【TS】チートスキルで異世界転生無双できると思っていたのに 作:夕焼け小焼けの
「【
「うーむ」
「【
「何と言うか」
「【
「──圧巻……とは、こういう事を言うのだろうな……」
── 【並列思考】【思考加速】【短縮詠唱】【並列詠唱】【連続詠唱】【気配感知】【魔力感知】
「【
中層へ向かう道中、手持ちの感知系スキルをぶん回しながら魔法を連射していた。
初めは何度か
シロウが何を見て、何を聞き、どのように察知しているのかを観察して反映する。これを繰り返すとあっという間に熟練度が溜まり、潜む魔物を暴き出せるようになった。
やはり良い手本があると、習得速度が段違いだ。
「ギィ? ギャギャ──ぎあっ」
木の向こうから顔を出したゴブリンの眉間に魔弾が突き刺さる。まだ頭蓋骨は貫けない。
ぐらりとゴブリンが倒れる前に、シロウが刀を振るう。不要な端を切り飛ばし、耳と心臓のみを切り出す。シロウはいつもこうして解体の手間を省いているらしい。
さっきから後始末ばかりさせてしまって悪いが、今はもう少し【集中】したい。
重く、鋭く、数多く。さっきはこれをシャボン玉に例えたが、これはもっと重くていい。
いわば……水滴。
重過ぎると飛ばないので、もっと細く鋭く。濡れた腕の一振りで、水滴がいくつも飛び散るように……指の先から滴るように。
そのようなイメージで【
もっと……もっと出来るはず……。
意識が深化し、魂が進化していく。
……
………
…………
「スバル殿、この辺りから『中層』と呼ばれる領域に入る。ゴブリンの耳が八つ、蛞蝓の口吻が二十と六つ……すでに十分な成果だが、このまま進むか?」
茫漠とした思考に、シロウの声が滑り込む。
「んぁぇ? ……ぁ、えーと……」
「スバル殿? やはり戻るか?」
こちらを案ずるようなシロウの顔を認識する。相変わらず狼頭なのに表情豊かだ。
「いや、大丈夫。もう少し進みたい」
今の【集中】を失いたくない。研ぎ澄まされている。身体が拡がる……意識が拡散していくような感覚。
シロウは少しの間、オレの顔を見つめた後、背嚢を漁りながらこう言った。
「では、まずは腹ごしらえだ。腹が減っては戦はできぬ、と言うしな」
背嚢から引き抜いたシロウの手には、保存食が握られている。
どうでもいい思考が、塩漬け肉のスパイスの香りに攫われて消えていく。
くぅ、とお腹が鳴って、ようやく空腹を思い出した。
「……うん、オレもお腹が空いてた」
さっきまでの感覚は既に遠く、形だけを認識していたシロウの表情が、柔らかくなったのを感じた。
◆◇◆
◇◆◇
膨らんだ木の根に座り込み、焼き締めたパンと塩漬け肉を齧る姿を眺める。
拙者の口は大きいものだから、二、三口で食べ終えてしまったが、小さな口で懸命に食べ進める姿は可愛らしい。
初めて見た時もそうだった。樹上で魔物に怯える彼女を見て、その美貌に心配より先に感嘆が出た。
木を折られて、宙に投げ出された彼女は、まさに天から舞い降りる天使と見紛うほどに美しく。
見惚れる余り助けが遅れたのは、まさに一生の不覚である。
不思議と彼女は、拙者の貌を恐れなかった。
煽るような薄絹の衣のみを身につけて、森で魔物に追われる身の上。何かしら事情があるのだろうと、拙者は深く尋ねることはせず、護衛を申し出た。
助けが遅れたことへの、埋め合わせのような気持ちもあった。
……あるいは、拙者の魔物の如き相貌を恐れぬ彼女と、もう少し言葉を交わしてみたかったが故に。
冒険者になる、と言い出した時は驚いた。
猫被りをやめた彼女は、少年のように快活で、有り得ぬほど無防備に振る舞った。
宿を紹介して人心地、と思えば、夜中に部屋を訪ねて来た時は、そういう方法で宿代を支払うつもりかと狼狽した程だ。
冒険者という生業も、その無防備な振る舞いも、何度危険を説いても譲らぬ頑固さと、煌々と憧れに輝く目。
幼い頃の拙者を思い出した。拙者の夢は笑われた。荒唐無稽なものであったから。
彼女の憧れを笑いたくなかった。荒唐無稽なものであろうとも。
原因となった者の責任として、期限を区切った上で多少の支援をすることとした。
願わくば、その憧れが、良き思い出として昇華されるように──そう願って。
そう考えた拙者が、如何に無知であるか思い知ったのは、つい先ほどの話。
あっさりと初陣を終えた彼女は、瞬く間にその魔法を洗練させていった。
彼女を取り巻く魔弾は、腕を振るう
魔弾が残す光の軌跡は、彼女を飾るドレスのようで。
不可視の輝きを纏う彼女は、舞い踊るように魔物の命を摘み取っていく。
────『天才』
ちゃちな形容だが、学のない拙者は、それ以上のモノを示すのに適した言葉を知らなかった。
──『
……不適切だ。
何処を見るとも知れぬ、焦点の合わない目で舞い殺す彼女を評する言葉として。
「んぐ……ごちそうさま。今のオレにはちょっと多かったかも……待たせて悪いな」
少しばかり苦しそうな彼女の声で、追憶から覚める。
「無理に食べ切らずとも良かったのだが……少し休んでから中層に向かうとするか」
余計な思考を振り切り、中層を目指す。
◇◆◇
彼女の才覚の前には、中層も浅層も大差なかった。現れる魔物の数や種類が増えるが、落ち着いて処理していく。
この光景を見て、スバル殿が木札の冒険者だと思う者は居ないだろう。
「……!」
拙者が立ち止まって数瞬後、スバル殿も足を止めた。
すでに索敵範囲も拙者に迫るか。末恐ろしい。
「この気配……」
「うむ。風下である故に、まだ勘付かれてはいまい。スバル殿、如何する」
「……このまま進む。基本方針は今まで通りで」
「承知した」
スバル殿が戦い、拙者は備え。スバル殿の戦い方は、もはや一般的な前衛を必要としなかった。
そのまま気配のある方へ進むと……。
「
スバル殿にとって、因縁深い魔物がそこに居た。
熟練度とは、いわば外界から魂への影響度合い。大きければ良いものではない。