ゲヘナ特務執行隊「レイヴン」   作:ゴリさん39

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旧市街地 合同作戦
第17話 招集


 

 朝の空気は、最初はいつも通りだった。

 

 端末を開き、簡単な確認をして、支度を整える。

 任務のない日なら、そのまま少し遅い朝になるはずだった。

 

 けれど、その日は違った。

 

 廊下を通る足音が多い。

 無線の応答が短く、数も多い。

 誰かが走っているわけじゃない。

 怒鳴り声が飛んでいるわけでもない。

 

 それなのに、支部全体の空気がほんの少しだけ前のめりになっていた。

 

「……なんか、今日慌ただしくないですか」

 

 ユウがそう言うと、先輩は端末から目を離さずに答えた。

 

「気づくなら遅くない」

 

「何があったんですか」

 

「会議室で聞け」

 

 それだけ言って立ち上がる。

 

 窓際にいたアノミマスも、いつもより少しだけ早く顔を上げた。

 何かを察しているのか、それともただ空気の違いを拾っているのか、ユウにはわからない。

 

「行くぞ」

 

 先輩が短く言う。

 

 ユウは端末を閉じて、その背中を追った。

 

 廊下へ出ると、違和感はさらに濃くなった。

 

 見慣れた顔もいる。

 でもそれだけじゃない。

 ふだん自分たちの区画では見かけない班章、違う装備、違う足音が混じっている。

 

 調査群の人間だけではない。

 封鎖担当らしい重装の隊員、端末を二台持った観測寄りの隊員、搬送タグを腰につけたモービル系の人間。

 歩く速さは全員少しだけ速い。

 でも騒ぎにはなっていない。

 

 仕事として大きい。

 ユウにもそれだけはわかった。

 

「これ、合同ですか」

 

 ユウが小声で聞くと、先輩は前を向いたまま答えた。

 

「たぶんな」

 

「たぶんって」

 

「正式に言われるまでは確定じゃない」

 

 相変わらずきっちりしている。

 

 アノミマスはその少し後ろを、静かについてきていた。

 白い髪はこの空気の中でも目立つ。

 何人かが一瞬そちらを見るが、声をかけてくる者はいない。

 

 会議室の前に着いた時には、もう人がいた。

 

 扉の外ですでに数人が待っている。

 見たことのない顔もある。

 見たことはあるけれど、どの班かまでは知らない人もいる。

 

 ユウは少しだけ背筋を伸ばした。

 

 その時、聞き覚えのある軽い声が飛んできた。

 

「お、白いのに新人までいる」

 

 振り向くと、相馬トウカが片手を上げていた。

 今日は作業着姿ではなく、少し整った格好だが、雰囲気の軽さは変わらない。

 

「おはようございます」

 

 ユウが軽く頭を下げると、トウカはにやっと笑う。

 

「朝から顔硬いな」

 

「だって空気がいつもと違うじゃないですか」

 

「まあ、それはそう」

 

 言いながら、トウカも会議室の方を見る。

 軽い顔のままなのに、視線だけはちゃんと仕事の人間だった。

 

「モービルも呼ばれてるんですか」

 

 ユウが聞くと、トウカは肩をすくめる。

 

「搬送線引けって話だろ。重い案件はだいたいそうなる」

 

 そこで先輩が短く挟む。

 

「喋るなとは言わんが、余計なことまで言うな」

 

「はいはい」

 

 軽く返しながらも、それ以上は続けなかった。

 

 会議室の扉が開く。

 

「入れ」

 

 中は思っていたより広かった。

 だが、すぐに狭く感じた。

 人が多い。

 

 ユウは一瞬だけ足を止める。

 自分たちの第8班だけで使う時とは全然違う。

 机の並びはそのままなのに、座る人間が増えるだけで空気まで変わるらしい。

 

 先輩は迷わず席を取る。

 アノミマスはその横。

 ユウも続いて座る。

 

 視線を上げると、前列寄りにはハウンドの他班らしい面々がいる。

 端末の置き方と雰囲気で、なんとなくそうわかる。

 壁際には封鎖担当らしい人間。

 後方には制圧群寄りの、少し空気の重い隊員たち。

 それぞれが喋っていても小声だ。

 雑談じゃない。確認と共有の声だけが行き来している。

 

 ユウは、少しだけ喉が渇くのを感じた。

 

 これまでの任務とは規模が違う。

 説明されなくても、それだけはわかる。

 

「緊張してるか」

 

 先輩が横目で言う。

 

「ちょっとは」

 

「ならまだ大丈夫だ」

 

「その基準、だいぶ雑じゃないですか」

 

「雑で困るか」

 

「少しは」

 

 そう返すと、先輩はそれ以上言わなかった。

 

 前方のモニタが起動する。

 会議室の空気が一段だけ静かになった。

 

 旧市街の地図が映る。

 

 ユウはそこで初めて、周囲の慌ただしさが一つの形になるのを見た。

 

 広域図。

 複数の区画。

 赤く塗られた異常反応域。

 そして、通常の局所案件では見ない広さ。

 

 前に立った担当者が短く口を開く。

 

「旧市街南西区画において、神秘異常の急速拡大を確認」

 

 会議室の空気が、目に見えないまま少し重くなる。

 

「局所火種ではなく、広域汚染として観測網に明確な反応あり。現地では汚染オートマタ系列の活動を確認済み」

 

 ユウは無意識に息を浅くした。

 

 やっぱり軽くない。

 

 担当者はそのまま続ける。

 

「本件はハウンド単独案件ではなく、複数部門合同任務として処理する」

 

 その言葉で、ユウはようやく今ここにいる人数の意味を理解した。

 

 合同任務。

 

 会議室に続々集まってきた他班。

 いつもより多い無線。

 足音の多さ。

 全部がそこへ繋がる。

 

 ちらりと横を見る。

 アノミマスはいつも通り静かだ。

 先輩も表情を変えない。

 

 だからユウも、とりあえず顔だけは変えないことにした。

 

 モニタ上の異常反応域が少し拡大表示される。

 旧市街の一角に、濃い反応が脈打つように表示されていた。

 

「詳細ブリーフィングを開始する」

 

 会議室の照明が少し落ち、地図がさらに細かく切り替わる。

 

 ユウは端末を開いた。

 

 日常はもう、さっきの廊下に置いてきた。

 ここから先は、レイヴンが大きく動く側の時間だった。




名前:ユウ
所属:レイヴン / 第8班《トレイス》
役割:後衛支援・護衛・追跡補助
武器:マークスマン・ライフル
   MR-07《トレイサー》
ポジション:BACK
戦闘スタイル:中距離精密射撃 / 護衛支援型

紹介文:
レイヴン第8班《トレイス》所属の新人。
前に出るよりも、一歩引いた位置から味方の動きを見て支える方が性に合っている。
素直で感情が顔に出やすく、先輩にはよく見抜かれている。
戦場ではマークスマン・ライフルを用い、前衛の作った隙を逃さず射抜く。
荷物の多いリュックを背負っていることが多く、煙幕や封止杭、予備端末など「必要になりそうなもの」が大体入っている。
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