【TS】チートスキルで異世界転生無双できると思っていたのに 作:夕焼け小焼けの
ギルドの中は、思いの外綺麗なものだった。もっとこう……荒れてる感じを思い浮かべていたが、案外整然としている。
役所のような受付と、たむろする武装した男たちがミスマッチだが、さっきの酒場の方がよっぽど無法な感じがした。
ここにも酒場のような一角があるが、あまり人気がない。時間帯のせいかな?
「では、拙者は今日の分の魔石を換金してくる。スバル殿はここでお待ちくだされ」
辺りを興味深く見回していると、シロウが言った。
「その前に、ここで冒険者になるにはどうしたらいいか聞いてもいい?」
「あぁ、『冒険者登録』なら、あそこの……」
途中まで言いかけて、ぴたりと口を閉じる。
「待たれよスバル殿、考えを改めてくれたのではなかったのか?」
「いや、ご飯を食べて落ち着いた、とは言ったけど、冒険者になるのを止めるなんて言ってないぞ」
それを承知でギルドまで連れてきてくれたんだと思っていたが、違ったのか?
「しっかり考えた上で決めたんだ。やっぱりオレは冒険者になるし、やれるとも思ってる」
「う……むぅ……」
言ってしまえば、オレはシロウを納得させる必要はない。彼はオレの保護者ではないし、オレの行動を縛らない。
だが、ここまで良くしてくれた相手に不義理はしたくなかったし……オレはシロウに背中を押して欲しかった。
「……まずは、拙者は魔石の換金に行く。「スバル殿も着いてきてくだされ」
『ここで待つ』のではなく『着いていく』……? つまりそれは。
「今後の為に、換金の手続きは知っておいて損はない。登録はそのあと、拙者も付き添おう」
「──シロウ!!」
自分でも驚くくらい喜色に満ちた声が出た。思わずスキップしてしまいそうだ。弾む心を抑え込みながら、シロウに着いて行く。あっちのカウンターじゃなくて、別の棟なのか。内部で繋がっている別の建物で、魔石の換金手続きとやらを見学する。
「こちらは解体や素材買取の為の場所だ。入口も別にあるから、さっきの場所に血塗れの獲物を持ち込むのは禁止されている」
「なるほど……考えられてるんだな」
本来は街に入ったらこっちの別棟に直通なのか。シロウは本棟と似たようなカウンターに、懐から取り出した袋を渡した。
「シロウさん。今日は早いですね。魔石の数も控えめのようですし……おや、そちらの女の子は?」
「こちらはスバル殿。森で魔物に追われている所を助けてな、それ故今日は早めに切り上げたのだ」
「はぁ……」
そんなの現実にあるわけねぇだろ、とでも言いたげな目だ。
「そんな物語みたいなこと本当にあるんですか?」
言った。
「まぁ、事情はさておき危険な状態だったのは事実。助太刀に躊躇いはなかったな」
「それで、ギルドでの保護を?」
「いや、当人は冒険者を志望しておってな。しばらくは拙者が面倒を見るつもりだ」
保護……ギルドはそんな事までやってるのか。シロウも最初はそのつもりで、オレを連れてきたんだろう。ん……?
「シロウ、面倒を見るっていうのは?」
「拙者はそろそろこの街を出るつもりだったが、しばらく滞在を延ばす。そしてスバル殿が独り立ち出来るまで見守ろう」
シロウはオレに向き直って言った。
「拙者の知識と経験も伝えよう。だが、それでも芽が出なければ、冒険者は諦めるべきだ」
む、そう繋がるのか。否定はしないが、手放しで応援はできない感じか。
「分かった。一晩で何とかするよりずっと現実的なプランだ」
「やはりアレが無茶なのは分かっておったか……」
当たり前だろ。シロウに頼らない場合の選択肢がほぼ無かっただけだ。
「まぁ……いいでしょう」
オレたちのやり取りを見ていた受付の女性がため息を吐いた。
思うところはあるようだが、そこまで踏み込む事もないと考えたのか、それ以上触れられなかった。
「そこまでする気なら何も言いませんよ……我々としては、ついでにシロウさんもここに居着いてくれると助かるんですけどね。そろそろ昇格試験受けませんか?」
「ははは、今のままでも不自由しておらんでなぁ」
少し言葉を交わした後は、特筆することもなかった。魔石を何かしらの道具を使って計量・計測。結果に応じて金銭と交換。これで二日くらいは暮らせるらしい。
「半日で二日分? 結構な額になるんだな」
「あまり拙者を参考にして欲しくはないが……魔石の価値が高いのは事実。魔石を抜くと他の素材が取れなくなる分、危険度も上がるが」
「うん? どういう事?」
魔石と素材に関係があるのか?
首を傾げると、シロウは丁寧に説明してくれた。
「魔物の死骸から魔石を剥ぎ取ると、凄い勢いで劣化するのだ。魔石を抜く前に処置をすれば、肉や毛皮を剥ぐ事もできるが、そうすると今度は魔石が劣化する。これは魔物の【魔力体】スキルの影響……らしい」
「【魔力体】……?」
なんだかすごく聞き覚えがあるな……。『天使』の種族スキルにあった【魔力体】、しっかり調べておいた方が良さそうだ。
あと今更ながら『スキル』という単語が一般的らしいことが分かった。どうやって確認してるのだろうか。
「狙いを魔石に絞れば、剥ぎ取りも持ち帰りも楽だが、その分多くの魔物を狩らねばならん。他の素材なら、手間が掛かるが魔物一匹から多くの利益が得られる。スバル殿は──」
「魔石狙いだな」
「──後者を勧めたいが、今は何も言うまい…………さて、ここだ。このカウンターで、お待ちかねの『冒険者登録』ができるぞ」
本棟に戻り、シロウが立ち止まった。すると、カウンターの奥で作業をしていた女性が顔を上げた。
「あれ、シロウさん。昇格する気になった?」
「いや、こちらのスバル殿の登録を頼みたい」
彼女は立ち上がり、カウンターから身を乗り出して言った。
「……こんな小さい子が?」
やっぱり小さいよな。この受付の女性より頭一つ小さい。シロウとは頭二つ違うし……150cmくらい?
「うひゃー、すんごい美人さんじゃない。勿体ないなぁ、冒険者じゃなくて受付嬢の方やる気とかない?」
「……オレは冒険者になりたいので。登録のやり方を教えてもらえますか」
「ああ、うん。ちょっと待ってね、字は書ける?」
──【意思疎通】
「はい、書けます」
受付嬢の方をやって欲しそうなシロウの視線は努めて無視し、手続きを進めて貰う。
と言っても、いくつか質問に答えて、名前を書いただけだ。
「よし、『スバル・アカツキ』ちゃんね。まぁ素行や来歴は、シロウさんが後見なら大丈夫でしょ。じゃ、発行するね」
そう言って何やら手元の機械をいじると……。
──ジジジジジ……
何かが焦げるような音が聞こえた。
「ほい完成。“
ほい、と渡された小さな木札には、『スバル・アカツキ』の文字が焼き付けられていた。
「これが、オレの……」
さっきの機械は印刷機か。どんな原理だろうか。気になる、気になるが。
「ふふっ……」
この世界に来て、初めて手に入れたオレの名前が刻まれたモノ。
「これで、オレも『冒険者』か……!」
色々あったが、そもそもオレは異世界モノの物語は好きだったのだ。転生したのはぶっちゃけ流されてた部分もあったが、期待もあった。
今、ここから、オレの異世界生活が始まるんだ!
「大はしゃぎねぇ」
「気持ちは分かるぞ……拙者も登録した時は大いに高揚したものだ……」
微笑ましいものを見る目はやめてくれ。オレは少し冷静になった。