トレーナーとポケモンの絆というものは、時には膨大なパワーを生み出す。それは単なる比喩ではなく、現実として幾度も証明されてきた“力”だ。
ホウエン・カロス地方でよく見られるのは『メガシンカ』。
ガラル地方でよく見られるのは『ダイマックス』。
パルデア地方で見られるのは『テラスタル』。
どれも、トレーナーとポケモンの絆があってこそ発動、および制御ができる現象であり、トレーナーとポケモンの絆の最高地点とも言える現象だろう。
そして、アローラ地方にもそれらと同様の現象が存在する。
それは、『Z技』だ。
Z技とは、ZリングとZクリスタルの2種類のアイテムを通じて、お互いの想いを重ね合わせることで発動ができる、絶大な必殺技だ。
バトル中に1度しか扱えないというデメリットが存在するものの、メガシンカのように使用できるポケモンは限定されておらず、ダイマックスやテラスタルのように地域に限定されることもない。
つまり、ZリングとZクリスタル、そして、ポケモンとの絆があれば、誰でも、どのポケモンでも扱える最高の絆現象なのだ。
だが、Z技はメガシンカたちのように人気なモノではない。強さだけで語るなら、決して見劣りはしないはずなのに。
それは何故か。
その答えは簡単だ。
それは———
『おーっす! みらいのチャンピオン♪今日も一日はりきっていきましょう♪ゲット! ゲット!』
「ピッカ♪ピッカ♪」
『さあ、どんどん仲間をあつめちゃおう♪』
うすチュウが、テレビの映像に合わせてピョコピョコとダンスを行っている。小さな身体がリズムに合わせて弾むたび、耳がぴょこぴょこと上下に揺れた。
うーん、可愛い。
見ているだけで頬が緩む。
……じゃなかった。
Z技に必要なもの。
そして、Z技が人気がない理由。
それは、このダンスなのだ。
ポケモンや子供が行う分には可愛らしいダンスなのだが、これを大の大人がやるとなると話は変わってくる。
いや、アローラ出身のものであれば全然気にすることのないダンスなのだが、他の地方のトレーナーからすると恥ずかしいのだ。
とはいえ、Z技はメガシンカどころかダイマックスポケモンを一撃できぜつさせるほどの威力を持つ。使わない理由にはならないはずだ。
だが、使われていない現状を見ると、強さよりも羞恥心の方が勝ってしまうということだろう。人間というのは、案外そういう生き物なのだ。
「ピカピ! ピカピカ、ピッカ!!」
「えぇ? 僕もやれって?」
「ピカッ♪♪」
テレビの映像では、トレーナーとその相棒であるピカチュウがZ技のダンスを踊っている。この映像は、Z技を知らない人でも、映像のダンスを真似すればすぐにZ技を使えるようになるという非常に有用な映像なのだ。
うすチュウは、屋敷にあるこのDVDを見つけ出してしまい、ラジオ体操感覚で毎朝視聴している。最初は興味本位だったはずなのに、今ではすっかり日課だ。
そして、この映像を見ているうちにZ技に興味を示し始め、さらには僕にダンスを催促するようになってしまったのだ。
「はいはい、分かった。分かったから腕を引っ張らないでくれ」
「ピカピッカ♪♪」
うすチュウに催促されながら、僕はゆっくりと立ち上がり、うすチュウの横に立つ。そして、映像に合わせて身体を動かし始める。
少しぎこちない最初の一歩。それでも、身体は意外と覚えているものだ。
「メラメラボーボー炎が燃え上がるー♪」
「ピカピカピカピカピッカピッカピカピカピー♪♪」
「ヒュードロロンとゴーストが」
「ピッカピッカピー♪♪」
「世界一の格闘家〜♪」
「ビシバシビシバシドーン!/ピカピカピカピカピー♪♪」
ビシッと、リズムに合わせてポーズを決める。
空気を切るような動きが、わずかに遅れて身体に響いた。
幼い頃から曾祖父母と一緒にやってきたこのダンス。今も問題なく踊れることに安心して、少し誇らしげにうすチュウへと決める。
「どうよ? 僕も案外動ける……っゲホッ!! ゴホッ!!」
「ピカッ!? ピカピッ!?!?」
「だ、大丈夫。大丈夫だよ、うすチュウ。少しむせただけだから」
「ピカー……」
心配そうにこちらを見るうすチュウを優しく撫で、ベッドに腰を下ろす。ドクドクと、心臓の鼓動が速くなり、体温も徐々に上がっていくのを感じた。胸の奥がじんわりと熱い。懐かしさと、ほんの少しの無理が混ざった感覚。
昔と同じように踊れても、体力は随分と衰えてしまったようだ。まぁ、何年もこの屋敷でぼーっと過ごしてきたから当たり前か。身体は正直だ、と苦笑が漏れる。
身体の熱を冷ますために、エアコンの温度を下げ、風量を上げる。機械音とともに、冷たい風が部屋を満たしていく。
「ふぅ〜、涼しい〜」
「ピカ……」
「何だ? 寒いのか? ならほら、おいで」
「ピカ……ピッカ♪♪」
ぴょん、と軽やかに、うすチュウが僕の上へと飛んできた。小さな体温が、胸の上にじんわりと広がった。
僕はうすチュウを優しく抱きしめ、その頭を撫で始める。指先に伝わる柔らかな感触が、どこか安心をくれた。
「どうだ? 気持ちいいか?」
「ピカピ〜♪♪」
「そりゃよかった。僕もなでなで力が上がってきたんだな。どやぁ〜」
「ピカァ〜♪♪」
その無邪気な声に、思わず笑みがこぼれる。
こんな穏やかな時間が、ずっと続けばいいのに、と。
「ノーマル、かくとう、どく、じめん、ひこう、むし、いわ、ゴースト……!」
「はがね、ほのお、みず、でんき、くさ、えっと……」
「こおり、エスパー、ドラゴン、あく、フェアリー!!」
「みんな、随分とダンスが上手になりましたね♪」
「ほんと? やったー!」
「お姉ちゃんの教え方が上手だからだよ!」
「うふふっ、そう言ってもらえると嬉しいです♪」
「うぅ…おれっちはまだまだだよぅ……」
「大丈夫ですよ、エレズンくん♪焦らずゆっくりやればできるようになりますから♪」
「そうだよ! みんなで一緒に頑張ろう!」
「うちらも教えてあげるから、ね?」
「……ほんと?」
「はい♪みんなで一緒にやりましょう♪」
「まちがえてもいいんだよー?」
「うんうん! 最初はみんなそうだったし!」
「……わかった。おれっち、がんばる」
「じゃあみんな、わたくしに続いてくださいね♪」
「「「うん!!」」」