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こたつ。
それは、人類が生み出した史上最高の文明だ。
どれだけ厳しい寒波が訪れようと、こたつさえあれば、人もポケモンも生きていける。そんな気さえしてくる。
『ニャルマーはこたつで丸くなる』と歌があるように、うすチュウもまた、僕の膝の上で小さく身体を丸め、こたつの温もりを存分に味わっている。
「どう? 暖かい?」
「ピカチュ♪」
「そっか、それはよかった。風邪ひいちゃったら困るからね」
「ピカ〜♪」
雪の中であれだけ遊び回った僕たちは、びしょ濡れになりながら屋敷へと帰ってきた。
遊んでいる最中は気づかなかったけれど、屋敷に入った途端、うすチュウは小さく震え始めた。ようやく寒さを思い出したみたいに。
僕は慌ててうすチュウを抱き上げ、そのまま風呂場へと駆け込んだ。
そうして今、二人でこたつに入っている。
すぐに温めたおかげで、うすチュウはもう元気そうだ。
よかった。
———本当に、よかった。
僕はもう、
冬の寒さも。
雪の冷たさも。
気がつけば、いつの間にか分からなくなっていた。
今だって、このこたつが本当に暖かいのかどうか、僕には分からない。
けれど———
うすチュウの温もりだけは、はっきりと感じられる。
優しくて、柔らかくて、どこか懐かしい。
まるで、小さな太陽みたいな温もり。
それを感じられるだけで、僕には十分だった。
するとふと、なぜか昔やっていたゲームのことを思い出した。
「ポケモン、か……」
「ピカ?」
うすチュウが、不思議そうに首を傾げて僕を見上げる。
「昔、人間がポケモンになっちゃうゲームがあったんだ」
「ピカピ?」
「その元人間の主人公は、相棒のピカチュウと救助隊を組んで、困っているポケモンたちを助けていくんだよ」
言葉を選びながら、ゆっくりと思い出していく。
「たくさんのポケモンを助けて、たくさんの友達ができてさ。途中で街を追われて、ひとりぼっちになることもあるんだけど———それでも、パートナーのピカチュウと一緒に乗り越えて、最後には世界まで救うんだ」
あの頃の自分は、ただの物語として楽しんでいた。
けれど今は、少しだけ違う意味を持って胸に残っている。
「最後がどうなったのかは、うまく思い出せないけど……すごく、あったかいゲームだったよ」
「ピカ〜……!」
うすチュウが、どこか感動したように目を輝かせる。
「興味出てきた? じゃあ今度、一緒に探してみようか。この屋敷のどこかに、まだ眠ってると思うし」
「ピッカ♪」
また一つ、楽しみが増えた。
その事実が、少しだけ嬉しい。
僕はうすチュウをそっと抱き寄せ、静かに目を閉じた。
うすチュウと出会って、もうすぐ一年になる。
一人で、ただ時間が過ぎていくのを待つだけだった僕に。
たくさんの思い出をくれて。
たくさんの感情をくれて。
———生きている意味を、くれた。
あの頃は、『死』なんてただの言葉でしかなかった。
何も感じなかったし、怖くもなかった。
けれど今は、違う。
死ぬのが怖い。
……いや。
うすチュウと、離れ離れになるのが怖いんだ。
どんな生き物にも、終わりは訪れる。
それはきっと、変えられない。
僕に残された時間も、きっと多くはない。
だから———
残された時間の中で、後悔だけはしないように。
うすチュウが、ひとりで寂しくならないように。
できる限り、たくさんの思い出を残そう。
ゆっくりと目を開き、窓の外を見る。
さっきまで降っていた雪は、いつの間にか止んでいた。
厚く覆っていた雲の隙間から、柔らかな光が差し込み始めている。
白い世界に、少しずつ色が戻っていく。
その光は、どこか優しくて———少しだけ、切なかった。
……もう、春が来るんだ。
徐々に弱まっていく、『あなた』の鼓動。
徐々に失われていく、『あなた』の体温。
ゆっくりと———けれど、確実に終わりへと近づいていく、『あなた』との時間。
どうして、世界はこんなにも残酷なのでしょう。
どうして、世界は『あなた』を苦しめるのでしょう。
どうして、世界は……こんなにも、わたくしに冷たいのでしょう。
辛い。
苦しい。
離れたくない。
離れたく、ないのに。
それでも、その願いは叶わない。
『あなた』も、それをきっと理解している。
理解した上で、わたくしを悲しませないようにしてくださっているのです。
本当は、叫びたいはずなのに。
苦しいと、助けてほしいと。
死にたくないと———泣き叫びたいはずなのに。
それでも『あなた』は、恐怖を押し殺して。
わたくしに、優しく微笑んでくださる。
ああ……本当に、お優しい人。
だからこそ、わたくしも。
『あなた』に、笑顔を向けるのです。
せめてその最期に、悔いが残らないように。
せめてその時間が、ほんの少しでも温かなものであるように。
もっと早く、出会えていたなら。
もっとこの世界が、『あなた』に優しかったのなら。
そんな叶うはずのない願いを、胸の奥深くに押し込めて。
わたくしは、ただ微笑むのです。
涙が零れ落ちてしまわないように。
この想いが、『あなた』を縛ってしまわないように。
———最後のその時まで。
「大好きですよ、『あなた』」
次回、『なんか、色の薄いピカチュウを見つけたんだけど』最終話
「おやすみなさい。」
本日18:30投稿