歌唱力を売りとした『Vシンガー』という位置にありながら、配信能力も高く、普段の雑談からリスナーとのかけあいまで安定したトークセンス、そして彼女固有の友人トークなども相まって、中小箱のダークホースとされているVNIVEARTHの看板VTuberの1人となっている。
というのが、私のことらしい。
あの弐コ弐コの底辺歌い手をしていた頃と比べると、たくさんの人に評価して貰えて、歌も聴いて貰えて、それを嬉しいと思う反面、なんだか自分の知らないところで大きく評価がされているみたいで、少し怖くもある。
多くの人の目に触れるということは、それだけ自分のことが好みに合わないと思う人に出会う可能性も上がるということで、正しく評価して厳しい評価をする人もいれば、ただ気に食わないという単純な罵倒もされてしまう。
インターネットは潜在的な悪意の温床。
怖い所なんだって、ミナちゃんは何度も言う。
元々そうなんだろうとはなんとなく思っていたけれど、私の大事な親友であるミナちゃんに、念入りに、とても強く、教えて貰っている。
mina。私のファン。相棒。大好きな人。
ミナちゃんは心配性なんだ。
私に何かがあったらと思うと、といって小まめに近況を聞いてくる。
何か怖い人から連絡はなかったか、変な人に粘着されてないか、嫌なコメントを見て苦しんでないか、不調とかないか、ちゃんと寝てるか、ご飯食べてるか。
もう、ママじゃないんだから。
……ママだった。
私の使う
だから、私のママなんだった……♡
えへへ、私とミナちゃんは親子の絆もあるんだよね。
VNIVEARTHの二期生と三期生は全員ミナちゃんが
ちょっとだけ、少しだけ、いや本当はかなり、複雑な気持ち。
これもミナちゃんの実績のためなんだ。
実績によって発言力を得ることで、私との活動をやりやすくするためって、言ってくれたし。
それに。
他のVNIVEARTHライバーはあの遠藤というエンジニアの人がLive2Dの調整をしているから、あの人がイラストを設定してLive2Dにする人──パパということになる。
でも、私のモデルだけは、できる限りの設定をミナちゃんがやってくれている。
つまり私のパパは、ミナちゃんなのだ。
ママもパパも、ミナちゃん……♡
私の身体は99%がミナちゃんでできている。
一緒に歌ってみた動画も作っているし、お、お嫁さん……でもあるよね。
ママで、パパで、配偶者。
そんな最愛のミナちゃんとの仲に、挟まろうとする不埒な輩も存在する。
南條亜紀人。私の知らないミナちゃんを知ってるであろう男。
ミナちゃんからこれ以上ない信頼をされている人で、この人は心配ないよととにかく太鼓判を押してくる。私たちに危害は加えないし、言うことも大体あってるから疑わなくてもいいよ、と。
あの、インターネット対して厳しい警戒をしているミナちゃんが、無類の信頼を寄せる男性。
南條さんも、マネージャーという立場でありながら、ミナちゃんと二人三脚で活動することを許容していて、手放しの信用をミナちゃんに向けているのだ。
そう考えると、私の中で嫌な考えが浮かぶ。
実は私の知らないところで、南條さんとミナちゃんは男女の関係があって──
──脳が破壊される!!
そうでなくとも、互いに互いを信頼できるという、私とミナちゃんの関係のようなものが形成される過程が存在するということで──
──脳が破壊される!!
ううう……インターネットの人が言う、脳破壊というものがわかった気がする。
コメント欄に脳が破壊された人がいたら優しくしてあげよう。
二人がどういう関係なのか知りたいけど、怖くて聞けない。
何より、私はミナちゃんを信じている。疑うことは、この信頼を裏切ることになる。
でも、脳が……。
さりげなく聞いてみた。
『あはは。ないない。歳も離れてるし、そういう相手じゃないよ。心配してくれたんだよね? 大丈夫! 私はせるりちゃん一筋だよ……っ!』
ミナちゃん……!
そうだよね。疑ってごめん。
今度、二人で某夢の国テーマパークに遊びに行こうね。
実際には会えないけど、一緒に行った時にどうするかのシミュレーションを、公式サイトやストリートビューを画面共有してLIIVEするのが最近の楽しみ。
ミナちゃん、あんまりこういうレジャー施設とか遊園地には行ったことがないみたい。
いつか。
一緒に行けたらなって、思っている。
そんなミナちゃんとの日々の、ある日。
三期生がデビューした後に、何度目かの遠藤さんからコラボ配信への出演を依頼するメッセージが送られてきた。
遠藤。みなしごエンドレス。
今でもまだ名前なのかよくわからないものを、平然と名乗り続けている、とても個性的な人。
同じVNIVEARTHの二期生で、私にとっては同期になるんだけど、あまり関わったり話をしたことがない。
これは運営上の方針で、本人の意志でもあるらしく、遠藤さんからも、南條さんからも、似たような説明を受けている。
みなしごエンドレスは、今まで女性しかいなかった箱に初めて実装された男性ライバー。
その活動はかなり実験的なもので、当面は女性ライバーとの接触は控え、まず彼単体で男性ライバーがVNIVEARTH視聴者に受け入れられる下地を作ってから、今後の活動方針を調整していくんだとか。
とても、すごく、立派な人だと思う。
インターネットは、潜在的な、悪意の温床。
特にこのVTuber界隈において、男性叩きというのは実際に存在する。だから距離をとるのが互いにもメリットがあると、遠藤さんにも、南條さんにも、そしてミナちゃんにも言われている。
これは一期生の
みなしごエンドレス。遠藤さん。
あの人は、VNIVEARTHのために1人で戦っているのだ。
……その割には、なんだかんだ箱コラボに顔を出しているけど。
それだって、なんだかんだなし崩し的に、少しずつ、男性ライバーを浸透させていく戦略なのだとか。
よくわからないけれど、すごい人なのだと思う。
……ひとつだけ、不満があるとすれば。
『みな』しごエンドレスと、『ミナ』ちゃんで似ているとコメントでからかわれることがあるくらい。
み、ミナちゃんを穢しやがって……!
コメントとのやり取りの中で、冗談でもそういう反応をしてしまったこともあり、謝るメッセージを送ったことがあるんだけど、そういう風にいじり役、やられ役にするのが遠藤さんの目的としても良い方へ作用するらしく、むしろもっとやれって言われた。
そういう、趣味なのかな……? ううん。
ミナちゃんも、戦略として悪くないみたいなことを言っていたし、そうなんだろう。
今回の遠藤さんからのメッセージは、三期生の同期コラボ配信であるコンプライアンス研修会への誘いだった。
先輩として、初めてできた後輩に頼れるところを見せる場面を用意するから、歌い手の観点ならではのコンプライアンス解説をして、キャラクターとしてのイメージ補強や、後輩との話題のきっかけに活用して欲しい、とのこと。
驚くほど戦略的で、私に利があるように考えられている。
変な人だけど、その『変』は計算尽くで、策略としての変な人なのだ。
配信外でも距離を取らなくても……とは思うけど。
コンプライアンス研修のコラボだって、わざと会話を気まずくさせるように遠藤さん本人から頼まれた。男女コラボで発生する、それぞれのファンからの炎上を避けるためだ。
そして不仲ネタというか、謎のコミュ障ネタに活用するのだという。
同じ二期生の同期なんだし、まあ。
いつかは、遠藤さんとも、ちゃんとしたコラボをしたいとは、思わなくも、ないのに。
と、言うか。言いますか。
三期生の
同期の私がこんなに慎重に扱われているのに、三期生の黒宮院さんは初配信から放任すぎる。
ミナちゃんやマネージャーさんに聞いてみれば、アレは特殊過ぎて訳がわからないからもう好きにさせる、と意見を一致させていた。
このVTuberに詳しい2人がわからないというんだから、私に理解できるはずもない。
……そういえばこの2人、というか、遠藤さんを含めた3人は、意見が食い違うことがない。
ミナちゃん。南條さん。遠藤さん。
同じクリエイターユニットに所属しているという3人は、同じ考え、同じ方針、同じ価値観で動いている。
私とミナちゃんの間には、ないものだ。
それこそ、3人が同一人物なのかと思うくらい──ううんそれはない。
このクリエイターユニットには、共有してるルールやマニュアルがあるんだと思う。
とても一心同体感のある、羨ましい関係だ。
私もそこに加わりたいと思ったんだけど、ミナちゃん曰く、このユニットは同じ考えで動き過ぎていて、新しいアイデアを出すのが難しいという欠点があるのだとか。
だから、ライバーのみんながそれぞれで配信について考えることで、ミナちゃんたちでは思いつかないものを生み出すきっかけになることを、期待している。
そうだね、ミナちゃん。私もミナちゃんのためにいっぱい考えるよ。
第1回と名前に付いたコンプライアンス研修コラボは、指示通りに振舞って、この2人の間だけにある謎のコミュ障として小さなネタとなった。
その一方で、黒宮院さんはなんかもう意味不明なくらい自由な言動をしていたけど。
ミナちゃんたちが各ライバーに伝えている配信のコツとは全く違うのに、ちゃんと本当にやっちゃいけないことはかろうじて避けている、ギリギリを攻めた配信。
私は真似しちゃダメって言われた。しないよ。
そして、なにかあったら絶対に相談してよね! って改めて念を押された。
するよぉ、もう。ミナちゃんは心配性だなぁ。
もうすぐ7月。歌ってみた動画の投稿も10本になって、登録者数も3000を超えた遠藤さんに届きそうなところに来ている。
他の大きな箱と比べたら、この増え方は少ない。ミナちゃんに相談したけど、今はまだ種を蒔く期間だからこれでいいらしい。
近い未来、VTuberはもっと大きな市場になる。そうなった時に、爆発的に伸びる可能性を、育てている段階らしい。
VNIVEARTHはまだ無茶な数字の伸ばし方は控えていて、案件費用や広告費用みたいな、PR面に予算をつぎ込むような施策を全くとっていないから、この伸びでも多いくらいなんだとか。
……試しに南條さんや遠藤さんにも同じことを聞いてみると、同じ意味の返答。
一期生の先輩方にこのことを伝えると、萬屋先輩は知りたくない現実を聞かされたような反応をして、神海先輩はなんかすごい興味がありそうな反応だった。というか、詳しく聞いてくるって言ってチャットから消えた。
なるほど、これは運営3人だけの認識で、VTuber界隈の常識ではないんだ。
VNIVEARTHを運営する謎のクリエイターユニット。
ミナちゃんには、どんな背景があるんだろう。
いつか打ち明けてくれる日が来たら、嬉しいような、怖いような。
VNIVEARTH公式から重大告知がある。
一般への情報公開よりも先に、所属ライバーの私たちにそのことは通達された。
7月の13日、土曜日に、四期生のデビューを実施。
は、早すぎる……。
今後、四期生がデビューすることは、なんとなく予定されてるとは思ってたけど、今までのデビュー間隔からすると、3ヵ月は空くと思っていた。
先輩方も同じ驚き。
神海先輩はすぐさま、遠藤さんや南條さんの連絡チャットに突撃していた。そして絞り出した情報が私たちに共有される。
『( 'ω' و(و♪ ƪ( 'ω' ƪ )♪( 'ω' و(و ♪ƪ( 'ω' ƪ )♪』
と、神海先輩は満足そうだった。
7月という短すぎる間隔は、夏休みを想定してのもの。
夏休みという、多くの学生が視聴者となりやすい期間。配信者にとって書き入れ時と言えるボーナスタイムを、有効活用しない手はない。
学生というのは、スパチャなどの直接の収入源にはなり得ないが、しかしその一体感による『お祭り感』は非常に強力なもので、ネット上の話題性を左右する重大なギミックなのだとか。
そもそもVNIVEARTHはまだ誰も収益化していないし、唯一条件を満たした萬屋先輩も審査中で返事はまだまだ来ない見込みらしい。
そしてその学生たちが、数年後に大人になった時に、夏休みの思い出としてVNIVEARTHを印象付いていいたならば、大きな力となってくれる。その頃にはVTuber業界もより大きくなっていて……と、あまりにも計算尽くしの戦略だった。
夏休みに間に合わせるためのものであり、そしてこの短すぎる間隔これ自体が驚きを生み話題性へつながる。
その代償として、ミナちゃんと遠藤さんが大変な思いをしているらしいけど。
おのれ、VNIVEARTH社長め……! 伊能凛め……!
これ配信で使おう。
ちなみにこの事情は、打算的過ぎるからリスナーには言わないように言われたみたいなんだけど、じゃあ私たちにも言わない方がいいのでは……?
13日土曜日は、3連休の頭。その日は仏滅なので14日にする案もあったらしいんだけど、新人の男性がそんなの関係ないと切り捨てたんだとか。なんかまた変な人が来そうな予感がする。
今回は完全にシークレット枠だとして、男性の方は私たちにも内容を共有されていない。
神海先輩がちまちま情報を抜こうとしているみたいだけど、これだけは譲ろうとしないらしい。
……また、もう、後輩が増えるんだ。
男性ライバーが増えて、これで3人になるなら、遠藤さんも肩身の狭い思いをしなくて済むよね。
そして私はもっとミナちゃんと関係性を深める。
えへへ……。
*
『|'ω')チラ』
『|彡サッ!』
『|'ω')チラ』
『|彡サッ!』
『|ε=ε=٩( 'ω')۶ダダダダッ』
『 ( 'ω')و オシエテ!』
神海まりものクソメッセージを無視して、俺はスマホを仕舞う。
忙しいって言ってんだろまりもん。
いつもなら配信に聞きに来てと召喚するための餌にぶら下げるんだけど、配信では伏せたい裏事情だったので、まあいいかと色々聞かせてみたのが運の尽き。
神海まりもは目を輝かせるように食い付いて、まあ、こんなのになっちゃった。
波羅劾ざくろといい、人懐っこく色々聞いてくる子には答えてあげたくなってしまうのは、実は俺の悪癖だったのかもしれない。
なんかぽろっと重要なことも漏洩してしまうリスクを鑑みれば、少しは自制心を持たねば。
7月上旬。俺はひーひー言いながら、2人分のLive2Dモデルをなんとか形にした。
いや、ふへへへへ……と不気味に笑いながらだったかもしれない。
まあ男性の方は手抜きでいいし、俺の腹いせでモデルに嫌がらせもしたので楽しかったとも言えなくもない。
なお本人はそのモデルを見て満足している模様。
あああ、俺の、この手で、あの波羅劾ざくろを、この世に生み出している、うおあぁぁぁ………。
──脳が破壊される!!
あの憎かったはずの波羅劾ざくろを、俺が持ち得る限りの全ての技術で魔改造している。
こだわり過ぎたせいで、このピアスばちばちギラギラ金髪おねーさんに愛着が湧いてきてしまった。
──脳が破壊される!!
しかし今回は、詩星せるりや黒宮院みやみのような、髪の長い露骨に大変なモデルじゃなかったので、まあなんとかなった。
時間的に無理なら妥協するだけだし。
四期生のデビュー告知は行ったし、15秒のショートムービーも投稿したし、VNIVEARTHの運営は完璧に順調だ。
夏の企画に使いたいゲームには、いくつか許諾をとれないかと春ごろから連絡を試みているが、正直のところあまり芳しくない。
やっぱり許諾関係の整備が進んでいないこの時代に、大企業でもないそこらの箱がコンタクトを取るのは難しかったかな……。
まあ、どうなるかは待つしかない。いまの神海まりものように、なんども連絡を送り付けるのは悪手だろう。
『( ;ω人)スイヤセン..』
無視されてると察して、この顔文字が最後に送られてきていた。
いや、怒ってないからいいんだけどさ。
*
そして。
7月13日(土)。四期生のデビュー配信が行われる。
最初に配信を行うのは、波羅劾ざくろ。
彼女は配信未経験者だけど、もう1人も未経験者だし、どっちが信用できるかと言われれば、この数ヵ月のやり取りを経た波羅劾ざくろに圧倒的な軍配が上がった。
どちらにせよ、男の方は完全シークレットという触れ込みにしているので、順番は必然的に後になる。
波羅劾ざくろ。先鋒は、任せたぞ。
俺が伊能凛ですら戸惑うような変な笑い声を漏らしながら作っていた、ピアスばちばち、おめめギラギラ、染めた金髪おねーさんを、刮目してくれリスナーたち。
この手の性癖は強いと踏んでいるので、もう盛りに盛りまくった。豪華にアレンジしすぎて、逆にあの未来の低予算な姿とはかけ離れたデザインへと成り果てた。
耳。へそ。舌。各所にピアスを開け、さらけ出す肩にタトゥーシール。
口を開くと舌ピが見えるし、笑う時のトラッキングで口角が上がりやすいように調整してある。
右目の下に泣きぼくろもあるぞ。どうだ。くらえ!!
そして中の人はへっぽこ子犬な京都弁というギャップの塊。物は言いようなのだ。
この日のためにライバー固有の売りとなる企画も考えた。
もう片方の男が良い意味でも悪い意味でも手がかからなかったので、俺はこの1ヵ月、波羅劾ざくろにリソースを割いて付きっ切りだった。
~それを知った男の方が、やっぱり教えてと言ってきたが、もう遅い~
眠いし最近暑いしで、俺のテンションが逆に高い。
一方で波羅劾ざくろは──緊張でガチガチだったけど、
もうどうにでもなれ!
いっけー!!
「あ、あの……は、はじめまして、うぅ、うち、
うわ、ダメそう。
【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)
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萬屋ぺすと
-
佐土原恭子
-
神海まりも
-
詩星せるり
-
遠藤
-
黒宮院みやみ
-
拳藤正義
-
波羅劾ざくろ
-
4期生の2人目