地味すぎると言われたB級、引退を決意した後の周囲の反応が地味とは程遠い   作:ダイサン

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話せばわかる地味冒険者

 冒険者にも、ダンジョンに潜ったり護衛をしたり強い魔物を討伐したり。

 色々と仕事があるが、誰だって最初にやるのは溝浚いやゴミ掃除のような地味なクエストだ。

 いきなり街の外にでて死なれては困るし、冒険者になりたがる人間は英雄願望も強い。

 そういう人間に、こういう地味な仕事を体験させて、現実を理解させるのは必要な工程である。

 無論、メリットだってある。

 それはここに集まる冒険者が、新人か――もしくは俺のように、一旦外での危険な冒険から離れて腰を落ち着けたいベテランかの二択になるからだ。

 

「人はまだあんまり来てないな」

 

 受付のアリッサさんとの会話で少し時間を使ったものの、集合時間に遅れることはない。

 まだチラホラ新人の冒険者が集まってるくらいで、大多数はこれからやってくることだろう。

 そもそも、溝浚いを受ける冒険者の七割は集合時間に遅れるからな。

 監督役もそれは解ってるので、叱り飛ばしはするもののいちいち気にしたりはしない。

 

「おや、珍しい顔だな。確か……ジギルさんだったか。その怪我のリハビリか?」

「まぁ、そんなところだ」

 

 監督役に顔合わせをすると、やはり珍しいと言われる。

 こういう依頼、新人の頃しか受けなかったからなぁ。

 そして怪我のリハビリでこういう依頼を受ける人間は多いので、俺のことが疑問に思われることもない。

 顔の傷がわかりやすくていいんだろう。

 

 それから道具を監督役から受け取って、俺は早速作業を開始する。

 別に人が集まってからでも文句は言われないんだが、作業開始の時間である集合時間にちょうどなったからな。

 俺は鍬を突き刺して、泥を溝から掬い上げる。

 魔力を身体強化に回せば、なんてことはない作業だ。

 片目が使えなくなって目測は中々合わないが、魔物との戦いでなければそこまで危険はない。

 

 先に集まっている新人組数名は、集まって何やら話をしていた。

 チラチラとこっちを見ているあたり、やはり普段見かけない人間が珍しいんだろう。

 傷を追って片目が潰されてからというもの、俺は自分が注目を集める機会が増えていると如実に感じていた。

 

「だからさ、あの人に」

「ええ、でも……」

 

 話している距離感からして、明らかに新人組は顔見知りという感じではなかった。

 初対面で、積極的に会話をしようというやる気が感じられる。

 まぁ、集合時間前に来ているということは、それだけ張り切ってるんだろう。

 彼らは伸びる。

 そう感じられた。

 

 溝浚いを新人冒険者がする意義は、何よりも同じ新人冒険者と仕事ができるということだ。

 すなわち、レベルの近い者同士で繋がれる。

 知り合いの少ない人間でも、こうして仕事を一緒にした中から気の合う相手を探してパーティを組む。

 というのが、新人が溝浚いをするうえでの理想だ。

 俺も、この依頼を進められた時に受付に質問したから、その役割は解っている。

 

 ただ、俺は溝浚いの役割が解ったうえで、パーティを組む相手が見つからなかったのだ。

 話に交じることはできた。

 声をかければ、挨拶はしてくれる。

 でも、そこまで。

 仕事が終わったあとに食事に行こうという話が持ち上がっても、印象に残らなかったせいで声をかけてもらえず。

 その後のパーティ結成を逃すこと、数度。

 俺は自分の地味さを呪った。

 

「あの、すいません!」

「……ん?」

 

 そんな悲しい過去を思い出していると、ふと声をかけられた。

 先程会話をしていた新人冒険者数名が俺に話しかけてきたのだ。

 何事かと思って振り返ると、彼らはどこか目を輝かせた様子で俺を見ていた。

 

「先日、”名誉の負傷”をしたジギルさんですよね!?」

「あ、ああ……そうだが」

「おー、本当に傷ができてる。厳つい!」

 

 名誉の負傷とは、冒険の最中に傷を負った冒険者の総称。

 特に、逃げ出すことなく魔物と戦った者たちを、そう呼称する。

 こういう冒険者は、冒険者界隈で話の種になるのだ。

 そうか、俺がそういう話の種になることはないとおもってたけど、案外行動次第ではそうなるんだな。

 ついでに、厳ついと言われるのも初めてだ。

 普段の顔は地味で印象に残らないからな、傷の一つでもあった方がいいのかもしれん。

 仮に目を治療する時が会っても、傷跡はそのままにしておくか。

 

「それで、どうしたんだ?」

「あ、えーっと、実はこいつ……溝浚い初めてらしいんですよ。今まで街の掃除の方に入ってて」

「なるほど、じゃあやり方がわからないわけだ」

「は、はい……」

 

 そしてここにベテラン冒険者が参加する意義は、新人の教導。

 こうして声をかけられた時に、優しく教えてあげるのだ。

 冒険者は荒っぽいやつが多いから、新人冒険者が声をかけるのは危険じゃないか、と思うかも知れない。

 しかし、怪我をしたあとにリハビリを選ぶ冒険者は大抵、素行がいいやつだ。

 素行が悪いと怪我をしてても気にせず冒険に行って……帰らないこともあるからな。

 

「なら、そうだな。身体強化はどれくらいできる? 特定部位の強化はできるか?」

「あ、で、できます!」

「じゃあまず、普通に泥を浚うところからやるから、見ててくれ」

 

 俺はそう言って鍬を溝に入れて、泥をかきだす。

 やっていることはシンプルだから、見ていれば直ぐに真似できるだろう。

 ポイントは、この時何をやっているか。

 

「んで、こうやって鍬を泥に突き入れる時なんだが……」

「は、はい。身体強化するんですよね?」

「そうだ。足腰を中心に身体強化をしてみてくれ」

「え、腕じゃないんですか?」

「その方が楽なんだよ」

 

 俺の言葉に、最初に声をかけてきたほうの冒険者が驚いた。

 そっちは溝浚いが初めてではないということだったはずだが、どうやら彼もしらなかったらしい。

 

「体を動かすってのは、特定の部位だけを動かしているように見えて、その実全体を動かして使っている。腕だけを身体強化するより、足腰を身体強化した方が体の負担は少ないんだ」

「な、なるほど……」

「理想は全身を強化することだけどな。でも、まだそこまではできないだろ」

「は、はい……」

 

 それから、俺達は溝浚いの効率的なやり方を話しながら、作業を始める。

 効率的なやり方を話し終わると、自然と俺の冒険の話になっていく。

 ただ、正直俺はあまり人前で話すのは得意ではないし、冒険そのものも地味なことが多い。

 だから話す内容は自然と彼らの興味を惹きそうな怪我をした時の冒険の話になるわけだが、彼らはちょっと意外なところに食いついた。

 

「じゃあジギルさんってずっとソロでやってたんですか!?」

「まあ、たまに組むことはあるけど固定のパーティはないな」

「へー、冒険者って感じだ!」

 

 俺からすれば、ソロで地味な依頼を黙々とこなしているだけなんだが。

 そもそもソロ冒険者って、野宿とかの問題があるから受けれる依頼も少ないし。

 魔物や人を遠ざける結界石も高価で使い捨てだからなあ。

 最近は金に困らなくなったけど、昔は苦労したものだ。

 なんてことを話していると新人たちは目を輝かしてくれたし、そうやって作業をしているうちに周囲に他の冒険者も集まってきた。

 意外だったのは、彼らが比較的すんなり溝浚いを始めたことか。

 俺の頃は作業開始まで結構時間かかったし、中には先に始めてるやつをバカにする奴すらいたのになあ。

 なんて思いながら、適度に休憩を入れつつ俺は溝浚いを終えるのだった。

 

 

 ――

 

 

 ジギルが知る人ぞ知る冒険者なのは、彼と話をする機会が周囲にないからだ。

 しかし一度話をすると、彼の好感度が上がっていくからでもある。

 何せ彼の話は、堅実で実用的なものばかり。

 一人で活動してきたから、どんなことでもある程度一人でこなし効果を出してきたものばかり。

 溝浚いにおいて魔力を足腰と腕にだけ集中させるという方法を、一体どれだけの人間が思いつくか。

 優秀な人間はさっさと溝浚いなんてしなくなるし、雑な人間がそんなこと考えつくはずもない。

 地味で堅実なジギルでなければ、思いつく余地が発生しないのである。

 無論、他にも思いついた冒険者はいるだろうが、ジギルが稀有であることに変わりはない。

 

 そう、ジギルは話さえすれば良さがわかる冒険者なのだ。

 それにより、各地で細々と実力者から評価を集めていたジギルだったが、名誉の負傷と引退で話は変わる。

 今回のように、新人に声をかけられることも増えるだろう。

 ジギル本人は、そんなこと知る由もなく。

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