最強ギルドマスターは十年前のゲーム世界に転生した 〜未来知識だけを武器に、見習い傭兵から王座を目指す〜 作:窮北の風
「コロン旦那様、本当に作れてしまったんですか!?」
ジャックとラムは同時に鼻を鳴らすように香りを嗅ぎ、それから顔を見合わせた。
互いの目の中に、まったく同じ衝撃を見つける。
ダグは酒のことなど分からない。
だが、この香りが何を意味するのかは分かった。
つまり、自分の主人は大言壮語などしていなかったということだ。
固く握り締めていた拳が、ゆっくりとほどける。
掌は汗でびっしょり濡れていた。
それでも口元は、自分でも抑えられないほど耳元まで吊り上がっていく。
一方、アシュビー男爵の顔色は、別の意味で見ものだった。
二本の口髭が激しく震える。
何かを言おうとしているようだったが、一文字も吐き出せない。
「……本当に、あの手順で作るのか?」
彼は勢いよくウェバー先生へ顔を向けた。
声を低くし、ほとんど歯を食いしばるように尋ねる。
ウェバー先生は答えなかった。
彼は蒸留器の出口にある細長いガラス管を、死んだように凝視していた。
額には豆粒ほどの汗が次々と浮かび、花白い鬢を伝って、長袍の襟元へ落ちていく。
その汗が、すでにすべての答えを物語っていた。
「ウェバー先生?私は聞いているのだ――本当に、あれで合っているのか?」
アシュビー男爵は少し声を強めた。
その口調には、すでに焦りが滲んでいる。
ウェバー先生の身体がびくりと震えた。
まるで何かに引きずられるように、茫然自失の状態から引き戻されたかのようだった。
彼は慌てて額を拭い、無理やり笑みを作る。
「ま、前半の手順については、この小僧がいくらか偶然当てたのだろう。だが酒はまだ完成しておらん。最後にできあがるものがどんな味になるかなど、誰にも分からん。成功と言うには、まだ早すぎる」
そう言いながらも、彼の身体は支えきれないように半歩後ろへ下がった。
作業台の前で、俺は蒸留し終えた酒液を収集瓶から外した。
それを燭光にかざして眺める。
酒液はわずかに黄色がかった透明色をしていた。
火竜の涙《かりゅうのなみだ》特有の、あの翠緑で透き通った姿には、まだ最も重要な一手が足りない。
「実を言えば、この段階で酒は八割方完成しています」
俺は身体を向け、ウェバー先生の顔へ視線を落とした。
「あとは最後の一歩だけです」
俺は薬棚へ歩き、格子の中から月歌草を三本取り出した。
その草薬の葉は三日月形をしている。
表面には銀白色の細かな綿毛が覆い、燭光の下で淡い蛍光を帯びていた。
ロニクス王国南部にしか生えない、独特の草薬だ。
俺はそれを乳鉢へ入れ、丁寧にすり潰していく。
しばらくすると、鉢の底に墨緑色の汁液が小さく溜まった。
蜂蜜のように濃く、清冷でわずかに渋みを含んだ草木の香りを放っている。
俺はその墨緑色の汁液を、黄色がかった酒液の瓶へゆっくりと注ぎ込んだ。
その瞬間。
かき混ぜることもなく。
熱を加えることもなく。
黄色い酒液は、まるで内側から火を灯されたかのように、中心から外へ向かって色を変えていった。
薄黄から淡緑へ。
淡緑から、翡翠のような碧緑へ。
瓶の中の酒は、燭光の下で、溶かされて再び固められた緑宝石のように輝いていた。
透き通っていて、濁りは一片もない。
俺はゆっくりと酒瓶を卓上へ置いた。
そしてウェバー先生のほうへ、軽く押し出す。
「どうぞ、ウェバー先生」
ウェバー先生の唇が激しく震えていた。
何かを言おうとしているようだったが、まともな音節すら形にならない。
空になっていた酒杯が手から滑り落ちる。
どん、という鈍い音を立てて絨毯の上へ転がった。
彼自身も、まるで一瞬で全身の力を抜き取られたかのように、椅子へぐったりと腰を落とす。
その場の全員が、心の中で答えを理解した。
トール男爵が、はははと笑った。
最初に前へ進み出たのは彼だった。
彼は余計なことを言わず、新しい清潔なガラス杯を一つ手に取る。
小半杯ほど注ぎ、唇へ運んで一口含んだ。
そして目を閉じる。
しばらくして、彼は目を開け、長く息を吐いた。
「まったく同じだ」
その声は大きくなかった。
しかし、工房全体にはっきりと響いた。
「ウェバー先生が持ってきた試供品と、味はまったく同じだ」
ジャックとラムが同時に歓声を上げた。
執事が先に拍手を始めると、すぐに工房の中は拍手に包まれた。
アシュビー男爵が酒を口にしたのは、最後だった。
彼は杯を唇へ近づけ、一口だけ含む。
そして何も言わず、杯を卓の上へ戻した。
顔色は鉄のように青ざめている。
俺はその時、酒瓶を持ち上げ、軽く揺らした。
碧緑の酒液が瓶の内側に浅い酒痕を残す。
揺れに合わせ、香りはいっそう濃くなった。
「この酒は、大半の酒とは異なります」
俺の声は平静だった。
まるで授業で、ごく基礎的な知識を説明しているかのように。
「熟成を必要としません。むしろ、作り終えた直後こそが最も美味い時期です。時間が経つほど、あの爆ぜるような口当たりは徐々に薄れていく」
俺はウェバー先生へ視線を向けた。
「この点は、ウェバー先生もご存じのはずです。ただ、おそらく皆様には教えていないでしょうが」
それを聞いた執事は、慌てて前へ寄ってきた。
顔には愛想のよい笑みを浮かべ、恭しく一礼する。
「コロン旦那様。この酒の醸造法にまで、これほど精通しておられるとは。もしや、樅郡《もみぐん》にもご親戚がいらっしゃるのですか?それとも――この酒を発明なさったウェバー先生と、同じ師に学ばれたのでしょうか?」
「同じ師?」
俺は酒瓶を置いた。
椅子でぐったりしているウェバー先生を一瞥し、首を横に振る。
「いいえ。火竜の涙《かりゅうのなみだ》は、樅郡《もみぐん》で発明されたものではありません。このウェバー先生も、そもそもその発明者ではない」
拍手が、ぴたりと止まった。
工房の中は、死んだように静まり返る。
ウェバー先生が勢いよく顔を上げた。
その顔色は、一瞬で灰白色へ変わっている。
「き、君は……何を言っている?」
アシュビー男爵は衝撃を受けたように俺を見た。
どうやら彼も、この酒の来歴までは知らなかったらしい。
「この酒の歴史は、皆様がご存じのものより、はるかに古い」
俺はその場の者たちの顔を、一つずつ見回した。
最後に、すでに焦点を失いかけているウェバー先生の両目へ視線を止める。
「火竜の涙《かりゅうのなみだ》の最初の製法は、人類の手によるものではありません。地底ドワーフ族によって発明されたものです」
「ドワーフは火の扱いに長けています。彼らが醸す酒もまた同じ。口に含めば溶岩のようであり、余韻は煙塵のようだった」
俺は続けた。
「その後、この製法は上古エルフ国へ伝わりました。エルフ族の酒造師たちは月歌草の汁液を用い、ドワーフ烈酒に含まれる過度に荒々しい火の性質を和らげた。そうして、現在のような、先に涼しさが来て、後から熱が立ち上がり、口に含んだ瞬間に爆ぜる独特の味わいが生まれたのです」
俺は酒瓶を卓上へ戻した。
澄んだ軽い音が響く。
「ただ、あまりにも時代が古いため、この歴史はすでに世人から忘れられています。今になって、誰かが古籍の残巻から偶然欠けた配方を見つけ、少し再現しただけで自らを発明者と名乗る――それもまあ、悪くない商売ではありますね」
「でたらめを言うな!」
ウェバー先生が勢いよく立ち上がった。
椅子が背後で大きく滑り、耳障りな摩擦音を立てる。
「認めよう。私は先ほど、お前を侮っていた。お前が酒を作れることは否定せん。だが、その歴史とやらについて、ここでいい加減なことを並べるのはやめろ!」
彼は声を荒げた。
「私こそが火竜の涙《かりゅうのなみだ》の発明者だ。我が家族には、王国より発行された製法特許証明書もある!お前に何が――」
「そこまで主張するのなら」
俺は身体を向け、彼の赤くなった目を静かに見つめた。
「ただ、あなたが孤陋寡聞だったというだけです」
ウェバー先生は口を開けたまま、後半の言葉を喉に詰まらせた。
「なぜ俺がここまで断言できるのか」
俺は一度言葉を切った。
そして、残った半瓶の緑色の酒液を持ち上げ、ゆっくりと言う。
「それは俺が、本物の火竜の涙を醸せるからです!」