六神将のお世話係   作:俺は悪くねぇ!

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妖獣のひだまり

 〇月□日 天候:快晴(ライガたちが日向ぼっこをするのに最高の天気)

 

 アリエッタ――かつて導師イオンの導師守護役(フォンマスターガーディアン)を務め、現在は六神将の一員として戦場に立つ少女。彼女の精神は今不安定だ。

 というのも、イオンの守護役を外された事で嫌われたのか? 自分はもう必要がないのか? と不安になっているんだ。

 

 無理もない。それだけ導師イオンとの絆は深かったのだから。

 だが今の導師イオンはレプリカでありアリエッタが仕えていた本物は既に故人、彼女を解任したのもその事実を隠すためでもあったからだ。

 

 因みに僕の現在の容姿はメカクレ黒髪ロングで瞳の色も黒になっている。声もディストが作ってくれたチョーカーが自動で僕の声を変えてイオンの声とは見分けがつかないようになっている。

 だからアリエッタに僕が導師イオンのレプリカだとは気づかないと思う。

 

 僕は真実を知っているがこの事実を彼女に言おうとは思わない。それを口にするべき人間は少なくとも自分ではないからね。

 でも彼女の不安を少しでも解消出来ればとは思っているんだ。

 

 だから朝からアリエッタと一緒に森の近くまで足を伸ばした。

 森に出かけた理由は彼女が家族と慕うライガ達と交友を深める為だ。

 

 ライガとの出会いは警戒と敵意が強くて近づくのも大変だったけど、少しずつアリエッタを通して接していたら皆の弟分的な形に落ち着いたのか最近は、お、来たんかお前、ほなこっちきなみたいな感じでいつの間にかもみくちゃにされることが多くなった。

 

 そんな僕達を見てアリエッタが嬉しそうに笑う姿は、控えめに言っても天使様だったよ。

 

 

 

 ■月△日 天候:曇り時々雨

 

 今日はちょっと大変だった。アリエッタとアニスと導師イオンがばったりと会ってしまったんだ。

 もう険悪な雰囲気で寿命が十年縮んだと思う。

 

 アリエッタが先制攻撃でアニスに守護役を渡せと言って、アニスはそれに対してあっかんべーで返して、導師イオンは困った顔でわたわたとする。

 うん、カオスだわ。

 

 流石に見過ごす事もできず仲裁に入った訳なんだけど。

 アリエッタにイオン様は公務があるからあんまり困らせたらダメだよ~と言いつつ、ちょっとだけお話しをする機会を与えてはくれないかと頼んでみたり。

 

 まぁ今のイオン様にはアリエッタとの記憶がないから困る話だとは思うけど、それでも何も話さないのが最善っていうのは違うと思うから。

 上手いことイオン様には何とか同意を受け入れられたけど、その時にアニスにぶーぶー言われたよ。

 

 まぁ見知らぬ奴がいきなりイオン様にあーだこーだ言ってたらアニス的にもなんだこいつ? ってなるわな。

 アニスにはちょっと値が張るアイテム(賄賂)をこっそり上げて機嫌を直してもらい事なきを得た。

 

 アニスもアニスで苦労しているからな。正直アニスの親は半分毒親だからなぁ。

 娘に対して愛があることだけが救いかもな。子は親を切り捨てるのは難しい。どっかのタイミングでタトリン夫妻には他者を優先するよりも娘を大切にしろって言及しとかなきゃな。

 

 ま、とにもかくにも何とか場は収まった訳。アリエッタも別の機会にイオン様とお話しが出来ると知って愛らしい笑みを作っていたし(まじ天使)

 

 最初はどうなるかと思ったけど、円満に終わってよかったよかった!

 

 

 

 

 =======

 

 

 

 

 空は今日も高くてどこまでも突き抜けるように青い。

 でも、私の心はその青さに追いつけない。

 第七音素が空気の中で小さく震えている。世界が何かを囁いているようなざわざわした音。

 私には、それが時々不安の音に聞こえる。

 

「……お母さん……お腹、空いた?」

 

 私の問いかけに、大きなライガクイーン――私の「お母さん」が優しく喉を鳴らして応えてくれた。

 私は幸せなはず。ママもこうして側にいてくれる。

 それなのに胸の奥に空いた小さな穴が冷たい風を通すみたいにヒリヒリする。

 

「……どうしてイオン様。私、悪い子……した?」

 

 大好きなイオン様。

 私の守護役としての居場所。

 でも、最近のイオン様はどこか遠い。私を見る瞳に前のような光がない気がする。私を遠ざけてあのアニスという女の子ばかりを側に置く。

 私は、捨てられてしまったの?

 私が不出来だから? 言葉が上手じゃないから?

 

 視界が少しだけ潤んで、足元の草が滲んで見える。

 その時。

 

「……またそんなところで、迷子の子猫みたいな顔してる」

 

 聞き慣れた少しだけ低くて、でも羽毛みたいに柔らかい声。

 顔を上げると前髪の黒い髪を風に揺らして一人の少年が立っていた。

 

 サンお兄ちゃん。

 

 彼が誰なのか私は詳しく知らない。総長が連れてきた六神将の“お手伝いさん”みたいな人。

 最初は怖かった。黒い服を着て顔も半分隠れていて。

 

 でも彼は初めて会った時から私に話しかけてくれて、私が言葉を出すのに時間が掛かってもずっと待ってくれた。

 他の人は私からすぐ離れてしまっていたのに。

 

 お兄ちゃんはいつもニコニコしていて怖くない。私の話をちゃんと聞いてくれる。

 私の世界を少しだけ広くさせてくれた。

 六神将の人たちは怖い人もいる。シンクは口が悪いし、ディストはいつも大きな声で笑っていて不気味。アッシュはいつも怒ってる。でも、リグレットは厳しいけど私を守ってくれるし、ラルゴは大きくて怖いけど実は優しい。

 

 そしてお兄ちゃんは……側にいるとなんだか落ち着く。日だまりみたいに暖かい。

 

「お待たせアリエッタ。はい、これ。今日の為に作ったサンドイッチ」

「……美味しそう」

 

 差し出されたバスケットを開けると小麦と焼き上げたお肉の幸せな匂いが広がった。

 お兄ちゃんの作るご飯は不思議。

 一口食べると凍えていた心にポッと火が灯るみたいに温かくなる。

 

「ライガでも食べれる肉系も入っているから安心してね」

「……ママ皆。食べて」

 

 私が一切れ差し出すとお母さん達がぞろぞろとバケットに顔を突っ込んでいく。

 魔物は嘘をつかない。

 この人からは悪意の音がしないことをママ達も分かっているんだ。

 

「お兄ちゃん、私寂しい」

 

 サンドイッチを半分食べたところで私は膝を抱えて呟いた。

 お兄ちゃんは何も言わず私の隣に静かに座った。

 

「イオン様……どうして私を、見ないの? あの子の方がいいの?」

 

 アニス。私の居場所を奪った、あの子。

 イオン様はどうしてあの子とばかり一緒にいるの? 私はもういらないの?

 不安で苦しくて胸が張り裂けそうになる。

 お兄ちゃんは私の背中にそっと手を置いた。その手のひらがびっくりするくらい温かい。

 

「アリエッタ。君が悪いわけじゃないよ。君は世界で一番一生懸命な女の子だ」

 

「でも、遠ざける……嫌いだから?」

 

 お兄ちゃんは少しだけ眉を下げて悲しそうに笑った。

 その瞳の奥には私には分からない『何か』が見えているようだった。

 お兄ちゃんは時々こうして、未来のどこか遠くを見つめているような顔をする。

 

「嫌いなわけないよ。ただねアリエッタ。今はまだ言えないけれどいつか君が『本当の理由』を知る時が来る。そのとき君がどれだけ傷ついても……僕が絶対に君の味方でいるから」

 

「……理由? 私、知りたい」

 

「……ごめんね。今はまだ僕にはそれを言う権利がないんだ。でも約束する。君を一人にはさせない。君がずっと笑っていられるように」

 

 お兄ちゃんの言葉はとってもワガママで、でも力強かった。

 音素の震え。お兄ちゃんの体の中から静かで、でも底知れないほど強大な「力」が溢れている。

 でもそれに不安や恐怖はなくて。

 もっと、泥臭くて必死で私一人のためだけに振るわれるような……優しい力。

 

「お兄ちゃん。お兄ちゃんは、消えない?」

 

「消えないよ。少なくともアリエッタに嫌われない限りはずっとお節介を焼き続けるつもりだ」

 

 お兄ちゃんは私を安心させるように頭を何度も撫でてくれた。

 その感触が心地よくて私はいつの間にかお兄ちゃんの肩に頭を預けていた。

 

 イオン様のことは、まだ分からない。

 どうして私を遠ざけるのか、どうしてあの子を選ぶのか。

 不安が完全に消えたわけじゃない。

 でも、お兄ちゃんの隣にいると少しだけ呼吸が楽になる。

 

 総長は、時々お兄ちゃんのことを「役に立つレプリカ」って呼ぶ。

 レプリカ。それが何なのか私はよく知らない。

 でも、もしお兄ちゃんが何かの「代わり」だとしても、私にとってはこの温かい手も美味しいサンドイッチも、世界で一つだけの存在だ。

 

「お兄ちゃん……私、眠い」

 

「おやすみアリエッタ。起きたらライガたちと一緒にもっと広い草原まで遊びに行こう」

 

 お兄ちゃんの低い声が子守唄みたいに耳に残る。

 ママの温もり。お兄ちゃんの優しい匂い。

 私は、幸せな気持ちで瞼を閉じた。

 

 もし、世界が明日私の知らない理由で壊れてしまったとしても。

 この人が私の手を握ってくれているなら、私はきっともう一度笑える。

 

 ……ありがとう、お兄ちゃん。

 私、お兄ちゃんが……大好き。




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