四期生の候補として、今後の展望について話を聞かせて欲しい。
そんな名目で持ちかけた対話の誘いに、未来の
実際に四期生として採用するとは言っていないという、この卑怯なやり方で、俺は彼女が善か悪かを見極めようと画策している。
これで彼女の化けの皮を剥ぐことができたなら、当然のようにやっぱり採用しませんと切り捨てる。
だが、もし仮に。そこに化けの皮なんてものが、なかったのならば。
俺は彼女を、
と、検討する。ことを、考える。のも、やぶさかではない。場合も、ある。かも、しれない。だろう。
うん。
*
三期生のデビューに向けて進めなくてはいけないことがある。
それは配信で実際に使用するLive2Dモデルの作成なのだけれど、そのためには三期生としてデビュー予定の彼らから、Vtuberとしての活動でやりたいことや、Vtuberとしてなりたい自身の姿などを、聞き取る必要がある。
最初からキャラクター設定をこちらで決めてしまえばこの工程は必要がないのだが、あの社長は一切の設定を考えず一期生に丸投げしていた。
だから、本来のVNIVEARTHのライバーたちのキャラ設定が生まれたのは、中の人たちが考えたからという可能性がある。
こちらからあの未来のVNIVEARTHライバーを再現しすぎてしまうと、頭の中を覗き見たのか事件になってしまいかねないので、このような意見を確認する工程が必要になのだ。
「兵藤様は、これからやりたいVNIVEARTHの理想などはありますか?」
打ち合わせと称した通話。俺は総括マネージャーの南條として、兵藤枢にいつもの礼儀正しい男性をイメージした声をかける。
ちなみに最初、
そこはもう気にしないでくれ。こっちも恥ずかしくなってくる。
「え、えっと……あんまりちゃんとした予定とかはないんですけど、とりあえずマメに配信して、見てくれる人を飽きさせないようにはしたいです!」
うん。20点くらいの返答だ。
面接の時から薄々感じてはいたけど、どういう活動にしたいかという具体的な構想はないみたいで、しかしこれは彼が配信未経験者なのだから、致し方ないことなのだ。
同じ三期生として採用したもう1人、配信経験者の
キャラクターの設定や名前はもう少し考えさせて欲しいとのことで、決まったら後日、また連絡をしてくれることになっている。
兵藤枢の場合には、そんなにすんなりと決まってはいかないだろう。
あの未来で不自由にさせてしまった彼だ、そこは長い目で面倒を見るつもりでいる。
「あの……オレ、自分がどういうVtuberになりたいかとか、そんなに考えてなくて……。
面接でもあんまり良いこと言えなかったですし、どうして採用して貰えたのかも正直わかってなくて」
後ろ向きな発言が飛び出てきた。
まあ、それはそう。こっちの事情が強すぎる。むしろ疑問をちゃんと言ってくれたことを好意的に見よう。
「実は、三期生としてデビューを予定していた兵藤様のお使いになるキャラクターには、社長が用意したコンセプトが存在します」
「コンセプトですか……?」
「はい。それがなんと『ボクシングをやっている爽やかな男子高校生』だったのです。
偶然にも兵藤様はボクシング経験者で、受け答えも難がなくはっきりしてましたし、この人物像に合致していたので、社長の推薦もあり採用となりました」
「マ。マジですか……? 偶然って……すごいですね」
まあ、確かにすごい偶然だ。
あの未来ではこれが災いして社長に目を付けられ、あんな災いに見舞われることになったわけだけど。
「でもオレ、高校生じゃないけどいいんですか……?」
「ははは。それは大丈夫です。世の高校生キャラのVtuberで本当に高校生なのは、極々一部だけですよ。
2年前まで高校生だったのですから、その時の雰囲気を思い出して貰えれば大丈夫です」
彼は現在大学2年生。配信時間も十分にとれるというのも、この業界ではプラスだ。
「それなら大丈夫そうっす。男子高校生ライバー。その設定でいいなら、オレやれます。
オレ以外にも男の先輩ライバーがいますし、部活の先輩みたいに話し掛ければいいですかね……?」
「はい。それで問題ありません。二期生の遠藤も、悪い人間ではないので、何かわからないことがあれば気軽に相談してください。
もちろん、私も相談に乗りますよ」
そっか。俺の後輩でもあるのか。
高校で部活はやってたけど、後輩入ってこなかったし、先輩扱いされるの初めてなんだよな……。
俺より年上の彼だけど、あまり実年齢には拘りはなさそうな人当たりの良さを感じてはいる。
年齢差を気にしない人だといいんだけど。
まあ、2023年まで一度生きた俺は実質24歳……過去に戻ってから1年経ったから、えー、今年で26歳になるのか。
そういう意味では俺が年上だから、それらしい責任感を持って振る舞いたいけど、病室で過ごしてただけの時間で精神が成長してるもんなのか……?
「名前はどうしますか? これからVtuberとして名乗っていく名前です。今の段階で決めていれば、それを尊重しますよ」
「あー……すいません、ないです」
うん、やっぱり急に言われて決まらないよなぁ。
「ちょっと思いつかないので、相談いいですか?」
「はい、もちろんです。
そうですね、何か使いたい名前や漢字、好きな言葉とかありますか? そういうものから決めていってもいいですね」
「うぅーん……、いやすいません、思いつかなくて」
悩む兵藤枢の様子を見て、俺は試しに、社長の案を聞かせてみることにした。
「実は名前も候補があったんです。『
言いながら、チャットでも字として送信する。某有名男性Vtuberに酷似した名前だ。
「え、それって……パクリ、ですか?」
「はい。社長考案の、まあ悪ふざけのようなものです」
小さく笑い声が聞こえてくる。ノリは悪くない。兵藤枢、良い子で良かったよ本当。
「ですが、これを下敷きにするのも良いかもですね。『拳藤』か『闘哉』のどちらかを変えれば使えますし……いえ、読みを考慮するなら『
それならむしろ『拳藤』の方はボクシングらしい『拳』の字も入っていますし、本当に思いつかなければ、名前の方だけを考えればどうにかなります」
「はぇー、すごい考えて名前決めるんですね……」
なんか圧倒されたような呟きが聞こえる。
配信のコメント誘導とか、そういうのまで説明したらすぐにパンクしそうだなこれ。
「『拳藤』……のままでいいと思い、ます。名字は。
あっ! 遠藤先輩と似てますよね。遠藤と拳藤。これってダメなやつですか?」
「そこは判断が難しいですね。同じ箱の同性であれば、逆にネタにできたり、コラボ配信でセットにしやすかったりします」
「じゃあ拳藤でいいです! オレ兵藤なんで似てますし!」
あー、それだとむしろ駄目かも……。
兵藤と完全合致だったあの未来を気にし過ぎているのかもしれないけど。
「名前は……どうしますかね?
そこで俺は、悩む彼に変な提案をしてしまった。
「──例えば、『
三期生オーディションで疲れていたのかもしれない。
あるいは、まともな同性との会話に浮かれていたとか、何かしらが影響したと、言い訳をしたい。
「読みは『せいぎ』でも『まさよし』でもいいです。なんとなく、兵藤様と話していて思いついた単語ですが……」
「それいいっすね! 『
正義にしますオレ! 『
なんかとんでもない勢いでとんでもない名前にすると決めてしまったが、本当にそれでいいのだろうか。
【正義の執行人 必殺ジャスティスパンチ
あの未来の要素を少しでも残したい、だとか思っているのが、俺の思考に影響をしたのかもしれない。
うっかり口に出してしまったその単語を、なぜか兵藤枢が気に入ってしまった。
もしかして、Vtuber兵銅要の遺言である『これが正義だ!』は心の底から出て来たものだったのか……?
「……デビューするまでは変えられますから、他に思いついたらいつでも言ってくださいね」
「はい! ありがとうございます!! でもたぶん、オレこれでデビューしますよ!」
『
そっか……。
本人が気に入っているのなら、止めないけどさ……。
なんか、その。すまん。
*
問題の
俺は彼女の人となりを見極めるために、デビュー予定として計画が進行中である四期生の候補という建前で、会話の場を設けた。
オンライン面接と同じく通話にした。これ自体が面接だからとそれらしい理由を付けて、今回も互いの顔を映すビデオ通話である。
俺はこの通話で、仮に彼女が四期生としてデビューするとして、どのような計画を立てるかで喜多見明日の本心に探りを入れようとしたのだった。
しかし。
これがまた、俺の思っていたのと違う方向で問題児だった。
「喜多見様は、デビューするとして、どんなVtuberを志して活動をしますか?」
「はい、ええ、雑談配信と、ゲーム配信、歌ってみた動画の投稿で、コンスタントな生配信がしたいです」
「キャラクター設定とかはやりたいものはありますか?」
「ええと……元々三期生オーディションの和服キャラがこの
うーん。
具体的なデビュー後の予定が出てこない、なんか、こう、ふわふわした返答しかこないのである。
なんというか、普通に不採用になるぞ波羅劾ざくろ。
あの未来の事だとか、秘めたる本心だとか、実は内包する悪意だとか、そういうの一切関係なしに、普通に不採用になるんだけどこれ。
波羅劾ざくろとしての、あの未来での振る舞いが嘘かのように、回答が弱々しい。
配信経験者の瀬尾薫より劣るのはもちろんのこと、配信未経験者の兵藤枢にさえ会話の盛り上がりに欠けて劣る。
いきなりのビデオ通話が圧迫感を与えたのだろうか。
確かに、一度オーディションで同じことをしたとはいえ、男性と
いや、瀬尾薫はそんなの関係なしに話しやすいお姉さんだったけど。
名前の案を聞いてみると、案の定というか、特に用意がない。
Vtuberをやる気がなくなったのかと思ってやんわりと聞いてみれば、そういうわけでもないようで、考えてくるから時間が欲しいと返事をされた。
これ以上やっても収穫がないほどにボロボロだったので、こちらの配慮不足として謝罪をして、後日改めて面接兼打ち合わせを行うことにしてその日の通話を終了した。
そして後日。改めて行われた通話で提出された名前が、これだ。
『
唐突に出て来た波羅劾ざくろ要素に面食らいそうになったものの、逆にその『茨木』は一体なんだ。
「茨城ざくろ……ですか」
「えっと、茨城に住んでいるので、そこから……」
茨城在住。確かにそんなことも言ってたけどさ。
下手に個人情報を由来にしてしまうと、身バレのリスクにもつながるからあまり勧めることはできない。
ただのゲームのアカウント名ならまだしも、Vtuberというのは特に中の人を突き止めようという意図が強くなる。
まあ、茨城に由来があるというのであれば、自ずと気になるのが『ざくろ』の表記。
──『
『
そして『ざくろ』は『
この『波羅劾ざくろ』と言う名前は、ゴシップ系Vtuberとして設計されたものだ。
しかしこの時代ではまだゴシップ系Vを志してはいないはず。
彼女に性善説が適用されると前向きに考えるならば、この『ざくろ』には別の由来がないとおかしい。
別に由来がないのであれば、それが虚偽。彼女の
「ざくろにも由来があるんですか?」
「あ、はい。あけび──うちの本名ですけど、そこからなにか名前にできないかと思って色々検索して。
旬の時期になると割れる果物つながりで、同じ秋の
「……」
「あ、あの、Vtuberってみんな名前が平仮名ですよね。うちあれから調べまして、柘榴も平仮名にした方が良いと思ったんです!」
なんか、なんというか、言葉の節々から努力を感じられる。
名前を決めろと言われて、精一杯考えてきたという、比べるのも悪いけど、兵藤枢と違って思いつきませんで済ませずに、必死に考えてきたかのような。
嫌な予感がする。
変な予感がしてしまった。
そこで俺は少し、彼女を試してみることにする。
「本名由来は良くないですね。調べて決めてくださったことには感謝しますが、少しでも身バレに繋がる要素は削減するべきです」
「そ、そうですよね……」
露骨に落ち込まないでくれ。
「じゃあ例えばなんですけど、白猫をモチーフにしたVtuberにして、名前をカリンにするとかどうですか? ドラゴンボールのカリン様からとったということにして、それを由来だって発表するとか……」
「おお……! それいいですね! そういうことにしちゃいましょうか!」
いやいや。
おいおい。
そんなのでいいのか喜多見明日。
そんなのでいいのか波羅劾ざくろ。
お前がそんな受け答えをすると、
じゃあ、なんだ。
「Vtuberとしてのコンセプトは思いつきませんか? 何でもいいです。言ってみてください」
彼女が思いつき口にしたものに対し適当な相槌を打ち、他にはないかと考えを吐き出させていく。
案が出尽くしてきても、あくまで、ゆっくりでいいからと優しく言いつつ、しかし考えるのを止めさせない。
彼女もギブアップをせず、回答に困ってからマイクの向こうから微かにだが唸るような考える声が聞こえてくること5分強。
絞り出すようにして出て来た彼女の最後の返答がこれだった。
「じゃあ、ゴシップ系とか、どうですか……?」
来たか。やはり彼女は波羅劾ざくろか。油断してはいけなかった。
俺は断固として反対する。
「それは駄目ですね。企業所属でゴシップ系は許されませんよ」
「ですよね……すみません」
いやいやいや。
おいおいおい。
聞き分けが良すぎるだろ。
なんかすごい情けない声が聞こえた。しょぼ……しょぼ……と擬音が聞こえそうなくらいに落ち込んでいる。
ちょっと待って欲しい。俺の中で、もうすでに嫌な予感しかしなくなっている。
「……仮にですが、ゴシップ系Vtuberなら、名前は何にしますか?
さっきの2択でもいいでしょう。『
誘導するように、ゆっくりと名前を上げると、喜多見明日はそれに食い付く。
「──あ! なら『
うーーーーん。
ああーーーーーー。
いやぁ。
そうか。
そうなのか。
うわぁ……。
これは、そうか。
──止めてくれる人が、いなかったのか。
あの未来で、波羅劾ざくろはゴシップ系Vtuberとしての活動を強行した。
しかしそれが、彼女が本当に数字に困って、困り果てた果てに絞り出した答えだったならば。
……これは仮説だ。
俺がただ、彼女が善人である可能性を強くしたいだけなのかもしれない。
しかしそれは
つまりだ。
つまり。まただ。
何が悪いと原因を決めるのならば。
伊能凛。また、お前かよ……。
*
喜多見明日を採用するかはまだ判断を下せずにいるが、その枠を埋めずに保留としておくと、必然的に残るのが、空いたままでいる四期生のもう一枠。
そこに入れる人物をどうするかが、VNIVEARTHのデビュースケジュールに対する一番の課題だった。
本来の四期生のもう1人を探すか?
それはない。申し訳ないが、俺に印象強く残っている、あの夏の合同コラボにもいなかった男だし、あの少女と一緒に彼の配信を見たことが全くない。
となれば、新たに募集をするか、三期生の不採用の中から選出するか、などと悩んでいると、伊能凛から声が掛かった。
会社のオフィスで悩んでいたせいだ。
しかし、それにより、俺の仕事が削減されることになる。
「ねぇ亜紀人。四期生の残った枠だけど、ボクに任せてくれないか?」
そう言って渡された企画書には、彼の正気を疑うようなことが記されていた。
人材の指定から、キャラの設定や容姿、配信方針など、今までの伊能凛からは考えられないほどに、具体的で緻密な内容が完備されていたのだ。
あとは俺がその企画書に従ってLive2Dを作るだけでいいようになっている。
これを何も知らない人が見たら、この会社の社長を有能だと判断するだろう。
俺は内情を知っているから、この男の正気を疑うんだけど。
「本当に、この内容通りにやればいいんですか?」
「ああ。ボクを信じてくれ」
期せずして。
この企画によって、俺は確かめる機会を得たのだった。
伊能凛。この男の、行動力を、そのベールに包まれた実力が、どれほどなのかを。
*
かつてのVNIVEARTH四天王のうち、すでに3人がこの箱に集まっている。
残すは『
彼女が今このインターネット上のどこにいるのかは知らないが、今後相まみえることがあれば、俺はまず、彼女のことを知ろうと思う。
黒宮院みやみもまた、初めから薬物マイスターではなかったはずだ。
彼女のために、俺に何かができるのであれば、それをしよう。
そのためには、まず、彼女がどこにいるのかを探すところからだ。
翌日。
瀬尾薫からVtuber名が送られてきた。
その文字列を見て、俺は絶句するしかなかった。
『黒宮みやび』
……。
お前かよ……!
※本作はコメディです。
【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)
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萬屋ぺすと
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佐土原恭子
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神海まりも
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詩星せるり
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遠藤
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黒宮院みやみ
-
拳藤正義
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波羅劾ざくろ
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4期生の2人目