「先日のせるぺすコラボの動き、あれは計算されたものですか?」
『ちげっす』
「……あえてコラボの本筋には参加せず、コメントのみを配信上に移すことで意図的に面白さを演出したのでは──?」
『してねっす』
……。
「裏で配信自体はしていたんですよね。勿体ないとは思いませんか? もっと大勢の人にゲームの腕を見て欲しいとは思いませんか?
登録者数が、欲しいとか──」
『いらねっす(乂'ω')』
そっかぁ。じゃあ、いっか。
俺はもはや乱用されつつある秘密兵器の起動ボタンから手を離した。
*
『
決してヘルペスとは言ってはいけないそのコラボによる壺ジジイレース配信は、最後にその配信のオチを『
これがまた絶妙な立ち振る舞いとなっていて、ゲームヘタクソ漫才集団と揶揄されるVNIVEARTHの中で、唯一ゲームが得意という長所を活かした動きとなっている。
コラボ配信自体には参加していないからこその良い意味での横槍感。比較先がへっぽこ配信過ぎる上に、顔文字を使ったことで嫌味っぽさもない。
コメント欄で視聴者が盛り上がり、ライバーが気づき読み上げ、リアクションをする。このプロセスもまた取り上げるべき配信のワンシーンとなり美味しい。
最初からコラボ配信として同じ画面でいたら、こうはならなかっただろう。
これが計算されたものだとすれば、神海まりもというVtuberもまた、底辺に潜む化物なのかもしれない。
そんな、深海に潜むもこもこの化けの皮を被ったその女子が、その中身を能ある鷹とするのか──やがて滝を登り龍へと至る鯉なのか、と探るためさりげなく聞いてみれば。
『ちげっす』『してねっす』と、これまたすげない返信。
チャット返信のみで、喋りすらしてないし。
俺がマネージャーとしてVNIVEARTHの面々とやり取りをするときは、必ず普段の配信通りの口調でいいよとは言っているけれど、こいつの場合はそれがなくてもすぐにこうなっていた気がする。
最初だけは敬語(の文章)だったんだけどな……。
他の人は時々畏まった口調に戻ったりするけれど、神海まりもは一度たりともない。
キャラ演技が崩れないと評価するにも、そもそも発言をしないし。もしかして尋常じゃなく舐められてるのか……?
まあそれはそれでも別に良いんだけど。
とはいえ、裏で彼女も同じゲームの配信をしていたのは少し勿体ないと思った。
その視聴者数は4人。アーカイブを見たんだけど、ゲームの腕前だけならもっと盛り上がっても良い内容だ。もっとも、発言
しかし、まったく喋らないというキャラが、時々現れて場を荒らしていくような彼女の動きで活かされているのも事実。
神海まりも本人が登録者を望んでいないというのなら、それもまた彼女の希望として叶えるべきだ。
VNIVEARTHは普通の箱。
ただの箱。
業界のトップを目指すような箱ではない。
運営からライバーに上を目指そうとは強制しない。
悪事を働こうとするわけでもない人間を、咎めることは無いのだ。
最低限、身バレにだけは気を付けろだとか、コンプラだけは守れだとか。
俺から言うのはそれくらいで。
ここは、自由な箱であるべきだ。
*
公式サイトのオーディション告知に掲載された、開発中のラフ画。
VNIVEARTH三期生募集オーディションでは、男女1名ずつ、計2名が募集されている。
その2体のアバターは、俺がminaとして描いたものだが、そのデザインはあの未来にいた三期生『
本来は二期生以降も、一期生と同じような買い切りの条件で用意された低品質なモデルだったので、お世辞にも優れたデザインとは言えないモブキャラのようなものだった。
それをそのまま流用・再現など、俺の価値観が許さなかったので、俺の持ち得る知識と感性でリデザインしている。
これは、俺の自己満足だ。
元々の三期生オーディションにキャラ立ち絵の指定はなかったはずだ。
一期生と同じように、合格してから演者側に全てを丸投げしてモデル作成が始まったのだろう。
それを俺の意思で固定するという、ある意味で暴挙を強行している。
本来の三期生の魂──中の人が応募してくることはないかもしれないし、別の人がオーディションに合格するのかもしれない。
せめて、少しでも。
あの未来の、あの忌むべき未来の、せめてもの守りたかったもの。
あの少女と過ごした時間を、あの少女と共に見た光景を。
少しでも、残したいという。
俺の自己満足。
これから生まれるかもわからない、不確定の存在を誘導する行為。
もっとも、合格してからライバー設定も決めようということにしている以上、三期生が全く同じ名前になることはあまり望めないだろう。
キャラ設定をも中の人に決めさせるという無責任な自由を、三期生も押し付けられていたはずだ。
こちらが初めから名前を指定してしまうと、もしも本来の三期生があらかじめキャラ設定を考えていた時に、言い訳ができないことになってしまう。
盗作などの事件にはならないだろうが、自分の考えていたキャラの名前と一致したキャラクターが世に出てきたら、不気味な怪現象に他ならない。
特に、Vtuberというのは他との競合を避けるために特徴的な名前をしている。
『
だから、三期生もまた自分で決めさせる方針でいいだろう。
悩むようならば、ちゃんと俺がマネージャーとして相談に乗る。
故意に誘導するつもりはないけれど、もしかすれば、あの未来と同じ名前になるかもしれない可能性は残っている。俺の微かな希望的観測である。
……でもまあ、『
『
何を血迷ったか、中の人の名前も『
そしてアンチ撲殺実写生配信を行い、
【正義の執行人 必殺ジャスティスパンチ
へと至るのだ。
こんな名前、もし偶然に兵藤枢が合格しても絶対に阻止する。
むしろなんで誰も止めなかったんだよ。コンプライアンスはないのか。ネットリテラシーはどこに行った。
……止めてくれるような相談役、いなかったんだろうなぁ。
そんな『兵銅要』。
三期生の片割れ、四天王の一角、この『兵銅要』に関しては、その兆候というべきか、存在の起源のようなものが、この時代にはすでに存在していた。
──それは、三期生のLive2Dのデザインを作ろうかという時だった。
「三期生に予定って、ないんですよね?」
「予定とは? キミから話かけてくれるなんて(略」
「誰を起用したいとか、キャラクター設定とか、名前とか。オーディション予定もそうですけど、あらかじめ社長が用意していたものは、特にないんですよね?」
「ないね。ないない」
俺から話しかける度、嬉しそうにして大袈裟な身振りで返答するこの男にもいい加減慣れた。
いや慣れない。
近づくな。こっちに来るな。俺は立ち上がり、その分距離をとる。
「なぜ逃げるんだい? 失礼じゃないか、キミ」
「……すいません」
折りたたみの長机と椅子。元の席に座ると、伊能凛は俺の隣の椅子に座る。
机に身を預けるようにして頬杖をつき──だからなんか近いんだよ。こっちに寄るな。真っすぐ前を向け。
この調子で来られると話が進まない。いつかちゃんと話をするべきなのかもしれない。
「ああ、まあ一応、用意していたものがあったね」
「え!? なんですそれ! そういうのはちゃんと教えてくださいよ!!」
「おお、なんだい亜紀人。フフフ。そんなにボクのことを知りたかったのかい?」
うるせえ。お前の事はどうでもいい。
ただ、俺のやることが伊能凛の予定にあったものと被ってしまった時、俺はそのことについて説明ができなくなる。未来で見たとはいうつもりはない以上、辻褄が合わなくなるのだ。
「ちょっと待ちたまえ……うんむ、うん。これだ」
自分のパソコンに戻り操作すること数分、伊能凛はコッチオイデと手招きをする。
え、やだ。行きたくない。
データなら送ってくれよ……。
渋々近づくと、簡単な仕様書のようなものが画面には映されていた。
えーと。
高校生、男、ボクシング部、クラスの誰とでも友達になる爽やかな好青年。
……どっかで見たな。これ兵銅──。
名前『
じゃあ違うか。
うーん、なんか思ったのとは違うんだけど……別の意味で見たことあるな。
「……パクリ、ですかね?」
「オマージュと言ってくれ。あえて有名どころに被せてみたんだ。どうだい? これもまた一興、面白いだろう? 縁起も良い」
俺が名前に既視感を覚えた、某大手企業に所属する、トークの上手い男性ライバーの代表とも言える人物を、どうやらそのまま参考にしたらしい。
社長さぁ……。
そういえばこいつ、その大手の配信だか切り抜きだかを見てVtuber事務所作ってんだよな。
名前を寄せても同じような配信と人気にはならないぞ。
「まあ、今となってはこれももう、いらないものなんだけどね」
「え?」
呆れる俺を
その言葉の意味を考えあぐねていると、本人が口を開いた。
「キミがいる」
……?
ドヤ顔に
「これはVNIVEARTH初の男性として入れるなら……となんとなく考えていたものだからね。そんなところにキミが来てくれた。こんなもの、もう用済みなのさ」
「そう、ですか……」
……。
しかし
設定だけなら
まあ、知れてよかった。
俺がこれからオーディション告知用に描こうとしていた絵は、あくまで好青年というのが一致しているだけでボクシング要素はそこまでなかったんだけど、それでも会話でボロが出るかもしれなかった。
うっかりボクシングと口にしていたら、俺はこの男にどんな反応をされたか想像に難くない、いやこいつは俺の想像を超えた反応をするだろう。怖い。
「わかりました、ボクシング高校生ですね。取り入れてみましょう。じゃあ三期生は男性1:女性1で用意しましょうか」
「! いいのかい? いやぁ嬉しいね。ボクの廃棄案もキミが受け入れてくれるなんて」
うぎゃー。
「しかもキミ、初配信でこれ以上男は入れないと言っていたじゃないか。それを
うぎゃあああああ!!!!!
「フフフ。ありがとう亜紀人。ボクたちは親友だ。ベストフレンドだね」
うぎゃああああああああああああ!!!!!!!
……ともあれ、そんな経緯で実は存在していた兵銅要の兆候を俺は無事(?)拾い上げ、少しでもあの未来の顔ぶれに外見だけは近づけたのだった。
地道に進めていた書類選考は、半分くらいの選別を終えていた。
社長には任せられないので(※信用がないから)俺1人で行っていたことだが、社長も暇なのか、興味でも沸いたのか、ときどき応募内容を覗き見ているようだ。
見るだけなら……と自由にさせているが、勝手に不採用にして消さないようにだけ言いつけている。
そんな時だった。
──俺は更に、あの未来がどうして生まれたかの片鱗を、見せつけられることとなる。
「見てくれ亜紀人。この応募者、本名が『
ああ、うん……。読みが1文字違いだね。
──って
そうか、応募してたのか。
「そしてなんと……彼もボクシング経験者だ。この志望者を採用して、さっきのボクシング高校生になってもらおう。
そしてあえて某人気ライバーに名前を被せて『かなめ』にするのはどうだい? 『かな』の部分さ。兵藤と拳藤で似ているし『
……?
「人気ライバーにあやかった上で、実名とも同じ。うん、これなら似せすぎてないし、キミも納得だろう」
……。
「せっかくだし、ライバーの名前も『
……。
「ふむ、文字を変えて……『
……。
「どうだい亜紀人、これがダブルミーニングってやつだね」
……。
「亜紀人?」
「お前のせいかあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「ど、どうしたんだい亜紀人。急に大声出して」
「社長。少しお話があります」
そして小一時間、俺は社長にコンプライアンスのなんたるか、ネットリテラシーのなんたるかを、ねちねちと説教した。
この無能社長め。お前はもう余計なことをするな。
珍しくしょぼくれた社長の姿は、まあ、ちょっと面白かった。
*
入力不備や、条件未達を除外して、志望動機などに目を通しただけでも100人以上は書類段階で不合格が決まる。
自己アピール用の動画も10分まで許可しているのだが、必須にしなかったせいでそれさえない者もいる始末。
500という応募数は膨大だが、半分近くは、言ってしまえば冷やかしのようなものだ。全員が全員、人生を賭けてガチの応募をしてきてはいない。
そうして絞り込んでから動画を軽く見た上で、どういう配信をしたいか明確な目標があるかなど、経験者か未経験者なども考慮し、なんとか30ほどまで削り落とした。
無論、一概に経験者を優遇するわけではない。未経験者に秘められた可能性が爆発することを、アピール動画から判別させてもらう。
残ったのは32人。
30でさえ多い気がするが、オンライン面接だし、できるだけテンポよく進めればなんとかなるだろう。
その中には例の兵藤枢君も残っている。兵銅要が名前を変えてこの世界にもデビューするかどうかは、彼の面接次第だ。
ちなみに大学生。さすがにリアル高校生じゃなかった。
そして。
数日に分けた面接中。とある応募者と対峙したところで、その事件は起きた。
「はい、それではお願いいたします。私は総括マネージャーの南條と申します」
「えっ──
──みなしごエンドレス……さん?」
【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)
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萬屋ぺすと
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佐土原恭子
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神海まりも
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詩星せるり
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遠藤
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黒宮院みやみ
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拳藤正義
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波羅劾ざくろ
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4期生の2人目