#001
人生の最期を病院のベッドの上で過ごした。
享年24歳。21歳で末期がんを宣告されてから、よく持った方だ。
病は気からと言う。俺がこんなにも生き永らえたのは、傍らにいてくれた少女の存在が大きいと思う。
俺よりも前から入院していた彼女は、暇の潰し方を教えるという名目でとあるVtuberグループ、いわゆる『箱』を教えて──もとい布教してきた。
『私の最推しは、
Vtuberなんだけど、歌がすっごく上手なの! ヴニヴァでも一番人気で、いつか絶対、歌手として世界にこの名は轟くよ……っ!
配信中の声も可愛くて、礼儀正しくて、全世界の女児が目指すべき女神の姿だね……っ。この前の配信なんか(以下略)』
中堅Vtuber事務所『
Vtuberの『V』、宇宙を意味する『UNIVERSE』、地球を意味する『EARTH』、この3つを組み合わせた、一見秀逸なようで呼びづらいだけの名前である。
略称『ヴニ』、『ヴニヴァ』、『ブニバ』、『ブニバス』。
自身を宇宙と世界を結ぶ存在だと名乗ってしまう大言壮語なVNIVEARTHは、その名に恥じるそこそこの規模で運営され、業界的にはよくある、遅れて流行に乗ろうとした後追いベンチャー企業のひとつである。
一番登録者数が多かった、箱の看板とも呼べる所属ライバー、二期生『
少女にはこういった、敢えてメジャーどころを外したマイノリティを好む傾向があった。
元々Vtuberにさほど詳しくなかった俺は、Vtuberと言えば所属ライバーが100を超える最大規模の事務所か、女性アイドル路線で大成功した事務所しか印象になかった。
当然ブ……ブニヴァアス? なんてろくに聞いたこともなかったし、マイノリティを好む彼女が最大手には目もくれずにVNIVEARTHこそを推し箱としていたのだから、やはり中堅程度の規模なんだろう。
それでも。業界的にも、世間的にも、VNIVEARTHは大手企業に匹敵する知名度を誇っていた。
中堅Vtuber事務所なのに? 矛盾していないか?
これには理由がある。
それはVNIVEARTHが、所属ライバーのほとんどが不祥事を起こし『破滅』したことにある。
破 滅 。
悪役令嬢か何かみたいな、ギャグかのような表現だが、まったくその文字に相応しく破滅したのだ。
終焉の序曲として挙げられたのは、看板である清楚系Vシンガー『
性交渉が含まれる動画の流出、それもあまり説明したくないハードコア系の動画が周知に晒された。
次に、爽やかボクサー男子高校生V『
中の人もボクシング経験者という彼だが、突如として開始した生放送にて実写映像を映し、『これが正義だ!』の声と共に悪質アンチを殴り殺す暴挙に出た。
続いて黒髪和服ヤンデレ毒舌V『
重度のドラック中毒者で、友人紹介で発生する割引のために親族含め周囲に薬物被害を拡大させていたことが発覚。
そして上記3人を含め、箱内全ての不祥事を登録者数と再生数のためにリークした金髪京都弁ゴシップ系V『
小さなものも含めれば、匿名掲示板で同僚の誹謗中傷をしていた者がいたり、他箱の女性Vを妊娠させ中絶させていた者や、一見女声にしか聞こえない男の娘系Vが中の人が男性であることを主張して実写おちんちんを晒したなど、など、など、多岐に渡る。
そのトップである社長は彼らにパワハラ紛いの無茶な企画を強要し怪我人を何度か出しており、最後は全ての金を持って渡米。後日、違法カジノで逮捕された。
かくして。
この四人を四天王とし、社長として君臨する
を要する
これがVNIVEARTH。
これがVNIVEARTH。
俺と少女が愛した箱の末路だ。
病は気からと言う。狭い病室、代わり映えのない病院内。生配信という常に変化が提供されるコンテンツは、彼女にとって親しさと新しさを同時に与える隣人であり憧れだったのだ。
心の支え、生き甲斐であったものを失って、彼女は笑顔を失った。
穢れを知らないような天使のような神秘性と、爛漫に咲き誇る向日葵のように輝く笑顔、そして好きなものになると異常に早口になるオタク特有のマシンガントーク。
彼女を象徴するその全てが、たった一晩でなくなってしまった。
……俺はもう治る見込みがなかったから良いとして、彼女は治らないわけじゃなかった。
しかし、この一件を経て見る間に衰弱。ちょうど1年後、俺よりも早くこの世を去った。
俺は何を責めればいい?
俺は何を恨めばいい?
俺は何を呪えばいい?
VNIVEARTH所属ライバーか?
VNIVEARTHを設立した社長か?
炎上させた名前も知らない有象無象か?
一人で全部リークした波羅劾ざくろか?
それでも。
病は気から。彼女も俺も、VNIVEARTHに生かされたのは紛れもない事実だ。
もしもVNIVEARTHがなかったとして、そこには別のものがあったのかもしれない。別の何かが代わりに収まって、同じような役割をしたかもしれない。
けれど、設立2年目の夏、あの夏の合同コラボまでは。
あの箱は確実に夢の詰まったおもちゃ箱のような場所で、嘘偽りのない笑顔があったと、俺は思っている。
俺は忘れない。好きを語る少女の溢れんばかりの笑顔を。
俺は忘れない。日に日に歩けなくなっていた俺の元へ毎日出向き、ベッドの傍らに腰掛け、愛用のタブレットで見せてきた生配信の映像を。
俺は忘れない。投稿されたばかりの詩星せるりの新曲を、並んで同じイヤホンで聴いた時間を。
……なお『両耳で聴かないと意味がない!』と即座に耳から剥ぎ取られた。その理不尽だって、今では愛おしい。
どうしようもなく。
脳裏に、焼き付いている。
──だから。
もしも人生が巻き戻ったら、何がしたい?
そんな荒唐無稽な妄想を、何度もしたことがある。
俺は決めている。
2018年3月。19歳。
病院のベッドの上で一人。失意のまま死んだはずの俺が目を覚ますと、俺は過去に戻っていた。
大言壮語だろうと、思い上がりだろうと、自惚れだろうとも。
もしも二度目の人生があった時には、必ず成し遂げたいことが俺にはある。
──俺がVNIVEARTHを破滅から救う。
※この作品はコメディです。
【お知らせ】VNIVERSEという名称、作者が構想を考えた2020年頃にはなかったと思うのですが、現代には存在する模様。表記をVNIVEARTHに変更しましたので、以後感想等ではこちらをお使いください。執筆を始めたのは最近からであり、不祥事があったという設定上、変更するのが筋です。ご不便をおかけします。なお、既存の感想についてはこのままで問題ありません。今後ともヴニクラをよろしくお願いいたします。
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VNIVERSEの方が良かった
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VNIVEARTHでも別に良い