【TS】チートスキルで異世界転生無双できると思っていたのに 作:夕焼け小焼けの
「ギルドにはランクがあって、下から『木』『鉄』『銅』『銀』『金』となる。昨夜も話したが、スバル殿はまず『鉄札』への昇格を目指すことになる」
翌朝、ギルドに来ていた。流石に昨日は今から初仕事を、という時間でもなかったので、シロウが泊まっている宿を紹介してもらい、そこを当面の拠点にする事になった。
当然、宿代もシロウに出して貰ったが……返しきれない恩が溜まっていく。早く独り立ちして、少なくとも借りた金は返さねば。
「木札の冒険者の定石……木札同士でのパーティや、他パーティへの所属はスバル殿には難しい。そもそもこの時期は他の新人もおらぬしな。故に、拙者の狩りに着いてくる形で経験を積んでもらう」
「昨日も聞いたって」
オレは身につけた装備……というほど立派な物ではないが、新しい服の襟元をいじっていた。いつまでも【羽衣】とシロウの羽織で過ごす訳にもいかないので、朝一で買って貰ったのだ。
購入時に、今更ながら【羽衣】なんぞで森の真ん中にいた事を叱られた。
何故そんな事を、と聞かれても、オレとしては神の御意志です、みたいな事しか言えない。結果として黙って聞くしかなかった。理不尽。
「そ、そうだったな……しかし、木札の冒険者は未帰還も圧倒的に多い。用心に越した事はないだろう」
「分かってる。とにかく今日は慣れること優先で、積極的に狩りはしない。何かあったらすぐに言うよ」
シロウも少し緊張しているようだ。昨夜聞いた話では、なんとシロウは今まで一度もパーティを組んだことがないのだとか。
かく言うオレも、昨日は緊張して眠れず、寝床に入ってからもずっと【スキル確認】をしていたわけだが。そのせいか朝起きるのは地獄だった。まぁこの身体が朝に弱い可能性もあるか。
だが、夜更かしの甲斐あって、増えたスキル、レベルアップしたスキル、加えて【魔力体】についても確認できた。あとは『女性』専用スキルだが……ちょっと直視できなかったため保留。まぁ命に関わるような事はない。
「うむ……ではまず依頼を確認する。拙者はあまり依頼は受けぬが、常設の討伐系と、ついでに達成できそうなものがあればそれを受けるぞ」
ソワソワとしながら、ギルドの扉を押し開ける。えーと、依頼は……。
──【視線察知】【気配察知】
「──“狼人”だ」「──アイツ本当に……」「おいあれ見ろよ、シロウ──」「──昨日も……」
昨日より人が多いギルドがざわつく。
これだ、シロウがパーティを組んだことがない理由。昨夜の会話を思い出す。
──拙者は、狼獣人の中でも珍しい先祖返り。狼の相貌は魔物の如き恐ろしさ故、あまり人は寄り付かん。
オレはそう言うものだと思ってたし、異世界スゲーくらいしか感想はなかったのだが、魔物に対する恐怖が強いこの世界だと、シロウの狼頭は途轍もなく恐ろしく見えるらしい。
──まぁ、定住せず流れ者を続ける拙者にも問題はある! 余所者を恐れるのは当然のこと、スバル殿はあまり気にしてくれるな。
「──じゃああれが……」「──……チッ、」「──何考えてやがる……」
──拙者を見るスバル殿の目には、まるで恐れがなく驚いた。故に拙者は…………あ、いや……そうだ! 明日の予定を伝えておこう!
……オレは、シロウの味方で居てやればいい。ここで騒ぐのはシロウの不利益にしかならない。さっさと依頼を確認してギルドを出よう。
まるで気にしていないようなシロウを急かして、依頼が貼り出される掲示板へ向かう。
さて、この中からどうやって選べば──。
「──よう、シロウ。昨日ぶりだな」
聞き覚えのある声。シロウと共に振り返る。
「……ドイル殿、拙者に何の用──」
シロウの言葉はそこで途切れた。オレも同じだ、生じたのは意識の空白。
「『何の用』? 本気で言ってやがるのか?」
酒場で絡んできた男、ドイル。確かにドイルだが。
無精髭を剃り落とし、髪を整え、背筋を伸ばし、装備まで磨かれ、心なしか表情も凛々しくなった“綺麗なドイル”がそこにいた。
「ド……ドイル殿?」
「ド……ドイル、さん?」
これオレのせい?
「今日は私もいるよ。昨日は忙しくてね」
ドイルの後ろからひょっこり現れたのは、濃紺のローブを着て、先端に宝石がついた杖を持った女性。
……魔法使いだ! ファンタジー!
ジワっとオレのテンションが上がった。
「……シャーリー殿、これは一体……」
彼女がシャーリーか、ドイルのパーティメンバーかな。
「いいでしょ、私が剃ったの。髪も切った。上手くできたと思う」
「俺のことはどうでもいい。スバルさんに見苦しい物をお見せ出来なかっただけだ」
得意げなシャーリーさんの言葉をドイルが遮る。シャーリーさんは不服そうだ。
「私が切った髪が、どうでもいい……?」
「どうでもよくはない。だがシロウ、俺はお前に言わなきゃならねぇ事がある」
なんか二人の関係性が垣間見えたな……。なんだか少し肩の力が抜けた。
ドイルはビシッとシロウに指を突きつけてこう言った。
「シロウ、テメェ…………スバルさんをッ──スケスケのッとんでもねぇ格好で連れ歩いてたらしいじゃねぇか!!」
……おっと?
困ったな、ずっと羽織で隠していた筈だが、限度があったか。このままではシロウが変態にされてしまう。
オレが言い訳を考えていると、遠巻きにしていた野次馬たちがウンウンと頷くのが見えた。
……もしかして、今日やたらとシロウに対しての敵意を感じたのって、オレのせいなのか?
──ぼっ、と顔が熱くなる。は、恥ずかしい! 何が──オレが味方で居ればいい──だよ! むしろ一番の敵じゃねぇか!
「ま、待て! 誤解だ、あれには事情があって、既に着替えてもらっている!」
そうだ、とにかく今は誤解を解かねば。周囲にも聞こえるように声を張る。
「ドイル……さん、あれはシロウに強要された訳ではなくて、オレが自分で着たものなので……」
「スバルさんが自ら進んでスケスケを!?」
「ちょ、ちがう!」
あああ頭が回ってない! 上手く言葉を選べない!
どうしたものかと思っていると、ドイルの目つきが突然鋭くなる。え、なに。
「……シロウ、スバルさんの装備はお前が選んだのか?」
「あ、あぁ……動き易さを重視して、軽い物を」
ドイルは腕を組み、口元に触れる。ヒゲを撫でるような所作。
「流石に森を舐めすぎだろ。“
きゅ、急に真面目な話を始めるな! さっきまでセクハラナンパ野郎だったドイルの顔が、一瞬にして経験豊富な先輩冒険者みたいになっている!
「お前は『近接職』ではあるが『前衛』じゃない。『後衛』を前提にした立ち回りを知らねぇ筈だ。このままだと……死ぬぞ、お前ら」
「……!」
背筋がひやりとする。ドイルの言葉は、意外なほど無感情だった。ただの事実確認として発された声は、異様な現実感を持ってオレの脳に入り込んだ。
深刻な顔で受け止めるシロウ。パーティの経験がないのは、シロウせいじゃないんだから、気にしなくてもいい。
そう言ってやりたかったが、口から出たのは誤魔化しの様な質問だった。
「……ねぇ、なんでオレが後衛だって思ったんですか?」
「えっおっおっ……魔法使いの魔力は見慣れてるんで……」
そう言う見分け方があるのか。ドイルはちらりとシャーリーの方を見た。シャーリーは瞬きすらせず、ずっとオレを見ている。怖……。
「……」
オレもじっと見つめ返す。じーっと。
──【魔力視】
突如、ズレていたピントが合ったかの様に、シャーリーの周囲を渦巻くモヤが見えた。ドイルを見ると、シャーリーとは違い重たいモヤが体に張り付いている様に見える。
なるほど、こういう差か。
「ね、見えた?」
脈絡のないシャーリーの言葉。実際ドイルは、何の事だか分からないようだった。
「……何がですか?」
首を傾げて見せる。シャーリーは何も言わなかった。薄ら笑いのままで、特に追及する気はないようだ。
「行こう、シロウ」
常設の依頼だけパパッと確認する。ゴブリン、コボルト、
それぞれの特徴と討伐証明部位だけ覚えて、シロウを引っ張って出口に向かう。
まだ何か言いたそうなドイルの肩に、シャーリーがそっと手を置いた。
「口出しし過ぎ」
「シャーリー……だがよぉ……」
背後から聞こえてくる会話を聞き流し、ギルドを後にした。
全然恋愛始まらねぇな