六神将のお世話係 作:俺は悪くねぇ!
■月×日 なんだが今日は肌寒い。
今日は疲れた。本当に胃が縮む思いをした。
実はあのヴァングランツと一対一で話をしたのだ。
なぜそうなったのかは正直今もわからない。突然呼び出された訳だからね。
今の今まで全くコミュニケーションがなかったのに、なんなら顔を突き合わせる事もなかったんだけどな。
そして始まったのが長い沈黙。最初何か話があると思って来たのに、会って挨拶したらこちらをまるで実験動物を観察するような眼差しで見つめてくるとか、マジで勘弁してほしかったわ。
おかげで生きた心地がしなかったぞ。
数分してから漸く口を開いたと思ったら「貴様にとって預言とはなんだ?」とか聞いてくるし。
預言嫌いのヴァンからしたらそっちが気になるのかね。一応自分が考えていた事を伝えたんだけど、何故か笑われた。
なにがヴァンの琴線に触れたのかわからないけど、漸くこちらをちゃんと見てくれるようになった気がする。
前までのヴァンは僕を人間として見ていなかったからな。
ヴァンの計画を考えれば道具としか思っていないことぐらいはわかってはいたけどね。今も結局のところ自身の計画に使えるかどうかしか考えていないってのは感じるし。
人類も何なら世界すらもレプリカに変えて、預言のない世界を作ることが彼の悲願であり復讐だ。
ヴァンは計画が無事に達成された後の事なんて考えていない。預言が無くなれば何でも良いというのが僕の見解だ。
実際に彼や六神将の皆は計画が成功すれば自分たちのレプリカを複製し、オリジナルである自分たちは自害する予定であったと、確か情報としてあったはず。
彼らはそもそも生きようとはしていなかったんだ。自分達の全てを壊した元凶に復讐がしたいってのが動機として一番強いんじゃないかなって思っている。
そんな彼らを変えることは並大抵なことでは不可能かも知れない。けど僕は諦めない。
彼らが死ぬ未来を変えてみせる。
だって彼らと実際に会って話して思うんだ。こんなにも優しくて誰かを思える人達が、どうして死ぬしかない道を歩まなければいけないのか。例えそれが自身で選んだ道だとしても、僕はそれを認めない。
認めてなるものか。
絶対に皆を死なせない。
¥月*日
今日はヴァンからとある相談を受けてきた。
あの完璧超人でラスボスのヴァンが僕に相談って、いったいなんなんだ!? ってめっちゃ警戒していたんだけど内容を聞いたら呆れてしまったよ。
妹との仲が今良くない。どうしたら仲が親密になれるのか? だとさ。
思春期迎えた妹に年の離れた兄はどう関わっていいのかわからんらしい。
なんでそんな相談を僕なんかにしたのか聞いたら「短い期間であの六神将と親密な関係値を築いたからこそ、聞いてみたくてな」と。
原作でもそうだったけど、ヴァンって本当にティアの事大好きだよね。
レプリカ計画で自身や六神将は自害する道を選んでいたけど、ヴァンはティアにその道を強制させてなかったからね。ティアに対して「クリフォトに引きこもっていたら生き残れただろうに」というセリフがあった事からも、ティアだけはレプリカにせずに生かす予定だったというのは明らかだ。
最後の最後までティアが生き残れる道を残していた事からも分かる通り、ヴァンは自分の手で世界を壊し、自分という汚れを消し去るその瞬間まで、ティアだけには汚れのない明日を歩ませようとしていた。
復讐に身を落とし、人類すべてをレプリカに変えるという狂気の中にあっても、彼の中に残った唯一の人間としての情が妹という存在に集約されていたんだと思う。自分たちは死にゆく旧人類の残滓として消える。けれど、新世界で芽吹く命の象徴として最愛の妹だけはスコアに縛られない自由な空気を吸っていてほしい。そんな、あまりにも不器用で身勝手で切ないまでの兄としての顔。
そんな顔を僕に見せて相談してくるなんて、反則だろ、ヴァン。
結局、僕は「まずは無理に距離を詰めようとせず、そうだな。手紙なんか書いてみたらいいんじゃないかな?」とアドバイスすると、ヴァンは大真面目な顔で頷き、顎に手を当てて考え込んでしまった。
その姿は世界を滅ぼそうとするラスボスというよりは、反抗期の娘にどう接していいか分からないお父さんそのもので。
僕はそれを見て改めて強く思ったんだ。
こんな顔ができる男が世界を滅ぼすしかない道を選ぶなんて、嫌だなって。
=====
面白いレプリカを拾った。
モースの実験の失敗作としてザレッホ火山に廃棄予定だった導師イオンのレプリカ、シンクと同様の個体だ。
だがそのあり方は全くの別。シンクは自分に劣等感を感じ、己の存在に価値を見出だせていない。
だからこそ自分が生まれた元凶の預言を心底から憎んでいる。
一方であのレプリカは預言を憎んではいないようだった。奴の目に怒りや憎悪が見えなかったのだ。
理不尽に生まれて捨てられるという体験を経てもだ。
それだけではない。誕生した時は他のレプリカ同様劣化をしていたはずが、今ではオリジナル導師イオンを超えた
恐らくダアト式譜術を使ったとしても何も問題はないだろう。
驚異的なデータだ。レプリカがオリジナルを超えるなど殆どない。例外はあるが。ただその例外の方法では能力は高くとも性格や情緒が高確率でおかしくなるため、私の計画に使えない故にその研究は廃止している。
能力だけではなく奴の異常性は他にある。あのレプリカは六神将と関わりを持ち、親交を深めている。
本来であればありえない光景だった。彼ら彼女らは我が計画に賛同して集まった傑物達であり、今更情に絆されるような人間ではない。
そのはずだった。
結果は六神将を中心に
私の命令に忠実に動く同志達が、甘く、もう捨てたはずの日常を享受している。
信じがたい光景だ。同志達のあんな穏やかな顔など私でさえ見たことがない。
奴と関わる空間には異質な安らぎが発生しているとしか言えないものがある。
興味深い。
ただのレプリカ風情が舞台を動かそうとしているのだ。
信念も生きる意味も持たぬ筈のレプリカが、何を成そうと思っているのか。
私の計画の一助となるのか、それとも計画の邪魔をしようとしているのか。それとも別のなにかがあるのか。
気になった私は奴を執務室へと呼び出した。
扉が開かれ入ってきたその個体――サンは、私の視線に晒されるなり目に見えて萎縮した。肩をすくめ胃のあたりをさすり、今にもこの場から逃げ出したげなあまりにも矮小な反応。シンクのような鋭利な殺意も、アッシュのような剥き出しの敵意もない。ただ、そこには生を惜しむ、どこにでもある人間の怯えだけがあった。
私は数分の間、沈黙を以て奴を観察し、徐に口を開く。
「貴様にとって預言とはなんだ?」
沈黙を破り、私が放った問いに奴はあからさまに虚を突かれた顔をした。そして、逡巡の末に絞り出すように答えたのだ。
「まぁ便利なものではあるとは思う。けど未来を知るのってつまらないなって思うよ」だと。
驚き。世界を縛り何千年も人類の営みを規定してきた絶対の真理を、奴は「つまらない」と切り捨てた。一国の主でさえ預言を頼りにして必要であれば戦争を起こすというのに。
私は……笑いを禁じ得なかった。
人間というのは楽な道があればそちらに行きたがるものだ。
この考え方はレプリカであろうと変わらんだろう。
目の前のレプリカが出した言葉はあまりに常識を超えた発言であり、なんともおかしく、面白い回答か。
久方ぶりに腹を抱えて笑ってしまった。
そのせいでどうやら怖がらせてしまったようだが、まぁいい。
レプリカ、いや、サンに私は改めて名乗る。
「改めて名乗ろう。ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ。これが私の本当の名だ」
「えっと、じゃあ僕も。サン、ただのサンだよ」
机越しに握手した私の目に映る少年は困惑をしながらも、真っ直ぐに私を見ていた。
「六神将と仲がいいらしいな」
「まぁ、仲良いと思うよ。皆優しいし」
「優しい……? いや、そうか。少し聞きたいのだが、お前は何故六神将に関わるのだ?」
紹介こそしたが、それはただの顔合わせでありそれ以上の意味などなかった。
だがこの少年は私の想像を超えて六神将との関わりを大切にしている。それが不可思議だったのだ。
「特にこれだって理由はないよ。ただ皆の事を知りたくて、そんで仲良くなれたらなって思っただけ」
あまりにありふれたものだった。何か強い信念がある訳でもない。
ただ友人になってほしいという純粋な思い。
邪気がなさ過ぎて肩透かしを食らってしまった。
そうか、その純粋さが彼らを……。
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「え、妹との仲が上手くいってない? それはヴァンが何かしたんじゃないの?」
「した覚えはないんだがな」
現在、とある相談をするためにサンの部屋で作戦会議をしている。
相談内容はティアとの関係を良好にするにはどうしたらいいか、だ。
「確か妹さんってリグレットの教え子なんでしょ? ならリグレットに聞けば?」
「……リグレットには言えん。私にも威厳がある」
「いや、別にいいでしょ。ヴァンの事が大好きなリグレットなら喜んで相談に乗ってくれるよ」
「私はあの曲者だらけの六神将と仲が良くなったお前の意見が聞きたいのだ」
実際、サンの人と仲良くなる能力は極めて高い。六神将もそうだが
恐らくだが人と仲良くなる能力が人より高いのだろう。私もある程度人身掌握や人と接するスキルはあるが、こと妹であるティアとはどう接していいかわからなくなる時があるのだ。
こんな相談を部下にするなど、流石に出来ん。
「ん~取り敢えず会って話が出来るならそうした方がいいけど、たぶんそれは難しいんでしょ?」
「そうだな。あまり休む事もできんからな。まとまった休みがあれば……」
「ううーん社畜さんだ。じゃあさ、手紙とかどうよ?」
「手紙か」
なるほど、それは悪くない手だ。言葉にすると難しい事も文であれば伝えることも可能だ。
「うむ、それでいこう」
「ちゃんと大好きだよって伝えるんだよ? ヴァンってそういう事言わなそうだし」
「……検討しておく」
「それ絶対書かないでしょ」
呆れるサンを尻目に、私は自室へと帰る為にドアに向かうと、背中から声が掛かる。
「ヴァンは妹が大切なんだね」
「そうだ。唯一の家族だからな」
言葉と同時に私はドアを開いてその場を立ち去る。
そう時間は残っていない。計画はもう既に始まっている。
世界を、預言を消し去り人間をレプリカへと変える計画が。
血で染まるこの手で最愛の妹に手紙を書く私は……狂っているのやもしれんな。
だが、もう決めたことなのだ。
預言は必ず消すと!!
ヴァンを書くのにめちゃ時間掛かった……。
彼の複雑な決意や気持ち、どれだけ妹の事を思っていても、自分の復讐心を抑えられない。本当に難しいキャラです。
でもだからこそ滅茶苦茶良いキャラだなって思ってます!
次の更新も気長にお待ち頂ければ幸いです。