六神将のお世話係 作:俺は悪くねぇ!
∪月Å日 天候:快晴(山から吹き下ろす風が、戦士の休息にちょうどいい)
今日は、六神将の中でも一際大きな背中を持つ男、ラルゴについて筆を走らせようと思う。
ラルゴ……黒獅子ラルゴ。その名の通り戦場では誰よりも勇猛で敵を粉砕する破壊の権化だ。けれど僕が知っている彼は誰よりも優しい男だと。
不器用で優しい、それ故に怒りや悲しみもまた大きいんだ。
彼は預言によって妻と娘を失った。だからこそその憎悪は計り知れない。
ヴァンの計画に自身の命を賭けて挑む男だ。それが例え実の娘が敵であっても。
なんでだろうな。彼のような男が世界を滅ぼす計画に賛同している。
悔しいし悲しい。
これは六神将の皆にも思う気持ちだ。
自分は未来を知っている。
どういう結末になるのかを、ならどうすればいいのか……そんなの決まっている。
誰もが笑顔に終わるハッピーエンド!
それ以外に見たい終わり方なんてない。
という事で僕は六神将の皆と交流している訳なんだけど、ラルゴが実は一番の常識人なのではと感じていたりする。
性格も見た目と違って穏やかだし、よくアリエッタが寂しそうにするとそっと近づいて側に寄り添ってたりするからね?
僕に対してもアリエッタと同じような関わり方をしていて、よくちょっとしたお菓子とかをアリエッタと同じように貰ったりする。
結構僕も単純だからアリエッタと一緒になってやったー! とか喜ぶから同じように見られているのかな。
まぁそういう感じで実は六神将の中だと比較的簡単に仲良くなれたのかな。
そこそこ話す仲になったからちょっと僕の戦闘力的なのを見てもらおうって考えたのね? 一回ぶつかり稽古みたいな感じでやってみたんだけどラルゴが思わず顔を覆うぐらいには酷かったみたいで、お前に戦う才能はないとラルゴに言われたのをここに報告しておく。
実に情けない結果ではあるけどラルゴとの仲は良くなったと思うのでヨシ(現場猫)
%月〒日
おかしい。定期的にラルゴと戦闘訓練をすることになったのだが。
僕が相手を攻撃するのが不得意だと知った彼はじゃあ後方支援はどうなのかとなり、幸い僕はそっちの方は適正があったおかげでヒーラー兼バッファー係として戦闘に参加出来るように敵との立ち回り方や生き延びる術をラルゴに叩き込まれた。
うん、めっちゃ為にはなったよ? けどね、だからといってあの大鎌をブンブン振り回すの止めてもらいませんか?
くっそ怖かったぞ。いやね? 一応僕が怪我をしないようにギリギリ当たらない所で寸止めをしてくれているけど、それはそれとして普通に怖いから!
後ろでアリエッタが可愛く応援してくれたから頑張れた。マジで。
でも教え方が上手いから僕の身のこなし方はだいぶ良くなった。流石ラルゴ略してさすラルである。
自分が成長できているのが嬉しすぎて感謝の意を示す為に思わず彼に抱きついちゃったんだけど、その時のラルゴの顔がちょっとおかしくて笑ってしまった。
そんな僕達を見てたアリエッタもラルゴに抱きついてきて、珍しくラルゴが困っていたな。
でも拒絶はしなかった。僕達が満足するまで眉を下げてじっとしていた。
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俺は黒獅子ラルゴ。
だというのに、どうして俺はこの軟弱極まりない少年の細い肩を突き放すことができないのか。
サン。この少年と初めて会った時のことは今でも鮮明に覚えている。
ヴァンが「面白い予備だ」と連れてきた少年は導師イオンのレプリカだった。
俺と目が合っても怯えるどころか、あろうことか握手を求めてきたのだ。
その手はあまりに小さくか細い、頼りないものだった。
だが触れた手からは生きた人間の熱を、自分は今を生きているんだという意思を感じた。
ヴァンのレプリカ計画には賛同をしているがそのやり方には多少思うことはある。あるだけでそれを止めようとは思わないが。
この男もヴァンの計画の一部なのか、それとも気まぐれで生まれたものなのか。
何故ああも“普通”であれるのか。それが不思議で仕方ないのだ。
だから聞いてしまった。
「なぜお前は前を向いていられる?」
聞いてから少し後悔をした。それは聞くべきではないことだからだ。そもそも六神将内でも過去のことに触れない、或いは干渉をしない事を決めていたからな。
それはサンにも同じ事だった。
「ん~僕はちょっと楽観的なだけってだけだよ。それに皆と関わるのが僕にとって幸せでもあるしね」
「俺達と関わるのが?」
「そ。僕は皆と話すの好きだよ」
「わからんな。俺達と出会ったのは最近だろう? 何故そこまで肩入れする」
サンは顎を手で触りながら口を動かす。
「んー、そうだなぁ。出会ったのが最近とかそんなのはあんまり関係ないんだよね」
サンは少し照れくさそうに笑いながら、真っ直ぐに俺を見上げた。
「今を生きているから知りたいし好きになりたいって思うんだ。それはそんなにおかしなことかな?」
「……それはヴァンの計画を知っていて尚そう考えているのか?」
ヴァンが態々こっちに紹介をしているぐらいだ。知らぬはずはない。
「知っているよ。まぁ全てではないけどね。でも僕はそうありたいと思うんだ」
「我らがどういう志を持っているのか知っていてそれでもか?」
「それでも、だよ。これは僕の勝手な思いだけれどね。でもそこに迷いはないよ」
その言葉に俺は何も言えなかった。
無駄であると切って捨てることは簡単だ。だがこの少年にその言葉を言うにはあまりに真っ直ぐで、眩しかった。
ただ黙って目を背けることしかこの時の俺には出来なかった。
時間は進み、今もまだ俺はサンと関わっている。
場所はオラクル騎士団の訓練所の広間、そこで俺はサンに生き残る術を教えていた。
広間の後ろではアリエッタがサンを応援しているが、当の本人はこちらの攻撃を必死に躱しているためか反応する暇はない。
「動きが悪くなってきたぞ。もうへばったか?」
「う、そんな、こと、いわれて、もぉ!?」
大鎌による連撃を紙一重で躱し続けて疲れてきたのか、動きが明らかに悪くなってきた。
そろそろ頃合いか。
「一度休憩にするか」
「だはぁー!! ちかれた……」
大の字で寝転ぶサンにアリエッタが心配そうに近づいてくる。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「だいじょぶだいじょぶ。ただ流石にもう身体を動かせないかな」
「まだまだ体力作りはするべきだな。それではすぐにガス欠を起こして死ぬぞ」
「て、手厳しい」
苦笑いを浮かべるサンに手を差し伸べる。
「だが、最初の頃よりは動きは良くなっている」
「ら、ラルゴ~~~!!!」
手ではなく腕に抱きついてきたサンに困惑していると背中の方からも衝撃がする。
「アリエッタも仲間に入れて!」
二人に抱きつかれた俺はどうしたらいいか分からず、ただ呆然とするがままになっていた。
「……やれやれ。これでは訓練どころではないな」
口では呆れたように呟くが、俺の手は二人を突き放すことができずにいた。
右腕に縋り付くサンの細いながらも確かな生の脈動。背中に感じるアリエッタの小さくも温かな体温。
幾つもの戦場で返り血と硝煙にまみれていた俺にはこの平穏という名の重みがあまりに眩しすぎる。
忘れた、いや捨てたものだったはずだ。
あの時に全て、一切合切を投げ捨てて世界を壊す事に心血を注ぐと決めた。
今更なぜこの気持ちがでてくるのか、きっとこの少年、サンが原因だろう。
奇妙な男だ。心の隙間に突然入ってくる。だがそこに不快感がない。
今更自分を変えることはきっとないだろうが、それでもこの男との関わりを今はもう切れそうにない。
ラルゴが一番優しそう。父性が凄そう。