【TS】チートスキルで異世界転生無双できると思っていたのに 作:夕焼け小焼けの
「うむ……何と言うか、拙者は女子の装いに詳しくはないが……その、少々……心許ない。これを……拙者の羽織だが、よろしければお使いくだされ」
歩み寄って来たサムライは、自分の羽織を脱ぐと、こちらに差し出した。
うん? まぁ少し肌寒かったし、ありがたく使わせて貰おう。
立ち上がって羽織を受け取り、【羽衣】の上から肩に掛けた。
「ぬぉ……ええと、強要はしないが、前を閉じた方がいいのではないか? 何と言うか、見ておれぬ……いや、そういう意味ではなくてだな……そのままでは風邪を召すやも知れぬし……」
目線が合わないまま捲し立てられる。
あー、さっき目を瞑ったのはこの格好のせいか。【羽衣】スキルによって生成されたらしい薄い羽衣。肝心な箇所は隠せるが、それ以外は透け透けというとんでもない服だ。
魔力消費を抑えるために極限まで削った結果らしいが、もうちょっとなんとかならなかったのかと思わざるを得ない。まぁ転生直後に全裸で放り出されるよりはマシか。
しっかりと前を閉じる……暖かい。ちょっとケモノ臭がするけど。
くんくんと鼻を鳴らすと、彼はそれを見てまた慌て出した。
「いやっ、その、臭いは……拙者も気を付けてはいるのだが、どうしても男の一人旅となると……」
「? あ、すみません嗅いじゃって。でも別に嫌な臭いはしませんよ」
なんか、飼ってた犬を思い出す匂いだ。むしろ──
「──落ち着く」
「──!?」
あ、また嗅いでしまった。すみません。
「あ、えー……そうだ、拙者は『シロウ』と申す! 見ての通り、サムライだ。獲物の横取りは御法度と知りながら、どうにも危ういと見て助太刀させてもらった」
「いえ、横取りだなんて……あのままなら死ぬところでした。オレは、『スバル』と言います。助かりました、シロウさん」
スバル。
「ところで、スバル殿はなぜここに? 『冒険者』のようには見えぬが……」
「ええと……」
死んで天使で異世界転生で……なんて、全部正直に言っていいものか。到底信じて貰えるとは思えない。そうして口篭っていると。
「すまぬ、こんな場所で話すことではなかったな。拙者が街まで送ろう」
「あ……よろしくお願いします……」
気遣われた、のか? 別に事情があるわけではなく、説明の仕方を悩んだだけだが、お言葉に甘えさせてもらう事にした。
◆◇◆
シロウさんの後を追い、ひょいひょいと軽快に森を進む。大分慣れて来たな。
「あの、シロウさんはなぜあそこに? 一人旅と言ってましたが」
「一人旅というか、武者修行の最中であってな。この森には腕試しと……路銀稼ぎを兼ねていた。魔物を狩り、『魔石』を『冒険者ギルド』に持ち帰るとそれなりの金になるのだ」
『魔石』、『冒険者ギルド』……知らない単語だが、想像はできるな。あれ?
「なら、さっきのイノシシの魔石は?」
疑問を口にすると、シロウはバツが悪そうに頭を掻いた。
「いやなに、咄嗟だったもので……諸共に両断してしまった。たはは、まったく未熟未熟……」
「……すみません」
つまり、オレのせいで稼ぎがフイになったのか。それに狩りを中断させ、護衛までさせてしまっている。
「スバル殿が気にすることではあるまい。どうもスバル殿は畏まりすぎるところがあるな。『冒険者』の拙者にそのようなモノは無用故、気安く話してくだされ。その方がこちらもやりやすいのでな」
「それは……──じゃあそうする、シロウさんが言えた事じゃないと思うけど」
「これは一本取られた! 拙者のこれはもう染み付いてしまって抜けんのだ、幼少の頃からの習慣でな」
幼少期……何となく子犬っぽいシロウを思い浮かべる。かわいい。
「そう言えば、スバル殿は案外森に慣れておられるのだな。これなら日が落ちる前にギルドにも顔を出せそうだ」
慣れているというより、正しくは今慣れた。辺りを警戒しながら森を歩くだけで、幾つもスキルを習得し、スキルレベルが上がっていくのが解る。熟練度ガン盛り作戦は成功したようだ。
「あ、そうだ。シロウさん、『冒険者』や『ギルド』について、教えてほしい事があるんだけど」
「む? 拙者も世間で知られている以上のことは大して知らぬが……それで良ければ答えよう」
「いや、その『知られていること』が知りたいんだ」
足を早めてシロウの隣に並ぶ。
「んーむ。『冒険者』は『冒険者ギルド』に所属して、ギルドから依頼を受注し、それを達成することで生計を立てる者たちだな。人里近くに出た魔物狩り、逆に人の立ち入れぬ場所に踏み入って希少素材の採取など、腕覚えがなくてはやっていけぬ」
「なるほど……じゃあ冒険者になるにはどうすればいい?」
そう聞くと、シロウは勢いよくこちらを見た。
「スバル殿!? 拙者の話を聞いておったか? 拙者には、スバル殿が冒険者としてやっていけるとは思えんが……」
シロウはオレの頭から足まで、一通り眺めて言った。……胸と腰で一瞬視線が泳いだのは見ないふりをしてやろう。
「その……事情は分からぬが、一度家に戻った方がいい。スバル殿のような……か、可憐な
何か勝手に事情を慮られている。家出娘とでも思われたか? そんなに箱入りっぽいかな。まぁ場違いに身綺麗ではあるか。
「気遣ってくれてるのは分かるけど、特に複雑な事情があるわけじゃないんだ。さっき話さなかったのは、単に話すことがなかっただけ。帰る場所も行く宛もないから、冒険者が丁度いいと思ったんだけど」
「……確かに、身寄りのない者が冒険者になることも多いが…………厳しいことを言うと、先程の
「それは……そうかもだけど」
街での生活を考えなかった訳ではない。オレには多様なスキルがあるし、何かしら働き口を見つけることは難しくないはずだ。
イノシシの牙が目前に迫る光景は、恐怖と共に脳裏に焼き付いている。
でも──。
「でも……オレはシロウみたいになりたい」
「──!」
その『恐怖の化身』を一太刀で斬り払った、シロウの姿も同様に、オレの中に焼き付いてしまったのだ。
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