【TS】チートスキルで異世界転生無双できると思っていたのに   作:夕焼け小焼けの

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祝10話
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汝、天使を見よ-2

 

「──ブゴッ……フゴ……」

 

 赤猪(レッドボア)は地面を嗅ぎ回り、餌を探しているようだ。

 先制攻撃の好機……と思う間もなく、スバル殿が飛び出した!

 

「【発射(ショット)】!」

 

 放たれた魔弾が殺到し──

 

 

 ──バカン!

 

 

「──ブギィィィ!!!」

 

 

 ──その頭部の毛皮に弾かれた。

 

 

「スバル殿!」

 

 こちらを察知し、振り返った瞬間に最も頑丈な頭部に当たったようだ。

 拙者も飛び出し前衛を引き受けようとしたが。

 

 

「大丈夫! 周りの警戒だけ頼んだ!」

 

 

 なんとスバル殿は、拙者を置き去りにそのまま突っ込んで行く。

 流石に無謀、と咎めようとしたが、気付いた。

 

 なんと流麗な【身体強化】の切り替え……!

 

 魔力を体の周囲に留める【身体強化】と、放出する【魔法】は両立出来ない。

 ましてや木々を足場に縦横無尽に駆けながら、魔法と強化を扱うなど。

 

「ふッ……は、よっと!」

 

「──ブギィィ! ギキィ!」

 

 愚直に突進を繰り返す猪に対し、飛び交う魔弾が踏み込んだ蹄を弾き、踏み締める筈の地面を抉り、力を込めた関節を抑える。

 

 思うように動けず、蜘蛛の巣に囚われた虫のように踠くイノシシ。

 対してスバル殿は、目まぐるしく【身体強化】を切り替えながら、駆けまわり跳びまわり、魔弾を撃ち込んでいく。

 毛皮は見る間に穴だらけになり、そこかしこから血を流している。

 

 だが……。

 

 

「決定打が足りん」

 

 

 このままでも勝ちは揺るがないだろうが、長引けば思わぬ要素に足を掬われることもある。

 

 ……などと考えたのが悪かったのか、丁度その瞬間、スバル殿が足場にした枝がバキリと音を立てて圧し折れた。

 

「──!」

 

 それを見計らってか、あるいは偶然か……猪が一気に駆け出した。

 

「──ブゴォオオ!!!」

 

 不自然な加速──スキルか!

 

 未だ宙にあるスバル殿は、回避手段をもたない。

 

 奇しくも初対面の構図と重なった。拙者は猛進するイノシシの頸を、横合いから切り飛ばそうと構える。

 

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足が止まる。何故止まった?

 

 自問自答し、本能にようやく思考が追いつく。

 

 

 

 ──【危険察知】

 

 

 

 スバル殿から発せられる異質な気配に、体が近づくことを拒んだのだ。

 僅かな、されど致命的な硬直。

 

 

 マズい、間に合わん!

 

 

 その時、スバル殿の表情が目に入った。

 

 

「く、ふっ……はは」

 

 

 ──笑っていた。心底から楽しそうに。その貌は、この世のものとは思えぬほどに美しく。

 

 

 勢いのまま、その牙に貫かれる────寸前に、彼女の体が空中で弾かれ、イノシシの牙から逃れた。

 

 木に激突するイノシシを尻目に、吹き飛ばされるように宙を移動している。

 

「……威力を削いだ魔弾で、己の身体を押し飛ばしているのか!?」

 

 弱めたとは言え、人ひとり吹き飛ばす威力。正気の沙汰ではない、今すぐやめさせなければ。

 

「スバル殿! 拙者が斬るぞ!」

 

 スバル殿からの返事も待たずに斬り捨てようとするが、スバル殿の体勢が見る間に整っていく事に気が付いた。

 空中での姿勢制御、魔弾を炸裂させる位置、必要な要素の全てに瞬く間に習熟していく。

 弾かれるのではなく、空を踏み締めるようになるのに、時間は掛からなかった。

 

 

「あは」

 

 跳ぶ、飛ぶ、翔ぶ。

 

「あはははははははは!!」

 

 

 まるで翼があるかのように、自由自在に宙を舞う。

 牽制の必要もなくなり、収束させた一撃がイノシシの頭蓋を貫いた。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 

「へへ、リベンジ大成功……いてて……」

 

 着地し、駆け寄ってくるシロウに笑いかけて見せる。

 

「スバル殿、なんという無茶を……傷だらけではないか」

 

 最初の方は【身体強化】の切り替えが間に合わず、生身で衝撃を受けていた。そのせいで全身が芯までずきずき痛む。前世で車に轢かれた時のことを思い出す痛みだ。

 

「つぅ……いい案だと思ったんだけど、やっぱり思い付きで動くもんじゃないな」

 

 跳んでる最中はめっちゃ楽しかったんだけどなぁ。

 何あればいつでもシロウがすっぱりやってくれるだろうと思って試してみたが、ぶっつけ本番は良くないな。練習が必要だ。

 

「今日はここまでだ、戻るぞ」

 

 有無を言わさぬようなシロウの態度に少し驚きつつも、オレもこれ以上無理をするつもりもなかったので大人しく従う。

 

「帰路での魔物は拙者が相手をする。スバル殿は下がっていてくれ」

 

「あ……あぁ、それは助かるけど」

 

 ……けど、オレは今日、もう一個やりたい事があるのだ。なんだか不機嫌そうなシロウに、一つ提案をしてみる。

 

 

「折角だから、前衛後衛の動きを練習してみないか?」

 

「む……」

 

 シロウはオレが無理していないかをしつこいくらいに確認し、ようやく頷いた。

 

「まぁ、それくらいなら……」

 

 よし。実はオレもギルドで言われたことが引っかかってたのだ。今の俺ならそれなりに戦えるはず。

 今日の討伐の成果も併せて、ドイルの度肝を抜いてやろう。

 

 

 

「まずは、この赤猪(レッドボア)の解体だな。やり方を教えてもらっていいか?」

 

「……あぁ、構わぬ」

 

 

 やっぱり元気ないな? オレの無茶のせいで、中層を十分に探索出来なかったからだろうか……悪いことしたな。

 

 帰路では大人しくしていよう。

 オレは反省しつつ、イノシシの巨体の解体に取り掛かるのだった。

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