過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#039 波羅劾ざくろ

 6月8日、土曜日。

 新進気鋭にして中小VTuber事務所のダークホースであり、飛び抜けたLive2Dモデル技術を持つ話題の箱、VNIVEARTH(ヴニヴァース)から三期生がデビューした。

 

 1人は、二期生である特定の先輩を燃やそうとするアグレッシブな言動や悪ふざけで、リスナーを独自のノリへと強引に引きずり込んでいった。

 しかし単なるネタ特化かと思えばそんなこともなく、悪ふざけが多いという特徴をまず理解(わか)らせたことによって、リスナーに対しても距離の近い悪友のような親近感を抱かせることに成功しており、なぜかガチ恋勢に近い信者を量産しようとしている。

 

 もう1人は、配信未経験者ではあったものの、癖の強い同期や先輩に置いていかれないように、食らい付こうとする気概を見せていた。

 未経験者というのもこのVNIVEARTHにおいてはある種の個性となっており、なぜだか一期生からこれまで新人らしさに欠けたライバーが多かったのだが、配信に不慣れながらも無邪気に頑張る様子はそれ自体がキャラクター性として親しみを生んだ。

 

 デビュー配信では、それぞれのキャラの特徴を生かした切り抜きがしやすい見どころがいくつもあり、これだけでも界隈に小さな風を起こしていた。

 

 加えて、1週間後に行われたコンプライアンス研修コラボ。

 

 一期生と二期生も登場する実質的な箱コラボであり、司会の二期生が主導したコメディとしても楽しめる構成であった上に、それなりにちゃんとコンプラ解説もしているので実用性も併せ持つという、より多くの視聴者の需要を持つ配信として拡散された。

 

 そんな三期生デビューの余波がじんわりと続く中。

 

 突如として、VNIVEARTHから四期生のデビューが告知された。

 

 日程は7月13日、土曜日。

 

 早い。早すぎる。

 

 1月に一期生、3月に二期生、6月に三期生。

 このペースであれば、四期生は9月、早くともせめて8月ではないのか。

 

 誰もがそう思った。所属ライバーさえも、自身の配信でその驚きを話し、リスナーと同じ感想であるということで親交を深める。

 

 こうして、狙ってか狙わずしてか、リスナー及び界隈の注目を集めたVNIVEARTHは、より勢いを増していくのだった。

 

 実際のところ、ある程度は狙った進行だ。

 

 とはいえ、こうも上手く嵌まると戸惑いこそあるものだけれど、逆に今の俺は寝不足とか夏の空気に()てられた高揚感とかで無駄に昂っていたので、テンションがハイになっていた。

 

 社長のわけわからん理解不能な企画書に従っていたのにも、多分影響されている。

 

 

 そんな状況で迎えた四期生のデビュー日。

 VNIVEARTHを取り巻く世間も、俺も、この日を迎えて熱に浮かされていた。

 

 待機画面の時点で、配信開始時間を待ちわびるようなコメントがいくつも流れている。

 

:PVの時点でやばそうだった

:金髪とピアスだけ見えた

:やばい(歓喜)

:これで京都弁とかもうね

:もうVNIVEARTHだわ

 

 YovitubeとTvvltterの公式アカウントに投稿した、15秒の簡易PVも効果的に作用している。

 三期生の時と同様、立ち絵のシルエットをBGMやエフェクト、煽り文で装飾して、最後に一言だけセリフを入れるだけのもの。

 

 それだけなのだが、少しだけ顔の右上あたりのシルエットが薄くなる演出によって見えた特徴が、すでにリスナーの期待を煽ることに成功していた。

 

 ピアスばちばち、おめめギラギラ、染めた金髪、京都弁おねーさん。

 

 この要素がすでに拡散され、VNIVEARTHには性癖を拗らせたデザイナーまたはプランナーがいると新たな認識を植え付けられようとしている。

 

 俺の理解していた以上にこれは反響が大きく、三期生で最初にデビュー配信を行った黒宮院(こっきゅういん)みやみの時の配信開始時の視聴者数である400をすでに超え、500。

 いや配信中には600も越えそうな勢いだ。

 

 これは単純に、このキャラ容姿と属性だけで集められた数という訳ではなく、三期生のデビューやコラボによってよりVNIVEARTHの知名度や期待度が上がったという、目に見えたわかりやすい成果でもあった。

 

 配信開始時間をまだかと催促するコメント欄。

 俺にとっても、なんかもうヤケクソで魔改造しまくったモデルと、初配信に向けて付きっきりで面倒を見たこともあって、配信が始まるのが楽しみだった。

 

 しかし。

 

 そんな俺や世間とは全く真逆の状態になっている人物が、1人だけ、いたのだ。

 

【初配信】波羅劾ざくろと申します【VNIVEARTH】

 

 配信開始時間となり、待機画面が切り替わる。

 少し怪しげな書類が積まれた事務所風の机が映る背景に、注目のおねーさんが映される。

 

:うっお

:へそピアス!?

:かっこいい

:髪フェチ以外にも、なんかこれこじらせてんな

:なんかエッロ……

:へそピ&ダメージジーンズ&入れ墨 ←NEW

 

 コメント欄が爆速で動く。

 俺の性癖への認識は2023年程度まで時間が進んでしまっているので、2019にも敵うのか不安要素だったが、問題ないようだ。

 

 外見のアドバンテージが高い、これだけで掴みとしては上々だった。

 

 さあ、やってくれ! いっけー!

 

「あ、あの……は、はじめまして、うぅ、うち、波羅劾(ハラアバキ)ざくろって、言いますぅ……」

 

 500の同時視聴者数が見守る中の第一声。

 

 誰もが期待を裏切られたであろう、やけに弱々しい声が配信上に載った。

 

:ん?

:ハラア……なに?

:あれ

:まずい

 

「あ、えっと、へへ、えへへ……、はは」

 

 その外見からは想像もできない、卑屈で自信の無い、緊張でガチガチな上、最初から京都弁が出まくりな第一声。

 そして、俺の配信の心得に従って、とりあえずの愛想笑い。

 

 なんかLive2Dもしおらしく見える気がする。

 

 おかしいな、俺がテストで使ってるときはもっとギラギラしてたんだけど。

 

 明らかに打ち合わせとは違う振る舞いなので、俺はマネージャーとしてメッセージを送る。

 

『緊張してますか?』

 

『やばいです』

 

『問題ないですよ。例の動画を再生してください。一度音声をオフに。OBSの操作はできそうですか?』

 

『やってみます』

 

 今回の俺に抜かりはない。こんなこともあろうかと事前に、緊張でガチガチになった時のために備えをしている。

 

 配信画面が切り替わる。

 

『ぴんぽんぱんぽーん。ちょっと待ってね』

 

 録音された音声が流れて、画面にはちょっと待ってねとだけ表示される。

 この声は詩星(うたいぼし)せるりに収録をお願いしたもので、セリフが終わると、BGMとして詩星せるりの鼻歌が流れるようになっている。

 

『ふんふんふーん♪ ふんふふーん♪』

 

:せるり!?

:なんだこれw

:これガチ? ネタ?

:放送事故www

 

 dlscordの通話を開始。マイクを軽く叩いて、その音が配信上に入っていないことで安全を確認する。

 

「波羅劾様? 大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫やないです! うち、どないしたらええか飛んでしもて」

 

 思ったより緊張してるな。

 

「落ち着いてください。深呼吸しましょう。波羅劾様、何か私にできることはありますか?」

 

「え、えぇ……と、じゃあその、波羅劾やなくて、名前の方で呼んで、励ましてくれはります!?」

 

「……?」

 

 なんでだよ。実は緊張してないのか?

 いや緊張しすぎてわけわからんこと言ってるのか?

 

「いやその、波羅劾(ハラアバキ)だと仰々しい言いますか……えと、その……」

 

「……ざくろ様、一度落ち着きましょう。

 深呼吸して……。大丈夫です。この緊張も織り込み済みです。そのために動画も用意してましたし」

 

「すぅー……、はあぁ……。うぅー……おにぃ……」

 

 俺はお兄ちゃんじゃない。

 

 すっげぇ情けない声が聞こえてくるんだけど、でも声質は波羅劾ざくろなので、逆に怖い。

 

 一方でその裏、つまり裏の裏、表の配信上では。

 

『アンタたち、今ウチの新人が緊張してるの。ちょっとくらい待ってあげなさい!』

 

:ぺす!?

:ゲスト!?

:録音だろ

:準備良いな

 

『フ、フンフンフーン、フンフフフーン……これでいいのよね?』

 

:草

:ぺす……;;

:鼻歌になってないしw

:ぺす俺恥ずかしいよ

 

「落ち着きましたか?」

 

「はい……」

 

 もはやへにょへにょになっている波羅劾ざくろ。なんでこんな奴があの未来ではゴシップなんかやれてたんだよ。

 甘やかしたら強くなれないタイプか?

 

「もう露骨にカンペ見ていいですよ。設定的に書類を見るのは自然ですし、むしろロールとして見てもらえるかもです。

 予定通りにゆっくりやれば1時間は余裕で持ちます。気楽に行きましょう。頑張ってください!」

 

「わ、わかりました! うち……私、頑張ります!!」

 

 ループ動画が切り替わり、元の怪しい事務所に戻る。

 Live2Dの表情も元のギラギラとした眼に戻りつつある。でもなんか俺が使ってる時より圧がないんだよな。なんでだろ。

 

:大丈夫か?

:緊張?

:頑張って!

:500人見てるし、仕方ない

:えっ500人見てんの?

:大人気ww

:VNIVEARTHもでかくなったもんだぜ

:がんばえー

:配信できてえらい!!

 

「お待たせしました、リスナーの皆様。ご心配をおかけして申し訳ございません」

 

:誰?

:京都弁どこ?

:人変わった??

 

「うち……。──私の名前は波羅劾(ハラアバキ)ざくろ、と申します」

 

:うち

:ウチ

:ウチ

:かわいいね

:なんださっきの子だったか

:ハラアバキ!?

 

「はい、そうです。波羅劾ざくろ。特徴的で、覚えやすい名前ですよね」

 

『波羅劾ざくろ』

 

 丁寧な標準語と共に、名前のロゴが表示される。本人は気を張って仕事のできるキャリアウーマンをイメージした口調をしているらしいのだが、リスナーの反応はそうではない。

 

:隠し切れぬ京都弁

:キリッ

:残念系だったか

:この見た目で!?

 

「うぅ、そんないけずなこと……堪忍してください」

 

:なんだこの

:可愛い

:ギャップ、やな

:かわいらしいどすなぁ……

 

 よし。掴みとしてはいいだろう。

 

 俺もいくつかサクラとしてコメントしているが、概ねリスナーの反応は一致してきた。

 がっかりした旨のコメントもなくはないが、その辺はただのカテゴリーエラーなのでスルーするように伝えてある。

 

 中断しているときに流していた動画もあってそんなに同接は下がってない。むしろ配信開始から遅れて来た人で増えている。

 

波羅劾(ハラアバキ)。物騒な名前だと思いませんか?」

 

:思う

:クソザコざくろには合ってない

:雑魚いうな

:可愛いじゃろ

 

「ふふふ……それにはうちの職業が関係するんです」

 

:あ

:うち

:うち

:またウチって言った

:ミステリアスな笑いからこのボロよ

 

「なんの職業か、わかります?」

 

:職業とな

:この頑張って標準語喋ってる感よ

:萌え、やね

:遊郭で働いてるんでしょ

:やめいwww

 

 波羅劾ざくろは俺の伝えた配信の基本を守り、真面目にリスナーとの掛け合いを中心に会話を組み立てていた。

 コメントを行う過程でリスナーたちを盛り上げるという、これぞ俺の思うリアルタイム進行の体験型コンテンツとしてのVTuberのまったりとした配信である。

 

:腹暴きならゴシップだろ

 

「そうですね、近いのがありました。ゴシップ。もっとやわらかぁくすると……?」

 

:スキャンダル?

:ニュースか!

 

「そうです。ふふん、私はVNIVEARTHの情報屋をしてます。波羅劾(ハラアバキざくろ)と申します。以後お見知りおきを」

 

:情報屋!

:ふ ふ ん

:かわいいね、いいこいいこ

:よくできました

:それで背景が事務所なのね

:ときどき紙捲る音するし

:モデルも口調もかっこいいけど残念お姉さんなんだよな

:かっこよくできて偉い!

:はじめましてぇ(クソザコざくろ)

 

 情報屋。

 

 念入りな打ち合わせによって決められたその設定は、なにかと配信内容に自信がなくて切り札としてゴシップを選択肢に入れようとする波羅劾ざくろと、どうしてもぬぐえない俺の先入観(イメージ)から、企業として無理のない折衷案として落ち着いたものだった。

 

「基本的には、最近のニュースみたいなもんですね。運営さんとお話して、私の方でこういうのをやる許可を得ました。題して──

 

 ──ヴニヴァース・インフォメーション!!」

 

 思いっきりカタカナ発音だが、表示されるニュース番組風のロゴは英語表記だ。

 

VNIVEARTH(ヴニヴァース) INFORMATION(インフォメーション)

 

:おお

:凝ってんな

 

「マネージャーさんが、つくってくれました!」

 

:自社製

:また自分たちで作ってるよ

:マネもイラスト描けるってぺすが言ってたな

:遠藤も描けるらしいし、イラストレーター集団じゃん

 

「まず今週のニュースですがこちら!

 詩星せるり先輩の歌ってみたの11本目が投稿されました。実はうち詩星せるり先輩のファンで……」

 

:うち

:ゆだんするとすぐ出ちゃう京都弁

:張り切りざくちゃんかわいいね

:せるりあん!?

:ざくろちゃんもせるりあんのフレンズだったんだね!

:急に素材がしょぼくなったな

 

 表示されるのは、彼女の自作した記事風の画像。

 

 写真があるべき部分は、彼女の手描きのイラストである。紙に描いてスマホのカメラで直撮り。絵心はないわけではないが、描きなれていない微笑ましいイラストだ。

 

 ここは自分で手作りしてもらい、頑張ってる感を演出することにした。

 実際彼女は頑張っているし、ここから画力や編集力が上がっていく様子をリスナーが見守っていくような形にしたい。

 

 動画編集まではさせない方針。負担が大きすぎてパンクするのが目に見えている。

 本人もVTuberの活動をしながら、毎週見どころを見つけて切り抜き、ニュース番組に仕立てるなんて俺でも難しい。

 

 あとはライブ配信の動向が掴みにくい神海まりもの面白シーンなんかを抜粋して配信に誘導するなどして貰って、お目付け役みたいな要素も付けていく予定だ。

 

 しかしこれだけに限定してはネタがなくなったり、いずれネタ探しに苦労する姿が予想されるので、活動内容の定義は曖昧にして、自由にやれるようにもする。

 

「次に情報屋として掴んだVNIVEARTHの裏事情を皆さんにお届けします」

 

:裏事情!?

:社内リークか

:まずくない?

 

「第一報なんですけど──

 

 ──二期生のみなしごエンドレス先輩は、社長と2人でお昼を某ハンバーガーショップで食べる仲らしいです」

 

:!?

:いらない

:どうでもいいww

 

「仲良くお散歩して、ラーメン屋さんに行ったら休業日。諦めてとぼとぼ帰る途中に寄ってポテトをシェアしたんだとか。うちの調査で明らかになってます。

 

 お二人さん、えらい仲がよろしいんやねぇ……」

 

:草

:┌(┌^o^)┐

:またしてもネタにされる遠藤

:京都弁(原黒)出てますよ

:そんなもんどうやって調査したんだよw

 

「優秀な情報提供者が、いてはるんです」

 

 このように、俺の事ならいくらでも面白おかしく言っていいと許可を出している。

 

 今回の情報提供者は俺なんだけど。俺自身のネタを俺が提供するってなんだよ。

 

 というか一瞬声が俺の知ってる波羅劾ざくろになった気がして鳥肌が立った。京都弁そのものが皮肉めいてて圧力あるんだな。

 

 だがしかし。

 

 同じゴシップというか、要はスキャンダル系のインパクトのある記事を武器にして配信を盛り上げたいのであれば、この方向性でやりさえすれば健全なのだ。

 

 もちろん、俺のゴシップだけでなく、なんかVNIVEARTH関係でほんわかしたエピソードがあれば取り上げてもらうことになっている。

 

「今日の配信でも使った、ちょっと待ってねの動画。

 あれはマネージャーさんが詩星せるり先輩と萬屋ぺすと先輩に依頼をしてくれて、その、不甲斐ないうちのために、うう、お二人が収録してくれはりましたぁ……」

 

:自分でダメージ受けるな

:よくやった

:ぺすの鼻歌助かる

:あれ、またかっこいい人いなくなっちゃった

 

「ああ、えと、こほん。

 ちなみに萬屋先輩は、鼻歌を歌うのに詩星先輩にアドバイスを貰っていて、その時の楽しそうな様子の録音データがVNIVEARTH内に厳重な保管がされているらしいです」

 

:!?

:公開しろ

:機密文書かよw

:欲しい

 

 まあ、今のは誇張表現だけど。本人たちと俺がそれぞれ素材データを持っているだけだ。

 こういう面白おかしく伝えるのも、彼女の腕の見せ所である。

 

 需要を意識すれば、俺についてのネタよりも、主に女性陣の絡みの方が多くなっていくはずだ。

 

 ニュースというには少し語弊があって、つまりはVNIVEARTH豆知識。

 リスナーが覚えてなさそうなキャラ設定や、配信でしれっと言ったことなどを適当に面白おかしく伝えてもらうのが、情報屋としての彼女固有の武器である。

 

 ついでに広報も半分くらい任せてもいいかもしれない。

 

 

 逆に用意をし過ぎたせいで、配信はむしろ時間が足りないくらいになっていた。彼女が真面目過ぎて、リスナーとの掛け合いで尺を伸ばしまくったからだ。

 テンポが悪いとも言えなくもないが、京都弁のゆるやかな空気とも合った、まったりとした配信になっただろう。

 

「あ、もう配信時間が終わりますねぇ。無事にタグも決まりましたし、やり切りました! うち精一杯頑張りましたよ!」

 

:えらい

:頑張った!!

:よくできました!

 

 時間の足りないだろう部分は潔く別の配信に回して、残った時間を他愛のない雑談に使用する。

 こういった単純にリスナーと親睦を深めるパートも必要だし、ちょうどいい。

 

 順調に配信が進んでいった終盤になる頃には、彼女はもはや普通に京都弁で喋っていた。

 

 あの『波羅劾ざくろ』の声ではあるし、京都弁なのだけど、そこから受ける印象は妹系子犬である。最初のおねーさんはマジでどこに行った。

 

 なんかこの方言を隠しきれないのを前面に推していこうと提案してから、別の部分が幼児退行した気がする。

 

 打ち合わせでもその口調をお願いしたせいで、一気に取り繕っていたものがなくなってしまったというか。

 いやどっちが本来の彼女かは知らないけど。

 

 これがあの『波羅劾ざくろ』の姿か? お(いたわ)しや……。

 

 考えようによっては、俺があの世界の波羅劾ざくろをこんなのにしてやったとも言える。

 

 やってやったぞ。

 

 ……うーん、まあ、うん。いいか。

 

 怪しい事務所に佇む、ピアスばちばちおめめギラギラ肩タトゥー涙ぼくろ染めた金髪おねーさん。

 

 そんなハードボイルドな印象ながら、配信時間が長引くにつれて、はんなりというか、へんにゃり京都弁よわよわ子犬が出てくる。

 

 性癖に特化したモデルと、ギャップ萌え。VNIVEARTHの情報屋というポジション。

 

 これだけ色んなものを渡しておけば、変に悩んで暴走することはないだろう。

 

 ──彼女を唆した人間が、いないのであれば。

 

 

:好きな食べ物って何?

 

「好きな食べ物、ですかぁ。……ぶどうですっ!」

 

:かわいい

:かわいい

:なんやこの子犬はァ!!

 

 

   *

 

 突き抜けた狂人要素もなく、緊張で数分中断するという多少のハプニングがあっただけの平坦な配信のはずなんだけど、波羅劾ざくろの配信は予想以上の反響を得て終了した。

 

 ちゃんとした新人枠の女性で、配信に不慣れで頑張っているという様子はリスナーからも応援したくなる保護欲を掻き立てる。

 

 なんかすでに登録者数がえぐいことになっている波羅劾ざくろのことは一度見なかったことにして、VNIVEARTHの四期生のデビュー配信はまだ終わっていない。

 

 ……萬屋ぺすとから、なんで没パターンの音声が使われてるんですか!? というメッセージが来ていたのも今は見なかったことにする。

 

 次に控える男。

 

 完全なシークレットであるため、15秒の簡易PVではシルエットの内容が一切明らかにならない。

 セリフもなく、その代わりに無駄に壮大な説明文で煽るだけ煽って期待値(ハードル)だけをこれでもかと上げている。

 

 まあ、男ライバーだし注目度は高が知れてるんだけど。

 

 ──VNIVEARTH最大の問題児となるだろう人物のデビュー配信が、これから始まる。

 

 

 7月13日、土曜日。この日、Virtual YoviTuber界に、

 

 VNIVEARTH最強の男が君臨する──。

 

 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 4期生の2人目
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