過去に戻ったので、破滅する推し箱の未来を変える。   作:匿名

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#005 たったひとつの冴えたやり方

 オーディション詐欺。

 

 レッスン詐欺とほぼ同じようだが、そうでもあると言えるし、そうでないとも言える。

 

 それはオーディションに合格した後からレッスン料も含めた諸々の費用を請求する詐欺である。

 オーディション応募時から記述として巧妙に盛り込むことで、自分から結んだ契りであるとして引き返す道を遮り、またオーディションを受かったという達成感こそが背中を押す。

 

 その先に続く道が崩れかけの橋であるとしても、一時の感情が判断力を鈍らせる。

 

 ただのスカウトではない。他人と競い、勝利を掴み取ったアドレナリンが介在する。

 

 即金できなければ借りればいい。成功したら返せばいい。

 そして活動に進展がある度に、準備費用だのなんだのと追加でかさ増しをしていく。

 

 もちろん犯罪行為であるし、抵抗もせずに500万だとかいう突飛な金額に膨れ上がるとは考えにくい。

 だが一概に、このオーディションを無関係と考えてなにもしないというのもあり得ない。

 

 可能性があるなら潰す。

 

 可能性を探していた。

 

 潰せる可能性が転がってきたのだから、喜んで潰そう。

 

 

『このオーディション、受けてみようと思うんだ!』

『すごい! ぬあちゃんなら絶対合格だよ!! どんなオーディションか調べてみるね!』

 

 数分後。

 

『ぬあちゃん、これ怪しいよ。なんか契約に関して曖昧な表記多いし、オーディション詐欺ってやつじゃない?』

『ひど(笑) 私そんな馬鹿じゃないよ』

 

 そんな馬鹿だったらどうするんだよ。

 20歳暫定無職の俺は、友達想いの17歳女子高生を出来る限り演じる。

 

『どこでこのオーディション見つけたの?』

『DM貰った。私の動画見てくれたプロデューサーしてる人が、筋がいいって』

『ぬーっ。のめぬあがすっごい歌い手、未来の歌姫ってことは私が一番よく知ってるし!!』

『そこで張り合うんだ(笑)』

『なんて人? 教えてよ、こっそり!!』

『じゃあ……内緒にしてよ(汗)』

 

 送られてきたスクショを確認するが、わりときな臭い。本当にのめぬあに宛てた内容か?

 名前を変えて流用できそうなものは、テンプレで色んな人に送っていると見て良いだろう。

 スクショ内にのめぬあ特有のものを褒めるような文言は存在しないと断言できた。かつて嫌というほど聞かされた、詩星(うたいぼし)せるりの好きなところシリーズがひとつもない。

 

 そもそもこれほぼ捨て垢だ。本垢だと目立ってしまうからお忍びで、みたいな含みを持たせているけど、そんなわけない。

 誘導されたオーディションのページが見栄えだけは本格的だから信じたい気持ちはわかるけど、逆に信じるために必要な情報が少ない。

 

 というかこれが万が一本物でも、受けさせたくない。俺の中ではもう答えが出ている。

 

 ん? 通知。DMか。やべ、返事が遅くなったか。

 

『オーディションに受かったらレッスンも紹介してくれるって!』

『それ詐欺だよ!!』

 

 一番典型的なオーディション詐欺である。一度受かってから契約した後で高額なレッスン代を請求する悪質な手口。若者の夢を貪り食う、邪悪そのもの。

 機材代、スタジオ代、ライブ費用など、全てを負担させられれば彼女が前回背負ったとされる借金500万は極稀なケースではあるが、あり得るのかもしれない。

 

 プロダクション名は調べても出てこない。サイトには新しく設立された〜とか書いてあるぞなんだこれ。本社の所在地は記載なし。駄目だよこれは流石に。

 

 そもそも借金の内訳なんて知らねーんだ。のめぬあはVNIVEARTH(ヴニヴァース)のオーディションを受けて詩星せるりになる。他のオーディションは受けさせないに越したことは無い。

 なんて考えていると、画面に無機質な文字が映る。

 

『酷いよ。ミナちゃんなら応援してくれると思ってたのに。

 通話もしてくれないし、私たちってそんな関係だったんだね』

 

 慌てて謝罪のメッセージを送るが返事は来ない。既読も付かない。通話とか無茶を言うな、こちとら20の成人男性だぞ。

 9月で20歳になりました。20が17を口説いたら条例的にはアウトです。

 

 そんなことはどうだっていい。

 これ通知で内容は把握はしてるか? してなかったら終わるぞ。

 

 リプ欄がある、まだリプライで取返しはつくかもしれない。

 Tvvltter自体の通知を切っていたり、スマホの電源をオフにされていたら元も子もないが、そこは信じるしかない。

 

 ──いや、まだだ。

 

 例えTvvltterごと無効にされていても、ひとつ手段がある。

 一方的に送られてきた、LIIVEの友達追加に使うQRコードだ。

 いつでも掛けてきてねと、通話用に送りつけられてきた。

 

 でもこれだって何度も出来ない。DMと同じだ、仕損じれば価値はなくなる。一回で説得できなければ、もう俺の送る言葉には価値がなくなると見ていい。

 

 17歳の少女を誑かす20歳成人男性の図は現実的でなかったか。こういうときにずれが出る。

 俺が裏切ったのはなんだ? 一体感か? 友情か?

 

 オーディションはいつだ?

 申し込みの期限は……明後日!?

 

 どうすればいい? 俺が取るべき選択肢は──

 

   *

 

 裏切られた。

 

 そう感じた。

 オーディションに関しては親にもきっと反対される。そもそも歌い手としての活動にも良い顔をしないと思う。スマホやパソコンを持つのにだってかなり反対された。

 

 唯一の理解者が、Tvvltterで知り合った『mina』だった。

 最初はすぐに女の子みたいな名前だと思ったけど、インターネットはそう甘くないって私でも知ってる。これもたまに送られてくる男の人からの怪しいDMに違いない。

 

 ……そう思っていたけれど、なんだか違う。

 画像が送られてきたDMを見て、確認だけ……と開くと、そこには1枚のイラストがあった。

 

 プロのイラストレーターが描いたようなイラスト。

 私の歌を聴いて、頭に浮かんだものをイラストに描き起こしてくれたらしい。

 

 恥ずかしくて言ってないけど、嬉しくて泣きそうになった。

 歌手になりたいという周りには言えない密かな夢。

 厳格な親。絶対に反対されるであろう歌い手活動。

 月に一本投稿できるかどうかのペースだけど、一年近くゆっくりだけど続けてきた。けれども再生数はほとんど増えない。

 自分と似たような年齢に見える子でも、もっと再生されてる子はいる。もっとフォロワーがいる子はいる。

 

 私なんか、空を見上げたときに迷子になってる風船みたいなもの。

 誰かの視界に入ったとしても、すぐにしぼんで落ちている。

 

 そんな私を、たったひとり確実に、目に見える形で応援してくれるファンがminaだ。

 

 私のファンだとDMを送ってくる怪しい人は何人かいたけど、イラストを贈ってくれたのは初めてだった。いつも簡素な記号の画像がアイコンだった私に、私の歌から連想した姿をくれた人。

 プロみたいなイラストで、それも同年代の女子。

 

 ……たまにやっぱり男の人なのかなと疑うこともあったけど、多分女子。

 

 思えば自分を女子とか女子高生とかは言っていない気がする。でも私って言ってるし……。

 インターネットってそういうものだってよく言うから、もしも男の人だったとしても仕方がないんだけど、でもやっぱり信じたい。

 

 数ヵ月、少しずつやりとりをして。

 前もって次に投稿する動画を伝えたら、動画用のイラストを用意してくれて。動画の編集や音源の調整も手伝ってくれて。

 誰かと一緒に動画を作るのは、楽しかった。

 

 まあ、ちょっと。なんか男の人が読みそうな漫画が元ネタの冗談が多かったりとか、少し古いネットの話題をたまにしてきたり、そもそも絵が上手すぎるし、普通の女子高生ではないんだろうなぁとは、思っちゃったけど。

 

 一度でいいから通話をしてくれれば、信じられるのにな。

 

 mina──ミナちゃんとの時間は長年の友人みたいに楽しくて、素敵な時間だった。

 

 この曲好きそう! とか、こういう服好きそう! とか。

 歌を聴いただけでなんでもわかっちゃうみたいですごかった。いやちょっと怖いかも。実はリア友……?

 

 ううん。

 

 私の歌を褒めてくれるミナちゃん。自分のビブラートの癖とか、私もよくわかってなかったよ。

 ミナちゃんのおかげで歌うのがもっと楽しくなって、上手く歌えて、ミナちゃんのイラストで再生数も増えて。ミックスも私より上手くしてくれるから、投稿ペースも上がった。

 

 二人で一人、みたいな。

 

 だから。

 

 プロデューサーをやっているという人が、私の歌を認めてオーディションに誘ってくれたのは嬉しかった。再生数はまだまだでも、私の動画がこんな人の目に留まったのはきっとミナちゃんのイラストのおかげだ。

 これは私とミナちゃん、二人で掴んだチャンス。

 

 なのに。

 

 ミナちゃんは反対しかしなかった。

 挑戦することさえ許してくれなかった。

 

 こんなの、パパとママと同じだよ。

 

 私の事を誰よりも理解してくれたミナちゃん。考えることも同じだと思ってた。

 

 通知。きっとミナちゃんからだ。

 見たくないよ。ミナなんか──minaなんか嫌い。

 

 さっきまでと表示が違う。これは、LIIVEの通知。

 新しい友達の追加とメッセージ。

 

『申し込み、1日だけ待ってて。お願い』

 

 1日だけ待って何になるの。今にしてよ。

 

 今通話してきてくれれば、許せるかも、しれないのに。

 

 こちらから通話ボタンを押そうとして、思いとどまる。

 1日だけ待ってて。

 

 1日待ったら、何が変わるの……?

 

   *

 

 次の日になった。

 

 1日っていつまで?

 

 何時(なんじ)まで待てばいいの?

 何を待てばいいの?

 

 それを聞くのは、出来なかった。

 

 待ってって言われたから、信じて待つしかない。

 信じて、裏切られたら──

 

 ──ううん、本当はわかってる。

 

 こんなことで無視して、裏切ってるのは私だ。

 minaは最初から、私に何かをくれた。

 イラストをくれた。姿をくれた。褒めてくれた。自信をくれた。

 私は何かを返せた? 返せてない。

 

 私の動画でミナちゃんにファンは付いていない。

 他の歌い手やってる人からもDMが来た。minaを紹介してくれないかって。minaの絵は私なんかよりもずっと上手くて再生数がある人からも認められていて、お金を払って依頼したいと言われるほど。

 

 私はずるくて、最初はミナちゃんには黙ってた。

 ミナちゃんをとられたくなかったから。

 

 でも、罪悪感に耐え切れなくて。他の話題の合間に、それとなく、言ってみた。

 そうしたらミナちゃん、興味ないって言ったよね。

 

 ──私が推したいのはぬあちゃんだけ……っ! どんなに金を積まれても、ぬあちゃんのためにしか描かないよ……っ。

 

 ミナちゃんは私のためだけに描いてくれるって言った。

 

 聞けば、今は他のアカウントすら持っていないらしい。DMのやりとりも慣れていそうだったし、他にアカウントを持っていたことはあったんだと思う。きっとそこでイラストレーターをやっていた。多分そういう人だ。

 

 私を利用しない。そもそも利用する価値もなかった私に付きっ切りになってくれてる。

 イラストだけじゃなくて、音声や動画の編集まで手伝ってくれる。

 同じ女子高生だとしたら時間は足りないはずだし、実は働いてる大人の人だったらもっと足りないはず。

 

 ミナちゃんは私を信じてくれてる。

 

 今すぐに謝りたい。

 でも、待ってって言われたから、待つ。

 

 きっと通話をしてくれる。

 数秒でいい。一言でいい。そうしてくれたら、私は一生ミナちゃんを信じてついていく。

 

 日曜日の午後7時。

 スマホに通知が来る。今はミナちゃんの通知しか見たくない。

 

 minaの名前を見た瞬間、アプリを開く──

 

 ──そこにはURLが貼られているだけだった。

 

 他に文字はない。

 なにもない。オーディションに誘ってきたプロデューサーのDMの方が、URL以外に文字がいっぱい並んでいた。

 

 でも。

 

 あんなDMよりも、今はこっちの方が大事だった。

 

 迷わずURLをタップ。

 すると表示されたのはYovitube。

 

 一本の動画。

 そこには、動く『のめぬあ()』の姿があった。

 

 イラスト(ミナちゃんのくれた私)が動いている。

 それは最近見たことがあった。

 

 Vtuberだ。

 

 今年の2月頃に始まって、もうたくさんのVtuberをデビューさせている会社が使っているアバターと同じタイプの、3Dではなくイラストが動くVtuber。

 その会社から最初にデビューした人が弐コ弐コでもすごい有名で、何度もランキングで名前を見たし、Tvviltterでバズってるところも見た。

 Vtuberとして歌みた動画も投稿しているし、ファンがオリジナル曲を作って投稿されたりもしていた。

 

 動画内では、のめぬあが動いている。

 それも、少しデザインが違う。最初にミナちゃんが描いてくれたイラストはミナちゃんの想像のもので、後から私の今の髪形とか、好みのアクセサリーとか、好きな色を聞かれたりしていた。

 それが全部、デザインに組み込まれている。

 

 普段はポニーテールだけど、子供っぽくてできないツーサイドアップに憧れてる。

 和服とはちょっと違う、フリルのついた和服っぽいやつ可愛いよね。

 最初のアイコンでも使っていた『#』の記号がなんとなく気に入ってる。

 好きな色は空色、ちょっとかっこよくして、セルリアンブルー。

 

 髪型に、衣装に、装飾に。全体的な色も、広い大空をイメージしたものに。

 

 左右に揺れて、瞬きをして。ウインクをして。

 あの会社よりも綺麗に、髪や服のリボンなんかの色んな部分が揺れている。

 

 動画に見とれていると、のめぬあの口が開いた。

 けれど声はなく、代わりに字幕が表示される。

 

『ごめんなさい。この動画に声はありません。

 

 このLive2Dモデルは私が作りました。

 

 私が描いて、私が設定して、私が動いて、BGMも私が、動画編集も私です』

 

 BGMも……?

 本当に、なんでも出来るんだ。

 

『でも。

 

 この動画に、声はありません。

 私は声が、できないから。

 

 だから』

 

 のめぬあが目をつむる。私は次の言葉を待つ。

 BGMが終わる。

 

『のめぬあに、声をつけて欲しい。

 

 私が用意できるのはこの空っぽの器だけ。

 

 この身体に、魂を吹き込んでほしい。

 

 ──私と一緒に、Vtuberをやろう!!

 

 

 ああ、なんだ。

 

 

 ──ミナちゃんは、私とVtuberをやりたかったんだ。

 

 

 だからあんなに反対したんだ。

 確かに言われてみればあのオーディションは変だし、そうだよね。

 私より歌が上手い人がたくさんいるのに、誘うなんて変だ。わざわざレッスンまで紹介するくらいなら、最初からレッスンが要らない人を誘えばいいし。

 騙せそうなら相手は誰でもよかったオーディション詐欺。

 

 でも、ミナちゃんは私を欲しいって言ってくれるんだね。

 

 私の声を、歌を、全部を好きって言ってくれるんだね。

 

 ミナちゃんには私が必要なんだね。

 

 私、なるよ。Vtuber。

 

 Vtuberだって、歌ってもいいんだもんね。

 

 ミナちゃんのくれる身体で、

 ミナちゃんのために、

 私は歌うよ……っ!

 




※ここまで読んでくださった読者の皆様には残念なお知らせですが、主人公くんのこの一手で連鎖的にほとんどの問題が解決しました。ネタバレです。
 以降は"普通にやべー奴らがもっとやべー事をしでかす"と勘違いした主人公くんが、色んな人に勘違いされながら、翻弄され暴走していく様子を見守ってください。
 残った問題は、男の娘の実写おちんちんが晒されるかどうかくらいです。この作品はそういうコメディです。
 

【誰のビジュアルを先に見たい? VNIVEARTH人気投票!!】現在公式Tvvltterにてシルエット画像を公開中。4期生デビュー後に内容が明らかになりますが、これは制作途中のラフ段階のものです。そこで、本アンケートの結果に基づいて完成させる順番を考慮いたします。皆様の推しにぜひご投票ください!(※なお一期生については、本編では未改修のためネタバレが含まれます)

  • 萬屋ぺすと
  • 佐土原恭子
  • 神海まりも
  • 詩星せるり
  • 遠藤
  • 黒宮院みやみ
  • 拳藤正義
  • 波羅劾ざくろ
  • 4期生の2人目
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