部活の実績にすべく、女の子3人がうろうろする。

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もしもし竜宮城ですか?

 そこは薄暗い洞窟の中だった。

 

「こんなモノがあるとはね」

「あるとはねー」

 

 赤毛短髪の少女が驚きの声をあげ、背中まで長い金髪少女が楽しそうに合わせている。

 そんなふたりの気配を背後に小学生ぐらいにしか見えない少女が元気よくお宝に目を輝かせた。

 

「みんなー、お宝だ! 回収するよー!」

「アサヒー、でもこれ嫌な予感しない? 絶対に何かの儀式のヤツだよ」

「えー?」

 

 アサヒと呼ばれた少女が座り込んだ姿勢から、赤毛短髪の少女を見上げ不満そうにした。

 

「んー、アサちゃん、私も嫌なヨカンがするかなー。でもショウコを持ち帰らないと廃部だしねぇ」

 

 金髪の少女が困ったように溜息をつく。

 その横顔は懐中電灯に照らされてもなお翳っていた。

 

「証拠じゃなくて、実績が欲しいだけなんだよね。ここにこれがあるって情報だけ持ち帰っても価値はあると思う」

「でも誰かが隠蔽したらどうするのよ。モノは確保しておかなきゃ。なるべく沢山!」

 

 小さい体で主張する。

 

「帰ったらスクープを発表するの。私たちの名前で! 竜宮城は太鼓山にあったって!」

 

 京都府北部にある丹後半島のほぼ中央に太鼓山はある。

 浦島の伝説にも縁がある山だが、そこに竜宮城が在るだなんて話は噂にすらない。

 

 ただこの少女が主張し、友達ふたりを引き連れて解明に挑んでいる暴挙である。

 

 

 

 数日前――――

 

『このまま実績がないと廃部だねぇ』

『廃部だねぇ』

『閃いたわ。竜宮城を捜しましょう。海でみつかってないのは、きっと山にあるからよ!』

『んー、アサヒは何を言ってるのかなー?』

『アサちゃん登山したいの?』

 

 3人は太鼓山の麓にある高校の不思議研究部だった。

 週末や長期の休みに入るたび、徒歩圏内にある謎を追う。

 しかし他者が評価しやすい成果はなく、廃部の危機となっていた。

 

 この夏休み中に結果を残せないと、新学期と共に部活動は終了を迎えるのだ。

 

 

 

「そしてあわよくば、この証拠の品はネットオークションで!」

 

「アサヒは恐れをしらないよね……」

「でもこれきっと高いわよ」

 

 アサヒがリュックに入りきらなかった物をひとつ掴み掲げて断言する。

 

「だって赤珊瑚よ! 宝石みたいなものじゃない。絶対に高いわ!」

 

 3人のいる空間を照らすと、赤珊瑚から磨き上げたと思われる粒が、あちこちに赤く輝く星の山となって積まれていた。

 その粒ひとつひとつが亀のカタチを模している。

 

「亀キレーだね!」

 

 金髪の少女が笑顔を輝かせた。

 

「カメラが途中で壊れなければねぇ。写真だけでも良かったのに」

 

 赤毛の少女はこの隠された場所が何かの儀式跡に思えてしかたがなかった。

 嫌な予感は消えない。

 

「判ったわよ! 私のリュック一杯でいい。オークションもしない。活動実績だけ貰って、このお宝は警察にでも届けましょう」

「それがいいよ」

「いいよー」

 

 こうして3人は下山することにした。

 まずは洞窟から出るために引き返す。

 

 山の中腹にあった風穴から入りこんだので、そこから地上へ戻る算段だ。

 

 風穴は山肌から地上へ風が噴き出す小さな穴である。

 その風は冷たく、人ひとり這い入るのも難しい。

 

 見たらわかる。

 つまり普通は誰もそこから入ろうとは思わない。

 

 風がどれだけ強くなっても、より冷え冷えとしても、吹き飛ばせない【忌避】がそこには澱んでいる。

 

 移動しながら金髪の少女が気がついた。

 

「あの風穴、このパンパンに膨らんだリュック背負ってたら無理じゃないカナ?」

 

 そもそもただでさえ狭くめり込むように侵入したのだ。

 

 3人とも胸が引っかかって進める角度を探るのが痛かったのを思い出す。

 子供っぽい冒険に明け暮れる割に、そこだけは大人顔負けの成長だった。

 

「確かに。風穴に着いたら、3人分のリュックに分けようか。それにしても……」

 

 赤毛の少女も風穴から入ったときの事を思い出し苦笑いを浮かべる。

 

 暗く冷たく狭い穴。

 風穴は天然のクーラーとも呼ばれるが、その奥は低酸素になっていることがある。

 

 つまり風穴へ入るというのは酸欠の危険と隣り合わせなのだ。

 

「アサヒが勝手に穴に這い入るから、ボクらも着いていかざるをえなかったんだよね……」

「なによ。あんた達だって抑えられなかったでしょ。好奇心」

 

 好奇心。

 先に進んだ友達を心配もしたが、確かに2人を動かしたものは好奇心である。

 

 この先に、何かあるのか。

 それとも何もないのか。

 

 何もなかったとしても、風穴に潜ってみたという経験を友達と共有できただけで内心に満足感があったぐらい止めようがなかった。

 

 風穴から潜り込んだ先には、立って歩ける洞窟があった。

 そこでは風に冷やされた湿気が濃密な霧となっており、露出している頬からは体温が奪われた。

 さらに寒さで身震いしながら霧の中へ腕を伸ばすと岩壁に触れるまでが意外に近くて驚かされる。

 

 腕を伸ばせば触れられる距離の岩壁すらも、霧は気配なく隠していた。

 3人は神秘性すら覚えた。

 

 まるで二度と出られない黄泉の国の入口に立っているようで……

 

 だが3人の足は脅えず奥へ進む。

 

 ――――好奇心の賜物だった。

 

「まぁね。歩いているうちに霧が消えたのは助かったよ。風も弱まって寒くもなくなったし」

「流石はアサちゃん! リューグージョーを捜すといって山に登り、岩と岩の隙間に入り込むなんて大冒険ダヨ!」

「そうだね。流石はアサヒだ。不思議なことに首を突っ込んでも無事に帰れるのが、ボクらのいつもの成果だ。今回はカタチのある実績もあるし万々歳」

「まだ帰ってる途中なんだから油断しちゃダメよ、ふたりとも。いま地震がきたら一発で終わりなのよ」

「自覚はあるんだね」

「うう、日本コワいよー」

 

 懐中電灯の灯りが洞窟のゴツゴツとした足場を照らす。

 壁と天井の閉塞感、空気の流れが頬から体温を奪う。

 暫く歩くと風が強くなってきて、霧も濃くなる。慎重に進む。

 

 風穴に到着した。

 

「改めて見たら無理ね」

「おー、人の体でいっぱいいっぱい。カメは柔らかくならないからキビしい」

 

 金髪の少女が自分の胸を両手でつかんで指を沈める。

 この柔らかさがあるから通れたのだ。

 

「うーん、そうだねぇ」

 

 赤毛の短髪少女も自身の胸を左右から持ち上げるように指を沈める。

 強引に侵入したとはいえ、やはりこの柔らかさがあってギリギリだった。

 

「ううー、持ち帰りたいー。カメがー」

 

 アサヒと呼ばれている少女も、小さい体ながら不満をぶつけるように自分の胸を揉みしだいた。

 小さくしようと押し込むと、胸の肉に指が完全に埋まった。

 

 少し急な岩壁の先から光が射し込んでいる。

 あの隙間から外まで5メートルは這って進むのだ。

 

「無理に通ったらカメラも壊れたしねぇ……」

「どうしよー。綺麗なカメを1人ひとつだけ持って帰る?」

「ダメよ。持ち帰るのが3つじゃ、驚きが足りないわ。何か手を考えましょう」

 

 ゴウゴウと風が鳴る。

 ピチョンと水滴が響く。

 

 濃い霧が立ち籠めている。

 露出している肌から体温が奪われる。

 

 寒い。

 

 でも帰るまでは後一歩。

 

 より良い結果に向けて、後は何ができるだろうか。

 最後の一歩を前に頭を悩ませる。

 

 この、迷いの時間を……

 3人が生涯忘れることはなかった。

 

 パラ……

 

「イタっ、石粒が落ちて」

 

 大きく揺れた。

 3人の血の気が引く。

 集まって縮こまる。

 

 重い岩が落ちる音。

 岩の擦れる甲高い音に、恐怖から悲鳴が抑えられない。

 

 揺れていたのは数秒の出来事だった。

 

「大丈夫よね」

「大丈夫」

「うん、ダイジョーブだよ」

 

 お互いの無事を確認すると、赤髪が風穴があった壁に懐中電灯を向ける。

 閉ざされたのだろう。光は完全に消えていた。

 

「あの風穴、100年以上前から開いていたのよね」

「そうだね」

「伝説の風穴だったネ」

 

 懐中電灯の貴重な灯りの中、3人の心は一致していた。

 

「「「歴史を目撃した!」」」

 

「凄いわ。あの時、閉じた風穴の奥にいたって自慢できちゃう!」

「おー! ブユウデンだよ!」

「この3人が廃部と戦っていたエピソードへ、誰もに通じる『あの出来事』が加筆できるんだね。感動だよ!」

 

 3人はお互いの表情に悲壮なものがないのを読み取った。

 

「こんな時でも私は目端が利くのよ」

 

 アサヒが懐中電灯を赤珊瑚亀のあった道の逆に向ける。

 そこはさっきまで壁だったのに、今はその先があった。

 

 まるでギミックが動いて新しい道ができたかのようだった。

 

「そういえば風が止まってるね」

「霧も消えてるネ。懐中電灯で先が見えるよー」

「そうね。幸いなことに、視界が優れたわ」

 

 暗闇の先に、別の出口があるかもしれない。

 

「好奇心はまだ元気かしら」

「むしろ元気になってきたヨ」

「本番開始って感じじゃないかな」

 

 3人は恐る恐る暗闇へ足を踏み入れる。

 手元の懐中電灯は3本の光の柱を奥へ伸ばす。

 

 少女たちは拓けたルートへ進んでいった。

 

 ここがふたつ目の分岐だったろう。

 

 半時ほど空けると、再度の地震があった。

 やがて光が射し込み、壁には風穴が再び開いた。

 

 3人が進んだ穴は逆に埋まって閉じている。

 誰の声も聞こえない。

 

 風穴は再び風を吐き出すようになり、霧も濃くなってくる。

 

 人の気配は完全に消えた。

 

 不思議研究部は活動中に女子生徒3人が行方不明という実績にて、夏休み明けに廃部となった。

 

 ■■■■■■

 

「先輩、知ってます? 『赤珊瑚の亀の少女』の噂」

「赴任して早々そこに食いつくとは通だね」

 

 深夜の警邏をしていると、後輩がワクワクとした表情で始めた。

 

「ただの都市伝説だよ。昔さ、この町の学生が部活で不思議な話の検証でもしてたのかなあ。まぁ途中で行方不明になってね。そこに尾ひれはひれが付いたんだ」

「やっぱそうッスよねー。でも昔話にしては有名な話みたいッスけど、何でッスかね。この辺りの教科書にでも載ってるんスか」

「それはね、今も――――」

 

 男はスマホのメッセージに気が付くと、それを確認して目つきが変わった。

 

「噂をすれば、だ」

「先輩?」

「口裏でも合わせてるのか、悪戯なのか……」

 

 この町にもう長い警官は頭を掻きながら言葉を選ぶ。

 

「偶に通報があるんだよ。目撃証言だとリュックを背負った少女が3人で、どこか昭和を思わせる服装で路地裏から現れるんだ」

「例の噂ッスね」

「で、地名や年号をきくと真っ青になって暗闇に消えていくっていう。ああ、追っても姿は消えるらしい」

「ホラーじゃないッスか」

「もう都市伝説だよ。もしくは怪談だ。昔からある話でね、いつも同じ姿の3人なんだ。人間だったら老人になってないとおかしな話さ」

「へー、有名すぎるならやっぱ悪戯ッスかね」

「だろうね。まぁ、暇で平和な夜のスパイスみたいなもんだ」

「いるなら俺も会ってみたいッスね。あ」

 

 後輩警官が何かに気が付く。

 

「もしかして遥か昔に少女たちがこことは違う空間で楽しく遊んでいて、そこはこっちと時間の流れが違うから、戻ってきたら時代が進んでいて驚いたとか」

「はは、なんだそれ。どっかで聞いたような話だな」

「そッスよね。まるで――――浦島太郎みたいな」

 

 2人は町の平和を守る。

 今夜も何も起こらない。

 悪戯の通報があっただけだった。


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