二人のビーストテイマー~プログレッシブver~ 作:ほにゃー
《ウインドワスプ》は、簡単に言うと体長が五十センチの蜂だ。
現実に存在したら世界最大の昆虫なのだが、SAOでは最小のモンスターに分類される。
とは言っても、人間の子供サイズの蜂が真正面から襲い掛かってくるのは恐怖だ。
その恐怖を殺し、俺は襲い掛かってくる《ウインドワスプ》を両手剣の重さを活かして、叩き付けるようにして振る。
両手剣を横から叩き込まれた《ウインドワスプ》はふらふらっと体制を崩し、静止する。
「シリカ!」
「せい!」
その隙を逃さず、シリカは素早く《スラッシュ・ファル》を操出し、《ウインドワスプ》の弱点である腹の付け根を正確に切り裂く。
両手剣での攻撃によりHPは残り8割。
そこに、三連撃が決まりHPは残り一割程。
すかさず、両手剣を下から斬り上げ残りのHPを奪い、倒す。
ここまでで約五秒。
「二十四!」
「二十二!」
後ろでアスナさんとキリトさんが叫ぶ。
二人はどちらか先に五十匹狩れるか競争している。
アスナさんは《リニア-》を正確に、二発とも弱点に叩き込んでるため、二コンボで《ウインドワスプ》を倒せているが、キリトさんは《バーチカル・アーク》《スラント》そして、通常攻撃の三コンボで倒しているので、時間はアスナさんより掛かる。
そのためキリトさんはアスナさんと比べて二匹差がある。
ワスプは攻撃を行った後、一・五秒の隙が出来る。
《リニア-》は単発技でクールタイムが短く、スキルを使っても、ワスプの隙に間に合うが、《バーチカル・アーク》はクールタイムが長く、《スラント》でクリティカルを狙うにしても、背中の翅が邪魔で片手剣では弱点が狙いにくい。
だから、差が出来てしまうのは仕方がない。
まぁ、俺はシリカと組んで戦っているので一匹倒す時間はアスナさんより少し早い。
ちなみにここまでで三十匹は狩っている。
キリトさんは腹を括ったのか、ワスプを《バーチカル・アーク》で斬ると、次に体術スキル《閃打》を使い、ワスプを殴りつける。
するとワスプは最初の一撃でHPを六割削られ、今の攻撃で更に二割削られる。
そして、《スラント》を使い倒した。
時間はおそらくアスナさんと変わらない気がする。
「レイン!次来たよ!」
シリカの声に反応し、正面を向く。
正面にはポップの前兆のポリゴン塊が話移出していた。
「よし、行くか」
そう呟き、両手剣を握り締め、ダッシュした。
一時間後、キリトさんは真っ白に燃え尽きて座り込んでいた。
「お疲れ様です」
「…………何匹狩った?」
「多分、七十ぐらいは」
「………やっぱ、コンビでやると早いな」
勝負の結果は、キリトさんが一匹差で負けた。
勝ったアスナさんは笑顔で今、シリカと素材アイテムの交換をしている。
交換し終わったのか、アスナさんとシリカがやってくる。
「それじゃあ、《ウルバス》に戻って晩ご飯にしようか。手伝って貰っちゃたしレイン君とシリカちゃんにもご飯奢って上げるよ」
「「ありがとうございます」」
アスナさんにお礼を言い、お言葉に甘えることになった。
晩ご飯を食べることになったレストランは、《ウルバス》の東西のメインストリートから細い道を北に折れ、更に右、左と曲がった所にある場所だった。
そう言えば、キリトさんとアスナさんの競争で負けた方が、勝った方ににデザートを奢るって話だったな。
アスナさん………この店の、あのショートケーキを奢らせるつもりだな。
ベータ時代に、キリトさんと割り勘して食べたが、それでも結構なコルが飛んだ。
もちろん、値段だけに味もそれ相応なものだった。
だが、あれを一人で奢るとなるとかなりの出費だ。
おそらく先程の狩りで稼いだコルが殆ど飛ぶことになるだろう。
レストランに入ると席に着き、パンとシチュー、サラダの晩ご飯を食べる。
そして、お待ちかねのケーキが二つ運び込まれた。
「え゛?二つも頼んだのか?」
二つケーキが運び込まれたことにキリトさんは声を上げる。
「私が頼んだのは一つだけよ」
アスナさんも驚きながらも、否定する。
「あ、片方は俺が頼みました」
そこで俺は手を上げ、答える。
出されたケーキをシリカの前に出し、フォークを渡す。
「え?レイン?」
「まぁ、その………なんだ。シリカには頑張ってもらってるし、その日頃の感謝ってことで俺からのプレゼントだ」
少し恥ずかしくなり、横を向く。
「あ、ありがとう」
シリカも恥ずかしいのか横を向いた。
「初々しい」
「初々しいね」
キリトさんとアスナさんがほっこりした顔でこっちを見て来る。
「あ、レインも食べようよ」
「え、でも、これはシリカの為に頼んだものだし」
「あたしだけが食べたら、居心地が悪いの。それに、こんなに沢山は食べれないよ」
確かに、大きめの皿に、半径が十八センチで、高さが八センチのケーキだ。
一人で食べるには大き過ぎる。
「じゃあ、半分貰うな」
「うん」
そう言ってシリカは俺にフォークを一本渡してくる。
ケーキを食べ終わり、店を出ると外は完全に夜になっていた。
「おいしかった」
シリカは満足そうに言った。
「なんかベータの時より味がおいしかった気がする」
「まぁ、味はともかく、これだけはベータの時には無かったよな」
俺の呟きにキリトさんはおそらくHPバーがある下を指差す。
俺も自分のHPバーに目を移す。
そこには《幸運判定ボーナス》のバフである四葉のクローバーのアイコンがあった。
このバフは毒矢麻痺への抵抗判定や武器落下、転倒の発生率を下げたり、レアアイテムのドロップ率を上げるなどの効果がある。
残念だが、この効果は十五分が限界で、今からフィールドに出て狩りをするのは間に合わない。
あの値段で、《幸運判定ボーナス》が付くのは嬉しいが、有効活用できなかったら意味がない。
なんとか有効活用できないかな………
「あっ………」
残り時間が十二分になった時、キリトさんは有効活用する手段を思いついたのか、指をパチンと鳴らした。
そして、俺達四人は《ウルバス》の東広場に向かった。
広場の北側の隅っこでは、昼間の鍛冶プレイヤーが剣を作っていた。
「キリトさん。もしかして、剣の強化にこの幸運バフが適用されるか試すつもりですか?」
「ああ。もしかしたら成功率九十五パーセントが九十七パーセントになるかもしれないだろ」
確かに検証するにはいいかもしれないが、これ効果あるのか?
実際に強化をするのはあの鍛冶プレイヤーでアスナさんじゃない。
「ま、どの道、今日強化する予定だったしやってみるわ」
そう言うとアスナさんは細剣を腰から外し、鍛冶屋へ向かう。
その後ろにキリトさんが続き、俺とシリカも続く。
「こんばんは」
アスナさんが声を掛けると、鍛冶プレイヤーは顔を上げながら、慌てて頭を下げる。
「こ、こんばんは。いらっしゃいませ」
昼間も思ったが、この人とても弱腰な人だな。
ふと、看板を見るとそこには《Nezha,s Smith Shop》とあり、おそらく、ネズハって読むのだろう。
これがこの人の名前か。
「お買い物でしょうか?それとも、メンテですか?」
「強化をお願いします。《ウインドフルーレ》+4を+5に。種類はアキュラシーで、強化素材は持ち込みです」
アスナさんがそう言うと、ネズハさんは困ったような表情をする。
「は、はい……わかりました。素材の数は、どのぐらい……」
「鋼鉄板か四枚と、《ウインドワスプの針》が二十個です」
アスナさんの《ウインドフルーレ》を+4から+5にするのに、針は二十個もあれば成功率は九十五パーセント。
まず失敗する可能性は低い。
それでも、五パーセントの失敗の確率もあるが、持ち込みなしで強化するよりはマシだ。
なのに、ネズハさんは困ったような顔をしながら、剣と素材を受け取る。
「ゆび」
「え?」
隣で明日菜さんがキリトさんにそんな事を言いだした。
てか、ゆびって?
「左手の指出して」
キリトさんは言われるままに左手の指を出すと、アスナさんがそれを握る。
「こうすれば貴方の分のバフも加算されるかもでしょ」
加算………されるのかな?
「……だったら、指よりも手を握るとか」
「私と貴方はそんな関係じゃないでしょ」
アスナさんにきつくそう言われキリトさんは、少し落ち込む。
その間に、ネズハさんは携行用の炉を製造モードから強化モードに変え、素材を流し込む。
そして、素材は溶けはじめ、青色の光を放つ。
その中に、アスナさんの細剣を入れ、細剣が青い光に包まれるとそれを鉄床に置き、ハンマーに手を伸ばす。
「あ」
その時、キリトさんが何かを言おうするが、その前にネズハさんは細剣をハンマーで叩く。
そこから、キリトさんは何も言わず、ただ黙って細剣が強化されるのを見ていた。
ハンマーが振り下ろされ、金属音が響く。
七回、八回、九回、そして、十回。
これで、アスナさんの細剣は強化される。
素材アイテムを上限まで使い、NPC鍛冶屋よりも腕のいいプレイヤー鍛冶屋、そして、効果あるのか分からないが二人分の幸運バフ。
失敗は起こらない。
だが、次の瞬間、ありえないことが目の前で起こった。
アスナさんの細剣が眩い光を放ち、澄んだ金属音を響かせ砕け散ったのだ。