六神将のお世話係   作:俺は悪くねぇ!

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筆が乗ったので2日連続投稿。


原作開始と覚悟

 L月#日

 

 胸の騒ぎが止まらない。

 

 数日前から、六神将の皆の行動回数が明らかに多くなっている。

 前みたいに皆と過ごせる時間が少なくなっていて、どこか殺伐とした空気が流れていた。

 

 原作が始まる予感。

 進んで欲しくない時間が来ようとしている。

 

 きっとヴァンの計画が始まろうとしているんだろう。

 

 色々と頑張って六神将の皆やヴァンと関わってきたけど、果たして僕に原作を変える事は出来るんだろうか。

 今までの行いは無駄だった訳じゃないと思っている。

 彼らを救いたいと思うこの気持ちは誰にも負けない。そうだよ。弱気になんてなっている暇はないんだ。

 

 僕は出来ることを考えて行動するんだ。

 

 あの出来事が起きてしまうからだ。アリエッタの家族であり母親代わりのライガクイーンが殺されてしまうあの忌々しい出来事が。

 

 しょうがない。人間に危害を加えるのだから駆逐されるのは当然。そういった言葉が出るのがきっと自然な事なんだろう。

 でも、僕はそうは思わない。

 

 これは僕のエゴだ。

 人を優先して考えるならライガという魔物は滅ぶべきなのかも知れない。

 実際生まれたばかりのライガは食べ物として人間の肉を好む習性という、およそ共存するには難しい習性がある。

 

 だからライガ達を救うのは完全に僕の我儘だ。

 

 ライガクイーンが死ぬのは預言にあるのかも知れない。だとしても救うと決めたんだ。

 なら後は行動するだけ。

 

 このために僕は数ヶ月前から密かに準備を進めてきた。

 あらかじめ別の豊かな森に大量の食料と生活物資を運び込んでおいた。

 

 本当なら、住処が燃える前に止められたら良かったのかもしれない。

 残念ながら原作知識を持っていてもそこまではわからないというのと、事前に移動するって手もあったけど、これはライガクイーン達が住処を捨てる事に抵抗感がある為に断念せざるを得なかったんだ。

 

 だから僕はせめてライガたちの“命”だけは救おうと決めている。

 

 一番仲良くなった一匹の若いライガ。

 言葉は通じなくても、第七音素(セブンスフォニム)を通じて意思を疎通させたあの仔に、僕は何度も何度も言い聞かせた。

 

 もし、住処が炎に包まれたら。

 もし、お母さん(ライガクイーン)が怒りに狂いそうになったら。

 仲間たちと協力して人間と争うのをどうにか止めてくれと。絶対に助けに来るから待っていて欲しいと。

 

 日記を書く手が震えているけれど、迷っている暇はない。

 僕は一人でダアトを抜け出す。

 

 ルークたちがライガクイーンを凶暴な魔物として討伐してしまう前に。

 あの一家が、理不尽な運命によって全滅させられる前に。

 

 待っていてくれ。今、僕が行く。

 

 

 

 

 =====

 

 

 

 

 あの日、俺の目の前で起きた出来事は今思い出しても意味が分からねぇの一言に尽きる。

 屋敷に閉じ込められていた俺にとって初めての外の世界は泥だけで土臭いし、得体の知れない女と一緒で最悪だし、魔物って奴は最初はビビったけど、俺ならどうってことなかった。

 

 その後は辻馬車に乗ってキムラスカに帰れると思ったのに、まさかマルクトに向かっちまうなんて、ホント萎える。

 そんで今は泥棒と間違えられた腹いせに、泥棒の真犯人チーグルって奴をとっ捕まえようと思って森に来たんだが。

 

 まさかそのチーグルに助けてくれって頼まれることになるなんてな。それに正直こいつら、つうかミュウって奴がライガクイーンの住処を燃やしたって言うじゃねぇか。

 それでライガクイーンに脅されて泥棒をしてた訳なんだが、これで助けるっていうのがなんか気に食わねぇんだよな。

 

「ルーク、どうしたの? ぼ~っとして」

 

「んあ? いやちょっと考え事をな」

 

「貴方でも考え込むことがあるのね」

 

「……失礼な奴だな!」

 

「ま、まぁまぁルーク落ち着いて。ね?」

 

 ティアの失礼な物言いに俺が苛立つと、イオンが静止してくる。

 こいつは優しいけど、このいけ好かない女は口がうるさくて仕方ねぇ。

 たく、顔は良いのに性格がこれじゃな。

 

「ミュウ、ライガクイーンの居場所はもうすぐですか?」

 

「はいですの! この道を通り抜けた先にいますの!」

 

「……ったく、こんな森の奥まで来させやがって」

 

 剣の柄を握る手が嫌な汗でじっとりとしている。ブタザル……ミュウが指差した先、木々の切れ間に広がる薄暗い空間に、そいつはいた。

 

 ライガクイーン。

 

 本物の化け物だ。この森に来る前の魔物達よりも明らかに大きい。横たわっている姿だけで圧倒的な威圧感を感じる。

 剥き出しになった牙は俺の腕なんて一噛みで噛みちぎっちまいそうだ。周りの茂みからは何十という赤い瞳がこっちを凝視している。低く、地を這うような唸り声が鼓膜を震わせて足がすくみそうになるのを必死に堪えた。

 

「クソッ、囲まれちまってるぞ……おい、ブタザル! 本当に大丈夫なんだろうな!」

 

 俺が声を荒らげると、ティアが冷たい視線で俺を制した。

 

「静かにしてルーク……これだけ包囲されていて襲ってこないのは、あちらも対話を望んでいる証拠よ。たぶんね」

 

「たぶんって……! 失敗したら俺たち、こいつらの晩飯だぞ!」

 

 俺が焦る中イオンが一歩前に出る。

 

「ミュウ、ライガクイーンと話してくれますか?」

 

「はいですの!」

 

 ミュウが通訳を始めようとすると一匹のライガがライガクイーンの前に現れる。

 

「グゥルルルッ!」

 

「ガウッ! ガウガウッ!」

 

「な、なんだ、何を話しているんだこいつらは?」

 

 ライガクイーンとライガが何やら話し合いをしているのか、交互に鳴き声を出している。

 

「ミュウ、彼らは何を話しているんです?」

 

「え、えと、人間と争いをしないでほしいってライガさんが言ってて、ライガクイーンさんが怒ってるみたいですの」

 

 ど、どういう事だ? なんで仲間同士で争いなんてしてるんだ。

 俺が困惑しているとティアが何かに気づいたのか大きな声を出す。

 

「あれは卵!? もしかして卵が孵化しそうなのね!?」

 

「そんな!? ライガの仔は人間の肉を好みます。ライガの仔共が生まれたらエンゲーブが危険です!」

 

「じゃあどうすんだよ!」

 

 ティアは苦虫を噛み潰した表情で声を絞り出す。

 

「殺すしかないわ」

 

「は、はぁ!? そんな、こいつらが悪いわけじゃねぇだろ?」

 

「だとしてもよ。もうこの場で出来ることはそれしかないわ」

 

「他に方法はねぇのかよ!?」

 

「……覚悟を決めて、出来ないなら下がってて」

 

 クソっ! 言いたい放題いいやがって! 俺は腰に刺していた剣を鞘から引き抜く。

 

「やってやるよちくしょう!」

 

 叫ばなきゃ、逃げ出しそうだった。

 鞘から引き抜いた長剣が手の震えのせいでカチカチと嫌な音を立てる。目の前のライガクイーンは卵を守る執念からか、さっきよりも一回り大きく見えた。

 

「行くわよ、ルーク!」

 

 ティアが鋭い踏み込みと共に旋律を奏でる。放たれた衝撃波がクイーンの巨体を揺らすが化け物は怯むどころか、さらに猛り狂って前脚を振り下ろした。

 地面が爆ぜる。土煙が舞う中、俺はがむしゃらに剣を振るった。

 

「くそっ、硬ぇんだよッ!」

 

 鋼鉄を叩いたような感触が腕に跳ね返る。俺の攻撃なんて、こいつにとっては羽虫に刺された程度にしか感じてねぇのか。クイーンの尾が鞭のようにしなり俺の胴体を狙う。

 

「危ない!」

 

 ティアに突き飛ばされ俺は無様に地面を転がった。見上げればクイーンが大きく口を開け、今まさに俺の頭を噛み砕こうとしている。死ぬ――そう思った瞬間、背後の茂みから冷徹な声が響いた。

 

「おや、随分と手古摺っているようですね」

 

 青い光の礫がクイーンの頬を切り裂いた。

 現れたのは眼鏡の奥に底冷えするような光を湛えた男――ジェイド・カーティスだ。あいつは手にした槍を軽く回すと、まるで散歩でもしているような余裕で俺たちの前に立った。

 

「し、死ぬかと思った」

「喜ぶのはまだ早いですよ。仔が孵化すれば被害は収まりません……私の譜術で一掃します。時間を稼いで下さい」

 

 ジェイドが一度後方に離れると詠唱を始める。空気が震え髪の毛が逆立つ。こいつどんな譜術を発動させる気だ!?

 

「ルーク! 今は時間を稼ぐことに集中して!」

 

「わーったよ! それぐらいやってやるよ!!」

 

 ライガクイーンの猛攻を防ぐために防御に徹して時間を稼いでいると、あのいけ好かない眼鏡から合図がくる。

 

「離れて下さい! 終わりの安らぎを与えよ……フレイム「まったーー!!!」誰です!?」

 

 その場の全員の思考を強制停止させるような、ひどく場違いな声が響いた。

 

 ライガクイーンを守るように前に立っているのは白衣にスカート姿の少女。

 

「な、なんだお前!?」

 

「下がっててクイーン。そこの軍人さん、お願いだ、術を解いて。彼女たちはもう戦わない。僕が責任を持ってこの仔たちを連れて行くから」

 

 ジェイドは詠唱を止め、細められた瞳でその乱入者を射抜いた。

 

「……ほう。魔物を相手に意思疎通が出来る者ですか。妖獣のアリエッタはもっと幼い少女だったはず。あなた何者ですか」

 

「僕は別にしがない一般人だよ。ただこの仔達の友達ってだけのね」

 

「あなたのような一般人がいるわけないじゃないですか。それにライガ達は人間にとって害獣でしかない。今ここではいそうですかと言って野放しになんて出来ませんよ」

 

「理解してる。彼らには新しい住処が必要なだけだ。僕が別の森に、十分な食料と安全な場所を用意してある」

 

「用意してある、ですか。独断で魔物を保護し生態系を乱す……それは人道的支援ではなく、ただの身勝手なエゴですよ。軍人として、国民の安全を脅かす可能性を放置するわけにはいきませんね」

 

 ジェイドが槍を向け直す。その先にはライガクイーンだけでなく、彼女を庇うように立つ白衣の少女がいた。

 

「どきなさい。あなたの熱意は認めますが、交渉は決裂です」

 

「……やっぱり、話だけじゃダメか」

 

 少女が低く呟いた。その瞬間、彼女の首元の機械がキィンと共鳴し彼女の全身から、それまでとは比較にならないほどの密度の第七音素(セブンスフォニム)が溢れ出した。

 

「――大気に満てる音素よ、収束し爆発せよ《雷光掌》!!」

 

 彼女が放ったのは攻撃術じゃない。視界を真っ白に染め上げる、膨大な光の質量だった。

 

「しまっ――」

 

 ジェイドの声が遠のく。強烈な光に目を細め腕で顔を覆う。

 やがて光が収まり、俺が恐る恐る目を開けた時には。

 

 そこにはもう荒れ果てた地面があるだけだった。

 ライガクイーンも、卵も、そしてあの不思議な白衣のやつも。

 霧が晴れるように跡形もなく消え失せていた。

 

「……逃げられましたか。やれやれ、とんだイレギュラーがいたものですね」

 

 ジェイドは槍を収めたが、その目は笑っていなかった。

 ティアも杖を握りしめたまま、彼女が消えた先を呆然と見つめている。

 

「……あんな高度な譜術を詠唱破棄に近い速度で……一体、何者だったの……?」

 

 俺は何も言えなかった。

 ただ彼女が消える直前、前髪の隙間から見えたかもしれない意志の強さが、なぜか頭から離れなかった。




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今回は漸くルーク達を登場させれました。ここから物語は始まったんだよなと感慨深い思いを感じますね。
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