なんか、色が薄いピカチュウを見つけたんだけど   作:ぽこちー

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どうしてうすチュウの二次創作が少ないのか。
我々はその謎解き明かすために連載している小説をほっぽり出し、トキワの森の奥地へと向かった。



人間 編
おはよう。


 

 春はあけぼの。

 YO☆YO☆ヨーギラスに食べられていく山ぎは、少しあかりて———以下略。

 

「ぶえっくしょんっ!!」

 

 各地のアブリーによって花粉が世界中に散布されるこの季節。花粉症の僕は、そこら中に生え散らかしている木々や花々に心の中で中指を立てながら、盛大なくしゃみをぶちかました。

 

 なんで、植物の交尾のために僕がこんなに苦しまなくてはならないのか。

 子作りするなら誰にも迷惑をかけず、こっそりやれ。ついでに生まれてくる子供にはもう少し優しくしてやれ。健全な身体で産んでやれ。

 

 どうしようもない八つ当たりを頭の中で垂れ流しながら、僕は空を仰いだ。

 

 今も昔も変わらない、青い空。

 そこに揺蕩う雲を掴むように、精一杯手を伸ばす。

 当然、届くはずもない。

 その事実が、嫌になるほど、自分の小ささを教えてくる。

 

 子供の頃は、目に入るものすべてが新しくて、どこまでも続く冒険の入口みたいに見えたものだ。

 

 街の至る所に設置された風力発電。停泊しているサントアンヌ号と、それに続く桟橋。ポケモンセンターに出入りするトレーナーたち。

 それら全てに憧れ、当たり前みたいに夢を見ていたものだ。

 

 けれど、このクチバの街は、ずいぶんと変わってしまった。

 

 住人の数は日に日に減り、サントアンヌ号の入出港も目に見えて少なくなった。人々の関心は、他の地方ではなく、もっと遠く———宇宙(そら)へと向いているのだ。

 

 ニビシティの博物館では、ポケモンの化石よりも、宇宙船や宇宙服、惑星の展示のほうが増えている、そんな話も耳にした。

 

 今はまだ届かない空。

 けれど人類は、いずれその空を越え、その先の宇宙(そら)へと辿り着くのだろう。

 

 ……まあ、僕には関係のない話だけど。

 

 

 

 

 

 さて。現実逃避はこのくらいにしておこう。

 僕は今、クチバシティの外れにある、小さな花畑の前に立っている。

 

 どうして花粉症の僕が、わざわざこんな場所に来ているのか。

 その理由は、正直、自分でもよく分からない。

 

 ただ、なんとなく。

 ここに来なければいけない気がしたのだ。

 

 老朽化していく世界から目を逸らしたくなって、ふらふらと辿り着いただけなのかもしれない。

 

 あるいは———本当に、誰かに呼ばれたのか。

 

 そんな曖昧な考えを振り払うように、僕はムズムズする鼻をこすりながら足元へ視線を落とした。

 花畑の中心には一本の木が立っていて、それを囲むように青とオレンジのアサガオが咲き誇っている。

 

 その中心。

 青とオレンジに埋もれるようにして、ひときわ目を引く“何か”があった。

 

 花、ではない。

 ポケモンだ。

 

 色素が抜け落ちたように、透明に近いほど薄い白。そんな不可思議な色をしたピカチュウが、アサガオの中で静かに寝息を立てていた。

 

 ピカチュウの色違いは、もっと濃い黄色だったはずだ。突然変異、とも考えたが、直感的にそれとは違うと分かる。

 

 では、リージョンフォーム?

 いや、それも違う気がする。

 リージョンフォームなら、環境に適応した結果として、体つきや性質にも変化が出るはずだ。だが、目の前の個体は見た目だけなら原種とほとんど変わらない。

 

 つまり。

 これは、既存のどれにも当てはまらない“何か”だ。

 新種の特殊個体。

 そう呼ぶのが、一番しっくりくる。

 

 なぜこんな場所で眠っているのか。

 野生なのか、それともトレーナーとはぐれたのか。

 疑問はいくつも浮かぶのに、答えは一つも見つからない。

 その代わりに増していくのは、鼻のムズムズだけだ。

 

「ふあっ……ぶえっくしょんっ!!!!」

 

 ついに限界を迎えた僕の鼻から、ハイドロポンプが盛大に発射された。

 放物線を描いたそれは、ピカチュウのすぐ上をかすめ、地面にべちゃりと着弾する。

 

 ……危なかったな。

 もし直撃していたら、ひんしどころじゃ済まなかったかもしれない。

 

 鼻を啜りながらそんなことを考えていると、

 

「チャァ〜……」

 

 間の抜けた可愛らしい声が、目の前から聞こえてきた。

 どうやら、くしゃみで起こしてしまったらしい。

 

 目の前のピカチュウは、小さくあくびをしながら体を起こし、垂れた耳をくしくしと整える。それから、ゆっくりとこちらを向いて、にこり、と笑った。

 そして、ぺこりと頭を下げた。

 

「ピカチュ♪」

 

「……あっ、どうも。おはよう、ございます」

 

 つられて、僕も深々と頭を下げていた。

 

 

 

 これが、ピカチュウ———通称『うすチュウ』との出会い。

 

 僕とうすチュウの、長くて、短い一年の始まりだった。

 

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