過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#010 みなしごエンドレス

 配信終了を映したディスプレイを見つめる。

 

 その配信の主は『詩星せるり』。

 

 3月中旬。この配信を以って、『詩星(うたいぼし)せるり』というVtuberは無事この世界でも誕生した。

 

 あの必要だったか定かではないオーディションを経てVNIVEARTHに採用となった河井美空は、Live2Dモデルの持ち込みも許可され無事『詩星せるり』となった。

 

 俺が懸念していたのは、社長がすでに詩星せるりという名前とアバターを用意してしまっている、あるいは頭の中にあってあとは用意するだけになっている、という状況だったが、モデルも名前も設定も、前もって何も用意されていなかった。

 無責任で無計画。こんなやつが起業するな。

 

 オーディションに通過してから外注でモデルを安価で制作し、キャラデザ依頼の要望や名前や設定は中の人に丸投げする予定だったらしい。

 一期生もそうしてデビューしたとのこと。

 

 これは融通が利く自由主義に見えて、酷なことだ。

 一期生が配信経験者であってもなくても、この2019年の時点でVtuberの戦略(セオリー)を理解していたとはあまり思えない。素人でしかない彼女らに丸投げ。

 売れる要素もキャッチーなデザインも何もわからない人間に、低予算下での発注を押し付ける、いわば不自由な自由。

 

 自分で決めて失敗したのだから、お前の責任だ。勝手に死ね。

 

 つまるところ、そういうことである。

 

 あの未来での詩星せるりはどうだったのだろう。

 今の俺に知る由はないけど、少なくとも、この世界においては俺がバックアップできたのだから、マイナスにまではなっていないと信じたい。

 

『せるり』は彼女が好きだといった色の名前『セルリアンブルー』から。

『詩星』は、一緒に考えようという体裁のもとminaとして話し合って誘導し決まった。

 元々の詩星せるりに設定はほとんどないようなものだったから、ここに異世界から来ただの未来から来ただの余計な設定は付け足さなくていいだろう。

 

 こうして、あの少女の最推しはこの世界でも、無事に誕生したのだ。

 

 

「詩星せるりの配信は、成功かい?」

 

 配信終了を映したディスプレイを見つめる俺に、伊能凛が問いかけた。

 

「ええ、(おおむ)ね」

「概ねか。その心は?」

「箱自体の評価の低さ。一期生が低品質だったことで箱自体に向けられる期待を削ぎ落し、視聴者数を損ないましたね。伊能社長のバックアップ不足でしょう。

 言うなれば、伊能社長に人の心がなかったことに原因があります」

「それは耳が痛いね。遊びでVNIVEARTHを作ったボクが原因か。そのせいで一期生が人気になれなかったと思うと心が痛いね。おや、ボクにも心があった」

 

 悪びれもなく、わざとらしく言ってのける。殺すぞ。

 

「でもこれからは違う。キミがそれをやってくれるんだろう?

 キミの目指す箱のために、キミは最善を尽くす。ボクに見せてくれるんだろう? キミの『理想の箱()』を」

 

 ふざけたことを抜かす。

 だけれど、これが心の底からの悪意でないのだから、この男は俺が予想した通りのどうしようもない快楽主義者なだけであって、面白いか面白くないかで物事を決めるどうしようもない人間なだけであって、しかして救いようのない人間ではないのかもしれない。

 

 詩星せるりの配信が終わった。

 

 次は、俺の番だ。

 

 ではなぜここにこの男がいる?

 伊能凛とかいうキ◯ガイを自宅に招いたか? そんなことするわけがない。

 

 ここはVNIVEARTH事務所。

 俺の配信機材が置かれた、()()()()()

 

 伊能凛という男は、面白いものを見るためには惜しまないと言って、ここにそれなりの防音室を用意した。

 モデル2つ分の資金が浮いたからだと言うが、確かに高水準のLive2Dモデルであれば2体分でそのくらいの額にはなるが、元々大金をかける気がなかったのだから浮いたのはそこまでの額ではなかったはずだ。

 であれば、伊能凛は俺の大言壮語を信じて、俺に投資したのだ。

 

 この男が面白いとさえ思えば、バックアップを惜しまない人間ではあるらしい。

 

 ……まあ。そもそもこの起業の資金が親から融通されただけの成金野郎だと知って株を落とし直したんだけど。

 

「そろそろ始めるから、出ていけ」

「行ってきます」

「お前防音室(ここ)に住んでるのか……?」

 

 うざ絡みしてくる社長を追い出し、並んだ5台のスマホを確認する。

 

 俺は手段を選ばない。マナーなど知ったことか。

 こうでもしないと、俺と言う普通の人間には夢を叶えることなどできやしない。

 

 VNIVEARTHを破滅から救う。

 

 ──そのためなら、なんだってやってみせろ。

 

 

   *

 

【初配信】初めまして【VNIVEARTH】

 

 VNIVEARTH事務所。防音室の中。

 配信を開始した俺の目に映るのは──

 

 ──悪意だった。

 

:消えろ消えろ消えろ消えろ

:男はいらない

:配信中止!!

:萬屋ぺすとに近づくな

 

 一期生のクオリティの低さで界隈での注目度を損ない、視聴者の期待を失ったVNIVEARTHだが、3人の女性ライバーに先ほどデビューの詩星せるりを加えれば全く見向きされないというわけではない。

 そして女性ライバーしかいなかったという特性上、つまり、こうなるわけだ。

 

 名前が挙げられていた『萬屋(よろずや)ぺすと』は一期生の(ヒョウ)をモチーフにしたライバー。(ヒョウ)柄を(まだら)模様として『ペスト』と連想するのはオシャレだが、これから新型コロナウィルスによるパンデミックが起こることを考えると、あまり縁起が良くない。

 

 萬屋ぺすと。彼女が同期2人が辞めてもVNIVEARTHの最後まで残っていた唯一の一期生だ。

 その目的が復讐で、情報漏洩のために辞めなかっただけだとしても、それだけの熱意があったことは本物で、この段階でも彼女を取り巻く熱心なファン(ユニコーン)がいるらしい。

 

 根強いファン。反転アンチとなったり、悪質ストーカーにさえならなければ、その存在はVtuberにとってありがたい。

 よきかな、などと呑気に俺が眺める、悪意で埋め尽くされ、濁流──というほどの勢いではないが、汚泥がゆっくりと押し流されていくコメント欄。

 

 2019年でもまだ男性ライバーは肩身が狭い。女性ライバーとコラボをすれば女性側のファンから叩かれる。同じ事務所と言うだけでアンチ活動が行われる。

 女性ライバー4人でこれなのだから、大手事務所はこの比ではないだろう。

 

 3期生がデビューすると、その頃には引退している一期生1人を除いて総勢7人となる。

 

 VNIVEARTH3期生にして初導入された男性ライバー、兵銅(ひょうどう)(カナメ)。7分の1の男性。

 その非難の声は、5分の1の男性である俺よりも大きかったはずだ。

 

 兵銅要は男性であることから批判を受けていた。男性ライバーであるというだけで、ろくな規模ですらないVNIVEARTHのファンから不自然なほどの絶大なバッシングを受け、針の(むしろ)となっていた。

 デビュー直後から悪質アンチがまとわりつき、早々に個人情報が特定され実家にも嫌がらせをされていたという。

 そして最後は、実写の生配信を行いそこで悪質アンチを撲殺した。拳で。

 

 何を血迷ったか、本名が『兵藤(ひょうどう)(かなめ)』であったせいで特定が早まったとか。

 それは誰かが()めろよ……。

 

 俺はVNIVEARTHを救いたい。

 俺はVNIVEARTHを守りたい。

 

 だから。

 

 ──悪意があるなら、俺が引き受けよう。

 

 

 誰かが叩いていると、自分も叩いて良いと勘違いしてしまう。それは人間と言う生き物の心理であり、共通の敵、絶対悪に対し制裁を下すことで自身を正当化する。

 達成感すらあるだろう。だって奴らは、(推し)に近づき脅かす(脅威)だ。

 

 悪意は伝播していく。批判のコメントが増えていく様子を、あくまで散歩中に風景を眺めるような面持ちで眺めて見せる。

 VNIVEARTHに自分を売り込むために制作したアバターが、画面を通してこちらを見ている。

 俺がVtuberになるにあたっていくらか調整をした。

 元々は白だった髪を緑に変更し、黄色だった瞳も緑に。服装はシンプルなスーツだが、Live2D映えするように多少の装飾を加えている。目立ちにくいアホ毛も揺れやすいように個別のパーツとして独立させた。

 

 その表情は余裕そのもの。VNIVEARTHに潜り込むという目的に利用する為に作ったアバターを、これからもVNIVEARTHを護るために利用することになる。

 少しだけ、悪いような気持ちにならなくもないけど。だからこそ、俺はこいつに恥じない配信をしよう。

 

 その身を動かす魂である俺も、余裕であれ。

 

:早く始めろよ

:やらなくていいぞ

:ヘイヘイビビッてるぅ!!!

:タヒね

 

 ゆっくりと、自然に、配信を始める。

 

「──ようこそ。俺の名前は『みなしごエンドレス』。このVNIVEARTHの王になる男だ」

 

:死ね死ね死ね死ね

:?

:なんて??

 

「ようこそ。

俺の名前は

 み な し ご エ ン ド レ ス 。

この

VNIVEARTHの

『 王 』

 になる男だ」

 

 

:は???

:???????

:さっさと消えろ

 

 挨拶に合わせて、配信ソフト(O B S)の機能を使い画面上に無機質な文字をでかでかと名前を表示する。

『みなしごエンドレス』。

 兎にも角にも何よりも、インパクトのある名前にしようと思った俺が、普通は名前にしないであろう単語をテーマに考えて2分で思いついた名前だ。

 

:それが名前なのか……?

:み な し ご エ ン ド レ スwwww

:意味不明

 

 無論、口頭で伝わりにくいためこうしたテロップ出しは必要だ。

 この時、画像を前もって用意しない。詩星せるりとの関連性を減らすためだ。例え俺がこのまま失敗して非難の嵐に遭い続けたとしても、誰にも波及させはしない。

 

 俺の意味不明な名前と発言に、コメント欄は戸惑いを見せる。

 これが俺の狙いだ。この配信の第一段階(フェイズ)

 悪意も殺意も侮辱も嫉妬も拒絶も、勢いだけで全てを有耶無耶にしてみせる。

 

:王になるってなんだよ

 

「よく聞いてくれた。俺はVNIVEARTHの王になる。

 つまり──社長になるってことだ

 

俺の名前は

 みなしごエンドレス 。

社長を

 引き摺り降ろし、

この会社の

  社 長 に な る 男 だ 」

 

:ええ……(困惑)

:下・克・上★

 

「俺はこの会社にエンジニアとして入社した。

(みんな)はVNIVEARTHに推しはいるか? その推しのLive2Dモデルを改良したり、配信環境を向上させるために来た。

 だがどうだ?

 なんで俺はVtuberをさせられている?」

 

:知るか

:草

:パワハラ?w

 

「そうだ。あの社長はクズだ」

 

:えぇ……

:これがVtuberの初配信か?

:何してんのこいつ

 

「だから俺は決めた。俺はあのクソ社長を殺し、俺がVNIVEARTHに革命を起こす」

 

:通報した

:REVOLUTION!

:はい殺害予告

 

「あ、殺害予告での逮捕は無理だよ。具体的な日時に加えて、ターゲットや手段を明示してなければ、相手にされない。ストーカーと見做(みな)される常習性がなければね。

 あとは、アカウントをいくつも使って工作してたり、ね。

 (みんな)もインターネットで殺害予告をするときは、具体性を含まないように気をつけよう!」

 

:へー

:?

:そうなんだ

 

「ちなみに俺の配信では、俺への殺害予告は許可する。実行さえしなければいくらでもやっていい。むしろそれを挨拶にしたいと思っている」

 

 OBS上に文字を表示する。

『※この配信上においてのみ「みなしごエンドレス」への殺害予告は許可されています』

 

「でも荒らしコメントはやめてね。コピペ荒らしの連投とかは流石にブロックします」

 

:何を言ってるんだコイツ?

 

「俺がVNIVEARTHの社長になったら、まず今後男性ライバーをデビューさせないことにする。

 俺もライバーを辞める」

 

:おお

 

「女の子は女の子同士で恋愛するべきなんだ。したがって男も男同士で交際するべき」

 

:おお……!

:おおじゃないが

 

「そうだよなぁ? VNIVEARTHに男なんかいらない」

 

:じゃあお前も今日で消えろ

 

「なんで俺自身がVtuberをやるかって?

 皆も知らない男が社長をやるよりも、知ってる奴がやった方がいいだろ」

 

:なら女に社長やらせろよ

 

「社長と言うのは、問題があった時に矢面に立つ人間だ。

 所属ライバーが不祥事を起こしたり、問題に巻き込まれたときは社長が対応をしなければいけない。不手際があれば頭を下げなければいけない。

 

 所属ライバーを守る義務がある。違うかな?」

 

:まあ

:それはそう

 

「そんな汚濁にまみれる仕事を、女性にさせたいか? 皆の推しにさせたいか?

 俺はさせたくない。推しには常に笑顔であって欲しい。毎日幸せな笑顔でいて欲しい。理不尽に巻き込まれたり、不条理に犯されたり、無秩序に苛まれたりなんて、あってはならない。

 ──矢面に立つのは、俺だけで十分だ」

 

 あの未来を思い出して熱弁する。一度知った光景だ。自然と力が入る。

 

 ……そろそろいけるか? コメント欄の様子を(うかが)いながら、配信の流れを一気に転換させる機会を(うかが)う。

 ただの誹謗中傷でコメントを埋めるだけで配信のトークを一切聞き入れない、という空気を壊すために、ここまでひたすら論点をずらし、煙に巻き、なんかそれっぽい説得力があるかのように見せかけてきた。

 どうにか非難の暴風域は抜け出したと言っていいだろう。

 

 俺の配信は、次のフェイズに移行する。

 

「──だから。社長の伊能が無責任なままでいる限り、俺が伊能凛という男を消す。俺が社長になりVNIVEARTHを護って見せる」

 

:いのうりん?

:社長の名前出していいのかw

 

「それは平気。起業してる時点で調べようと思えば実名がすぐわかるようになってるよ。

 これも、皆の推しを社長にはさせたくない理由だね」

 

 淡々とOBSに文字(テロップ)を出す。

『伊能凛』。なんか最近、俺も似たようなことされた気がするな。

 画面の向こうの相手に勝手に名前を教える行為。これでお互い様、フェアだろう。

 

:こっわ

:社長ってプライバシーないんだ

:萬屋ぺすとに近づくな

 

「ふむ……皆は自分の推しに(ちんこ)が近づくのが嫌なんだろう?

 その点は大丈夫。俺はエンジニアだから、あんまり配信してる時間ないんだよね。女性ライバーとコラボしないよ多分。コラボしたとしても何にもならない。

 ずっと社長と二人で事務所にこもってパソコン弄りでランデブーよ」

 

:┌(┌^o^)┐

:実は仲良い?

:どうやって社長消すの?

 

「社長を引き摺り降ろす具体策? それならある。

 俺はVNIVEARTH本社で常に社長を見張ってる。不祥事を見つけたら、もうそら即通報よ」

 

:陰湿で草

 

 想定よりコメントの軟化が早いな。インターネットの人間がそんなに聞き分けが良いはずないんだけど。何か刺さるものがあったなら、良しとするか……?

 予定より早いが、次のフェイズへ移行しよう。

 

「さて。改めて自己紹介と行こう。

 俺の名前は『みなしごエンドレス』。『エンド』と呼んでくれ。『みなしご』は企業的に良くないから、登録上は『遠藤』になっている」

 

:じゃあ遠藤だよ

:遠藤

:遠藤

 

「『エンド』と呼んでくれ」

 

:遠藤

:遠藤

:遠藤

 

 おお、いい。よし。いつものお約束にできるいじりができた。

 こういう持ちネタが出来るのは美味しい。

 

「わかったわかった。じゃあ『遠藤』でいい。俺は『帝愛グループ」の傘下、『遠藤金融』の社長だ」

 

:カイジww

:結局社長じゃねーか!

:無敵かよ

 

「VNIVEARTH社長は一期生に対してぞんざいな扱いをしている。

 皆は知っているか? える知ってるか?

 VNIVEARTHは去年の12月に設立され、オーディション、そこから外部に低予算のモデルを発注して、発注内容や名前に設定はライバーに全部丸投げ。正月にデビュー。終わってるよ」

 

:こマ?

:本当に終わってて草

 

「だから俺はライバーになった。これから俺の配信では、社長がちゃんと社長らしいことをしてるかどうかの報告会と、社長を失脚させるための作戦会議を行う」

 

:強い

:この配信社長見てないの?

 

「あと皆の推しのLive2D品質向上会議とかもしよう。

 うちのライバー本人からも要望は受け付けるけど、リスナーならではの思い付きとか、本人が配信ではこうしたい~って言ったけど忘れてそうなこと、あるだろ。

 例えば、萬屋ぺすとならちゃんとケモミミも動かせるようにしよう」

 

:神か……?

 

「他にもなんか不便があるとか、視聴者目線で気づいた意見なんかは、俺の配信が一番ダイレクトに届く場所にする」

 

:思ってた男ライバーじゃないんだけど

:ライバーじゃなくてただの仕事人間じゃん

:新衣装とかもリクエストできるのか!?

 

「新衣装とかになると難しい。俺も絵は描けないこともないが、皆の推しの着る衣装を俺がデザインするのは不味かろう。詩星せるりの母君に依頼しよう」

 

:一期生のママって誰? そっちに頼みなよ

 

「ああ、それは無理。うちの社長バカだから、完全買い切りで名前を出さないとかいうアホみたいな契約してる。

 モデルの使い方であとからなんか言われたらめんどくさいとかいうクソみたいな理由でこっちから仕事の縁を切ってるんだよね」

 

:酷すぎて草

:別に一期生のママとか全員絵下手だからいらないです

 

「ゆくゆくは一期生は全員リデザインすることになるよ。詩星せるりのモデル並みのクオリティをVNIVEARTHの基本(スタンダード)にする。これは俺の掲げるマニュフェストだね」

 

:滅茶苦茶なこと言ってて草

:お前が社長だ

 

「ありがとう。VNIVEARTH社長、みなしごエンドレスだ。よろしく」

 

:だからなんだその名前

:嫌すぎる

 

「ファンネームとかタグはいいよな。時間も押してるし、俺はそういう活動をしていくライバーじゃないしね」

 

:そこまで卑屈にならなくても

 

「まぁ少なくとも、俺のファンネームは『みなしご』になるよ」

 

:は???

:最悪のファンネーム

 

「じゃあ最後に──俺も歌うか」

 

:なんでだよ

:いらない

:いらない

 

「まあまあそう言わず」

 

 コメントを無視して(オケ)もないままアカペラで歌う。これは予定にないアドリブだった。

 文字通り調子に乗って、俺は視聴者にとって『おもしれー男』になるための奇行を演じる。ゆったりとしたテンポの曲だが、急がず(走らず)、正確に。

 配信終了まで、みなしごエンドレスというやべー奴を貫き通す。

 

 小さな石が集まり大きな岩になって、その上に苔が生える歌だ。

 誰もが知っているであろう、日本の国歌である。

 

 ──苔が生えるまでの永い時を、無事その場に在り続ける、という歌だ。

 

「じゃあ皆、俺が社長に消されなかったらまた会おうね」

 

 

   *

 

 配信を終了する。疲れた。

 俺は確実に配信が終了しているのを確認すると、机に突っ伏す。

 

「フフッ……あのキミさぁ……何やってんの?」

 

 防音室のドアを開けた社長が、脇腹を抑えながらまだ笑いが抜けない口調で言う。

 そうか、この社長にとってこれは面白かったのか。人によっては全然怒ると思うんだけど。

 

「これがキミのやりたかったことかい?」

「いや、全然」

「えっ……」

 

 こんな配信、好き好んでやりたいわけがない。

 

「……何も考えずにやったわけじゃないんだろう? 聞かせておくれよ、キミの意図を」

 

「俺が配信するにあたって考案した戦略構想(配信予定)は、3つの段階(フェイズ)で進行しました。

 

 まず第一段階、名前と挨拶で暴れて、非難一色しかない空気を有耶無耶にする。

 

 次に第二段階、俺は配信者ではなく、どちらかといえば視聴者と同じような思考の人間だと伝える。

 

 そして第三段階。俺の配信に実益が伴うことを主張する。謎の豆知識や他ライバーの技術改善がそうです」

 

 これは俺の持論だ。

 配信というのは、その配信を見るメリットを生み出さなければいけない

 

 キャラクターのデザインが可愛い、トークが面白い、センスがずば抜けている。

 そういった天性の才を持たない人間の生存戦略として、具体的な視聴するメリットを用意することがまず基本である。

 

 後にジャンルとなる雑学系ライバーがそうだろう。

 未来の先人の積み重ねがあって、今の俺がある。それを忘れてはいけない。

 

「もっとも、俺の場合は道化になることに特化しているので、今後まったく同じ方法は推奨できません。これは俺が人気になる(伸びる)ための戦略じゃありません。

 VNIVEARTHという箱が今後やりやすくなるための布石。

 

 俺の『理想の箱()』のために、俺が出来る最大限のVtuberです」

 

「──キミはそこまで考えているんだね」

 

「……髪を緑にしたのも戦略ですよ。緑髪は不人気。俺は人気にならなくていい」

 

 この配信をすることが俺のやりたいことかと言われれば、答えはノーだ。

 誰が好き好んでこんなギャンブルをするというのだ。

 

 悪意を関心へ無理矢理捻じ曲げる、成功するかなんてわからないギャンブル。

 

 ただ『寒い』と切り捨てられかねない、愚行。

 

 別に失敗したって良かった。

 大勢にとって叩く相手さえいればそれでもいい。

 俺が炎上王になって、全ての悪意を受け止めるメインタンクになっても良かった。

 家族もいない俺ならば、誰にも迷惑をかけずに燃えることが出来る。

 

 けれど。

 

 引き留めた人間がいたから。俺はこんなにも、苦労をすることになった。

 配信が終了した後のコメント欄はそう荒れていない。

 5台のスマホの電源を落とす。俺はただ、疲労とそれに伴う達成感を、静かに噛み締めた。

 

「──いやぁ、キミが最初言っていた『ハーレム王』路線も見てみたくなったな。反対するんじゃなかったよ」

「死ね」

 

 今日は2019年3月21日(木)。祝日、春分の日。

 

 あの未来において、俺が病を知った(死んだ)日で、詩星せるりが炎上した(死んだ)日で、少女が死んだ日で、俺が死んだ日である、3月20日の、翌日。

 

 3月21日。

 

 俺のこの人生のやり直しが始まった日であり。

 

 俺のVtuber生活が始まった日だ。

 

 

「ちなみに……配信中にボクに対して言っていたことは冗談なんだよね……?」

「……」

「亜紀人?」

「……」

 




Tips:
 [mina] の死後は永遠に続く地獄のようだった。mina≠南。
 みなしごエンドレス。
 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 4期生の2人目
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