過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#026 これにて、一件落着!

「私にも後輩ができるんですね……。なんだか少し早すぎるような気がして、不安な気持ちはあります。

 たった3ヵ月先にデビューしただけで、先輩(づら)してもいいんでしょうか……」

 

「せるりちゃんなら大丈夫よ。というかアタシだってそうだったんだし、あら、もしかして皮肉だったのかしら~?」

 

「違いますよお……ふふふっ。からかってますねー?」

 

「ごめんなさい、ちょっとだけ、ね!」

 

 三期生の募集が告知されたVNIVEARTH(ヴニヴァース)。オーディションも裏で行われているであろう中、私たちは配信外で既存のメンバーで集まり、グループ通話をしていた。

 

 軽口を言いながらじゃれている、きゃぴきゃぴとでも音が聞こえてきそうな会話をしているのは、一期生『萬屋(よろずや)ぺすと』と二期生『詩星(うたいぼし)せるり』。

 

 現VNIVEARTHの二枚看板と呼ぶべきトップ2であり、この通話内でも主役と言える。

 

「私、高校では部活に入っていないので、後輩とか初めてなんですよね! 先輩って呼ばれちゃいますかね!?」

 

「呼ばれちゃうわねぇ。

 そっかせるりちゃん高校生だもんね。それなのに初配信からあんなにしっかりとした内容で……。アタシの初配信は──ウッ、頭が……」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 萬屋ぺすとの初配信は今では非公開になっている。

 (いわ)く、黒歴史。私は興味がなかったので見ていなかったが、本人がそれほどにまで言うなら見てみたい。見ておけばよかった。

 

「せるりちゃんは今何年生?」

「4月で3年生になったところです!」

 

 ……こういうリアルの年齢の話、しないで欲しいなぁ。

 

「いいなぁ、アタシにもそんな時代が──ウッ、頭がぁ……! ア、アタシのことはいいのよ。ええ。

 まりもちゃんも高校生だったわよね? 何年生だったかしら?」

 

『禁則事項です』

 

「そうよね、ごめんなさい……ってそのアニメネタ、アンタいくつよ。本当は高校生じゃないわね?」

 

 高校生だけどさ……。ただスラング使っただけだし。今時アニメなんてサブスクでいつでも見れるし。

 

 この1ヵ月でVNIVEARTHの頼れる姉御として定着した萬屋ぺすと。

 二期生がデビューするまではほとんどなかったこういう会話の中で、彼女は水を得た魚のようにとても活き活きしていて、もう言葉の端々から、心底嬉しそうなのが伝わってくる。

 

 でも、こっちにまで馴れ馴れしくしてきて、ぶっちゃけ、うざい。

 

 ……まあでも、あのマネージャーよりマシか。

 

 活動内容を強制しないと言っておきながら、コラボに参加してみないかとか度々誘うようなメッセージを送ってくるし、一度は明確に断ったモデルの改修案も勝手に送り付けてくる。

 

 そんなのいらないのに。

 

 私みたいな、喋る気すらない人間に、モデルなんていらないだろうに。

 

 私に構う暇があったら、その分を他の人のサポートに使ってあげて欲しい。

 

 あーあ。

 

 採用されてからも、デビューしてからも。社長も誰も、何ひとつ言ってこないときは良かったのに。

 Live2Dモデルが支給されて、安いwebカメラを買いさえすれば、気楽にゆるゆるVtuberとして配信できるっていうからVNIVEARTHでデビューしたのにな。

 

 モデルの作成は、採用されてから各々に任せられた。イラストレーターとの契約だけ社長がして、あとは私たちに丸投げだ。

 ぶっちゃけこっちのリクエストなんか何も聞き入れずに用意されたクソみたいなモデルで、というかこいつたぶんテンプレとして用意したLive2Dのパーツを差し替えただけだぞ。

 ろくに動かないゴミみたいなクオリティなんだからそれくらい作れよ。

 一期生3人という、横に並でて比較されるのが目に見えているのに、当たり前のように使い回したパーツや、色を変えただけの部分もあるし。

 そもそも下半身ないし。

 というか後から調べたらこのイラストレーター、この画力でトレパクやってるし。

 

 ……でも、私はこれでも良かった。

 

 誰にも期待されず、重圧を掛けられずに、ネットの片隅でただ何かをしていられれば良かった。

 

 別になんにも劇的なことのないこの世界で、少しだけ非現実さを感じさせてくれるインターネットで。

 何もしないよりマシってだけで。

 少しだけ変な私がここにいるって、私が実感できればそれだけで。

 

 それだけで良かったのに。

 

「それにしても、まさか500人も応募があるとはね」

「すごいですよね」

 

「──500って、多いのですか?」

 

 ここで無知な発言を差し込んできたのは一期生『佐土原(さどはら)恭子(きょうこ)』。

 基本的に喋らない私よりも登録者が少ない、私よりもやる気のない人間。無気力仲間。

 

 ……ただ、彼女の場合はやる気がないというよりも、ただVtuberについて知らなすぎるだけなんだけど。

 

 初配信でマイクに声が乗っていない事故を起こし、最後までそれが直ることなく30分のデビュー配信をを終えた。

 それを恥じることもなく、非公開にすらしていない。

 告知もせずに気分で配信を始め、適当に喋って帰っていく。5分も経たずにやっぱりやめますねと言い残して配信を切ったこともある。

 急ぎの返答が欲しかったらしいマシュマロ1件のために配信を開始して、そのリスナーが来るのを15分くらい待ってから2時間くらい語る奇行も見せる。

 

 やる気があるのかないのか判断に困るけど、たぶんVtuberというものをよくわかってないだけの人だ。

 

 やる気がなさそうにしていながら、誘えばなんだかんだ通話にも参加するあたり、私よりずっと付き合いが良い。

 コラボ配信にも参加しようとはしているらしい。

 

 配信時間を合わせたり、同じゲームをやるのが難しいみたいで、4月にあったマイクラコラボも、まず購入してLauncherを入れるところから頑張っていた。

 

 私が片手間で指事は送ってたんだけど、口頭じゃないというのもあってちゃんと教えることは出来なかった。

 

 で、配信終了間際に死亡ログだけを残していくあの珍事件が起こった。

 

「500は多いわよ。それも慌てて募集期間を早期終了してこれだもの。うちくらいの活動規模の箱なら、募集期間を最後まで待って100とか200行けば多いんじゃないかしら?」

「へー。先輩物知りですね」

「そういうものですか」

 

 私も細かい数字は把握してないけど、Live2Dモデルの支給が前提ならそのくらいかもしれない。応募者の数は宣伝に力を入れているかに左右されるから参考にできる基準がないけど、とにかくVNIVEARTHが今でも宣伝をあまりしていない箱なのは事実だ。

 

「アタシたちの時はどのくらいだったのかしらね。20……30とか?」

 

 なんか得意げに萬屋ぺすとが言ってるけど、10も怪しいと思う。

 

 下手すれば3人。

 

 でなければ、喋らない私や、無知すぎる佐土原恭子が合格するわけがない。

 

 低すぎるクオリティのモデルがまだ表に晒されていなかったこともあって、Live2Dの支給が明記されていたVNIVEARTHには応募があってもおかしくなかったけれど、でも公式サイトやTvvltterでちょっと宣伝しただけの、設立から間もない箱に応募が殺到したとは考えにくい。

 

 多くて10人とか。

 

 だとしても、その人数がいて私を採用するのは酔狂としか言いようがない。

 これがあの社長のただの気まぐれなのか、それとも、何かを見抜く目を持っているとでも言うのか。

 

 二期生『みなしごエンドレス』とかいう一期生よりもっとやべー男の配信では、何もしなさ過ぎて謎に包まれていた社長についての話題を聞くことができる。

 なんか変人すぎて逆に面白そうなエピソードばかりで、VNIVEARTHのライバーの誰よりも個性的に思えるやべー男だ。

 

 巷ではごく少数だが伊能×遠藤のカップリングを推す声もあるし、あのやべー男コンビはもはや狙って行われている企画なんじゃないかとさえ思う。

 

「500人もいたら大変ですよね……! 何人がかりで審査してるんでしょう」

「さぁ……。芸能事務所の人事については想像もできないわね。3月から他にも社員を増やしたとか……。

 あ! もしかしたら、VNIVEARTHに革命を起こしているっていうあのグループは10人くらいいるのかもしれないわ!」

 

 萬屋ぺすとさんさぁ。キャラ付けだからって適当なこと言いすぎじゃない?

 

 こんなこと、わざわざ文字にしてまで送信はしないけど。

 たぶん10人なんて数はいない。

 そこまでいたらどこかから情報が洩れている。10人、いや5人くらいでも、名前の出ていないメンバーが(ことごと)く自己主張をせずに誠実に働いているなど、そこまで統率が取れていたら逆に怖い。

 

 普通に考えて3、4人。

 

 南條亜紀人、みなしごエンドレス、ミナちゃん、この3人に加えて、他にいたとしても1人や2人が関の山──

 

 ──というか、『みなしごエンドレス』の中の人は『南條亜紀人』だと思うし。

 

 みなしごエンドレス。正式名称は、遠藤。

 

 VNIVEARTHの所属ライバーで話し合おうという名目で集まったのに、自然とハブられている男。普段からLive2Dの調整で忙しいと言ってばかりで付き合いの悪いこの男は、ついにはこの場にいないことを誰からも疑問視されていなくなっている。

 コラボ配信に顔は出しても、男女ライバーの接触という炎上を避けているのか、意図的な距離を感じるし。

 

 なんか、南條マネージャーと遠藤エンジニアは別人ですよー、みたいな口ぶりだから私はあえて突っ込まないけど。

 

 Vtuberとそのマネージャーとして会話をしていれば、語彙力や対応力とかで気づく。

 性格や口調は違うけれど、コンプラの守り方とか、事態を解決するための方針とか。そういうのは同じだし。あと頑張ってるけど声のタイプまでは誤魔化せてない。

 

 気づいてないのは萬屋ぺすとと詩星せるりと佐土原恭子くらい……あれ、私以外気づいてないのか。

 

 詩星せるりが話題によく上げるイラストレーターの『ミナちゃん』と、総括マネージャー兼エンジニアの『南條亜紀人』。この2人のクリエイターユニットなんだと思う。

 

 一応ミナちゃんと南條亜紀人が同一人物の可能性も考えてみたけど、流石にあそこまで詳細に語られる女性像と、南條さんが同じ人間とはとても考えられない。もし同一人物だったら、関わる人間のどこかに精神のイカれた狂人がいる。

 

 オーディションの審査に関しては、社員を増やしているというよりは、一時的に外部からバイトを雇っているんだと思っている。

 

 あるいは、南條さんが1人でやっているとか。

 

 なんかオーディションの募集が始まってから、マネージャーの様子は日に日に疲れ果てていくようだし。

 みなしごエンドレスの配信頻度も音沙汰がない。

 

 なんだよみなしごエンドレスって。こんな名前つける奴が、アニメでしか見ないようなBL系執事みたいな口調でマネージャーもやってるとか、意味がわからない。

 

 VNIVEARTH。

 社長。

 伊能凛。

 南條亜紀人。

 みなしごエンドレス。

 

 所属ライバーから見ても、この箱は異常だし、そしてなにより、興味深い。

 

 VNIVEARTHが精力的な活動を始めると聞いて、一度は引退を考えたけど。

 これを内部から見ることができる、今の立場を捨ててVtuberを引退することは、勿体ないと思った。

 

 もっと聞きたい。

 もっと知りたい。

 

 現実は小説よりも奇なり。

 

 漫画でも見ないような、こんなわけわからない現実があることを、私は楽しみたい。

 

「──ね、まりもちゃん。まりもちゃんってば」

 

『何?』

 

 萬屋ぺすとに返事を求められたので、渋々返事を打つ。

 私にはもう、構わないで欲しいのに。

 

「まりもちゃん、ゲームや配信機材についても詳しいでしょ? 三期生の新人が困っていたら助けてあげてね。

 ふふ。期待してるわよ!」

 

 ……まあ。

 

 まあ、そう言われると。

 

 満更でも、なくはないんだけど。

 

 

   *

 

 数日で500を超える応募があったVNIVEARTH三期生オーディションは、俺の妥協と小細工でそのオンライン面接の日程を無事終えた。

 

 募集していた枠は2名。

 

 男性ライバー1名、女性ライバー1名。

 公式サイトに掲示していた作成中のモデルは、爽やかな男子高校生と、長い黒髪をした和服の女性。

 

 応募総数511人の内、509名が不採用となる。

 

 社長と必要だったかよくわからない、はっきり言って無駄なやり取りを多分に交わしながら、じっくりと最終的な選考の話し合いを行った結果、ねっとりとした無意味な言動を浴びせかけられた末に、ようやく無事に2名の採用が決まった。

 

 それにより、1つの事象が確定する。

 

 

 波羅劾(ハラアバキ)ざくろ。

 

 あの未来において。

 VNIVEARTHが破滅に至る不祥事の連鎖、その全てが事実であると、1人で最後まで晒し上げた、狂気の女。

 最後の引き金を引き切った女。

 

 あの未来で、あの少女の推しであった詩星せるりのVtuberとしての死を確定させた女。

 

 詩星せるりを殺した。

 

 そしてそれは。

 

 あの少女を殺したという事でもある

 

 俺が親の仇よりも忌むべきだと魂に刻んだその人物と、ビデオ通話越しに会話をして思ったのは、彼女の人物像が、その振る舞いが、言動が、行動が、拍子抜けをするほどに──

 

 ──普通だということだった。

 

 京都出身で、今は茨城県に住んでいる大学生。

 周囲に合わせるために標準語を心がけているが、どうしても生まれついての京都弁が抜けきらないのだとか。

 

 普通だった。

 言動や行動に問題はなく、心理テストと称した謎の要求にも素直に従い、常人と同等の結果を残した。

 

 そして、面接の一環として好きなVtuberを問えば。

 

 波羅劾ざくろは、喜多見明日という人物は。

 

 臆面もなく──

 

 ──『詩星せるり』と、言ってのけたのだった。

 

 表情(かお)に出さなかった自分を褒めたい。

 

 言うに事を欠いて。

 お前が。

 あの『波羅劾(ハラアバキ)ざくろ』が。

 一体。

 何を。

 ほざいているのだと。

 

 怒鳴りつけなかった自分を称えたい。

 

 普通。極めて普通。

 

 だからこそ、その裏に、どれだけの悪意を潜ませているのかと思うと、ただただ恐ろしかった。

 

 本名、喜多見(きたみ)明日(あけび)

 

 やがて波羅劾(ハラアバキ)ざくろへとなったであろう人物。

 

 俺はその人物が送信対象に含まれていることを念入りに確認してから、共通の不採用通知を発信する。

 

 本来四期生としてデビューした彼女。

 6月に三期生、7月に四期生という歪なデビュースケジュールからして、あの未来に四期生オーディションというものがあったかは定かではないが、この三期生オーディションで彼女を不採用にし、四期生を同じく不採用となった者の中から別の人間を抜擢してしまえば、これもうVNIVEARTHから波羅劾ざくろはいなくなる。

 

 これで、他の配信者や箱から波羅劾ざくろが恨みを買い、VNIVEARTHが睨まれることだってなくなるし、身内のリークで足を引っ張ることだってなくなる。

 

 VNIVEARTHは、破滅しなくなる。

 

 これにて、一件落着。

 

 

 これで。

 

 これで──いいんだよな?

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 4期生の2人目
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