六神将のお世話係   作:俺は悪くねぇ!

11 / 12
更新遅くなりすみませんm(_ _)m


決めたんだ。僕は

 タルタロス襲撃の決行時刻が迫るダアトの軍港。兵士たちの慌ただしい足音や伝令の声が響く中、アリエッタの下へ一羽のグリフィンが舞い降りた。緊急連絡用として放たれていたその魔物は、ひどく狼狽した様子で喉を鳴らし、主であるアリエッタに異変を告げる。

 

「……えっ!? お兄ちゃんとお母さんが人間に襲われてるの!?」

 

 アリエッタの叫び声が港に響く。その声に周囲にいたオラクル騎士団の面々の慌ただしかった足音が止む。

 魔物の言葉を理解できる彼女は動揺と焦りで無意識に胸に抱いたぬいぐるみを強く締め付ける。

 グリフィンが伝えたのは北の森へ向かったライガクイーンが正体不明の人間たちの集団に包囲され、殺されそうになった時にサンが助けに現れたという火急の事態だった。

 

「行かなきゃ……! お兄ちゃんが、お母さんが死んじゃう! リグレット、私、今すぐ助けに行く!」

 

 アリエッタがグリフィンの背に飛び乗ろうとした瞬間、その細い肩を鋭い制止の声が貫いた。

 

「待ちさないアリエッタ! 今は閣下の任務の直前よ。勝手な離脱は許されないわ」

 

 リグレットが冷徹な軍人としての顔で立ちはだかる。だが、その声はわずかに震えていた。彼女とて、サンの身に何かが起きていると聞き胸の内を焼き尽くさんばかりの動揺に襲われていたのだ。

 

「どいて、リグレット! お兄ちゃんを見捨てろっていうの!? 任務なんて、お兄ちゃんの命より大事じゃない!」

 

「……っ、言葉を慎みなさい。私たちは六神将なのよ。私情で戦線を離れることが閣下の計画にどれほどの泥を塗るか――」

 

「僕が行くよ」

 

 二人の間に割って入ったのは不機嫌を絵に描いたような顔をしたシンクだった。彼は仮面の奥で冷ややかにリグレットを一瞥すると鼻で笑って見せた。

 

「あのアホは僕が連れ戻す……リグレットあんたが狼狽えてるせいでここの兵士たちまで動揺してるよ。あんたがここを動けないなら、僕が行く。アリエッタ、その鳥をもう一匹貸してもらうよ」

 

「シンク……! 貴方まで……!」

 

「襲撃のタイミングを少し遅らせなよ。どうせマルクトの船なんて、僕らが合流してからでも十分落とせる。あんたはここで『作戦の再確認に時間がかかっている』とでも言い訳してればいい……サンを死なせたら、あんた、一生後悔するだろ?」

 

 リグレットは息を呑み言葉を失った。

 軍人としての義務とサンを失いたくないという強烈な執着。その天秤はシンクの一言であっさりと傾いた。

 

「……わかったわ。二時間。二時間だけ、作戦開始を遅らせる。二人とも、必ずサンを連れ戻しなさい。いいわね?」

 

「言われなくてもそうするよ」

 

 シンクがグリフィンの背に飛び乗りアリエッタが手綱を引く。巨大な翼が巻き起こした突風がリグレットの髪を乱し、二人の影は一瞬にして北の空へと消えていった。

 

「軍人が私情を持ち出すなんて……私は軍人失格ね……」

 

 残されたリグレットは拳を白くなるまで握り締め、サンの無事を祈ることしかできなかった。

 

 

 

 =====

 

 

 

 つ、疲れた……ジェイドの譜術が発動しそうになったから焦って正面から対峙する事になった時は流石に肝が冷えた。

 シンクに譜術の扱いを学んでいなかったらと思うと背筋が凍る思いだよ。

 

「グゥルルルッ」

 

「んあっ! どうしたのクイーンって、僕を励ましてくれてるの? お前は優しいなぁ」

 

 頬を舐めるライガクイーンに心が温かくなる。助けられてよかったという思いが漸く実感出来た気がする。きっとこの世界でも僕という存在がいなかったらジェイドによって殺されていただろう。

 そんな事にならなくてよかった。

 

 原作の悲劇の一つをどうにか出来た事で気が緩んだのか膝の力が抜ける。

 そのまま草の上に座り込むと一気に疲れが押し寄せてきた。もう指先一つ動かすのにも重い鉛を引きずっているような感覚だ。

 

「……はは、本当に危なかった……」

 

 原作という名の確定した悲劇を僕というイレギュラーが塗りつぶしたんだ。この世界に来てからずっと怖かった。自分が何かをすることで、もっと最悪な事態を招くんじゃないかって。でも、クイーンの温かい鼻先が僕の頬を撫でるたび、その迷いは確信に変わる。

 

 救ってよかった。心からそう思う。

 

 さて、ここからどうするか。

 このままダアトに戻ればリグレットの説教どころじゃ済まないだろう。無断外出して敵国軍人との接触。ヴァンがこれをどう判断するかも予測がつかない。

 それに物語は止まってくれない。ルークとティアは今頃タルタロスへと連行されているはずだ。そこにはアッシュがいて、リグレットがいて……。

 

 ――あ。

 

 思い出した。タルタロスの襲撃。

 原作通りならこの後タルタロスは六神将の追撃を受ける。そこで多くの兵士たちが命を落とし、ルークは実戦の過酷さや人を殺す覚悟に打ちのめされ物語は加速していく。

 

 行かなきゃ。

 僕がそこにいれば、もしかしたら死ななくていい兵士がいるかもしれない。何より、ルークたちと早い段階で対話の窓口を作っておく必要がある。

 

 でも、どうやって合流すれば――そう考えた矢先、頭上の空を切り裂いて巨大な影が舞い降りてきた。

 

「――っ! お兄ちゃん! お母さん!」

 

 聞き慣れた愛らしい叫び声。

 グリフィンの巨大な翼が巻き起こした突風に目を細めると、そこには涙で顔をぐちゃぐちゃにしたアリエッタと、無言の威圧を放つシンクが乗っていた。

 

「アリエッタ……シンクまで!?」

 

 グリフィンが着地するなりアリエッタは転がるように背中から飛び降り僕に抱きついてきた。

 

「お兄ちゃん! 無事で良かった、良かったよぉ……っ! お母さんも、みんなも……!」

 

 クイーンに顔を埋めて泣きじゃくる彼女を僕は優しく腕でそっと受け止める。クイーンも嬉しそうにアリエッタに擦り寄っている。その光景をシンクはグリフィンの上から冷ややかな目で見下ろしていた。

 

「……ったく。リグレットが狼狽えてるから、どんな惨状かと思えば。泥で汚れているだけみたいだね」

 

 そう言って飛び降りてきたシンクの歩調はいつもより少しだけ速かった気がする。彼は僕の前に立つと、仮面の奥で僕の全身をなめるように観察した。大きな怪我がないことを確認したのか、ふん、と短く鼻を鳴らす。

 

「弱い癖に無茶をするとか、馬鹿じゃない? そもそも何かしたいなら僕に言ってくれればまとめて消してやったのに。あんたのせいで任務がめちゃくちゃだよ。リグレット、泣きそうな顔してたよ」

 

「……ごめん。でも、どうしても自分で行かなきゃいけなかったんだ。シンクに教わった譜術、役に立ったよ。ありがとう」

 

 僕が笑いかけると、シンクは一瞬だけ言葉を詰まらせた。それから忌々しげに髪を掻き上げ顔を逸らす。

 

「……感謝なんていらないよ。どうせあんたのことだから、またロクでもないこと考えてるんだろ」

 

 鋭いな。シンクを相手にしていると隠し事は出来なさそうだ。

 ただこれを言ったら凄い怒るだろうなぁ。

 僕は一呼吸置いて、答える。

 

「シンク。僕も皆と一緒に任務に行かせてほしい。タルタロス襲撃の現場に連れて行ってほしい」

 

「…………はあ?」

 

 シンクの仮面の下から地を這うような低い声が漏れた。空気が一変し殺気にも似た圧迫感が僕を襲う。

 

「あんた、今なんて言った? 脳みそまで泥が詰まったのかよ」

 

「冗談じゃないよ。僕も行かせてほしい」

 

「馬鹿も休み休み言えよ!」

 

 シンクが僕の胸ぐらを掴み上げた。自分と同じ顔、同じ声。けれどその瞳に宿る光だけは、今の僕と彼で決定的に違っていた。

 彼の怒りは至極当然なものだ。でも引き下がる気は毛頭ない。

 

「あんたに何ができるんだよ! 譜術を少し齧ったくらいで戦場に出るつもり? いいか、戦場ってのは人を殺す場所なんだ。あんた、人を殺せるのか? できないだろ! 甘いんだよあんたは!」

 

「確かに僕を人を殺す事は出来ない。けど、僕は人を生かす力がある。僕の力があれば任務の達成率も上がるはず。それはシンクがよく知っているでしょ?」

 

 至近距離で見据える。僕の瞳から溢れ出す意志の質量にシンクの方が先に視線を泳がせた。

 

「なんでこんなに頑固なのさ。黙ってダアトに帰っていればいいじゃないか」

 

「そういう訳にはいかないんだ。皆が危険な任務をしている中で僕だけ平和に過ごすことなんて出来るわけない」

 

「いいんだよそれで。きっと六神将のほとんどの奴はお前に来て欲しくないと思ってる。僕も……そうだ」

 

 シンクの優しさに胸が熱くなる。だけどはいそうですかと諦める訳にもいかない。

 僕の介入で原作が、預言が変わることはライガクイーンを救ったことで確信できた。なら僕が動かない理由なんてない。

 ごめんねシンク。

 

「それでも僕は行くよ。もう決めたんだ」

 

「この馬鹿っ! なんでなのさ。どうしてわからないんだ! こんなに僕のっ!」 

 

 シンクは乱暴に手を離した。不快そうに舌打ちをし天を仰ぐ。

 

「はぁ……お前がこんなに分からず屋とは思わなかったよ」

 

「ごめん」

 

「もういいよ。ただし! 僕や他の六神将と一緒に行動すること、これは絶対だ。いいね」

 

 念を押すように言うシンクに僕は力強く頷く。

 横でずっとやり取りを見ていたアリエッタがパアッと顔を輝かせて僕の腕に抱きついてくる。

 

「お兄ちゃんが行くなら、アリエッタが全力でお兄ちゃんを守る! お兄ちゃんを傷つけるやつはアリエッタが全員やっつけてあげる! ライガ達だってお兄ちゃんのためなら頑張るって言ってるよ!」

 

 ん~アリエッタの可愛さが天元突破してる~。癒しだ。マジ。

 

「ありがとう、アリエッタ。頼りにしてるよ」

 

 僕は彼女の頭を撫でライガクイーンに最後の別れを告げた。

 クイーンは僕の決意を理解したのか、静かにけれど力強く一度だけ咆哮した。

 

「行こう。タルタロスに」

 

 グリフィンの背に乗り、空へと舞い上がる。

 眼下に広がる森が小さくなっていく。

 

 原作だろうが預言だろうが関係ない。僕は僕が信じる道を行くんだ。




アリエッタは可愛い。シンクも可愛い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。