ゲヘナ特務執行隊「レイヴン」   作:ゴリさん39

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第45話 強行突破

 

 本隊は耐えていた。

 

 ドローンの波。

 ミサイルの雨。

 時折混ざるビームの予備動作。

 それらすべてを、迎撃線は受け止め、落とし、崩れずに返していた。

 

 だが、ビナーはまだ倒れない。

 

 ユウはホバーバイクの上から、その巨体を見上げていた。

 爆撃で揺らぎ、重戦車の砲撃で装甲を削られ、ヴェクターがビームを逸らしても、それでもなお前にいる。

 

 その時、不意に無線へヴェクター隊長の声が落ちた。

 

『……おかしいね』

 

 声は穏やかだった。

 だが、その一言だけで前線の温度が少し変わる。

 

『火線の割に、本体が下がらない』

 

 ユウは思わず顔を上げた。

 

 前方でビナーはまだドローンを撒き、ミサイルを放っている。

 ビームの予備動作まで見せている。

 いかにもまだ“面で削る”つもりに見える。

 

 だが、ヴェクター隊長の目には違って見えているらしい。

 

『削る気じゃない』

 

 少しだけ間が空く。

 

『あれは近づくための蓋だ』

 

 ユウの背中に冷たいものが走る。

 

「……何ですか、それ」

 

 呟いた声に、先輩が短く返した。

 

「本命は別だ」

 

「別って」

 

「来るぞ」

 

 その直後だった。

 

 ビナーの巨体が、一段低く沈んだ。

 

 わずかな動きだった。

 だが次の瞬間、それが意味するところを全員が理解する。

 

『前面! 中和射撃!』

 

 ヴェクター隊長の声が一気に鋭くなる。

 

『脚部、前装甲、進行軸を削って! 止めようか!』

 

 その指示で本隊の火線が変わる。

 

 重戦車の砲撃が前脚部へ集中する。

 ミサイルが束になって飛ぶ。

 エンフォーサー部隊の射線も、今までの迎撃から“止めるため”の線へ切り替わった。

 

 爆発がビナーの正面へ連続して突き刺さる。

 

 脚元で火柱が上がる。

 前装甲が抉れる。

 それでも――止まらない。

 

「うそだろ」

 

 ユウの口から漏れる。

 

 ビナーは被弾している。

 効いていないわけじゃない。

 だが、止めるほどではない。

 

 巨体がそのまま前へ出る。

 

「相馬先輩!」

 

「見えてる!」

 

 相馬の声にも、今度ははっきり焦りが混じっていた。

 

 防空戦のために引かれた線が、今度は逆に足枷になる。

 迎撃線は密だ。

 だからこそ、本当に突っ込まれたら被害がでかい。

 

 ヴェクター隊長の声が続く。

 

『右、もう一段前! 中央、シールド上げて! 左は退くな、そのまま支えて!』

 

 落ち着いている。

 だが速い。

 見抜いて、もう手を打っている。

 

 それでも、間に合わない。

 

 ビナーはミサイルの爆発を浴びながら進む。

 装甲を削られ、火線を受け、脚部で土を砕きながら、それでも迎撃線との距離を詰めてくる。

 

 ユウは喉がひりつくのを感じた。

 

 まずい。

 

 今度はビームじゃない。

 もっと嫌なやつだ。

 

 あの大きさが、そのまま来る。

 

「先輩……!」

 

「黙って見ろ!」

 

 短い声が飛ぶ。

 

 ユウは歯を食いしばる。

 

 前線ではエンフォーサーがパルスシールドを重ね、本能的に“受ける姿勢”を作っていた。

 だが、受けていい相手じゃない。

 受けたら線ごと潰される。

 

 ヴェクター隊長の声がまた落ちる。

 

『……まだ足りないね』

 

 穏やかだった。

 その穏やかさが逆に怖い。

 

『もう一度、中和を重ねて』

 

 ミサイルが飛ぶ。

 砲撃が重なる。

 ドローンもまとめて吹き飛ぶ。

 ビナーの前面が火煙に包まれる。

 

 それでも、巨体は止まらない。

 

「だめだ……」

 

 ユウの声は、もうほとんど息だった。

 

 本隊が潰れる。

 重戦車も、罠も、エンフォーサーの列も、全部まとめて轢き潰される。

 

 そう思った、その瞬間。

 

 重い推進音が空を裂いた。

 

「……え」

 

 ユウが反射で横を見る。

 

 砂塵の外縁。

 その向こうから、巨大な影が飛び込んでくる。

 

 カタフラクト。

 

 ブースターユニットを唸らせ、重装甲の塊が半ば滑空みたいな勢いで地表を切り裂いていた。

 

「間に合ったか!」

 

 誰かの無線が割り込む。

 

 次の瞬間、カタフラクトは真正面ではなく、横から入った。

 

 突進中のビナーの横腹。

 進行軸を折るためだけに選ばれた角度。

 

「ぶつける!」

 

 短い叫び。

 

 激突。

 

 音が遅れて来る。

 いや、衝撃の方が先に地面を走った。

 

 ビナーの巨体が横へぶれる。

 カタフラクトの重装甲がそのまま押し込み、ブースターの炎がさらに唸る。

 

 進む力と、折る力。

 二つの質量がぶつかり合って、地面が悲鳴を上げる。

 

「うわ……!」

 

 ユウは思わず声を漏らした。

 

 ビナーの突進軸がずれた。

 

 ほんの少し。

 だが、その少しで十分だった。

 

 迎撃線の真正面を踏み潰すはずだった進路が、無理やり横へ捻じ曲げられる。

 

 重戦車群の前をかすめるように、巨体が逸れる。

 装置の一部が吹き飛び、土煙が上がる。

 だが、本隊の中心は残った。

 

「止まった……」

 

 ユウの声は、自分でも信じられないくらい小さかった。

 

「止めた」

 

 先輩が短く訂正する。

 

 その通りだった。

 

 止まったんじゃない。

 止めた。

 

 ヴェクター隊長の声が無線へ入る。

 

『いい衝突だ』

 

 穏やかな声だった。

 

『進路が折れた。前線、そこを逃がさず叩こうか』

 

 その一言で、本隊の火線がまた一斉に動く。

 

 重戦車の砲撃。

 エンフォーサー部隊の集中射。

 ヴェクター三機はなお後方からビーム線を監視し続けている。

 

 さっきまで“潰される側”だった本隊が、また“受けて返す側”に戻っていく。

 

 ユウはようやく息を吐いた。

 喉が痛い。

 知らないうちにずっと力が入っていた。

 

 相馬が低く笑う。

 

「いやあ、あれは反則だろ」

 

「助かりましたけど……」

 

「助かりゃ正義だ」

 

 それだけ言って、相馬はまた前を見る。

 

 アノミマスは砂塵の向こうを見つめたまま、小さく言った。

 

「……まだ、おわりじゃない」

 

「うん」

 

 ユウは頷く。

 

 終わっていない。

 だが、さっきまでの“壊滅する”未来は、一度へし折られた。

 

 カタフラクトの一撃で。

 ヴェクターの看破で。

 本隊が耐えた、その先で。

 

 ビナーの巨体は、今もまだ立っている。

 

 だが、その動きにはさっきまでとは違う乱れがあった。

 

 突進を止められた。

 正面突破も崩された。

 その事実は、怪物にも重くのしかかっているように見えた。

 

 ユウは前を見た。

 

 爆煙。

 火線。

 砂塵。

 まだ戦場は終わっていない。

 

 でも、ここから先はもう一度、本隊の流れだ。

 

 ビナーを押し返せるかどうか。

 それを決める段階へ、ようやく辿り着いたのだと、ユウにもわかった。

 

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