六神将のお世話係 作:俺は悪くねぇ!
〇月×日 天候:晴れ時々雨かも
今日は六神将の中ではある意味で一番近しい存在シンクとのことを書いていこう。
彼に初めて会った時はそれはもう幾つもの暴言が飛んできたものだ。
消えろゴミとか、その笑みやめろ気持ち悪いとかね。でも一番傷ついたのは『僕と同じ空っぽな奴』ていう言葉かな。
それは僕が言われたからじゃなくて、シンクが自分の事を空っぽだと思っていることに悲しんだかな。
彼がそう考えてしまうのはレプリカとして生まれて使えないから廃棄されたってのが大きな理由だと思う。
必要な存在として生まれたのに能力が足りなかったが為に捨てられる。そして自分よりも後に生まれた奴は必要な存在としてその場にいる。劣等感を感じるなと言う方が難しい。
彼が自分は無能じゃないと証明するように血反吐を吐く程の努力と修練、そして譜眼と同様の文様を胸と背に刻み込む事で身体能力を強化した。
強さは手に入れた。
だがそれでも彼の心の渇きは癒えなかった。
だから自分を空っぽな奴だと言っているんだと思う。
一度受けた心の傷はそう簡単に塞がることはない。預言を恨むのも無理はないよ。
けど、それでも恨みのみで生きるシンクに別の生き方もあるんじゃないかと言いたい。
原作みたいに恨んで恨んで世界そのものを憎んで、自分の命をただの道具のように扱うのが嫌なんだ。
ルークも言っていた。レプリカだって皆と同じように生きている。そこに違いなんてないと。
それを伝えたくて、でも彼にそれを言ったとしてもわかってくれる可能性は低い。
なら行動で伝えようと考えたって訳。
取り敢えずコミュニケーションをしないと距離を近づけないから、シンクに色んなゲームを強制的に付き合ってもらった。
まぁ最初は断られたり逃げられたりしたけど、僕との勝負に逃げるんだ? シンクって意外と臆病なんだねって挑発したら付き合ってくれるようになった。
因みにゲームは指スマとかトランプでポーカーとかその他色々やったよ。
勝率は9対1で僕の負け越しではある。悔しい。
でもゲームを通してだけどシンクと交流出来たのは嬉しかったな。なんだかんだで僕に付き合ってくれてるし。
いつの間にか彼にゲームを挑むのが日常になっていて、僕が部屋で休んでいたら気まぐれに来てゲームをするぞとあっちから言ってくれるようになったんだよね。
これめっちゃ嬉しかった。友達が出来たみたいで。
それにシンクが別のことに興味を抱いてくれるようになったのも良い傾向だよね。今まではヴァンの命令と自己鍛錬しかしてこなかったみたいだし。
少しずつだけど良い方向にいっていると思う。
願わくば彼が自分を大切に思えるようになってくれたらいいな。
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執務室の窓を叩く鋭い風を横目に見ながら僕は仮面の奥で小さく息を吐き、目の前の卓上に広げられた色褪せたカードを見つめた。
トランプ。
向かい側では僕と同じ器の形をした男――サンが悔しそうに眉を八の字に曲げて頭を抱えている。
「ああっ、また負けた! シンク、君さ動体視力とか反射神経とかゲームに使うの反則じゃない?」
「……ハ、何を言ってるんだか。勝負に全力を出さない馬鹿がどこにいるのさ。お前が鈍すぎるだけだろ、ゴミ屑」
吐き捨てた言葉はいつものように刺々しく、冷たい。
けれど以前のように殺意が乗っていないことに自分自身が一番気づいていた。苛立たしい。この男の側にいると僕は僕じゃなくなる。
恨み、憎しみ、怒り、世界を破壊して自分を壊して漸くこの激情が収まる筈なのに、僕の心がまるで陽だまりに置かれた氷のようにじわりと溶け出していくような感覚に陥る。
サン。ヴァンがどこからか拾ってきた出来損ないのレプリカ。
初めて会ったとき僕は心の底からこいつを殺してやりたいと思った。僕と同じ顔、僕と同じ声。なのに、その瞳には僕がとうの昔に捨て去ったおぞましいほどの善性が宿っていたからだ。
僕は導師の代わりとして作られ能力が足りないというだけでゴミのように捨てられた。
だから僕は自分に刻印を刻み血を吐くような修練を重ねて、誰にも負けない強さを手に入れた。空っぽの器を憎悪と力で満たすことでようやく僕は“僕”という個を確立したはずだった。
なのに、この男は何だ。
戦わせれば剣一つ振り回せず、戦う力もない。挙句の果てには六神将という破綻した集団の中に平然と入り込み、お茶だ、菓子だ、ゲームだとくだらない日常を撒き散らしている。
「……ねえ、何がおかしいの。さっきから僕の顔を見てニヤニヤしてさ。気持ち悪いんだけど」
「え? いやシンクが負けず嫌いなのは知ってたけど、トランプをめくる時の指先が任務の時と同じくらい真剣だったからさ……そういうところ、可愛いなって思って」
「殺すよ」
間髪入れずに返したがこいつは「はいはい、お疲れ様」と言って、ニコニコと笑いながら新しい茶を淹れ始めた。
……これだ。この笑みが僕を狂わせる。
僕たちはレプリカだ。明日には
最初は、ただの挑発に乗っただけだった。
『シンクって意外と臆病なんだね。僕との勝負から逃げるなんて』
そんな安い挑発、聞き流せばよかった。殺して黙らせればよかった。
けれど、気づけば僕はこいつの部屋に足を運んでいた。ポーカー、大富豪。勝つのはいつも僕だ。当然だ。僕がこんなポヤポヤした奴に負けるはずがない。
けれど、何度負けてもこいつは笑って僕を誘う。
『次は勝つからね!』『シンク、今のブラフ上手すぎ!』
負けた側が、どうしてそんなに楽しそうにしている?
勝ったはずの僕の胸の中にどうしてこれほどまでに虚しさではなく、得体の知れない熱が溜まっていくんだ。
「……お前さ。どうしてそんなに必死なの。僕と遊んだところでお前の地位が上がるわけじゃない……無駄だと思わないの?」
僕の問いにサンは茶菓子を口に運びながら、少しだけ考える仕草をした。
「無駄かな? 僕はそうは思わないよ。だってこうしてシンクとゲームをしてる時、君は“六神将の烈風のシンク”じゃなくて、ただの負けず嫌いなシンクとしてここにいる。僕はね、その時間が何よりも価値があると思ってるんだ」
「……意味がわからないね。僕は出来損ないのレプリカだよ。それ以外に僕を定義する価値なんてない」
「あるよ。僕が勝手に決めた。シンクは僕の大切な友達だって」
友達。
その響きがあまりに滑稽で吐き気がした。
僕をただの道具としてではなく、一人の人間として見ようとする、この男の傲慢さ。
けれど……その言葉を耳にした瞬間、僕の中にある負の激情が一瞬だけ熱を失ったような気がした。
最近の僕は、おかしい。
気づけば自分からこいつの部屋の前に立っていることがある。「ゲームをするぞ」と、自分から誘う言葉を喉まで出している。
ヴァンの命令。自己研鑽。世界への復讐。
それだけで満たされていたはずの僕の空白にサンという男がトランプのカードや温かいお茶や、くだらない笑い話で勝手に上書きをしていく。
僕が自分を空っぽだと叫んでも、彼は「じゃあ、僕との思い出を詰め込もう」と笑って返す。
それが、どれほど残酷なことか分かっていないんだ。
もし、僕がこの温かさに慣れてしまったら。もし、僕がこの日常を愛してしまったら。
僕はもう、笑って世界を壊すことができなくなってしまう。
「……サン」
「ん? 何、シンク。もう一回やる?」
「……次。次、僕が勝ったらその気持ち悪い笑みをやめろ。見てるだけで調子が狂う」
「あはは、それは無理だよ。次勝つのは僕だからね」
サンがカードを配る。その手つきは相変わらず不器用で危なっかしい。
僕はそれを眺めながら仮面の下で、自分でも気づかないほど小さな溜息をついた。
きっと僕の最期は呆気ないものだ。
憎しみに狂い、孤独に沈み誰にも看取られずに消えていく……。
けれど、もし。
もし、この目の前で笑っている男が僕の最期を看取ってくれるなら。
「……ふん。勝てるわけないだろ。受けて立ってあげるからさっさと配りなよ」
僕は卓上のカードを指先でなぞる。
このアホが来てから六神将が、いやダアトは変わった。うるさくて面倒だけど今はそれがないと不思議と違和感がある。
お前はなんなんだろうな。
この時の勝負は僕の負けだった。
次の更新も頑張ります!