『minaさん、素敵なイラストありがとうございます!
こんなに素敵なものをいただいてもいいのでしょうか……? 早速アイコンに使わせていただきました!』
『いえいえ。私もぬあちゃんの歌に元気を貰ってます!!
毎朝家を出る前に聴いたりして! 生き甲斐……みたいな!!』
『本当ですか? 嬉しいです!』
『お贈りしたイラストですが、ぬあちゃんの歌みた動画から勝手に想像して描いちゃいました。大丈夫でしたか??』
『大丈夫です! むしろその……実際の私よりずっと可愛く描いて貰って申し訳ないような』
『そんなことないです!! ぬあちゃんの歌声を聞いて脳髄に見えた女神様の姿です! 未来の歌姫! いつか絶対、歌手として世界にこの名は轟くよ……っ!』
『適当に付けちゃった名前なのが恥ずかしい……』
……。
ネ カ マ で あ る。
*
俺の意図はこうだ。
①のめぬあ(後の
②なんかもうめっちゃ友人になる。
③ちょっとでも詐欺っぽい誘いがあったら相談するように言いくるめる。
④完全勝利。
そうだ。これで詩星せるりの不祥事の元凶を絶つことが出来る。
VNIVEARTHには他にも問題児が多いから、あまりにも問題児が多すぎるから、これで万事解決とは言えないが、少なくともきっかけとなった一発目にして最大の炎上を避けることが出来る。
そのためには、俺がSNS上で女性を装って女子高生を口説いても問題ないのだ*1。
俺は今年で20歳だけどまだ19歳だ。20歳が17歳を口説くと条例に引っかかるが、19なら17を口説いてもセーフなのだ*2。
今が2018年で良かった*3。2022年からは成人年齢が18歳以上になるから、19が17を口説いてはいけない。
打ち解けるにあたっては、俺が知る限り最も人の心にすっと入り込むのが得意なあの少女を参考にさせてもらっている。
誰かの影響で詩星せるりを推し始めた俺よりも、自ら見いだしてファンとなった生粋の詩星せるりガチ勢の言葉を借りるのが伝わるだろう。
……自らをあの少女の代弁者としたかったが、それだけは駄目だと思いとどまる。
あの少女の想いはあの時あの場所だけのもの。そこにどれだけの想いが秘められていたかなんて、俺に全てが理解できているわけがない。
俺は罪悪感として、彼女の言葉を盗用したと背負わなければいけない。
消えぬ罪の意識として永遠に背負いたい。
永遠に記憶に焼き付けたままでいたいというただの願望かもしれないけれど。
ともかく、イラストの制作が間に合って良かった。機材の違い、イラスト制作ソフトのバージョンの違い、環境の違い、肉体の違い。
死ぬ前と同じように描けるかの不安もあったが、案外どうとでもなった。
CLIP STUDIOは昔から変わっていない操作感だ。
肉体が若返っても腕はそうなまっていない。むしろ筋肉が衰える前、それも入院で体力が損なわれていない全盛期の肉体と言える。
そして詩星せるりのイラストは何百枚と描いて来た。俺は世界で一番詩星せるりを描くのが上手いと言っても過言ではない。元の公式立ち絵がほぼ無名のイラストレーターに依頼された低予算のものであったから、世界の歌姫様の御姿はこんなものじゃないと言う少女の意見を取り入れ俺なりにリファインしたデザイン。
まだ詩星せるりのいないこの世界で。あの未来にも存在しなかった詩星せるりのデザインに仕立てた、誰よりも上手い詩星せるりのファンアートを送り付ける暴挙。
今ののめぬあには正直過剰なイラストかもしれないが、声質のイメージは違えていない。
俺は今、ずるをしている。未来のイラストを見ながら3年間練習した状態で2018年にいる。
この価値観は2018年と多少ずれているかもしれないが、それでもゆくゆくは主流となる画風。先駆者と同等の傾向を持つ。
……これで漫画の内容とかまで先取りして世に出せば、俺はただの泥棒だな。
これでVNIVEARTHのオーディションまでは安心して良いだろう*4。他の問題は軒並みデビュー後に起こる。デビューしてからが正念場とも言えるが、それはその時の俺がどうにかする。
詩星せるりの炎上回避。これだけでも俺の目標は達したんじゃないか?
少なくとも、俺と少女の推し、いや、あの少女の最推しである詩星せるりの不祥事だけは丸ごとなくなる*5。これから薬物マイスターに薬漬けにされる可能性もあるが、それは俺がVNIVEARTHに所属してどうにかするとして、少なくとも
薬物マイスター──『
いやいや。彼女だって被害者だ。彼女が悪ではない、彼女に薬物を勧めた人物こそが悪なのだ。
出来ることなら、俺は全員を救いたい。
VNIVEARTHは全員が全員、あくまでデビュー後に不祥事を起こしている。ならば俺がとるべきは、VNIVEARTHの内側から全員のフォローに回ることだ。
Vtuberというのは煌びやかな印象とは違って、実態は闇そのもの。誹謗中傷と隣り合わせの活動は、それこそ薬物に逃げたくなるのもわかってしまいそうな気持ちになる。
ただでさえ人と関わることは難しい。貶し、蔑み、陥れ。対立、陰口、罵倒、嫌悪。残念ながら、社会に出るということは人間関係の苦難が伴う。
インターネットという匿名性のある場においては、より無責任に、より無造作に悪意の言葉は振るわれる。
俺に何かが出来て、何かを変えることが出来るというのなら、それを目指したい。
別にVNIVEARTHを業界最大手に押し上げたいわけではない。VNIVEARTHが何の問題もなくそこそこの調子で継続してくれさえすれば、それでいい。そのために俺が出来ることはなんだってする。
デビュー時点で薬物マイスターがすでにラリってそうだったら即通報するけど。
問題は社長かぁ。実際に話してみないとわかんないけど、調べてわかった情報だけでも相当やばい人なんだよなぁ。こいつこそなんか薬やってそう。
*
夏にボーナスを貰った俺は、作業時間を増やす為に仕事を辞めた。
週5のガチ仕事をしながらオーディションへ向けた準備は難しいが、週4のコンビニバイトを適当にしながらなら余裕だ。
VNIVEARTHに採用されればどうせ辞める職だ。退職が半年早まっただけ。
というわけで俺は、薬品製造の下請け勤務から、19歳暫定無職フリーターコンビニバイトへとジョブチェンジした。
あのよくわからん薬品袋に手を突っ込むの嫌だったんだよな。手がなんか血まみれになってることもあったし。
空気も悪かったし、あそこにいたから病気になったんじゃないかと今となっては思う*6。
クリエイターにありがちなのは、こうした創作のために時間を増やしたところで結局遊びに費やしてしまい作業量は増えないこと。純粋に作業時間を増やせる人間はかなり少数と言える。
それを知っているからこそ、俺は創作に充てられる。何よりイラストに動画作成、俺が用意するものはたくさんある。多ければ多いほど良い。それだけ俺という人材の証明になる。
遊びなんて死ぬ前に十分やっただろう。今を遊んで前回と同じ後悔はしたくない。
並行してのめぬあにイラストを提供する。
何かあった時に相談されるような仲になるため、できるだけ年齢が近い同性として振舞うのは苦難したが、これとは別に女子高生になりすましたアカウントを作って無作為にフォローした女子高生達のツイート群からありがちな学校行事の話題や感想をピックアップすることでなんとかこなせている。
今ではあらかじめ音源を貰って動画のイラストを手掛けるまでの仲になった。
……あいつが知ったら、羨ましがるかな。
俺の知っている、今はもう俺を知らない少女を想う。
天使のような見た目をして、満開の向日葵のように眩しい笑顔で、オタク特有の早口マシンガントークで推しの箱を語った少女。
この世界でも、あの子はVNIVEARTHを見るだろうか。俺が関わることでなにかのずれが生じ、VNIVEARTHには見向きもしなくなる可能性がある。
それならそれでもいい。VNIVEARTHの破滅に触れさえしなければ、あの少女が笑顔を失うことは無かった。
他のマイノリティに好きを見出して、似たように楽しく笑っていてくれるなら、それでいい。
今からあの病院に乗り込んでVtuberなんか一生関わらないように説得するか?
完全に不審者です。
……俺も俺で、ただの自己満足でしかないのだろう。
少女と一緒に見たあの動画の光景を、守りたいと思ってしまっている。ただ少女の生存を願うなら、初めからVNIVEARTHを見せなければいい。
VNIVEARTHが彼女の目に映る前に、彼女の生き甲斐と化す前に潰してしまえばいいのに。
わざわざVNIVEARTHに入社して内部から改善を図ろうとしている。
そして10月。最近は筋トレが趣味になってきた。いざというときに戦えないと、守りたいものも守れないからだ。
例え悪意を持ったものがVNIVEARTHに近づこうとも、黒宮院みやみが迫ろうとも、例えアンチがリア凸してこようと、それに打ち勝つ肉体があればいい。
そう、暴力は全てを解決する。
【正義の執行人 必殺ジャスティスパンチ
彼は俺が目指すべき真理だったのだ。
プロテインの摂取も欠かさない。
毎朝起床後と、筋トレの直後。プロテインはあくまでたんぱく質でしかないから、身体がたんぱく質を欲しているタイミングで飲まなければならない。
そうでなくてはただの過剰摂取、ただの贅肉と化す。未来の筋トレ動画で見た。
そんなとき、ふとスマホに通知が鳴る。
いつものDM通知。相手はのめぬあしかいない。それ以外は不審なメッセージとして保留される。
『イラスト見た! なんかもう、すごい。ミナちゃんが描いてくれた私が曲に合った衣装になってる!』
『自信作だよ……っ! ぬあちゃんの歌を聞いたらすぐに頭の中でぬあちゃんが見えるんだ』
『こわ……』
『えっ』
『うそうそ。でもいいの? 本当ならお金とか、払った方がいい絵だよね……? 私お金はあんまり持ってなくて……』
うっ頭が。金の話はするな詩星せるり。
『いらなーい。これは私の推し活。ぬあちゃんがデッカになるためだったら私はなんだってするから!』
『じゃあ通話してよ~』
『……声はごめんね、私それだけは自信がないんだ』
仲良くなるにつれ、最近ののめぬあは通話をしたがるようになってきた。
仲良くなる方向性を間違えたか……?
流石に女声を出せるは自信がないし、同年代の同性──下手すれば同じ女子高生だと思わせるように振舞っているのに、実は19歳暫定無職フリーターコンビニバイトおっさんでしたー! なんてバレたら信頼どころの話ではない。
これがネカマの代償か。
腕を組んで唸り、若干の後悔をしていると新たにメッセージが送られてくる。
『ねぇミナちゃん、相談があるんだ』
来たか。俺は身構える。怪しいレッスンを受けるとかなら即座に反対するぞ。
ぬあちゃんの歌は今でも最高なんだから、ある必要なんてないよ!
『このオーディション、受けてみようと思うんだ!』
??? VNIVEARTHのオーディションはまだだけど……?
……あっ。
──オーディション詐欺か!!!!
【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)
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萬屋ぺすと
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佐土原恭子
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神海まりも
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詩星せるり
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遠藤
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黒宮院みやみ
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拳藤正義
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波羅劾ざくろ
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4期生の2人目