にはハリンの蜜糖入り紙袋を掲げている。
そして、子どもたちに一つずつ蜜糖を配っていた。
「一人一個だめぇ。多く取っちゃ駄目だめぇ」
彼はハリンの口調を真似しながら、真剣な顔で子どもたちへ言っている。
子どもたちは蜜糖を受け取ると、口の中へ入れた。
甘さに目を細めている。
トーヴの目が、また一瞬で輝いた。
彼女は小走りで木の下へ向かうと、遠慮なく紙袋の中へ手を突っ込み、蜜糖を二つ取り出した。
一つを口に放り込み、もう一つを手のひらに握る。
「んん――すごく美味しい!」
彼女はもごもごと叫んだ。
「これ、何の飴?うちの町で売ってる麦芽糖より、ずっと甘いよ」
ライチェ主教はにこにこと彼女を見ていた。
勝手に手を伸ばして蜜糖を取ったことを咎めるどころか、むしろ紙袋を彼女の前へ差し出す。
「中に蜂蜜が入っているんだめぇ。美味しいんだめぇ」
そうして、あっという間に。
トーヴとライチェ主教は、並んで木の根元に腰かけていた。
年の離れた二人が、一緒に小石遊びを始めている。
トーヴが指で小石を弾く方法を教えると、ライチェ主教は真剣に学んだ。
だが、いつも狙いから大きく外れてしまう。
飛んでいった小石は毎回、目標からかなり離れた場所へ転がり、そのたびに周りの子どもたちが笑い転げた。
俺は遠くからその光景を見つめていた。
顔は、墨が滴り落ちそうなほど黒くなっていたと思う。
隣のハリンも、まったく同じ顔をしている。
ペトラは疑問に満ちた目を俺へ向け、口元をわずかに引きつらせていた。
どうやら目の前の状況を必死に理解しようとしているらしい。
「あのお爺さんは誰?」
彼女は小声で尋ねた。
「どうして子どもたちとあんなに楽しそうに遊んでいるの?」
俺は口を開いた。
しかし、一体どこから説明すればいいのか分からなかった。
その時、ハリンが自分から一歩前へ出た。
ペトラへ、少し苦い微笑を向ける。
「あの方は、ライチェ主教ですめぇ。かつては、この街で最も徳の高い神職者だった方です。ただ、その後に事故があって……」
ハリンはゆっくりと、ライチェ主教のことを皆へ話していった。
ペトラは真剣に耳を傾けている。
木の下から、ライチェ主教の笑い声が聞こえた。
彼は蝶を追いかけていた。
大きな主教袍が、草の上をずるずると引きずられている。
「それじゃあ、ずっとあなたが彼の面倒を見てきたの?」
ペトラが低い声で尋ねた。
ハリンは頷いた。
「ライチェ主教がこうなってから、昔の知り合いは少しずつ離れていきましためぇ。でも大丈夫ですめぇ。主教は本当はとてもいい子なんです。ただ、たまに急に走り出すので、私は何本も通りを追いかけなきゃいけないだけですめぇ」
ペトラは何も言わなかった。
ただ手を伸ばし、ハリンの肩をそっと叩く。
「きっと、とても大変だったでしょう」
彼女は小声で言った。
ハリンは一瞬、目を瞬かせた。
それから眉を柔らかく曲げ、少し笑った。
けれど、何も答えなかった。
空気がわずかに重くなる。
ハリンもそれに気づいたのだろう。
彼女は慌てて背筋を伸ばし、ぱんぱんと力強く手を叩いた。
皆の注意を引き戻す。
「はいですめぇ!この話はここまでですめぇ!私は今日、ちゃんとした用事があって来たんですめぇ!」
彼女は軽く咳払いすると、修女服の袖をまくり上げた。
細い手首が覗く。
「負傷者の方はどこですかめぇ?皆さん、順番に並んでくださいめぇ。一人ずつ祝福をします。私はまだ初級の祝福魔法しか使えませんけど、傷口の治癒や熱を下げるのには、ちゃんと役に立ちますめぇ」
ペトラとトーヴは、慌てて負傷者たちを並ばせに向かった。
ほどなくして、天幕の前には十数人が集まった。
腕に包帯を巻いている者。
その場で切った木の棒を杖代わりにしている者。
顔色は皆、悪い。
それでもハリン修女の姿を見ると、誰もが笑顔を浮かべた。
「修女様、よろしくお願いします」
「こんな遠くまで来て祝福してくださるなんて、本当に申し訳ありません」
ハリンは「大丈夫ですめぇ、全然大丈夫ですめぇ」と手を振った。
そして腰を屈め、両手をそっと一人の老婦人の脚の傷口へ重ねる。
俺は天幕のそばに立ち、その様子をしばらく見ていた。
胸の内で、密かに安堵の息を吐く。
その時だった。
営地の入口で見張りに立っていた民兵の一人が、小走りで俺のほうへ近づいてきた。
彼はそばまで来ると、声を潜めて告げる。
「コロン旦那様、門の外にあなたを訪ねてきた方がいます。今朝いらした、あの方です――ダグさんが。急ぎの用件を報告したいとおっしゃっています」