闘病生活の末。自分の貯金と国民の血税を無駄に消費するだけ消費して、その甲斐もなく死んだはずの俺は、気が付くと懐かしの狭い自室にいた。
ここは19歳まで住んでいた実家の二階。そのことを理解した俺の脳裏には、web小説なんかで死ぬほどよく見た過去に戻るやつがよぎった。いわゆる逆行。
俺は実際に死んだんだけど、死ぬ前にはそれこそ死ぬほどよくそういう妄想していたから、なんというか『やっと来たか』って感想だ。
実家にいる、つまりは19歳より以前。
学生服や鞄が見当たらない。代わりに白衣があるということは、高校卒業後に親から『働いて金を入れろ』と言われるがままに就職した後だということだ。
スマホで日付を確認しようとするが、見当たらない。
俺が死んだのが2024年3月、25歳だから、6年前の寝る前にスマホをどこに置いたかなど覚えているはずもないのだ。
階段を降り、一階のリビングへ向かう。
窓の外の明るさと時計の時刻で午前3時。
新聞の日付は2018年3月20日(火)。
3月20日──いや、この時間ならこの新聞は昨日のものになる。3月21日が今日にあたるのか。
2018年3月21日(水)。なるほど。
両親が事故で死んだ翌日だ。
俺の人生において間違いなく転機のひとつである、ここを変えるという選択肢は初めからないらしい。
過去に戻り、病気から解放されたことを手放しに喜びたかったが、そんなわけにもいかない状況だったか。
とはいえ、両親の生きている姿を見ていないから実感はないし、悲しみもない。
親不孝ですまん。何かあるたびに手近な物で殴られたことは忘れないよ。
そんなことはさておいて、これから俺に起こることは大体わかっている。
まず昼には警察から連絡がある。所持品から判別できたので遺体確認は必要なかったはずだ。
少ない遺産で葬儀を済ませ、家は手放す。良い思い出はないし、残りのローンを払う気はない。当然のこと。
親族はいないからトラブルもない。これでひとり、天涯孤独。
死ぬときはあのベッドの上で独りだ。あの未来に少し近づいた。
いいや。少なくともあの未来にはさせやしない。
VNIVEARTHを、破滅から救う──。
そんなギャグみたいな字面を実現するために、俺にはするべきことがいくつもある。
まずは住居の選定。
この家を相続せず手放すのだから、次の寝床の確保は必然。
前回はここで失敗をした。自治体任せで考え無しに紹介されるままに契約してしまったせいで、近隣住民や通勤経路には苦労をさせられた。
ここだ。まずここから変えていく。
死んだ祖母の家の方に良いアパートがあったのを後から知って後悔したんだ。ボロアパートだが、だからこそ入居者も少なく、家賃も安い。なおかつ職場とのアクセスも悪くないと今の俺には得しかない。
一次的な拠点のつもりだから、ここで十分だ。
……。
その前に、死亡届や相続拒否で正直うんざりするような役所通いが始まるから、うんざりするしかない。うんざりしながら嫌々こなすのだ。
あの手の役所はどこも大体混んでいる。駐車場も入りにくい。
2018年3月21日(水)。そうだ、この日は祝日で、昼に警察から両親の死を告げられ、会社には忌引きで有給を申請することになる。25日(日)まで5連休だ。
──3月20日。そう意識して、ふと思う。
どういうわけかこの日は俺にとっての厄日だ。
両親が死んだのも、俺の病気が発覚したのも、
思えば俺が死んだのもこの日だった。
そうか、その続きで21日か。それならちょっと面白い。我ながら不謹慎。
2018年。後に業界最大手の一角となる某ベンチャー企業のVtuber事業が始まった年だ。
3月と言えば、その二期生がデビューした月になる。
ただVtuberに憧れるならば、いずれ上場も果たすこの確約された大企業に取り入るのが正解だろう。これから増え続ける所属ライバー数に対して圧倒的な人員不足に直面するところに付け込んで裏方に徹してもいいし、ライバーを志望して初期に見られた未経験者採用の試みを狙いオーディションを受けてみるのも手だろう。
今後100人以上がデビューするのだから、今から全てのオーディションに応募することでそういうエピソードを持つ強いキャラクター性となるし、何より目標としてわかりやすく、失敗するとしても明確に努力した気になれる。
だがそうではない。
困ったことに、あのマイノリティ好きの少女のせいで、あの天使のような少女が何が楽しいのか俺なんかに付きまとってくれたせいで、俺は上場どころか、社長が会社の金を持ち逃げして渡米の後に違法カジノで逮捕されるような爆発四散を予定している泥船に乗らざるを得ないのだ。
──
俺があの少女のために出来ることなんて、これくらいしかないのだから。
そのために俺は、VNIVEARTH運営側の人間になる。
VNIVEARTHは2018年の末に社長の気分で起業され、一期生のオーディションが開かれる。
一期生のデビューが1月で3人、二期生が3月に2人のデビューだ。
某企業に比べれば遅い・少ない・人気ないの三拍子で劣っているが、毎月何人もデビューさせるなんて芸当がVNIVEARTHなんかに出来るわけがない。
マネージャーがいたのかさえ疑わしいくらいに問題児たちが不祥事を抱え込んでいたのがVNIVEARTHという箱だ。あのVNIVEARTHだぞ。犯罪の温床、舐めるなよ。
俺がこれからすべきことは、今から一年かけて自分を売り込む材料を作成することだ。
VNIVEARTHの大罪四天王に一期生はいない。だから二期生のデビューする3月がリミット、最低でもその頃までには内部に潜り込みたい。
幸いにも俺には最低限の技術がある。
死ぬ前、病気が発覚する前の俺は仕事をしながら副業イラストレーターを志していた。病気で自暴自棄になり諦めてしまったが、一定の画力は残っているはずだ。
入院してからは、たった一人の少女に見せるためだけに描き続けていた。
Vtuberを愛した少女に、少しでもVtuberの気分を体験してほしくてLive2Dモデルも自作した。
Blenderでいいなら3Dモデルもかじったし、簡単なBGM程度の作曲に、AviUtlでの動画編集くらいなら可能だ。
それらを彼女のために活かすことは叶わなかったけれど。
あの病室での2年間は、無駄にならない。
何も無策でVNIVEARTHを救うなどと妄言を吐いていない。
VNIVEARTHは技術的にも水準は低かった。社長の思い付きで突発的に起業された会社なのだから、よほどの成金でもなければ当然だろう。
看板の詩星せるりですら、周囲の他企業と比べデザインも画力も劣っていた。
俺のできる技術の全てを叩きつけることで、俺が身内にいた方が良いと思わせる。俺の戦いはそこからだ。その先はその時の俺がどうにかする。
……しまった、Live2Dを動かすためのVTube Studioがまだないのか。
カメラはLogicoolの製品が使えそうならそれでいいとして、ソフトはFaceRigの細かいパラメータ調整をしなきゃいけないのか……?
Live2Dモデルならもっと安易な方法があるのかもしれない。今月2期生がデビューした某企業は最初の頃の動きが単調だったけど、あれは技術の限界というよりは、スマホから気軽に配信するというコンセプトによる機材への制約が理由のはずだ。
Vtuberという業界はまだまだ発展途上にある。これに関しては調べながら技術の進歩を追っていくしかないか。
なんにせよ、本格的な機材を用意しなくてはいけない。19歳の俺が持っている低スペックのパソコンじゃ話にならない。ちゃんとした液タブだって欲しい。
つまるところ、俺がまずやるべきなのは資金の確保だ。
いずれ黙って実家から独立するためにしていた貯金が少しあるが、今後を考えるとそんなもので足りるとは思えない。あのVNIVEARTHが給与面に優れているとは到底思えない。
どこかで稼げるなら稼ぎたいものだけど──
──この手の小説でよく見た資金源が全く使えねえ。
これから高騰する株も、宝くじの当選番号も全く覚えていない。本当に逆行するなら前もって言っておいてくれよ。チート付与はどうした。TSした方がマネージャーとしてライバーのメンタルケアがしやすかっただろうに。
俺に神との謁見をさせろ。
ウマ競女くらいやっておくんだった。競馬で稼ぐことも出来ない。
ビットコインを買うタイミングすらわからない。
何より、すぐに使える資金が必要なのだ。将来的なものでは意味がない。
コロナに備えてマスクを買い込んでおいて転売するのも考えたけど、同じ理由で却下。俺は今すぐに使う金が欲しいんだ。
……これは倫理的にも安全面を鑑みても、やらなくていいならやりたくないな。
俺に出来ることは、なんとなく作ってあったクレジットカードの枚数とその限度額を確かめることくらいだった。
【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)
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萬屋ぺすと
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佐土原恭子
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神海まりも
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詩星せるり
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遠藤
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黒宮院みやみ
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拳藤正義
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波羅劾ざくろ
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4期生の2人目