【TS】チートスキルで異世界転生無双できると思っていたのに 作:夕焼け小焼けの
「なんっだコレ!? え、うわ、柔らか!」
ナイーブな感情は全部吹き飛んだ。顔に触れ、腕、肩、胸腹腰脚、全身に触れる。どこもかしこも柔らかくてビビる。
「えぇ……なんでこれ……うわ髪さらさら……この服透けてるし……やば」
シースルー素材の布を適当に重ねたような衣服。靴は多少頑丈な素材のようだが……。
周囲を見回すと、森。まるで人の気配のない森の中に居るようだ。
「これで森の中歩くのは無理でしょ……ていうかなんで女に……なんかの『スキル』の影響か……?」
【スキル確認】で習得済みのスキルを確認しようとした瞬間。
「あ」
解る。この身に宿るスキルの使い方……魂の輪郭。ついでに、なんでオレが女になっているのかも、当然のように理解した。
──ここに居る君は『魂』だけで肉体を持たないから、転生する時に僕が『魂』に合わせて肉体を作るんだ。
──『女性』専用スキル。
──君の選んだ『スキル』を君の『魂』に定着させ、君を『転生』させるよ。
「あーーーーーーー…………」
どうせ無効になると思って、『女性』専用の安価なスキル取りまくったからだ……。
思い返せば、『男性』専用のスキルは殆ど取っていない。それによって『魂』が何らかの影響を受けて、それを元に肉付けされた身体も引っ張られたんだろう。
……だって男性用の性に関するスキルってやたら高価だったし。こっちの世界でも男はそういう面においてアホになるらしかった。ボケがよ。
「どーーしよーーーー……」
ていうか、無効になる前提で結構な量のデメリットスキル取っちゃった覚えがあるんだけど、やばいかも。
どこかで腰を落ち着けて再確認を、と思ったところで。
「──ブフゥ……ブルルル……」
「……やっべ」
森の中で騒ぎ立てた結果、推定魔物──デカくて真っ赤なイノシシを呼び寄せてしまったようだ。
めっちゃ赤い……擬態とか考えてない感じの強い奴ね。しかも牙の殺意が高い。なんせ上向きだけでなく、前にも横にも鋭く伸びている。
「すごい牙だな……それ食事の時邪魔にならない?」
「──ブフゥーー……ブヴフゥー……」
怖えぇ……が、落ち着いて、声を荒げず、目線を合わせたままゆっくりと後ずさる。
魔物に対して野生動物とばったり、みたいな対処が正しいのか分からないが、とりあえず襲い掛かってはこない。このまま離脱できるか……?
「よぉーし良い子だぞ……ていうかなんでスタート地点が森の中なんだよ。どうなってんのこれ、もうちょっと人の気配がある場所でも良かったんじゃないの……」
ゆっくりと後退り、後退り……──
「──あっ」
木の根に足が引っ掛かッ──
「────ブギィィィ!!!」
「おわーーー!!!」
──転ッ……ばない!! そのまま反転してダッシュ!!!
今のオレすご! 反射神経! 身体能力! 前世と比べものにならない! 天使の身体すげぇ!!
「すげぇ……けどッ!」
「──ブギィッ!! ブキィィィッ!」
「振り切れない!!」
ていうか森の中って走りにくい! 当たり前だけど!
「……くぅっ、どうしてっ、こんなことに!!」
全力疾走すると胸が揺れて痛い! 女性はみんなどうやって走ってるんだ!? コツとかないの!? 重心も歩幅もまるで違う! 気を抜くとすっ転びそうだ!
でも転んだら終わる、足元をよく見て、最高速度で丁寧に──!
──【森歩き】【逃走】【疾走】【脱兎】【跳躍】
何かが脳裏を掠めた。
あ、こうすればいいのか。木の根を足場にした方が安定するな。それに真っ直ぐ逃げるより木を盾にしつつジグザグに。
速度がグンと上がる。なんかコツを掴んだ感じだ。
「よ、ほっ、はっ!」
「──プギィ! ブギィィィ!!」
少しずつだが鳴き声が遠ざかる。イケる、このまま逃げ切れ──
──【危険察知】
「どぁあああアアアアッ!!!」
【跳躍】!!!!
咄嗟に飛び上がり、目の前の木を駆け登る。
──【木登り】
────ドゴォン!!
「ひぃっ」
背後からぶっ飛んできたイノシシが、オレのしがみついている木にぶち当たった。
「なんッ……!? 『スキル』か!?」
驚いている間にもガツンガツンと木の幹が削られていく。
原理不明の高速突進……あんなのがあるなら逃げ切るのは無理だろう。この木もすぐに倒される。樹上から【跳躍】……いや、ガンガン揺らされる足場からではまともに跳べない。着地と同時に轢かれる。
「そうだ、『魔法』!」
幸いイノシシは真下にいる。ここから一方的に撃ち下ろせる!
使うと決めたら、使い方はすぐに分かった。非正規ルートで習得したスキルは、意識しなくては使い方を思い出せないらしく、咄嗟の行動の選択肢にない。
ふぅ……人差し指を立て、イノシシを指差し、集中して、魔力を巡らせて。
「【
──ばしっ!
「ブギッ……プギィ!!」
……指先から飛んだ魔力の弾丸は、イノシシの毛皮に弾かれて霧散した。
「しょぼい!!」
しょうがないだろ! 初めてだし、まだスキルレベルも上げてない!
「【
木が揺れてて当てられない! 当たっても全く効果がない!
折角の異世界転生、その初魔法がこれかよ! もっと感動したかったぁ!
「【
そもそもこれ、魔力の射出訓練に使う練習用の魔法なんだよ! ぶっちゃけスキルポイントをケチったので戦いに使える魔法じゃない!
レベルを上げれば十分武器になると踏んで習得したが、そのままだとマジで投石未満の威力しかねぇ! 当たり前か、練習用だもんな!!
「【
──【
あ、これ連射じゃなくて同時に撃ったら良いのか。律儀に一発ずつやる必要はないな。
あとは、そうだ。オレはこれを銃に出来ると思って習得したんだ。弾丸の形状を意識して、射出する時に回転をかけよう。
左手で木にしがみついたまま、右手の五指を差し向ける。
「──【
──ダダダダダン!!
「──ブギィ!? ブフォオ!!」
やった! 威力が跳ね上がった!
このまま連射すれば追い払うくらいは出来るかもしれな──
「──ブギィィィイイイイ!!!!」
──ズドォン!!
「──あ、ガ、ハッ!」
──【受け身】
な……落ち……高速突進で木をへし折ったのか……? 工夫した魔法は怒らせるだけに終わったらしい。
「はやく、逃げ……ぁ」
正面。イノシシ。突進。牙。
やけにハッキリと見えた。イノシシの足が土を掻くさま。力強い筋骨の躍動。空気が押し除けられて、毛皮の上を滑る。鋭く尖った牙。オレに向けられていて、このままだと突き刺さって、なのに身体は動かせなくて。
──【危険察知】【集中】【走馬灯】【思考加速】
────……死
──ゾゴン! という轟音と共に真っ二つになったイノシシが吹き飛んだ。
「ご無事か!?!」
「──へぁ」
極度の緊張から解放されて、何も考えずに声の方を向いた。
そこには、刀を振り抜いた姿勢のままの、狼頭のサムライがいた。
「──ほぁ」
「ぬぉ!? すまぬ、その、拙者は見ておらぬので!!」
目が合うと、サムライは何やら慌てて目を瞑った。
あそこから斬ったのか? イノシシとは距離があるが……斬撃を、飛ばして?
それは──
「──かっこいい」
「──へ!?」
ぽかんと呆気に取られたような顔を見て、狼の表情も結構分かりやすいな、と思った。