過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#021 自業自得の自作自受(エンドジナス)

 2019年。昨年末に設立されたVtuber事務所『VNIVEARTH(ヴニヴァース)』は、この1年の間に五期生までをデビューさせることとなる。

 

 1月に一期生が3人。

 3月に二期生が2人。

 6月に三期生が3人。

 7月に四期生が2人。

 11月に五期生が2人。

 

 計12人をVNIVEARTH所属ライバーとし、以降は人数を増やすことは無かった。

 

 俺がVNIVEARTHに触れ始めた2年目までには内3人が引退していて、9人。

 

 許容人数(キャパ)の問題なのか、単に社長が飽きただけなのか、あの未来でどうなっていたのか俺にはもうわからないし、もはや重要なことではない。

 

 目下、意識すべきはまず三期生。

 

【正義の執行人 必殺ジャスティスパンチ 兵銅(ひょうどう)(カナメ)

 

【一緒に吸うって言ったよね! 薬物マイスター 黒宮院(こっきゅういん)みやみ】

 

 俺の知る未来では、この2人がVNIVEARTHの三期生としてデビューをした。

 

 兵銅(ひょうどう)(カナメ)は爽やか系高校生ボクサーVtuber。

 中の人もボクシング経験者であることを売りにしていたのだが、3Dモデルが作られることのなかった彼には、Vtuberとしてボクシング経験を披露する機会とは無縁だった。

 しかし突如として行われた実写(リアル)生配信にて、悪質アンチを慣れた動作で殴殺する凶行を披露。

 皮肉にも、彼が最後に行ったその配信にて、彼がボクシング経験者であることが証明されたのだった。

 

  黒宮院(こっきゅういん)みやみは毒舌系黒髪和服ヤンデレVtuber。

 ドラッグ依存による常用のリークがあり、ドラッグを安価で売ってもらう代わりに親族を含めた周囲の人間を巻き込み被害を広めていたという女。

 具体的にどの関わった人間が、その友達紹介キャンペーンに遭ったのかまでは公表されなかったが、配信内での本人の言動も怪しかったし、中の人が否定することもないままVNIVEARTHは社長の逮捕で消滅したのだった。

 

 VNIVEARTH内部の人間として、警戒すべきは実害を及ぼす後者だ。

 

 前者の兵銅要は確かに罪の大きさは群を抜いていたが、普段から問題があった人間ではなかった……と思う。

 アンチにコメント欄を荒らされてばかりで苦悩していた印象しかない。それでも箱内コラボでは気丈に振舞っていたし、俺で男性ライバーに慣れた現状ならあんなにはならないはずだ。

 

 だから、後者。

 黒宮院みやみという女には問題しかない。

 VNIVEARTHに薬物なんか広められては全てが台無しになってしまう。それらしき人間が所属しようというならば、断固として阻止するべきだ。

 

 ──ただ。

 

 黒宮院みやみが目に見えておかしくなったタイミングというのはあった。

 ある時期を境にドラッグに堕ちたのではないかと掲示板等では推測がされていた。

 それを加味するなら、デビュー当時には問題なかったのではないかとも考えられる。

 

 もし、デビュー前には一切の問題がなく、デビュー後に何らかのきっかけがあり、それが外的要因であるならば。

 彼女が被害者であるのであれば、俺は黒宮院みやみを守りたいと思っている。

 

 それが、VNIVEARTHを救う──

 

 ──俺とあの少女が推したあの箱を、守るってことなんじゃないかと、思う。

 

 まあ。もっとも。

 

 俺が関与した時点で何かが変化してその守るべき未来は訪れないのかもしれないし、Live2Dモデルや切り抜きでVNIVEARTH事態の注目度もあの未来とは違いが多すぎる。

 

 そもそも兵銅要や黒宮院みやみの中の人はオーディションを受けないかもしれないし、もっと実力のある人物が応募して本来の人間が不合格になるかもしれない。

 

 もっと言えば、この2人の名前も変わるかもしれない、というか変わるだろう。

 

 VNIVEARTHは基本的にVtuberとしての名前や設定は中の人に丸投げされたと聞いている。

 実際に一期生はそうであったし、二期生も事前に用意されていなかった。

 少しでも条件が変わってしまえば、それぞれが思いつく名前も変わるだろう。

 そして兵銅要に至っては、中の人の実名『兵藤枢』と同音異義であるので、プライバシー保護のために絶対変えさせる。……まあ、これはこの世界でも兵藤枢という人物が合格したらの話なんだけど。

 

 そんなわけで、俺は社長に探りを入れることにする。

 

「社長。VNIVEARTHの三期生って、予定はありますか?」

 

 伊能凛は、特に大きな反応をするわけでもなく、僅かに考えるように目線を上に。

 

「……いのりんとは呼んでくれないんだね、亜紀人」

 

 うん。

 

 殴ろう。

 

「怖い顔しないでくれ亜紀人。冗談さ。凛、でいいよ、亜紀人」

「殴らせろ」

「待て待て亜紀人。亜紀人。亜紀人。あーきと」

「殴らせてくれ」

 

 俺は、実際に殴るかはともかくとして、胸倉を掴むような素振りでゆっくり腕を伸ばしたのだが、その手が届く前に握られた。

 

 握られた……?

 

 指と指の隙間に奴の指が収まり、えーっと俺これをなんて表現すればいいの? 指の間に指を滑り込ませた? 絡ませた? 貝殻繋ぎ? Holding hands? ……恋人繋ぎ?

 

 意味わかんないんだけど、俺はこの、したり顔みたいになってる男にどう反応すればいいの?

 

「……」

「……」

「……」

「……」

仲良しだね

 

 怖いんだけど……。

 

 もうこんなの配信のネタにもならねぇよ……。

 

 腕を戻そうとすると、一瞬抵抗があるが、すぐに手が離される。

 

 こわい……。

 

「で、三期生だったか」

 

 いや待て普通に話に戻るな。

 こんな意味不明なことして正常な会話をするな。

 やっぱ普通の会話でいい。全力でなかったことにしてくれもういっそのこと。

 

「5月にでもオーディションして、6月デビューでどうだい?」

「……5月のいつで、6月のいつです?」

「5月の末で、6月の頭だ」

 

 考え方は正常じゃなかったか……。

 

「……一期生もそうでしたが、(きゅう)すぎますよ。もう少し準備期間を用意してください」

 

「そうなのかい? 某大手はオーディションの面接から1週間でデビューしたんだろう? うちもそれでいいじゃないか」

 

 死ねよ……。

 

「死ねよ……」

「えっ」

「……」

「亜紀人……?」

 

「ああ、いえ。あのですね、そんなのを真に受けないでください」

「どういう意味だい?」

「社長が言っているのは、企業の黎明期、業界自体も今より発展が進んでいない中で、フットワークの軽さを重視したことにより行われたものです」

 

 エピソードトークとして誇張されたもの──と、この社長相手には言ってしまいたかったが、オーディションの募集期間的にも、本人のトークの具体性的にも、否定はあまりできない。

 一期生オーディションのときにはすでに確保されていたとか、オーディションとは関係なしにスカウトされていたとか、可能性だけならいくらでも挙げられるけど、まあこんなの難癖みたいなものだし触れずにおこう。

 

 事実なんて知らないし、真偽は重要じゃない。

 

「以前にもこの話は聞きましたし、俺も苦言を呈したと思いますが、あんな再現性のない特異な成功例を基準にしないで欲しいんです。

 普通はもっと準備期間は必要で、あの企業だって今も同じスケジュールでデビューさせていないでしょう?」

「そうなのかい?」

「そうなんです」

 

 知らないけど。たぶん、そう。もう急ぐ意味もないし、準備期間くらいあるはずだ。

 そういうことにしておく。

 

「第一、うちはLive2Dモデルも事前に用意されてないでしょう。せめてキャラ設定とモデルを用意した上でそのスケジュールならギリギリ許されます」

 

「……三期生もキミが作るんだろう? キミはあのモデルをどのくらいの時間で作れるんだい?」

 

「1体1ヵ月は欲しいですね」

 

「1ヵ月か……。一期生のときに依頼したイラストレーターは1週間もいらないと豪語したからね」

 

 したからなんだよ。

 それでスケジュール組む馬鹿がどこにいるんだよ。

 

 もう怖いよお前。色んな意味で。

 

「そのLive2D(モデル)、2018年2月のクオリティが基準の出来でしたよね。あれでいいなら俺も1日で作れます。

 なんで1年前基準の型落ちもいいところのアバターで行けると思ったんですか」

 

「彼ら彼女らにとってアバターの質は関係ないさ。彼らの喋りや立ち回りがリスナーを虜にした、そうだろう?」

 

「前にも同じこと聞きましたけど、それじゃ無理なんですよ。

 事実、VNIVEARTHの二期生は初動から違ったでしょう? 一期生もバックアップで伸びた。それは社長も理解したはずです」

 

「フフ。それを言われてしまうと、言い返せないね」

 

 なんでこいつは、こいつぁ一本取られた、みたいな調子で肩を(すく)めているんだろう。

 

「ボクが言ったのはボクが考えていた元々の予定さ。キミがそう言うならそうしよう。いつがいい?」

 

 ふにゅぅ……。

 

 配信の心得、困ったら不貞腐れながら(うな)っておけ。

 俺はもうこの男の相手をするのに困り果ててしまった。うみゅぅ。

 

「じゃあもうオーディション告知をしましょう。4月末にオーディションを実施。月1でモデルを用意、そうすれば6月に余裕を持ってデビューさせることができます」

 

「6月デビューの方を優先してくれるのかい?」

 

 ……。

 オーディション時期をそのままに、デビュー時期の方を先延ばしにする手段もある。

 

 どちらが良いとかは特にないんだけれど、俺はまだあの未来を無視できずにいる。

 

 同じ日程で、同じ名前のライバーがデビューする。

 それを前提に考え、それを再現したいという気持ちがある。

 

 俺に上手く立ち回ることができれば、俺はあの日見たVNIVEARTHの続きを見ることができるんじゃないかと、思ってしまっている。

 

 あの未来におけるVNIVEARTHの1年目を俺が詳しく知らないというだけで、実際の差異はかなりの数になるはずだ。

 

 俺がVNIVEARTHのことを知った時にはすでにいなくなっていた二期生の片割れ、その本来いたはずの人物を押しのけて、この場所に俺がいる時点で、もうあの未来とは大きく違うというのに。

 

 詩星せるりのLive2Dモデルも違えば、配信内容も違うし、この時点での登録者数なんて天と地ほどの差がある。

 

 一期生は全員が辞めずに継続してくれそうだし、萬屋(よろずや)ぺすとに至っては、あの未来の低迷具合が嘘のように、今や箱の看板ともなる1人だ。

 

 それでも、まだ。あの未来を、夢見てしまう。

 

「そのペースだと四期生は9月になるね。夏が終わってからか。

 勿体ないね。夏は何事も書き入れ時、だろう? ボクだったら8月、いや7月にまで前倒しにしていたか。

 キミならどうする?」

 

 ははは。すげぇ。

 

 6月に三期生デビュー、7月に四期生デビュー。11月に五期生。

 この不規則な並びは夏休みに合わせるためと言われていたけど、マジでそうなんだ。

 

 というか、その通りの予定がこの会話で出てくるあたり、伊能凛という男は俺がいてもブレてないんだなぁ。

 

「……夏が大事なのは俺も同意です。夏休みの学生というのは、無視できない数字です」

 

「学生がかい?」

 

「学生が、です。なんだかんだ、数の多さが流行になります。

 ましてやネット上のことですし、リスナーの年齢なんてわかりませんからね。コンテンツの流行の根底には、いつだって子供がいるんです」

 

「そうなのかい?」

 

「……これは俺の持論でしたね。でも、今の時期に中高生のリスナーを得ておくのは今後の為になりますよ。

 いずれその学生たちが大人になった時、金銭的にもVNIVEARTHを支えてくれるようになります」

 

「大人に、か」

 

「学生の夏休みに体験したことは、大人になっても忘れません。

 それがVtuberの配信であったなら。例え配信を追うのをやめてしまっても、活動を続けてさえいれば、またどこかで見かけた時に思い出します。

 

 生配信でコメントした記憶を。

 コメントを読まれた思い出を。

 同じ時間を共にした体験を。

 

 夏休みの夜。普段とは違う夜更かしをした、特別な時間。

 配信者とその視聴者で、楽しい時間を共有することができれば。

 その記憶は、むしろ美化されて、大事に仕舞われているはずです」

 

 俺は覚えている。

 あの日を。

 病室で、あの少女と見た配信を。

 

 あの夏の。

 VNIVEARTH2年目の合同コラボを。

 

 消灯時間を過ぎている時間にも関わらず、自分の病室を抜け出してわざわざ俺のところにまでやって来て。

 別々の画面、別々のイヤホンなのに、わざわざ俺の隣で同じ配信を見た、あの時間を。

 

 あの夏の日を。

 

 ──俺は、忘れることができずにいる。

 

「そうか。それはボクにはわからないな」

 

「……そうですか」

 

 あっけらかんと言われてしまう。

 力説し過ぎたか。聞かれても無いことをべらべらと、隙あらば自語り。

 

 なんか恥ずかしくなってきた。

 

 まあ、そうか。俺だって学生時代の夏休み自体にはそんな思い出ないし。

 

「初めて会った日もそうだったが、キミはVtuberの未来を信じているんだね。中高生が大人になる──5年も10年も、廃れることはないと言っていたかな」

 

 これに言及されると苦しい。

 

 俺は未来を信じているのではなく、ただ知っているだけだ。

 知っていることを言っているだけに過ぎない。

 俺は先見性も予見力も備えていない。俺はただ、既知を語っているだけ。俺に特別な才能はない。

 

 聞かれたって、説明はできない。

 

「それで、四期生はどうするんだい?」

 

「……7月で、やってみましょうか。ただの前倒しであって、五期生までの間隔は空いてしまいますが、三期生デビューから間を空けずに四期生、というのは逆に注目を引くかもしれません。

 ただ、人数は少なくしてもらうかもしれませんが」

 

「少なく?」

 

「三期生と四期生で2人ずつ、が妥当かと」

 

「まあ、そうだね。一期生が3人、二期生が2人だから、三期生は3人と思っていたが、キミの作業速度ならそれが妥当だろう。

 むしろ無理をしていないかい? 計算が合わないが」

 

 今は4月中旬。6月までに2体、7月までに2体。

 

 萬屋ぺすとの簡易試作モデルがそろそろできあがる……が、そのモデルだってできるだけ早く詩星(うたいぼし)せるりと同じクオリティのものに引き上げたい。

 

 全体のクオリティを妥協して、最初から完成品とはせずに段階的にバージョンアップさせていくのが、無難な落としどころか。

 

 まあ、どうにでもなる。

 

「どうにかしますよ」

 

「そうかい。キミがそうしたいのなら、そうするといい。

 ボクはキミが何をするのかを見てみたい。それが面白そうだと、あの日のボクは思ったのだから」

 

 俺はまだ、あの未来を捨てることができないらしい。

 

 多少無茶をしてでも、デビュー日程を合わせようとしているのだから。

 

 もうあの未来とは違う世界になっていると、理解しているのに。

 

 俺は、いつまでも。

 

 ──あの少女を、忘れることが、できない。

 

 

   *

 

 オーディションの告知はすぐに行われた。

 

 思い立ったが吉日、というわけじゃないけれど、できるだけ早い方が良い。

 早くて困ることもないだろう、あるとすれば早くデビューさせろの催促だけど、そんなの1ヵ月くらいおとなしく待ってろとしか言えない。

 

 そして俺はまた、自分のやったことの大きさを理解していなかった。

 

 自分の行いが原因で、苦しみ、喘ぎ、のたうち回り、地を這い、泥を啜り、許しを請い、懇願し、嘆き、悲しみ、怯え、震え、己の愚かさをただひたすらに呪うこととなる。

 後悔したってもう遅い。俺は俺の行いの、責任を取らねばならない。

 

 自業自得。

 因果応報。

 自作自受。

 悪因悪果。

 

 それは通告であり、宣告であり、戒告である。

 

 俺の犯した罪。

 俺に下される罰。

 

 ただただ無機質に表示されるその数字を、無情に記されたその数字を、俺は思わず読み上げた。

 

 

 

「応募者──

 

 ──500人?」

 

 

 えっ、これマジで言ってる?

 




※タイトルのルビは毎回ギャグとして付けています。10話ごとになってますが、なんとなくです。
 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 4期生の2人目
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