六神将のお世話係 作:俺は悪くねぇ!
〇月×日
僕の名前はサン。
あんまり得意じゃないけど日記をつけることにした。
理由は単純。僕が歩んだ記録を残しておきたいって思ったから。
最初に言っておくと僕は一度死んでいる。
前世の記憶は意外とはっきりしている。日本のどこにでもいる二十代の男だったかな?
その日は仕事帰りにコンビニで新作のスイーツを買って、鼻歌まじりに横断歩道を渡っていたんだ。そこで視界が真っ白になって大きな衝撃があって……それでおしまい。
たぶん車に撥ねられたんだろうね。幸い痛みとかはなかったよ。
次に目が覚めた時、僕は真っ暗な穴の中にいた。
いや、穴なんて生易しいものじゃない。そこはザレッホ火山の廃棄場。
周囲には僕と同じ顔をした——そう、あの「導師イオン」と同じ顔をしたレプリカたちが、物言わぬ肉塊として積み上げられていたんだ。
その時は思わず悲鳴を上げたよね。
僕は無数に作られたレプリカの「失敗作」としてこの世に生を受けたらしい。本来なら自意識が芽生える前に処分されるはずだった。でも、何かの手違いか僕という存在がレプリカに憑依? したのかな。
廃棄される前に這々の体で火山から逃げ延びた時に現れたのが、彼だった。
「……ほう、自意識がある個体か」
鋭い眼光に威圧的な体躯。
彼のお眼鏡に適ったのか、あれよあれよという間に彼の所属するローレライ教団の一員として迎えられた訳なんだけど。
僕と同じイオンのレプリカであるシンクと同じ扱いになるのかと思ったらそんなこともなく、顔さえ隠したりすれば別に好きにしたらいいって感じで野放しにされたんだよね。
どういう事なのかわからなかったけど、取り敢えず前髪を伸ばしてメカクレにして髪色も黒に染めた。因みに髪色の変更はディストに頼んだらやってくれた。
代わりに研究の手伝いをすることになったけど。
因みに戦闘能力は驚くほど低い。というかそもそも人を殴るなんて怖くてできないし、剣を振れば自分の足に当たりそうになる。
でも、不思議なことに回復術と支援術だけは原作のイオン様を凌ぐほどの適性があった。
これモースにバレたらヤバくね? ってなったけど、何故かヴァンはモースには何も教えずかと言って僕に命令することはなかった。正直何を考えているのかわからなくて怖いけど、何もないならまぁいっかと思考を放棄することにした。
ラスボスの事なんて考えてもわかるわけないし。
気を取り直して現状の状況を整理しよう。
まず僕は六神将のお世話係みたいな存在だ。これは成り行き上こうなっただけでそういう役職があるわけじゃない。実際僕が勝手にやっているだけだからね。
六神将は皆好き勝手な人が大半だ。協調性なんて皆無だし、助け合いなんて以ての外。利害関係が一致しているだけの仲だからまぁ仕方ないのかも知れないけど。
そんな彼らは私生活もそりゃあ酷い。まともな飯は食わないし部屋は何も無いか乱雑に物が置かれていたりと、生活能力が低い人しかいない。
そんな状態の彼らを放っとくのもなと思って代わりに家事洗濯雑事をするようになったんだ。最初は邪険に扱われたけど回数を重ねていたらいつの間にか世間話をするぐらいには仲良くなれた。
ヴァンは相変わらず僕を放置している。何と言うか観察されている気がする。普通に怖い。
取り敢えず今を頑張って生きてる。
#月=日
今日はディストの研究の手伝いと彼にちゃんとした食べ物を食べさせる為に張り切って料理をした。
研究は勿論レプリカの技術の向上。より完全な物へとさせる為に。
ディストの悲願はかつての恩師、ネビリム先生の完全な復活。
現在のレプリカの技術だと記憶の継承は出来ず器が空っぽの人形でしかない。それは姿が同じでも彼の記憶にあるネビリム先生ではない別の物体でしかない。
研究はある時から進まなくなり難航していたみたいだけど、僕が現れてからそれが動き出した。
詳しい理由はわからないけど僕という素体は大変貴重なものらしく、彼の研究に大いに貢献出来たみたい。普段ヴァンぐらいしか頼みを聞かない彼が僕のお願いには「面倒ですが特別にやってあげます! 私の海よりも広い心に深く感謝なさい!」とか言って聞いてくれる。
何だかんだ困った事があるとそれとなく助け舟を出してくれるのがディストって男なのだ。
普段は自分の話だけして飽きていなくなるのが常なんだけど、実は頼れるおとこだったりする。単純にコミュニケーションの仕方がわからないだけで根は優しい奴なんだよね。
だからその御礼って訳じゃないけど彼にはちゃんとした食べ物を食べて欲しくてよく料理を提供している。
最初は効率が悪くなるとか言って食べてくれなかったけど、一口だけ一口だけって言って食べさせてから僕が作ったモノだけは食ってくれるようになった。
それが凄い嬉しかったんだよね。なんだが認めて貰えたみたいで。まぁこの気持ちを言ったら絶対うるさくなるから本人には絶対に言わないけど。
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ある日珍妙な少年がヴァンによって紹介された。
導師イオンの劣化レプリカ。不安そうに揺れる瞳に緊張し強張る顔。そこらのレプリカと変わらない木偶の坊。それが私にとってサンに対する最初の印象だった。
その印象が変わったのはいつだったか。あれは確か研究が禄に進まず頭を抱えていた時だ。
いつものように音機関とにらめっこしていた時にサンが現れて「こういう時は休憩して脳に糖分を摂取するのがいいんだよ!」なんて言っていたか。
彼の手にはこれでもかとホイップでコーティングされたいちごケーキがあった。
これを食えと言いたいようだが、生憎この時の私はイライラしていたから乱暴な言葉づかいで八つ当たりをしてしまったんですよね。
それでも一歩も退かない彼に私が根負けして一口だけですよと言って食ったらあら不思議、いつの間にか全てを平らげていたんですよ。
悔しいですがその時のケーキは今まで食べた中で一番美味しかった。
食べた後は急に眠気が強くなって椅子の背もたれに体を預けた時、サンが毛布を掛けてくれたところで私の意識は夢の中に旅立った。
次に起きた時、目は冴え脳の回転も今まで以上に回りなんでこんな事に気づかなかったのかと、全く進まなかった研究が進むようになったんです。
その時からサンに対する意識は変わりました。
「どうしたのディスト、ぼ~っとして」
「なんでもないですよ。それよりその資料はこっちに、他は右の棚に戻しておいて下さい」
「は~い」
サンは沢山の資料を抱えて言われた場所に書類を戻していく。
その後姿を眺めながらコーヒーをちびちびと飲む。
サンは特殊なレプリカです。生まれたばかりで既に自我を確立していたとヴァンからは聞いています。
本来のレプリカは生まれたばかりだと人形とさして変わらない。感情というものを持っていないはず。
だからこそ廃棄場で恐怖を見せたという情報に私は驚愕した。
更に言えば、当初はレプリカの中でも失敗作でありオリジナルイオンに遠く及ばない個体だった筈だが、今では第七音素を使いこなしている。はっきり言って異常だ。
故に私のレプリカ研究に多大な貢献をサンはしてくれた。レプリカの一部情報はヴァンが独占していましたからね。私が六神将で唯一ヴァンに対する情を持っていないことがバレていましたから。
いつ裏切るかわからない私を組織に縛り付けるための処置ってやつですね。
まぁいいです。サンがいればそこもいつかは解決するはずですからね。
「ディスト~お腹空いたしご飯にしようよ」
「……ま、集中力がなくなってきましたし、いいでしょう。因みに今日はなんですか?」
「今日はデミグラスハンバーグだよ!」
前髪で隠れているが口角を上げて笑うサンに私はらしくもなく笑みを作る。
「美味しいのでしょうね?」
「もっちろん! 味はリグレットが保証してくれたからね」
「待ちなさい。この私よりも先に食べた奴がいるですって?」
自分でもよくわからない気持ちが溢れる。
何故か自分が一番じゃないことにモヤッとする。理由はわからないがあまり良い気分じゃない。
「えぇ? 別に誰が最初でもよくない?」
「いいえよくありません! この薔薇のディストを差し置いて! そんな事は許しませんよ!!」
「う、う~ん、わかったよ。これからは味見とかをディストに任せるから、それで許して?」
「仕方ありませんね! それで許して上げましょう」
苦笑を浮かべるサンに、私は満足そうに頷く。
自分でもなぜこんな言葉を口走っているのかわからない。だがどうにもムカつきが収まらなかった。
この気持ちをなんて呼ぶのでしょうか?
六神将が好きなので彼らメインの話になります。
よろしくお願いします!